『飛べない翼』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
飛べない翼
(お題更新のため本稿を下書きとして保管)
2023.11.12 藍
歩いてきたんだね。こんなところまで歩いてきたんだね。
飛べないことを隠すためにどれだけ痛めたんだろう。
貴方の望む、"いいよ"を用意できなくってごめんね。
その人じゃなくて悪かったね。どうしようもない挫折や諦めに手を引いていってやれないことを、たぶん弱さだって思うけれど、飛べない鳥だって多いよ。
私は、別に、いいよ。追いつけなくたって。
一人は好きだな。そんなことで貶める言葉を口にしなくて済むんだって思うから、一人は好きだよ。
こんな生き物がここに居る意味があるといいなと思うから、さよならはまだ、言わないことにした。今更だけど。
私は天使、いわゆる天界に住んでる神の使いなの。
天使には羽がついていて、
空が飛べて、綺麗な白色をしているの。
でも私には飛べなかった
普通の天使とは違って、
私の羽は黒く染まってドロドロに溶けていた
周りの天使達は
「あれに触ると飛べなくなる」だの、
「黒い羽は不幸の翼」なんて
噂を流して私から離れて行くの
だけど、二人、私から離れないでくれた子がいたの
私は怖かったんだよ、裏切られるんじゃないかって
でもあなた達は私の羽を嘲笑ったりしなかった、
むしろ羨ましいって、そう言ってくれた
あなた達の世界に天使はいないんだっけ、?
あなた達からしたら羨ましいって思われてるんだね。
でもあなた達が天使だったら、?
あなた達は普通に飛べて、私だけ飛べなかったら、?
私はあなた達に聞いたの。
そうしたらあなた達は
「今と変わらず相手してやる」って言ってくれた
私は嬉しかったよ、初めてだったから
そう私に言ってくれたのは、
でも、あなた達はニンゲンだもの、
寿命とか、あるのよね
私はまだまだ長生きできるけど、
あなた達は、せいぜい80年程度、
だからいつか死んでしまって、もう会えなくなる
ーーーーーーーー
こんな話を聞いたことがある?
死後、天使が迎えに来て、
天界で過ごす天使になるって
でも、生前に天使と会ってしまうと、
羽を失い、飛べない天使が生まれるって。
….どういうことか分かる?
あなた達は私に会ってしまったから、
飛べない天使になってしまうの
私も、生前に天使と会ってしまって、
飛べなくなってしまったの
「回避する方法」はないかって?
残念だけど、天使になるのは回避出来ないわ、
飛べなくなって、虐げられる毎日。
…私のせいね、
私があなた達と出会ってなければ、
こんなことにはならなかったはずなのに、
本当にごめんなさい、
…えっ?
「それでもいい」…?
だめよ、!あなた達が虐げられるなんて…!
「一緒に行こう」…ですって?
…どうして、なんで私を嫌わないの、?
私のせいで、私のせいでこんなことに、!!!!
ーーーーーーーー
大丈夫です、僕たちがいますから
何も心配はありません。
僕たちが虐められたって、
あなたが助けてくれるでしょう、?w
あなたが虐められたら、
僕たちが助けます。
だから、一緒に行きましょう?
ーーーーーーーー
ありがとう、
あなた達に出会えてよかった、
….じゃあ、天使になったら、また会いましょう、?
その時は、美味しい紅茶でも、用意しとくわね、!
ー飛べない羽ー
ーー創作 1日目
美味しいご飯食べたい。
お腹すいた。
でもお父さん怒ってるから、
今日はご飯なしだなぁ。
お腹すいた。
飛べない翼……
10年前に読んだ嶽本野ばらさんの小説を思い出した。
タイトルは「ハネ」だったかな?
