『逆光』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「後光が差して見える」
「聞き飽きた」
私が彼を見つめたときに思うことをそのまま伝えた。彼は酷くつまらなそうな顔をしている。それも当然のことだ――彼の姿は、誰が見ても神が愛を込めて作り上げたと言っても足りないほど美しい。
「俺はお前の方が眩しくて仕方ない」
「私が? まあ、自分でも悪くない顔だなとは思うけれど」
「ナルシストめ」
「自己愛は人生を歩む上で必要なものさ。自分自身を愛し、肯定する。自分に愛された自分が愛したいと思う相手を見つけたとき、初めて他人を認められる。そして、そこから他人への好意に発展していく。他人を思い遣るための第一歩がナルシシズムだ」
「つまんねえ御高説を垂れ流していただき有難うございます。さっきの言葉といい、耳が疲れる」
「じゃあ私はもう喋らない方がいい?」
「偉そうなことは聞きたくない。でも俺との会話は続けて」
後光が差して見える程神々しい彼は、とにかく〝ふつう〟の会話に憧れている。遠慮なく、対等で、下らなくて中身のない会話がしたいらしい。彼を取り巻く環境を踏まえれば、そういった年相応の日常に飢えるのも仕方ないのだと納得できる。
「そうだね――君から見て、私は私を律せているかな」
「はあ?」
「君が知っての通り、ナルシシズムは行き過ぎればパーソナリティ障害と見做される。自分が歪み、他人も歪んでいると思わずにはいられない。私は私を正しく愛し、同じくらい他者を正しく愛していると、愛そうとしているのだと自認している。だが、私にとっての正しい愛が、俯瞰的に見たとき正しくないとしたら――私は、歪んだ私の眼で君を見たくない。光を背負い、翳る君のおもてを正しく見たい。脳が影を取り除き、君を神話の英雄にも似た姿にしたくない。私は君を正しく愛していると、他でもない君に肯定して欲しいんだ」
〝ふつう〟の会話ではないな、と言い切ってから後悔が込み上げてきた。どう取り繕っても、彼の望む下らない会話とは言えない。たったこれだけのことで、私は既に彼に愛されないことをしてしまったのだ。
「俺がお前を眩しいって言った理由だけどさ」
律し切れなかった私からの問いかけの応えではなかった。この言葉が私の問いへの応えに繋がるのか、話を切り替えられたのか分からない。私は、ただただ、彼の口唇が紡ぐ言葉を待つしかなかった。
「お前の言う正しい愛の光を背負って、自分自身に影を落としながら生きていること。正しいのかどうか問い掛けなければならないほど怯えているくせに、人間の在り方はかくあるべきと自分にも他人にも言い聞かせていること。人間らしいよ。理想を抱いて輝くお前が。俺が本当に神様なら、お前を、お前だけを人間として慈しみたいくらいに」
光は相変わらず彼の後ろに控え、逆光として彼の美しさを引き立てている。
私は光と影を補正せず、なんとかして彼を正しく見つめようとした。
彼は私を眩しいという。それは、彼が常に逆光を背負い、私が順光を受けているからだ。光が当たっているものなのだから、明るく見えて当然だ。
彼の言う眩しさを、私は歪めることなく汲み取ることができない。
彼の後ろに控える光が眩しい。逆光は容易く後光となり、私の正しさを睨みつけている。
逆光行くのめんどくせぇー
あ。学校か。
逆光抜くのってめんどくさいわぁ
あ。雑草か。
逆光してみたいなぁ。
あ。熱唱か。
なんで俺って人の心に逆光するんだろう
あ。干渉か。
俺逆光嫌いなんだよねぇ。
あ。納豆か。
逆光するのって楽しいよね。
あ。談笑か。
逆光ってめんどくさいよね。
あ。。。これだ。
あの人逆光的になってないかな。
あ。感傷か。
逆光
テーマ:『逆光』
俺の友達に変な奴がいる。
そいつとは結構小さいときから一緒に遊んでて、家族ぐるみで仲が良かった。
