『鏡』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「うわっ!?」
「どうした?」
後ろからヨキの悲鳴が聞こえギンジたちは振り返った。
ヨキは口をパクパクさせながらこちらを──その奥の大きな鏡を指差している。
「いま、男女が……鏡に映ってなかった……!」
「真弓が? ああこれ、照妖鏡だからな」
「しょうようきょう?」
「照妖鏡、またの名を照魔鏡。相手の本当の姿を映し出す鏡の妖《あやかし》です。映っていなかったわけではなく、私の真の姿は弓曳童子《ゆみひきどうじ》──とどのつまり、からくり人形にすぎませんから。ほら、ここに」
真弓の伸ばした指先を見る。鏡に映る一同の足先、そこには片手に弓を握り腰から矢筒を下げた日本人形がちょこんと座っていた。
「本当の姿を映す……。じゃあ、オレは……」
ヨキは自分の腕を抱えた。
人の身でありながら内に妖を宿すこの身は──真の姿を映す鏡にはどう映るだろう。
この姿がそのまま映ればそれでいい、だが、もしそうでなかったら──。
俯くヨキを見てギンジは小さく息を吐いた。そしてコンコン、と軽く鏡を叩く。
「鏡子、いるんだろ?」
「はいは〜い、ただいま。ギンジ様、お久しぶりです〜! 今日はなにを見ちゃいます? 左腕の具合? 10年後の姿? それともあの子のお・風・呂?」
「あの子のおふぐぁっ! 真弓、本気の腹パン痛い……」
「まったく、ギンジ殿はいつからこうなってしまったのか……。側近として情けない限りです」
「くすくす。矢一は相変わらずね。失礼、いまの名は真弓だっけ」
高い可愛らしい声と共に、鏡に映った襖が開いて髪の長い女が現れる。ヨキは思わず振り向いたが、そこには誰もいない。
ギンジはニヤニヤと目を細めた。
「振り返ったって誰もいねぇぜ、ヨキ。こいつは照妖鏡の鏡子。鏡の中に住んでる」
「わ、わーってらい!」
「鏡子、このガキが通る時だけ見たまんまの姿を映してくんねぇか? お前なら屋敷中の鏡に干渉できるだろ」
「できるけどぉ〜。いいのかしら、ギンジ様。その子、内に妖がいる。人と妖、どちらが本体かわかったものじゃないわ」
鏡子の言葉に、ヨキはまた下を向いた。その頭をクシャリと撫でられる。
「どっちだって、こいつはこいつだ。何が映ったってそこは変わんねぇよ。な、そうだろヨキ!」
出演:「からくり時計」より ヨキ、ギンジ、真弓、鏡子
20240818.NO.26.「鏡」
『鏡の国の……』
今日もいつもの日常が始まる。
職場と家の往復。
この生活に苦しみも幸せも特に感じはしない。
毎日を無心で過ごしている。
そんな俺にも趣味のようなものがある。
……いや、やっぱり訂正する。
趣味と言うよりたぶん習慣だ。
俺は毎晩古い鏡を見ながら晩酌をする。
なんとなく小さい頃からその鏡を夜にみている。
何か特別な思い出があるのかというと別にそうでもない。
記憶は曖昧だが、俺が小1になるかならないかのときに叔父にもらった。
叔父が言うことには、おまえは俺に似ているから という理由で俺にわたしてきた。
当時は意味がわからなかったし、今もその時叔父が言ってきた意味は謎のままだ。
その鏡が俺の役に立つのかはわからないが、この鏡を見ているとなぜだかほんの少しだけだが心の疲れがとれる。
最近は、少しはちゃんと使ってやるかなとか考えてる……。
おっと、もうこんな時間か……。
俺は明日も早いからここで終わらせておくか。
(部屋の電気を切る音)
部屋の中で月明かりで光る鏡。
鏡の周りに無数の光が散らばっている。
それが一体なんなのかはよくわからない。
ただ、とても綺麗な鏡の奥には何かがあることだけはわかる。
