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 私にはずっと捨てられないものがある。
 それは小さい頃に、ゴミ捨て場から拾った市松人形(呪い付き)。
 小さい頃なのでぼんやりとしか覚えてないのだが、ゴミ捨て場でビビビと電流が走り拾った。
 私はその人形をイチコと名付け、ずっと可愛がっている。

 だけどお母さんはイチコの事が嫌いらしい。
 不気味だから捨てろとしつこく言われ、お小遣いを減らすと脅されたこともある。
 そして業を煮やしたお母さんに勝手に捨てられ、親子喧嘩に発展したこともある。
 もっともイチコは賢いのでちゃんと私の部屋に帰って来るけれど。

 確かにイチコは、この世のすべてを憎むような目つきをしているし、髪はずっと伸び続けるし、周りはなぜか涼しいし、勝手に動くこともあるけど、それが何だと言うのだろうか?
 呪い付きとはいえ、とくに害があるわけじゃない。
 なんならこの猛暑でも涼しくエアコン知らず。
 SDGsなのだ。

 だけど、私は断捨離をする事態にまで追い込まれてしまった。
 イチコを――ではない。
 イチコの拾ってきた、よく分からない物をだ

 さっきも言ったように、イチコはお母さんに何度も捨てられたことがある。
 その度に帰って来るんだけど、その際何かよく分からない物を拾ってくるのだ。
 髪の毛、汚れたぬいぐるみ、壊れた玩具、使い古しのノート……
 ゴミばかりである。
 それだけなら捨てればいい話なのだが、イチコが善意で持って来たのが分かってしまったので、捨てるに捨てれなかった。
 特に髪の毛に関しては私の『髪の毛染めたい』という独り言が発端なので、怒るに怒れない。
 とはいえ、染めたいのは自分の髪であって、他人の髪ではないんだけど……

 ともかくイチコが捨てられるたびに私の部屋に物が増え、どんどんスペースが無くなり、今や布団を敷くスペースしかない。
 これを重く見たお母さんがついに特大の雷が落とし、私は部屋の大掃除を迫られたのである。

「髪の毛はゴミ、紙の切れ端はゴミ、壊れた玩具はゴミ――じゃなくて保留、ネットで売れるかも。
 髪の毛はゴミ、髪の毛はゴミ、髪の毛はゴミ――」
 髪の毛をどんどんゴミ袋に詰めていく。
 私が髪の毛をゴミ袋に詰めるたびに、イチコの顔が険しくなっていく――気がする。
 私はイチコに謝りたい気持ちを押さえつけ、心を鬼にして仕分けする。

「髪の毛はゴミ、髪の毛はゴミ、藁人形は……
 イチコ、藁人形は持ち主の人が困っているだろうから、後で返してきなさい。
 髪の毛はゴミ、髪の毛はゴミ、セミの抜け殻はゴミ、髪の毛はゴミ――
 ん、これは……」

 無心でゴミを詰めていくと、なにか奇妙な手触りを感じた。
 不思議に思ってよく見てみると、それはボロボロになったミサンガ。
 真っ黒で所々ほつれており、明らかにゴミだ。

「これはゴミ……ゴミ……」
 けれど何かが心の中で引っかかり、ゴミを捨てる手が止まる。
 このミサンガ、どこかで見た覚えがある。
 だけど、どれだけ思い出そうとしても何も思い出せない。
 やっぱりゴミなのだろうか?

 そうだ、イチコなら知っているだろうか?
 私はイチコの方をチラリと見る。
 イチコは驚愕で目が見開いて――いてはなかったが、『信じられない』と言った顔つきだった。
 そして私は思い出す。

 ゴミ捨て場で最初に会ったとき、イチコは『信じられない』と言った顔つきだった……
 なぜそんな表情をしていたかは知らない。
 誰か大切な人に裏切られたからかもしれない。
 私は、そんなイチコを可哀そうだと思い拾い上げた。
 そして私の妹になって最初にプレゼントした物が――

「思い出した……」
 これはゴミなんかじゃない。
 これはイチコとの友情の証。
 捨ててはいけないものだ。

「これはイチコの物」
 ミサンガをイチコの腕に付ける。
 イチコは嬉しそうに笑った――気がした。
 私もそんなイチコを見て、自然と笑顔になる。

「そうだ、新しいミサンガ作ってあげる」
 私は押し入れから裁縫セットを取り出して、ミサンガの制作に取り掛かる。
「よーし、張り切っちゃうぞー」

 私はいろんな色の糸でミサンガを作っては、付けてイチコの反応を見る。
 ここに、何度目か分からないイチコのファッションショーが開催された
 イチコはなにも言わないけれど、表情は読める。
 久しぶりのショーに、イチコはノリノリだ。
 私は掃除そっちのけで、イチコと楽しく遊ぶのだった。



 なお、サボっているところを見つかり、それに怒ったお母さんがイチコを捨て、そしてイチコが新しいゴミを拾って戻ってくるのは、また別の話である。
 

8/18/2024, 1:24:54 PM