あの頃は図書室の本を毎週借りて読んでいた。
何かをきっかけに、昔読んだ小説のエピソードが、ふと目の前に浮かぶ。
頭の中のブラックホールに漂っているたくさんの物語たちが俺に語りかける。
ここではないどこかを感じながらも、現実から逃げているというわけでもない。
俺の人生の救い、俺が人生を飛ぶための翼になってくれている。
シンボル
仲間であるという象徴を携えて
自分にしかできないことを模索する
諦めと挑戦の境目を決めるのは難しいが
可能性は拡がっている
※飛べない翼
【飛べない翼】
今、僕の背中には誰の目から見ても明らかな翼がある。大きめの洋服やリュックで隠そうとするが、かなり不自然な背中の膨らみを指摘されることは少なくない。
もちろん、翼があるからといって飛べるわけではない。この翼は『飛べない翼症候群』によってもたらされたものだ。
『飛べない翼症候群』は国内で数千例しかない、珍しい症例だ。翼が生えることを除いては大きさや色、形などもまちまちで、原因も未だ特定されていない。幼少期に発症し、最初は肩甲骨が少し盛り上がっているくらいだが、小学生高学年から中学生にかけて翼が形成されていく。そして、高校から大学入学までに翼は消滅するとされている。
ただ、ごく稀に成人しても翼がそのまま残る場合がある。27歳の僕がその「稀な例」だ。
「あの、もしかして今井さんって『飛べない翼症候群』ですか?」
たまたま廊下ですれ違った総務の花岡さんに、突然声をかけられた。
「えぇ、まぁ…」
「やっぱり! でも、珍しいですよね。社会人になっても翼が残ってるのって。私も大学入学近くまであったんですよ、背中に」
あぁ、この人もそうか。
『飛べない翼症候群』だったという人には、今までにも何度か声をかけられてことがある。その後は決まってこう続くのだ。
「大変だねぇ、同じ症状を経験したことがあるからわかるよ。自分は早いうちに翼が取れたからいいけど、その歳で翼背負ってるって正直イタイよね〜」
別に好きで翼を背負ってるわけではない。同じ経験をしながら、相手の苦しみをまったく理解していない人ほどタチの悪いものはない。
「そうですか。じゃ、今は快適なんですね」
僕は、余計なことを言われたくなくて先にこう言った。でも、帰ってきた答えはまったく予想していない言葉だった。
「ううん、ちっとも。私、翼を失ったことを今でも引きずっているのよ」
すると、花岡さんは大学時代に出会った留学生の話をしてくれた。彼自身は『飛べない翼症候群』ではなかったが、友人知人の何人かにこの症例が当てはまり、自力で調べていたという。花岡さんも自分の症状を明かし、大学入学前に翼が消えてよかったと話すと、彼は思いがけないことを言った。
「翼はあった方がいいよ。大人になっても。だってそれは、とても大切な個性だから」
自分が経験したこともないのに、何て身勝手なとこを言う人だろう、と最初は花岡さんも良い印象を抱かなかった。でも、彼の友人たちはそれぞれ自分の翼を誇りにして、あえて隠そうとはしなかったという。そして、翼が消滅するときには仲間とフェアウェルパーティーを開き、感謝と惜別の想いを表したという。
「彼の友人で、成人しても翼が残っている人がいるの。その人ね、今はある大きなテーマパークのスタッフとして働いているんだけど、子どもたちに自分の翼を見せて今やパーク1の人気者になっているのよ」
僕は呆気に取られていた。僕以外で、成人しても翼が残る人物の話を聞いたのは初めてだった。しかも、それを活かして仕事をしているなんて…自分との圧倒的な差を感じた。
「それでね、今井さんの歩き方を見たときに学生時代の私を思い出してしまったの。何となく背中を隠すというか、庇っているような気がしたから。突然声をかけてしまってごめんなさい」
「いえ…あの、ありがとうございます」
僕は、花岡さんに深々と一礼した。初対面の僕を呼び止めて、こんな話をしてくれる勇気と優しさが嬉しかった。
「あ、あとね、もうひとつ」
花岡さんは急に小声になった。
「さっきのテーマパークのことが総務でも話題になってね、来年からあなたのように成人後も翼を持つ社員には何らかの補助が出るかもしれないの」
「えっ、ホントですか⁈」
「まだ『かもしれない』としか言えないけど。でも、一般社員より負担は大きいだろうし、できるだけみんなで働きやすい環境にしたいって話は進んでいるわ」
そうか、僕は今までこの翼を隠すことばかり考えてきたけれど、これからはこの翼を生かし、ともに生きることができるかもしれない。
「花岡さん、ありがとうございます。お話できてよかったです。今日からちょっとだけ、自分の翼を好きになれそうです」
僕はあらためて花岡さんに礼を言って、自分の部署に戻ろうと歩き出した。
「今井さん、背中!」
花岡さんに言われ、無意識に背中を丸めていた自分に気づく。自分の個性として完全に受け入れるにはまだ時間がかかりそうだ。
「君はすごく優しいよね」
よく言われる
僕は優しくなんかないよ
ただの偽善者さ
自分が欲しい言葉を
人に言っているだけ
寂しいから
誰かに必要とされたいだけ
自分の存在価値を見出せないから
誰かに頼られたいだけ
僕は知ってるんだ
人の心の傷付け方を
誰よりも
だから
なろうと思えば
悪人にもなれる
だけど
良心の呵責が
罪悪感が強いから
悪人になりきれない
だけど
善人にもなれないんだよ
人を恨んで殺意に満ちてるから