多分、〝俺〟はそれに気付くことはないだろう。
ただ、いつもと同じ日々を過ごすだけだ。
end
鏡
その人はとても綺麗な人だった。
顔の造作は決して派手ではないが、目鼻立ちがスッキリ整っていて、綺麗な人特有のキツさを卵型の輪郭が絶妙なバランスで緩和させていた。
手足がほっそりとしていてどこかお人形さんを思わせる風貌だ。
背はおそらく155cmに満たないくらい。
165cmの私に比べると若干目線の位置が下にくる。
肩下で揺れる黒髪が上品さを醸し出しつつ、口元にはいつも柔らかな笑みを讃えていた。
最初に断っておくがこの話自体大分昔のものである。
今回これを書くにあたり、私の頭の中の古ぼけた記憶を無理やり引っ張り出そうとしているせいで、どこにどう着地するのかすら分からない。
しかし、鏡というお題においては最適解だと思うのでこのまま話を進めていこうと思う。
その人とは、ほんの一時、とあるグループの中の一人として同じ時間を過ごしたに過ぎない。
期間にしておよそひと月足らずだったと思う。
別段付き合いらしい付き合いがあった訳でもなく、名前を名乗り合った記憶すらない。
しかし、こうして物語の題材となる程度には私の中で印象的な出来事として今も記憶に残っている。
仮にその人のことをUと呼ぶことにしよう。
Uとは、某運送会社の倉庫でお歳暮時期限定の仕分け作業のバイト仲間として出会った。
会社に指定された時間に指定された場所で待っていると、専用のバスがやってくる。
それにその他大勢の人たちと乗り込み30分ほど揺られると、海を埋め立てて作られた埠頭に建つ、巨大なコンクリートの建物群が現れる。
そこには何の飾り気もない灰色の箱がいくつも点在している。
無彩色の世界とでも言おうか。
そこはこの世の色という色が徹底的に排除された一種異様な世界だった。
一切無駄がなく、ただただ何かの目的を果たすためだけに作られた様々な箱たち。
余りに現実とはかけ離れたその光景に私は少し恐怖を覚えた。
そんな無機質な箱の一つが私の作業場だ。
年齢もはっきりとは覚えていないが、確かUの方が私よりも幾つか年上だったと思う。
訳あって、その頃の私は定職についておらず、割のいいバイトをいくつか掛け持ちして食い繋ぐような生活を送っていた。
法律にこそ触れないものの、人には言えないような際どい仕事をしていたこともある。
正直、暮らしぶりは余りまともではなかった。
別れたり戻ったりを繰り返すような彼氏とも呼べない男の後ろにくっ付いて、朝からパチンコ屋に出入りするような安っぽい女。
それが私だった。
当時の私はかなりの人見知りで、警戒心も強く、ぶっきらぼうなところがあった。
自分でも可愛くない女だったと思う。
一方、Uは私とは違い、穏やかで優しい雰囲気が全身から滲み出ているような女の子だった。
誰の目から見ても感じのいい子に映っていたことだろう。
倉庫の中は高低差のある巨大迷路の如くベルトコンベアが配置されていて、迷路の出口にあたる部分で待っていると、次々バラの包装紙に包まれた大小様々な箱が運ばれてくる。
私はその箱の一つ一つを手に取り、キャスターの付いた鉄製の大きなラックの中に収めていくのだ。
「重くて大きな物は下に、上にいくにつれ軽く小さいものになるように。」
担当の社員さんにはそう教わった。
最初こそ手間取って何度かレーンを停めてしまったものの、数をこなすうちに段々とコツが掴めてくる。
あの色々な形が上から落ちてくるゲームの要領でどんどん隙間を埋めていけばいいのだ。
一度だけ手を滑らせ、日本酒の一升瓶が二本入っている箱をベルトコンベアから落としてしまったことがある。
ガツンと鈍い音を立てて落ちたそれは、見る間に緑色の床に透明な水溜まりを作っていった。