だけど俺はそいつがどんな顔をしているのか知らない。
顔はほぼ毎日あわせているのだが、それでも知らない。決して前髪が長すぎるとか、マスクをしてるからとかではない。では、いったいなぜなのか。それは―――
そいつの顔が、常に逆光で影になっているからだ。
そうとしか言いようがない。屋内だろうがお構いなしに逆光に当たっている。修学旅行で一緒の部屋で寝たときでさえそうだった。そのときは怖すぎてあまり見ないようにしていた。
記憶が曖昧だけど、最初から逆光だったわけではないと思う。いつの間にかそんな状態になっていた感じだ。
しかも逆光になって見えるのはどうやら俺だけらしい。
周りの人に言ってみても、俺が頭おかしい奴扱いされるんだ。なんなら、お前とつるんでるのが可笑しいくらいのイケメンだって言われたこともある。
そう、そいつモテるんだ。小学校の卒業文集にクラスメイトにまつわるランキングがあったのだが、かっこいい人ランキングの1位がそいつ。有名人になりそうランキング1位もそいつだった。
そして中学時代ではバレンタインのチョコレートを大量にもらっていた。食べきれないからと収獲ゼロの俺に譲ってくれた。そのとき俺は喜んで譲り受けたが、今になってみると腹ただしい。
そして今俺らは高校生なのだが、そいつのモテっぷりは変わらず、それどころかファンクラブが設立されているという噂まである。
「こんなとこでなにしてるの?」
声をかけてきたのは、そいつ―――佐野だった。
俺は作業を止めずに応える。
「ちょっと頼まれてさ。もうすぐ終わるから適当に時間つぶしといて」
「それ学園祭のやつだね。なにか手伝おうか」
そうコイツ、顔が良いだけでなくて中身もいいヤツなんだ。俺はそのご尊顔を見ることはできないが、それでもコイツがモテるだろうなっていうのはなんとなく分かる。
「じゃあこれお願いするわ。そこに置いてあるのと同じ感じでやっといてくれ」
「うん。わかった」
それから黙々と作業を進めて30分くらい経った頃、佐野の進捗をチラッと確認すると思っていた以上にできている。今思えば昔から俺が教えたことをそつなくこなしてしまう奴だった。
そう、コイツは完璧過ぎる。顔良し性格良し頭良しで、要領がいい上にスポーツもできる。
神様、これはあんまりですよ。残酷すぎます。
一人で勝手に落ち込んでいる俺に向けて突然、佐野はこう言った。
やっぱり君はすごいね、と。
その言葉に思わず手が止まってしまった。
「えっ、なに急に。すごいって何が?」
「これ。君のことだから、困っている人を見かけて声をかけたんでしょう?」
確かにそうだけど、それは佐野もやっていることだし、別にすごくはない。そう言うと佐野は首を振る。
「それは違うよ。僕は、君がやっていたからそうしているだけ。僕が君の真似をしているだけだよ」
手元に視線を落としていた佐野は、逆光に沈むその顔を少しだけ上げた。その様子はこころなしか照れているようだった。
「覚えてる?初めて会ったときのこと」
……あまり覚えてないな。
「僕ははっきり憶えているよ。あの頃の僕はずっと独りで、みんなに話しかけてもらっても黙っちゃって」
あぁ、確かそんな感じだった。
そういえば、その頃は佐野の顔がちゃんと見えてた気がする。
「そんな僕だったから、みんな愛想尽かして離れていったんだよね」
そう、佐野はこう見えて苦労人なのだ。昔の彼も好きで黙っていたわけじゃない。
「でも、君だけはずっとそばにいてくれた。僕が返事をしなくても、たくさん話しかけてくれたよね」
まぁ、そのときの俺はあまり深く考えて行動してないだろうし、ずっとそばで話しかけていたのも何でコイツはひとりで黙りこくってんだっていう変な興味があったせいだろう。
「そのおかげで君と少しずつ話すようになって、一緒に遊ぶようになって、そしたら他のみんなともいつの間にか仲良くなっていたんだ」