君が僕の心を見たら
僕が優しいなんて
消して言えないさ
汚れた心
綺麗な心
悪意と善意
感情が揺れ動く
悪魔にも天使にもなりきれない
ただの人間
悪魔と天使のあいのこ
それが人間
だけど
僕のこの偽物の優しさも
君の救いになったなら
偽物ではないのかな
偽善者なりに
飛べない翼を背負って
頑張るよ
善意に満ちた
天使になって
空に飛び立つことも
悪意に満ちた
悪魔になって
地獄に飛び降りることも
人間の僕にはできないから
ダチョウは、飛べません。
ペンギンも飛べません。
でも、この二種類の鳥類は、飛べない代わりに、何か別のことに特化しています。例えばダチョウは、えげつなくでかい卵を生むことや、走るのが早いなどがあります。ペンギンには、氷の上を滑ることができます。
話は変わりますが、私は、勉強が平均にできる普通の人じゃなくて、国語が全くできない代わりに、数学がえげつないぐらいにできるのです。
このように、何かができない代わりに、自分だけの得意なことがあるのです。これからの人間社会でこのことを理解して、何事も乗り切れるようになりたいです。
今日のデート先は彼女の希望した水族館に来た。開館時間から居てもうすぐ昼時になる。なのに彼女はあるブースからいっこうに動こうとしない。もうそろそろ行こうよ、と言った僕に彼女は「もう少しだけ」とだけ答えた。それからもうすぐ1時間が経とうとしてる。いったい彼女のもう少しはどれくらいなんだろうか。
ちっとも動きそうにないので彼女をその場に残し、僕は自販機でコーヒーとココアを買いに行った。今日は休日だから結構お客さんがいる。カップルから家族連れまで様々だ。みんな楽しそうに水槽の中の生物たちを眺めている。水の中で悠々と泳ぐ姿とか、沈んでじっとしている様子を観察しては盛り上がっていた。
けれど僕の彼女の見ているものは。水の中ではなく、陸の上でさっきからずっとたそがれている。時折手をバタバタしたり首を傾げたりもしているけど、あまり目立った動きを見せない。それなのに数時間も見て何がそんなに楽しいんだろうか。
「はい」
「あ、ありがとう」
買ってきたココアを渡すと彼女は僕の方を見た。でも再び柵の向こうに目を向ける。彼女の横顔は笑っていた。本当に好きなんだな。
「私、水族館にいる動物の中で1番好き」
「……ペンギンが?」
「うん」
まぁ別に珍しいことじゃないけど。わりと人気者だしグッズもたくさんある。けど2時間以上も居座るほど好きなのにはちょっと驚く。
「どうゆうところが好きなの?」
「だってさ。可愛いじゃん、一生懸命なんだもん」
ほら、と彼女が指差した1羽が両手をバタバタさせていた。
「ああやってるとこ。可愛くない?飛べないのに飛ぼうとしてるように見えるの」
だから可愛いの。満足気に彼女が笑いながら言った。言われてみれば、そんなふうにも見えてきた。本当は空を飛びたいのに、できなくて必死に手をバタつかせている。そう思うとなかなか愛嬌のあるやつだなと思えてくる。
「でもさ、もしペンギンが飛べたら、こんなに人気出てないよね」
「まぁ、それも一理あるな」
「だからこのままでいいの。飛べないおかげでこんなに人気者なんだよ、きっと」
飛べない代わりに皆の人気を獲得している。なんだか面白い話だな。出来ない事があるおかげでこんなにも人に愛されるって、人間同士じゃなかなか無い状況じゃないか。それってすごいことだぞ、おい。心のなかで呟きながら僕はすぐ手前に居たケープペンギンを見た。
「ふふふ」
「なんだよ?」
「ううん。ペンギン、好きになった?」
「まぁね。ちょっとどんくさそうなとこが親近感湧くかな」
まぁ僕は何時間も見てられないけど。でも、なんだか不思議とただ見てるだけで癒やされるんだよな。イルカもアシカも可愛いけど、ペンギンのほうが好きになったかも。
じゃあ、彼女が飽きるまでもう少し眺めていようかな。たまには時間に縛られず、のんびりするのも大切なことだから。今日のデートはすごく充実している。こういう日を大切にしたい。
いつも鳥を見ている。
私は飛べない小さな鳥
羽を怪我しているのだ。
どうして飛べないと嘆いている。
私はふつうじゃないんだと、納得して生きている
小さな鳥
ある日人が言った、
小さな鳥よ名前を付けてあげよう。
君の名前は「あかり」だよ。
それを聞いて小さな鳥は嬉しかった。
しばらく悩みは消えなかったけど。僕はあかりを灯す役をしよう思えてきた。
そうしてから色んな鳥たちの悩みを聞く事をしてみた。あかりより大変な思いをしている鳥にも出会いました。
飛べないけど、それからはみんなに心をひらいていきました。心に、灯りをともし。
【飛べない翼】#79
飛べない翼を生まれ持った。
みんな飛べるのに、私はただの役立たず。
そう。飛べないのなら、ただ役立たず。
私には自由に生きる権利なんか
一ミリたりともなかった。
彼は天使の梯子の場所を案内してくれた。
雲の上ならば自由も、生命も、権利も、
何も気にせずに過ごせると言った。
でも、彼は私とそれを登る覚悟はなかった。
やっぱり、この世界は小さかった。
【飛べない翼】
「今度生まれ変わるなら天使がいい」
そう言うと、神様はちょっと考えるみたいな顔をして、口を開きかけてすぐに閉じた。神様が答えないってことは、そういうことだ。
「ダメなの?」
「たいていは、同じような種類に生まれ変わるね」
遠回しに言うけど、なんとかしてくれるのが神様じゃないの?