とっさのこととは言え、よりによってなぜそんな大層な物を落としてしまったのだろうと悔やんだが、得てしてミスとはそういうものなのかもしれない。
保険に入っているから大丈夫とのことで特にお咎めもなかったが、やはり気分は晴れなかった。
しかし、失敗という失敗はそれくらいだった。
私の担当する練馬区関町北のラックは、見る見るうちにバラの包装紙で包まれた贈答品で埋め尽くされていった。
「あんた上手いわね。なかなか筋がいいわよ。」
時折見回りの社員さんに褒められるようになった。
「ありがとうございます。」
私は照れながらも礼を言った。
愛想こそ良くはないが仕事ぶりが評価され始め、一週間ほど経つとそれなりの人間関係を築けるようになっていた。
Uとは担当地域が違うため一緒に仕事をしたことはないが、私の三列先がUの担当地域だった。
「ほらほら、ちゃんと見ないと!まったくもー、何度言ったら分かるの!」
時折、Uのいる西大泉方面からそんな声が聞こえていた。
私は自分にはどうにも出来ないもどかしさを感じつつも、目の前の箱の処理に追われていた。
その日、何度目かの「ほらほら」の後だった。
ちらりとそちらの方向を見ると、Uが現場から走り去っていくのが見えた。
キュイーーーン
ガタンッ!!
金属が擦れたような嫌な音がして、西大泉のベルトコンベアがゆっくりと止まった。
Uの手によって緊急停止ボタンが押されたのだ。
Uと顔を合わせるのは基本的にお昼休憩の時だけだった。
倉庫内には広い食堂があり、何となく歳の近い女子4人ほどのグループでお昼を食べるのが通例になっていた。
しかし、私も含め、ここにいる人たちは皆寡黙で、自ら積極的にコミュニケーションを取ろうとする人はいなかった。
おそらく、その頃皆それぞれに事情を抱えていたのだろう。
私と他の二人がコンビニ袋を手に食堂に集まる中、Uだけはいつも手作りのお弁当を持参していた。
それは驚くほど小さなお弁当だった。
Uはその小さなお弁当箱の中からパール大のご飯粒を箸でつまみ口に運んだ。
それをゆっくり咀嚼し飲み下したあと、一旦箸を置く。
手元には小さな手鏡が置かれている。
慣れた手つきで左手で持つと、丹念に口元を確認し始めた。
何度も何度も角度を変えては口元を見ているようだ。
もちろん口元には何も付いていない。
今度は鏡を見ながら右手に持った白いハンカチで口元を拭い始めた。
これも右の端、左の端と繰り返し何度も何度も丁寧に拭っている。
パール大のご飯粒→咀嚼→手鏡→ハンカチ
これが食事の間中繰り返されるのだ。
私は初めてその光景を見た時ギョッとしてしまった。
しかし、Uにとってはそれは当たり前の行動なのだろう。
周りの目など一切気にしない様子で一連の流れをやってのけた。
最初こそ、歯の矯正中なのかな?と思ったりもしたがそうではなかった。
むしろ矯正ならどんなに良かったことだろう。
当然と言うべきか、あとの二人も私と同じような反応だった。
しかし、そのことを改めて話したことはない。
西大泉のベルトコンベアが度々止まるようになってから、Uの鏡での確認作業は一層激しくなっていった。
それからしばらくして、Uの姿が消えた。
お題
鏡
「これが…私?!」
我ながら月並みで、捻りのない言葉が漏れた。
これで鏡を覗く場所が、学校の同級生の持つ手鏡か、おしゃれな三面鏡か、美容室の一角だったなら、素敵なワンシーンであったろう。
だが、私が居るのは水垢の香りが漂う、狭い洗面所の、曇った鏡の前である。
ところどころがひび割れた鏡は、それでも、ここの所の生活では、貴重な道具だ。
数週間前に、この建物は崩壊した。