急に胸が痛くなって来た。
どうしてだろう。どうしてなんだろう。
この感じ。原因を考えるようで、考えていない。ただ同じ場所で足踏みをしているだけの思考。
すでに答えが出ているときにこうなる。
「君がいなかったら、僕は今も独りだったかもしれない。そう考えるとやっぱり君はすごいよ」
恥ずかしげもなくそう言い切る佐野に、そうかなぁなんて気の抜けた返事をする俺。
また胸が痛む。
佐野に友達ができ始めた当初の俺は、それは佐野自身の力だと思っていた。
だが時が経つにつれて佐野の人気が高くなると、こう思うようになっていった。
今の佐野があるのは俺のおかげだぞ、と。
佐野が褒められると“俺のおかげ”
佐野がチョコをもらうと“俺のおかげ”
佐野のファンクラブがあるのも“俺のおかげ”
俺は佐野を通して、昔の俺の栄光に浸っていたのだ。
改めて佐野の顔を見やる。相変わらず影に沈んでいる。
しかし、言いたいことが言えたのかどことなく満足げな雰囲気が感じとれる。
「佐野」
「なんだい?」
「今までごめん」
「えっなに。なんかあったっけ」
どうして謝られているのか分からない佐野をよそに、俺は自分の肝に強く銘じた。
今の佐野があるのは俺のおかげだなんて考えは、もう二度としないと。
佐野の後ろにある窓から西日が差し込み、俺たちがいる空間を黄金に染めあげる。
逆光で目を細める俺を見て、そいつはくすりと笑っていた。
逆光で写る人の写真は、怖い。
まるでその人の抱える闇を容赦なく暴いているみたい。
このときはいつもあたたかい存在の太陽が、ひどくつめたく感じる。敢えて荷担しているみたい。
写真は「真実を写す」――だから私は、写真が嫌いだ。
お題:逆光
「大丈夫?」
そう言ってきみはいつも私に手を差し伸べてくれる。いつだって私に優しくて、私にとって太陽みたいな人だった。
ある時、知り合いの男が私に言った。
「あいつは危険なやつだ、今すぐにでも縁を切った方がいい」
「そんなわけない!」
「おまえは知らないかもしれないが、あいつは、」
聞きたくないと私は言った。私のただ一人の友人を悪く言う言葉なんて、聞きたくなかった。
しばらくして、私に忠告してきたその男が事故に巻き込まれて死んだと聞いた。
それから、私の周囲では不幸が続いた。偶然だろうが、身近な不幸が重なったことで私はだいぶ参っていた。
眠れない日が続いたある日。その日は私の父の葬儀の日だった。
父もまた、私の身近な不幸のひとつで、通り魔にあって命を落とした。
照りつける強い日射しの中、父の棺を見送りながら、私は気が遠くなりその場に倒れた。
「大丈夫?」
倒れた私に手を差し伸べるきみ。
きみは眩しい太陽を背にしていたから、私にはきみの表情が見えなかった。
【逆光】光は時に闇を隠す
逆光
寿司下駄の上に並べられた寿司たちを、ユキはいつも宝石を眺めるように見つめていた。
真っ白に洗いあげられた白衣に身を包んだ父が自慢だった。ユキには優しくてあたたかい笑みを向けてくれる、その顔を、記憶にある通りいまよりずっと低い視点から見上げる。
「おとうさん」
ユキ。
父が振り向く。照明を背負ってユキの目の前に立つ父の、その笑顔が、見えない。
逆光のせいで見えなかったのか、それとももう父の笑顔すら思い出せなくなってしまったのか、悲しみを感じながらユキは夢より覚めた。
「おはようございます、ユキさん」
「おはよ、ソラボウ」
寿司屋の朝は早い。日も昇らぬうちから今日のネタを仕入れに市場へ向かい、魚だけではなく客に提供するすべての食材を買いつける。ユキは寿司職人ではないが、生家である寿司屋『バハムート』の大将であった父・テンスケの一人娘としてできる限りのことを行っている。
父は数年前、病に倒れ、助かることなくこの世を去った。後を継いだのは父の一番弟子であったソラボウだ。元々三つ星ホテルでソムリエとして働いていた労働アンドロイドのソラボウは、まかないで振る舞われた寿司の味に感動して寿司職人へと転向したのだという。