「種類って……天使だって、翼あるし。それに同じのはもういい」
「どうして?」
「飛べないってバカにされた。なんのための翼だろ」
「飛べるってことはね、逃げなきゃならない敵がいるってことなんだよ」
「敵、いてもいいもん」
「そうかなあ。敵もいなくて、ご飯が保証されてる生活。いいと思うけどな」
「だからシアワセだっていうの?」
「うん。そうとも言うね」
呑気すぎて、敵を敵だと気づけなくて、滅びたヤツらだっている。それが幸せだっていうのかな。
「何が不満なの。充分可愛い姿をしてるのに」
「違うんだって! 可愛いじゃないの! カッコよくなりたいの! 天使カッコいいもん。空も飛べるし、手も使える」
「そう? 可愛いくなりたくたって、なれないコもいるのにね」
神様はのんびり言うけど、そうじゃないんだ。
「必要ないもの持ってたって、しょうがないよ」
神様が小さく息を吐く。
「それはね、『ないものねだり』って言うんだよ。翼、飛ぶ以外にも、お役に立つことたくさんあると思うけど」
「分かんないよ」
「それに気づいたら、もしかしたら天使にもなれるかもね」
「良いよな、お前には目に見える才能があって」
「アンタにもあるだろ」
「これは俺のしたいことじゃないっっ!!!」
彼のアトリエ(彼は認めてないけど)に絵の具や筆がぶちまけられた。べったりと、白い床に赤黄青などが混ざる。
「はは、今のアンタみたいな色になったな」
「はー、うるさい」
「描いてる絵、綺麗じゃん。白い翼が、黄色と黒が混ざった背景によく映えてる。……コイツ片翼だけなんだな」
「水面には両翼つけるつもりだ」
「昔は飛べてたっていう暗喩?もしかしてさっきの才能の話?」
「……違う」
「残った片翼、よく見ると羽が毟り取られた跡がある。自由に飛べないようにされたんだな」
「……」
「コイツ、アンタに似てる」
「飛べないやつはどうなると思う?」
「まあ大体死ぬだろ」
「コイツは拾われたっていう設定で描いた。中途半端に世話されて、鳥籠に入れられて……」
「何で鳥籠描かずに水面描いたの?」
「生きにくい場所ってこと」
「もうコイツ空見れないんだな」
「もう飛べないからな」
12.飛べない翼
想像力は無限大だ…
私に翼があったなら…
空をぼんやりと
眺めながら
イメージが膨らむ
大空を優雅に散歩して
行きたい場所へ
ひとっ飛び
子どもの時に
思い描いた世界へ
舞い戻る
時には翼が傷ついて
自由自在に
飛べないこともある
動けないこともある
翼の羽は
とても暖かく
君は君だよって
包んでくれる
ありがとう
私は私で大丈夫なんだって
その温もりの中で
安心して眠りにつく
あー
私の翼は癒された
さぁ次は勇気を出して
誰の元へ飛んでゆこうか
傷ついて飛べない翼の
君の元へ
彼は、羽の折れた鳥を見ていた。
あの翼は意味があるのだろうか。
飛ぶための翼。
見た目なんて自然では意味がない。
そんな鳥を彼は家に持ち帰って世話をした。
翼が折れていなければ他の鳥と変わらない。
そう思うと折れた意味が彼にはあった。
私達には飛べない翼のような無駄な物が必要だったの。そんな物を欲っせるのが幸せなんだから
【飛べない翼】
男はギプスに包まれた右腕を天井にかざし、上から注ぐ照明を遮った。
外からは見えない掌を動かそうとしても、雁字搦めに腕を捕らえた包帯がそれを許さない。骨が軋むような痛みだけが右腕には残されていた。
「これじゃ、もうお前を抱きしめることもできないな。使い物にならない腕になっちまったよ。こんなもの、飛べない翼と同じだ」
男は、隣に寝転んでいる彼女へそう呟く。
彼女は無言で、男の腕を見つめていた。
数秒の沈黙を置いて、彼女が口を開ける。
「……何たそがれてんだ。腕折っただけだろうが」
「うるせ! だけってなんだ! こちとら――」
「はいはい、私を車から庇おうとしたら転けて骨折したんでしょ? 何回目?」
「クッソ〜〜〜! 覚えてやがれよ恩知らず!」
「はーい、ありがとうございました優しい彼氏さん」
彼女はそっと男の肩に頭を預け、ギプスに包まれた右腕を優しく撫でた。
男はそれだけで何もかも許せてしまうのだった。
#98 飛べない翼
…ダチョウとペンギンと。鶏も?