私の職場であったこのエネルギー生成施設は、たった一つのヒューマンエラーによって、冷却機能を失い、一夜にして崩壊し、閉鎖された。
原料を覆う炉の金属は溶け、生物はじわじわと焼け腐り、植物は吸い上げた土から枯れていった…らしい。
この数日間で、施設の至る所を調査しまわった結果、そういう推測ができた。
そう、実は私はこの一部始終を全く知らなかったのだ。
もう何日目かも分からない連勤の果て、疲れを癒すためにちょっと睡眠をとったら、いつの間にか施設が変わり果てていたのだ。
…どうやら、自分が思った以上に、この身体と脳には疲れが溜まっていたらしい。
途方に暮れた私は、とりあえず自身の好奇心に則り、辺りを調査して把握し、この施設が清潔で安全な地獄から、汚染された危険な地獄へと変貌したということを理解した…ところで、ようやく自分の健康状態の異常に気づいた。
といっても、何か問題があるわけではない。
健康すぎるのだ。
私の記憶と計算が正しければ、こんな所に取り残されたなら、生きながらに細胞が死滅して、今頃死んだ方がマシなほどの苦痛を味わっているはずなのに。
気づけば、数日間水も食料も取らずに歩き回っておきながら、身体の汚染や不調はおろか、空腹や喉の渇きすら感じない。
遅ればせながら、私の身体は一体どうしてしまったのだろう、と鏡を探し当てて覗き込んだ結果が、あのベタベタな独り言である。
だが、この見た目は…
我が身体ながら見れたものではない。
鏡の中の私は、四肢の先ばかりが肥大化し、痩せばった腕脚に関節ばかりが球体のように目立つ。
おまけに、ボコボコと水膨れた腫瘍のような突起がズラリと並んでいた。
顔はもっと見られない。
落ち窪んだ目に鳥類のソレに似た、瞬膜のような厚ぼったい膜が張られており。
口や鼻は見当たらなかった。
耳だけが異様に大きく目立つ。
一体どうしたことだろう。
この施設の研究者一の美人(自称)と謳われたこの私の美貌が見る影もないではないか!
しかし、この変化は興味深い。
失った代償は大きいものの、この変異が私の命を守り、超耐性を授けてくれた秘訣であろうから。
これは研究課題ができた。
救助はもはや期待できまい。
この施設に人間や機械や生き物が侵入するのはもはや行きすぎた自殺行為だし、何よりヒトに会えたとて、この見た目では駆除されるのがオチだ。
つまり時間はたっぷりある。
ならば、やる事は決まりだ。
実験と研究を繰り返す!この変異を必ずや解き明かす!
肥大化した爪で床にメモを取る。
高音で表面が柔らかく変異したコンクリートは、難なく数式と文字を刻印してみせた。
素晴らしい!あとで推敲してから冷やし固めよう。
冷却システムを修正し、冷却水を供給すれば、書いた文字の保存も可能だ。
私は這いつくばって、メモを書き始めた。
鏡だけが、怪物となった私を映し出していた。
鏡に映る顔に浮かぶ疲れを覆うように笑顔を塗りたくって今日もやり過ごす。疲れた顔しか映さない鏡にもう少しマシな顔が映せる人生だったらよかったのに。
作品No.140【2024/08/18 テーマ:鏡】
鏡を見るのが嫌いだった。
すきじゃない自分の顔と向き合うことになるから。
目と目が合ってしまうから。
鏡の中の自分
鏡だったら私は逆になるし
少しは今より楽になれるかな、?笑
【鏡】
自分の事を客観視するのって難しい
出来てるつもりで出来てない事も多い
都合よく捉える事もあれば
悲観的に捉える事もある
感情に影響されない所はわりと見えても
感情の強い所に行くとブレブレだ
人の事はまだマシかと思いきや
やはり感情の乗る相手だとブレる
自分がどう見えてるか
自分の背中がどうなってるのか
自分の耳はどんな形なのか
首元のホクロは何個あるのか
自分だけでは分からない