ごろつきに半壊させられたソラボウを拾ってきたのは父だった。寿司職人を目指すアンドロイドはどこの寿司屋でも受け入れてもらえず、貯金も尽き、あてもなくさまよっていたところを襲われたらしかった。軍で培った技術でなんとかソラボウ――その頃はシャイニィという名だった――を直した父は、変わり者のアンドロイドを弟子に迎えた。
自転車のフレームに回転灯をくっつけたような姿をしているソラボウは、寿司を握るためだけに手を特注のヒト型手指へと換装していた。奇怪な姿に幼いユキは警戒したものだが、物腰柔らかで口もうまいソラボウをいつしか兄のように慕うようになった。
生まれてすぐ母を亡くし、厳しい父とふたり暮らしていたユキが触れる、母性に等しい優しさをソラボウは与えてくれた。父が病に倒れたときも、葬儀のときも、ずっとユキに付き添ってくれた。ソラボウがいない生活など考えられない。
「今日はいいサバが手に入ったよ。脂がのっててすごく美味しそう」
「ユキさんの目利きは世界一ですからね」
「またそんなお世辞ばっかり」
「本当ですよ。いくら聞いて見て触っても、私にはわからないところを、ユキさんには感知できる。目利きだけで仕事ができますよ」
「ありがと」
ソラボウが頭部、回転灯みたいな筒状のそれをクルクル回して光らせた。お世辞じゃないですよ、という否定の意味だ。
むずがゆい思いで笑みを浮かべたままユキは店の掃除を始めた。寿司を握れないユキができるのは、店を支えるための雑用だ。客が心地よく寿司を堪能できるようにテーブルを拭き、椅子の調子を確かめ、湯呑にひびがないかをチェックする。毎日おしぼりを届けてくれる業者から重い箱を受け取り、タオルウォーマーへおしぼりを並べていく。
昼にはお腹を空かせた客がたくさん来るだろう。アンドロイドが握る寿司屋でも、味がよければ客は来る。
のれんをかけるためユキは外へ出て、そこで異変に気づいた。
通りのほうが騒がしい――悲鳴が聞こえる。
朝の街に轟音が響く。再び悲鳴、爆発音、そして金属同士をものすごい勢いでこすり合わせたような異音――。
息を切らせて走ってきた者が、傷だらけの様相で叫んだ。
「暴れ人食い鮫だ!」
建物の陰から見え隠れする凶悪な背ビレに、ユキは身動きひとつできなくなった。
暴れ人食い鮫は戦争中に開発された半機械生体兵器だ。動くものすべてを見境なくチタン合金の歯で食いちぎり、体内の反重力装置でもって空を舞う。終戦後に大半が駆除されたが生き残りが街へやってくることがあった。
逃げる男の背に暴れ人食い鮫が踊りかかる。ワッと声すらあげる間もなく男の首が鋭い歯にちぎられ、ユキの足元に転がった。
――逃げなきゃ……でも足が……。
感情のない暴れ人食い鮫の目に睨まれると、もうだめだった。がたがたと笑う膝には力が入らず、すぐ横にある店の戸を開ける勇気さえ持てない。
鮫の口が迫る――血と皮と肉にまみれた刃――覚悟すらできぬままユキの目に焼きつく光景。
すさまじい金属音の余韻が耳を痛めるのと、道路に突っ伏す我が身に気づくのは、ほぼ同時だった。
「ソラボウ!」
「ユキさん……逃げ、て……」
暴れ人食い鮫に噛まれ、ぼろぼろになったソラボウが横たわっていた。動けぬユキを突き飛ばし、代わりに自分を犠牲にしたのだろう。自慢のヒト型手指がついた腕が火花を放って転がっていた。
「ソラボウ、ソラボウ!」
「ユキさ、ん……逃げて……にげ、テ……」
「やだよ! ソラボウが死んじゃう! そんなのヤダ! ソラボウまであたしを置いてかないで!」
「ユ……、キ、…生きて……」
ユキ、生きろ。おれの分まで。
病床の父がささやく――痩せ細った父は笑いすら浮かべられなくなった。父の笑顔が思い出せない。逆光で見えない。
――ソラボウまで失いたくない!