あ、天敵が居ない環境下で太りすぎて飛べなくなった鳥っていう平和なやつもいたな。
そういえば動物園のフラミンゴは、助走に必要な距離より狭い檻に入れているから飛ばないだけで、本当は飛べるんだとか。
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僕は、パイロット。
とある飛行場で働いていて、担当の飛行機もある。
だけど僕は、飛べない。
理由は滑走路が短いせい。
飛行機は最新機種の現役で整備もされて、飛べる状態を維持されてる。さすがに燃料は入ってないけど。それでも飛ばすつもりのない飛行機を置くのはコストが高すぎる。
どうやって配備したのか聞いたら、ここで組み立てたとか言うんだ。
おかしいよね。
僕の勤務時間のほとんどは、観光客のガイドに費やされている。
パイロット自ら案内をすると客ウケが良いんだって。そんなの知らないよ。
飛行場から車でしばらく行くと、
退役した飛行機を保管している場所に出る。
航空会社も時代も機種もバラバラ。
そんな飛行機たちの知識を頭に詰め込んで、愛想よく客に披露する。
まるで地上の鳥が求愛ダンスで翼を広げるみたいに。それが僕の仕事。パイロットとして配属されたのに、僕は一度も空を飛んでないんだ。
僕は知ってる。
散々空の旅をしてから退役した飛行機たちは、最期に墓場を目指して飛んできた。
だから、ここから僕の飛行機だって飛び立つことができるはずなんだ。
それは雇い主も理解しているのだろう。短い滑走路の周りは、悪路になっていて飛行機の離着陸には使えない。滑走路に近づくほど、そうなっているから、ぱっと見では不自然に感じない。念の入ったことだ。
この鳥かごのような状況は、上司にいくら抗議しても何も改善されることはなかった。
僕は今日も飛べない翼を広げて、愛を乞う。
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今日も、あのパイロットは飛行予定を直接の上司である俺に確認しにきた。そして、己の仕事がガイドしかないと分かると明らかに落ち込みながら仕事場へと向かっていった。
彼はパイロット試験に通っている以上、それなりの年齢なのだが、採用条件としてギリギリの小柄な体格や、あどけなさの抜けない表情が彼を少年のように見せる。
元々この地にある飛行機の墓場は、比較的歴史が深く、様々な機種が揃えられていることから、見学場所として需要が高い。
それに目をつけた社長が、わざわざ飾りの飛行場を作り、飛行場のスタッフをガイドにつけたツアーを作ったのだ。
もちろん、この飛行場から飛行機が飛ぶことはない。しかし立ち入り制限なく巡り、それぞれ必要な資格と知識を持つスタッフも好きに同行させることをできる、このツアーは高い値段設定ながら人気が出た。特にパイロットは高い倍率になっている。
すらりと長い手足と華奢な胴体。
髪は、ふわり空気を含んだように軽やかな、白混じりの朱色。
彼が人気である本当の理由は、整った容姿に加えて、『自分がパイロットである』誇りが本人から滲み出ていることが大きい。そこにあるのは、庇護欲か、優越感か。何にせよ、趣味の悪いことだ。それはここで働く俺にも言えることであるが。
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ちょっと甘いところは多々あるんですけど、
時間もないので、ひとまず投稿。
飛べないなら翼なんてなくていい、走る邪魔になるから。