人は自分を映す鏡
聞いた事のある言葉
若い頃にはケッと思ってたけれど
確かになぁ
と思えるようになった今日この頃
誤解や勘違い
伝わらなかった事も含めて
そうなんだと思う
鏡に映った自分から目を逸らさず
受け入れてようやく
ダイエットの意思も湧いてきた
まだまだ自分を正しく見るのは難しいけれど
自分が誰かの鏡になる時は
真っ直ぐに映せる鏡でありたいと思う
【鏡】
暗闇の中、誰か誰かと歌うのに
動き出すことも出来ずにいる様は
僕そのものなのに
たった一枚の壁がきみと僕を遮って
ここに居ると歌うきみに
こちらから応えを届ける術もない
決して触れられないのに
等身大の僕を見つけて写しだして
そのままで居て良いと優しく包み込んでくれるきみへ
まるで鏡合わせのきみへ
映す背景が変わっても
人の想いを背負わされるきみへ
あの時のままで変わらなくても良いと歌う歌を
どうかあの時の系譜の歌を混ぜ込ませて
2024-08-18
鏡は
私を映しているようで
私ではない何かを映している
ずっと見ていると
そこにいるのは
不気味な自分だった何かである。
「鏡」#9
朝になる。今日も独りぼっちの朝。鏡を覗く。いつも通り、手入れの行き届いていない艶を失った髪、寝不足からくる濃い隈、なんでも我慢するせいでついた唇の噛み跡がある酷い顔が映る。さあ、今日はこの酷い顔をどう繕おうか。汚れた小さな鏡の前で今日も引き攣った歪な笑顔を作った。
電気がとまった
暗い六畳半
今感じているこの気持ちは
一人暮らし故の胸の高鳴りか
あるいは
目まぐるしい日々と
怠慢を感じるこの暗さ
鏡にうつる自分
なんて哀れだろうと
こぼれる寂しさはとめどなく
私を嫌にさせただろう
だから今日は
鏡と違うことをしてみたい
今日という夜を生きてみたい
手鏡を持ち歩く彼女
「この世界は自分の心を映し出す鏡」
彼女がいった。
その通りだ。
心が汚れてると薄暗い世界。
心がキレイだと色鮮やかな世界。
心によって世界は天国にも地獄にも視える。
.......私の世界は、壊れてしまった。
彼女が、彼女こそが私の全て、私の『世界』だったのだろう。
何故気がつかなかったのか。
ずっと傍にいたから?
居ることが当たり前だったから?
もういいか。
そんな理由は。
考えても変わらない。
この事実も変わらない。
世界だって変わらない。
何一つ変わらないのに。
どうしてこんなに自分の目に映る世界だけが変わってしまったのか。
ほんの数秒前まではいつも通りだったのに。
目の前には黒と白のしましまのもようの上にある、真っ赤な鮮血。
その中に彼女の割れた手鏡があった。
鏡
鏡
普段 生活しているなかで
身の回りに大切なものはたくさん
あって中でも鏡は上位の方なくらい
必要なものとなっています。
毎日のメイクや髪のセットは
鏡があるからこそ、確認できて
ととのえられているので
これからも普段できてることを
大切に思いながら過ごしていきたいと
思います。
鏡に向かい、「お前は誰だ」と毎日言い続けると狂気に取り憑かれるという噂を聞いたことがある。
なんとなく察しは付く。脳内の抱く自己イメージと現実の自己の乖離がアイデンティティの崩壊を生む、といった所か。
だが、鏡に向かいそのようなことを言わなくとも自分と言う存在は毎日変わり続けているはずである。
「誰だ」と言われたら誰だって名前を答える。
自分という存在はどこまでいっても曖昧なものだ。
他者に観測されない限り自分は存在しないという考えや、世界には私しか意識がなく、他人などは所詮私の意識が形作っているだけだという考えもある。
「誰だ」と問われたら肩書と名前を答えるか。
肩書は変わるが、名前は変わらない。
