#98 飛べない翼
…ダチョウとペンギンと。鶏も?
あ、天敵が居ない環境下で太りすぎて飛べなくなった鳥っていう平和なやつもいたな。
そういえば動物園のフラミンゴは、助走に必要な距離より狭い檻に入れているから飛ばないだけで、本当は飛べるんだとか。
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僕は、パイロット。
とある飛行場で働いていて、担当の飛行機もある。
だけど僕は、飛べない。
理由は滑走路が短いせい。
飛行機は最新機種の現役で整備もされて、飛べる状態を維持されてる。さすがに燃料は入ってないけど。それでも飛ばすつもりのない飛行機を置くのはコストが高すぎる。
どうやって配備したのか聞いたら、ここで組み立てたとか言うんだ。
おかしいよね。
僕の勤務時間のほとんどは、観光客のガイドに費やされている。
パイロット自ら案内をすると客ウケが良いんだって。そんなの知らないよ。
飛行場から車でしばらく行くと、
退役した飛行機を保管している場所に出る。
航空会社も時代も機種もバラバラ。
そんな飛行機たちの知識を頭に詰め込んで、愛想よく客に披露する。
まるで地上の鳥が求愛ダンスで翼を広げるみたいに。それが僕の仕事。パイロットとして配属されたのに、僕は一度も空を飛んでないんだ。
僕は知ってる。
散々空の旅をしてから退役した飛行機たちは、最期に墓場を目指して飛んできた。
だから、ここから僕の飛行機だって飛び立つことができるはずなんだ。
それは雇い主も理解しているのだろう。短い滑走路の周りは、悪路になっていて飛行機の離着陸には使えない。滑走路に近づくほど、そうなっているから、ぱっと見では不自然に感じない。念の入ったことだ。
この鳥かごのような状況は、上司にいくら抗議しても何も改善されることはなかった。
僕は今日も飛べない翼を広げて、愛を乞う。
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今日も、あのパイロットは飛行予定を直接の上司である俺に確認しにきた。そして、己の仕事がガイドしかないと分かると明らかに落ち込みながら仕事場へと向かっていった。
彼はパイロット試験に通っている以上、それなりの年齢なのだが、採用条件としてギリギリの小柄な体格や、あどけなさの抜けない表情が彼を少年のように見せる。
元々この地にある飛行機の墓場は、比較的歴史が深く、様々な機種が揃えられていることから、見学場所として需要が高い。
それに目をつけた社長が、わざわざ飾りの飛行場を作り、飛行場のスタッフをガイドにつけたツアーを作ったのだ。
もちろん、この飛行場から飛行機が飛ぶことはない。しかし立ち入り制限なく巡り、それぞれ必要な資格と知識を持つスタッフも好きに同行させることをできる、このツアーは高い値段設定ながら人気が出た。特にパイロットは高い倍率になっている。
すらりと長い手足と華奢な胴体。
髪は、ふわり空気を含んだように軽やかな、白混じりの朱色。
彼が人気である本当の理由は、整った容姿に加えて、『自分がパイロットである』誇りが本人から滲み出ていることが大きい。そこにあるのは、庇護欲か、優越感か。何にせよ、趣味の悪いことだ。それはここで働く俺にも言えることであるが。
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ちょっと甘いところは多々あるんですけど、
時間もないので、ひとまず投稿。
11/12/2023, 8:59:36 AM