勢いに任せて近隣の建物へ突っ込んでいた暴れ人食い鮫が、身を反転させ、再びユキたちへ襲いかかる。時間はない。
ソラボウが持っていたのだろう、道路にべしゃりと落ちていたサバを、ユキは握る。尾の部分をしっかり握りしめ、暴れ人食い鮫と対峙した。
「『サバ・ソード』!」
サバを握る右手に力が湧く。華奢なユキの手から放たれた力がサバを輝かせ、鱗の一枚一枚が激しい光を放つ。
「わあああああああっ!」
裏返った絶叫が喉からほとばしる。猛スピードで突っ込んでくる暴れ人食い鮫の、凶悪無比な鼻っつらへ、ユキはサバを振り下ろした。
輝くサバが鮫の身を切り裂く。
突っ込んできた勢いのまま、暴れ人食い鮫はレーザーにでも裂かれたかのようにきれいに分断され、血と機械油をまき散らしながら活動を停止した。
ユキが寿司を握れない理由がこれだった。手にした魚が武器になる。いい魚であればあるほど、強力な武器になってしまう。
サバを投げ捨てソラボウに抱きついたユキは、あふれ出る涙を止めることができなかった。鮫を退治できたってソラボウを救うことはできない。父の跡を継ぐこともできない。忌々しい力のことがユキは嫌いだった。
「ソラボウ、やだよ……置いてかないで……」
「ユ……テ……」
だいじょうぶか――誰か――救急車――
サイレンと叫びが淡い水色の空に響き渡る。まるで父が死んだ日の朝のように、清らかに晴れ渡った空だった。
コアが無事だったことでソラボウはなんとか助かり、寿司屋『バハムート』は営業再開までこぎつけた。
「二度とあんなことしないでよ。約束だからね」
「それはどうでしょう。テンスケさんとの約束は破れませんからね。あなたを守るのが、テンスケさんと私の約束なんです」
「ソラボウが勝手に死んだら密漁業者の用心棒になって手を汚してやる」
「やめてください」
でも厄介な客を追い払うのに力を使うのはいいかも、とユキは笑った。
呆れを表すためにソラボウが頭部を点滅させる。
「ソラボウ」
「はいはい、なんでしょう」
ソラボウに顔はない。それでもどういう〈顔〉をしてユキを見ているのかは、わかる。そのことを深く胸に刻み、ユキは「なんでもない」と首を振った。
今度の夢は逆光に悩まされることはないだろう。
逆光。カメラや携帯電話などで起こる現象。昔家族で撮った写真。あの時は仲良かったな。今はもう、あの時みたいに戻れやしない。あの時が懐かしい。写真を見返す。そうするとその写真が逆光で、家族が見えなくなっていた。いつかまた、あの時に戻れますように。そう願い、そしていつものように眠りに意識を落とす。
ステージ上の光へ進んでいくあなたの後ろ姿は暗かった
表で輝くには影の努力と苦悩の積み重ねが大事なのだろう
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「逆光」
あなたが放つ光は
目映く
私のは
虚ろで
決して
同じステージには並べず
交わることのない
対極
煌めく光が
私を彼方へと追いやる
それでも
あなたしか見えなくて
砕けても
背中を追いかけ
光の断片に
すがるように
手を伸ばす
誰?
あなたは誰なの?
人影に向かって問いを投げる。
影は何を言わずに、ただじっとそこに立っている。
ねぇ、いい加減教えてよ!
ずっとあたしの夢の中に出てきてさ!
一体何がしたいわけ……?
影の背後には、真っ白な光。直視できないほど眩しい。あたしは俯き、ひたすらに言葉を続けた。
すると、その思い伝わったのか、最初に出てきた言葉は――
『前を見て、歩んでいきなさい』
そう言われた途端、急にあの光に、影ごと包み込まれた。あたしは思いっきり目を瞑る。
そして、目を開けたならば、見慣れた天井。
あれ以来、あたしはあの人影の夢を一切見なくなった。
あれは一体誰だったのだろうか。
〜逆光〜
……もう、思い出せないあの姿。
俺を、俺らを救ってくれた大きな背中と優しさに溢れた声。笑うと一気に幼くなって案外可愛い顔立ち。でももう思い出せない。もう、笑いかけてくれることも声をきけることもない。唯一残った写真は逆光で影しか見えない。でも、それでも、彼は俺の光だ。
僕をあの日暗闇の底から救ってくれた貴方
あの日はとても晴れていたが
僕のところだけ曇っているようだった
あなたは僕の手を掴み走り出す。
顔はよく見えなかったが
貴方は太陽のように暖かかった。
【逆光】
逆光
お日様の光を
背中にめいいっぱい浴びて
あ、僕の友達
お気に入りのボンボンの帽子の丸っこいのが
くっきり見える
手を横に伸ばしたら
そいつも横に伸ばした
バンザイしたら
そいつもバンザイした
雨の日には出会えない
雪の日も、曇りの日にも
お日様が出ている日だけの
僕の友達
ー逆光ー
眩しいと目を瞑ってしまいたくなる
自分の恥ずかしさが浮き彫りになるようだ
どうにか隠そうと必死になればなる程
光が私を呑み込み
消してしまうだろう
このままだと
いつまで経っても
光が私を追いかけることはないのだろう
反転した世界はいつも安心する。
見えるものが見えなくなって、見えないものが見えてくるから。
それが怖くもあり、楽しくもあり。
反転するのが世界だけで良かった。
自分が反転したら、二度と元になんて戻れないし、戻りたくないと解っているから。
逆光
いつも僕は真っ黒になっている。
人々のレンズには僕という被写体だけが暗く、色彩が失われた状態で写るらしい。
見られたくない僕にとっては都合がいい。
だけどいつも僕のそばに来て逆光をつくる君のレンズにだけは鮮明に写っているみたいだ。
そんな君は今日も僕を写して笑う。
君の眩しい光を一番近くで浴びて、君の暖かい光を一番近くで感じることができるこの場所は…
やっぱり僕にとって都合がいい。
おかしい。
何かがおかしい。
世界がとても、色褪せている。
色褪せているどころか、モノクロと言ってもいいくらい、世界から色が消えていた。
一体いつからこんな世界になった?