ややこしい言い方になるが、名前が私という存在を構成する表面の部分だとすると、肩書はその中身と言える。
「誰だ」と鏡に問いかけ続けて狂気に取り憑かれる者は、自己が変化しないものであると信じているのではなかろうか。
そうとしか思えない。自己が変わるものだと信じてるいれば、自分が何者でもないことに気づいているはずだから。
少し話は変わるが、この『書いて』というアプリ上での著者としての私は「私」と一致しているだろうか。
どこの誰が書いたかも分からないものをどこの誰かも知らない人が「いいね」を押している。もしかしたら、お気に入り登録をしている人もいるかもしれない。
誰に向けた文章なのかも分からない。目的すら定かではない。
極限まで薄めた『note』だろうか?それとも他者へ向けられた日記か。
私はお題を見て何か思い付いたら書くが、自己評価でいまいちだったら投稿しない。
日記だったらそのまま残っていたであろう文章は、この電子世界では文字通り無に帰してしまう。
そういう意味では日記ではない。日記ならば良いものを書こうという変なプライドなど湧いては来ないから。
こんな極限まで薄めたsnsでも他者評価のことを考えるとは、自意識過剰の極みだな。
私には書きたいという欲はあるが、題材がなければ書けない。
他者からの批評も浴びたいが、どこの誰かも分からない者の評価を素直に受け容れる程私の心は広くない。
不都合な生き物として生まれ落ちてしまったな。
本の中で「君は」とか「あなたは」などと書いてあると著者に呼び掛けられたようで私は毎回ビクっとしてしまう。
読者としての自分という存在が明確になることに対する反抗心がなぜだかある。
その理由は、蓋し筆者と読者の、これまで保たれていた対等性というものが読者を名指しした時点で消失するからか。
筆者が一方的に語ることしかできないのに「あなたは」とか「読者の方」などと呼称する。
ネット上のレスバで長い間返信が無いと「お前は逃げた」と勝ち誇る。それに似た不快感だろうか。
私が見下されたくないだけなのだと思うが、嫌悪は消えない。
実際筆者は読者に対して呼びかけをする必要はないように思えるので私が悪いと思ってはいないが。
思うがままに文を書いてしまったな。
このように自己の奔流を感じている時に書く愉しさを覚えるから、まあ良いのだが。
鏡を見て
どんな自分が見える
子供の頃夢見ていた
そんな姿ですか?
違うなら考えてみてよ
「鏡」
私には絶対似合わない外見をして堂々と歩いてる人
自分の気持ちを隠さずになんでも打ち明けられる人
私ができないと思っていることを楽々とこなす人
この世にいる人は
私の奥底にしまい込んだ気持ちを写し出す鏡みたい
やめてよ…
もう無理なんだって…
鏡
君が笑うなら 僕も笑う
君が悲しむなら 僕も悲しむ
だからさ
僕のことを見て
ずっと見て
一瞬たりとも目をそらさないで。
一緒にいよう。
私にはずっと捨てられないものがある。
それは小さい頃に、ゴミ捨て場から拾った市松人形(呪い付き)。
小さい頃なのでぼんやりとしか覚えてないのだが、ゴミ捨て場でビビビと電流が走り拾った。
私はその人形をイチコと名付け、ずっと可愛がっている。
だけどお母さんはイチコの事が嫌いらしい。
不気味だから捨てろとしつこく言われ、お小遣いを減らすと脅されたこともある。
そして業を煮やしたお母さんに勝手に捨てられ、親子喧嘩に発展したこともある。
もっともイチコは賢いのでちゃんと私の部屋に帰って来るけれど。
確かにイチコは、この世のすべてを憎むような目つきをしているし、髪はずっと伸び続けるし、周りはなぜか涼しいし、勝手に動くこともあるけど、それが何だと言うのだろうか?
呪い付きとはいえ、とくに害があるわけじゃない。
なんならこの猛暑でも涼しくエアコン知らず。
SDGsなのだ。
だけど、私は断捨離をする事態にまで追い込まれてしまった。
イチコを――ではない。
イチコの拾ってきた、よく分からない物をだ
さっきも言ったように、イチコはお母さんに何度も捨てられたことがある。
その度に帰って来るんだけど、その際何かよく分からない物を拾ってくるのだ。
髪の毛、汚れたぬいぐるみ、壊れた玩具、使い古しのノート……
ゴミばかりである。
それだけなら捨てればいい話なのだが、イチコが善意で持って来たのが分かってしまったので、捨てるに捨てれなかった。
特に髪の毛に関しては私の『髪の毛染めたい』という独り言が発端なので、怒るに怒れない。
とはいえ、染めたいのは自分の髪であって、他人の髪ではないんだけど……
ともかくイチコが捨てられるたびに私の部屋に物が増え、どんどんスペースが無くなり、今や布団を敷くスペースしかない。
これを重く見たお母さんがついに特大の雷が落とし、私は部屋の大掃除を迫られたのである。
「髪の毛はゴミ、紙の切れ端はゴミ、壊れた玩具はゴミ――じゃなくて保留、ネットで売れるかも。
髪の毛はゴミ、髪の毛はゴミ、髪の毛はゴミ――」
髪の毛をどんどんゴミ袋に詰めていく。
私が髪の毛をゴミ袋に詰めるたびに、イチコの顔が険しくなっていく――気がする。
私はイチコに謝りたい気持ちを押さえつけ、心を鬼にして仕分けする。
「髪の毛はゴミ、髪の毛はゴミ、藁人形は……
イチコ、藁人形は持ち主の人が困っているだろうから、後で返してきなさい。
髪の毛はゴミ、髪の毛はゴミ、セミの抜け殻はゴミ、髪の毛はゴミ――
ん、これは……」
無心でゴミを詰めていくと、なにか奇妙な手触りを感じた。
不思議に思ってよく見てみると、それはボロボロになったミサンガ。
真っ黒で所々ほつれており、明らかにゴミだ。
「これはゴミ……ゴミ……」
けれど何かが心の中で引っかかり、ゴミを捨てる手が止まる。
このミサンガ、どこかで見た覚えがある。
だけど、どれだけ思い出そうとしても何も思い出せない。
やっぱりゴミなのだろうか?
そうだ、イチコなら知っているだろうか?
私はイチコの方をチラリと見る。
イチコは驚愕で目が見開いて――いてはなかったが、『信じられない』と言った顔つきだった。
そして私は思い出す。
ゴミ捨て場で最初に会ったとき、イチコは『信じられない』と言った顔つきだった……
なぜそんな表情をしていたかは知らない。
誰か大切な人に裏切られたからかもしれない。
私は、そんなイチコを可哀そうだと思い拾い上げた。
そして私の妹になって最初にプレゼントした物が――
「思い出した……」
これはゴミなんかじゃない。
これはイチコとの友情の証。
捨ててはいけないものだ。
「これはイチコの物」
ミサンガをイチコの腕に付ける。
イチコは嬉しそうに笑った――気がした。
私もそんなイチコを見て、自然と笑顔になる。
「そうだ、新しいミサンガ作ってあげる」
私は押し入れから裁縫セットを取り出して、ミサンガの制作に取り掛かる。
「よーし、張り切っちゃうぞー」
私はいろんな色の糸でミサンガを作っては、付けてイチコの反応を見る。
ここに、何度目か分からないイチコのファッションショーが開催された
イチコはなにも言わないけれど、表情は読める。
久しぶりのショーに、イチコはノリノリだ。
私は掃除そっちのけで、イチコと楽しく遊ぶのだった。
なお、サボっているところを見つかり、それに怒ったお母さんがイチコを捨て、そしてイチコが新しいゴミを拾って戻ってくるのは、また別の話である。
鏡
君の心はひび割れたビー玉のようだ、覗き込めばこの世が逆さまに映り君は欲しいものを渇望を否定し批判することで自分を守っているね、あれだね、ムーミン谷のお寂し山に住むというオロオロ、心が冷えていて愛だとか情けだとかそういうものが近寄るとその炎を消してしまうというやつだ。
そしてまた山に引きこもって独りが良いさと独り善がりに嘯いて、正義の味方気取りで裁いて石を投げるね投げた石は鏡に当たって鏡が割れる、そこに映る君の顔は歪んでいる。
根っ子まで冷え冷えと凍てつきボロボロと砕け散ってしまうのかい? 君はね、自分がブーメランを投げて自分に刺しているよ、君が批判して割れた鏡に映っているのは君だよ、名前無しカオナシさん。
名前無しのカオナシの気安さで無責任な正義の味方気取りで、他人の一生懸命や他人の好きに唾吐きかけていたら、ブーメランじゃなくて、君自身が閻魔様の前で舌を抜かれる気をつけたまえ。正しく優しく有りたいのだろう?