昨日?
わからない。
一昨日?
わからない。
気がついたら、世界から色が消えていた。
正直、色なんて、気にする余裕もなかった。
日々いっぱいいっぱいで、一生懸命で、目の前の色なんて気にする余裕はなかったんだ。
「どうした?ぼーっとして。」
『いや、世界から色が…、消えたんだ…。』
「色が消えた?色が認識できなくなったか?」
『……なんというべきか。たぶん色は、見えてるんだと思う…。色鮮やかさがなくなったというか…。』
「そうか…。極端にいうと白黒の世界?」
『うん、まぁ…。極端に言えばね。』
「そりゃあれだけ毎日、頑張ってればな。
休めって俺が言ったって、どうせ聞きゃしねぇんだから、俺がありがた~い話をしてやろう!」
『いや、いらな…』
「なぜ世界が白黒なのか!
それはな、お前が真っ正面に光を見据えて突き進んでるからだよ。
カメラで写真を撮るとき、ギラッギラ輝いてる太陽に向かって写真を撮ったらどうなるよ?手前の物は真っ黒に写っちまう!逆光って言えばすぐイメージつくだろ?
つまり、逆光状態になってるから、白黒なのさ!」
『はぁ…』
「だから!今お前の見えてる世界が白黒なのは、自分の目指してる光を真っ直ぐにとらえて頑張ってきたって証拠なの。頑張ってきたんだよ。むしろ、頑張りすぎてるってことさ。
世界が白黒に見えるなんて、ヤバいってことは分かるだろ?」
『…うん。まぁ…。』
「まぁ…、じゃない!やばいんだ。
頑張りすぎて、やばいんだよ。今のお前は。
普段、世界はカラフルだろ?他の人だってそうだ。世界ってのは元々色鮮やかなんだよ。
どうすれば色鮮やかな世界になるか。光に向かって真っ直ぐ進まなきゃいいんだ。斜めから見るんだよ。何なら後ろから光に照らしてもらえ!光に背中を押してもらいながら進むんだ。
真っ直ぐに進まなきゃいけないなんてことないんだから。
光だけ見て真っ直ぐ進んでたら、断崖絶壁まで克服しなきゃなんねぇじゃねえか。まわり道も必要なのさ。斜めから見た方がより世界は見えるんだよ。より簡単になることもある。
そんなに頑張りすぎるな。手を抜くぐらいでちょうどいいんだから。
それじゃ!光に背中を照らしてもらうために、反対向くぞ!」
『反対向く…?』
「休憩取るんだよ。
光に向かって作業してたんだから、その逆、作業の手を止めれば、背中照らしてもらえるだろ?
まずは、休憩、取るぞ。」
変わる
どんなに馬鹿にされても
僕の背中を照らし続ける存在がある限り
君から逃げない
逆光。
レンズ越しのシルエット。
太陽の光からこちらを庇うように佇む被写体は、真っ黒に塗りつぶされる。まるで、太陽の炎で焼けすぎて丸焦げになってしまったかのよう。それでも形を保っている姿が、心に空いた穴を燻らせる。
光でありたかった。
正しく、優しく、前の存在でいたかった。
けれど眩しすぎる光は、逆に嫌煙されるものであることを誰も理解しない。太陽は直視してはいけない。目を焼かれ、視力を奪われてしまうから。
光を求め過ぎれば、盲目になる。
正しさや優しさを主張し過ぎれば、それは悪へとかわらないだろうか。悪を排除するということは、悪に優しくない。
そもそも、悪は何故生まれるのだろうか。
それは、影が生まれる理由と似ている。
あなたは脚光を浴びる。
私からみると、そんなあなたは逆光を受けた大木のようだ。