僕はね、君のように正しく有りたいとも優しく有りたいともあまり強く思はないんだよ、それよりもっと大切なことが有ると知っているから。
お寂し山のオロオロは、自らが自分を寂しい奴だ、つまらない奴だと知ることで知りすぎることで、ムーミンが、たった一人見せた彼への温かな言葉に心の氷を溶かすことが出来たんだ、ようは受け取り方受け取る心なんだよ、言葉も物語も文章もドラマも…好き嫌いは人間だもの有るけど、そう思うこと大事だよね。
親はいないから愛情不足になるのではない、親が居たって愛を受け取れない子は愛不足だそんなことも判らない? 親が居なくても代わりになる愛に恵まれた子は愛情を受け取るコツを覚えるが、親が居たって愛情を受け取れない子はいつまでも愛情不足だって泣くんだよ。受け取るのは、自分自身だ。
ここに昔のドラマの話を書こう
ある青年は、母親に捨てられたその母親は、まだ乳飲み子のその子を兄夫婦に預けて別の男と駆け落ちした。兄夫婦はその子を自分たちの子供たちと別け隔てなく愛情注いで真の親子兄弟のように育て25年の歳月が流れ、立派な青年に育った彼の元に実の母親から手紙が届いた受け取った育ての母親は差出人を見て胸が騒いだ我が子のように育てた青年の実の母親の名前だったからだ、けれど育ての母親は、そのままその手紙を青年に手渡した、もう25才になっている息子だ、判断はこの子に任せようと思ったのだ。青年は、義母から渡された手紙の差出人を見て突き返そうとしたが義母に遮られポケットの中に手紙を入れた、そして、その手紙を同居する義母の親友のシングルマザーに預かって欲しいと頼み手渡した、困った義母の親友だったが親友とその息子の関係を知る彼女は引き受けその手紙を預かった、そして夫の仏壇の引き出しに仕舞ったのだが、それを一人娘が見つけてしまう、娘は仄かに彼に好意を抱いていたものだから、宛名に彼の名があることで咄嗟に差出人を見てしまう、そしてその名前が女性名であることに、ひどく傷つき狼狽し偶然帰ってきた彼を問い詰めてしまうのだった、詳しい理由も聞かずに責められた彼は腹立たしさ紛れに手紙を破いて燃やしてしまうのだった。一部始終を娘から聞いた彼女の母親は、娘を怒鳴りつける叱られた意味が分からず憤慨する娘に母親は、
「どうして、彼が自分を捨てた母親からの手紙を母さんに預けたかその心を想像したことはあるかい?」と問うた。
「そんな、我が子を捨てる親の手紙なんて」
と、娘が言うと母親は 「じゃあ、お前ならそれで良いかい?後悔しないかい?少しでも気になったから渡されて直ぐ破り捨てずに、母さんに預けたのかも知れないと思わないかい」と娘に尋ねた。
娘は黙って俯いて灰になった灰皿の手紙を見た
母親は続けた、「常識や正しいこと悪いことを越えるのが人の心なんだよ、それを救うのが情けなんだよ」…みたいなやり取りをする。
遠い昔の大正生れのお母さんの話。
この物語は大好きで一説丸暗記しているってやつ、私は、この心を日本人のアイデンティティの故郷だと思っている。
この物語は祖母を思い出すからだ。
令和6年8月18日
心幸