『蝶よ花よ』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
美しい君には、花よ蝶よと都合のいい言葉を並べる意地汚い芋虫が集まる。
君は純粋の権化みたいな人だから、
芋虫を疑おうともしない。
太陽のように笑って、海と空よりも広い大きな器でそんな奴らも包み込む。
でもね、僕知ってるんだよ
君が本当は地面を這いつくばる芋虫にすらも
嫌われたくないから、あんな態度をしてるって。
世界中の誰からも愛される、なんてことは出来ない事を君は重々理解しているのに。
二人が討たれた、と聞かされた時は動揺した
悟られないよう
硬く唇を縛り、目をつり上げ、大したこと無いよ、と憮然とした表情で少し顎を引く
本当は胸の奥まで動悸し血の気が引いて
返事の仕草を返すのがやっとであった
でも最期まで諦めない
私は幼い頃からぶっきらぼうで
何かにつけて喧嘩をふっかけ制圧する
何でも一番になりたくて
弱い者は朽ちて知るべし、と強がっていた
いつか私が天下を取る、と高らかに主張する
周りには誰もいなくなっていた
でも、二人はいつも笑っていた
二人だけがわかってくれた
全くの脳天気が心地良かった
未来の将軍様
お前が天下を取ったら俺達を大臣にしてくれよな、右大臣と左大臣で
私達は野戦で名を挙げ
刃向かう敵をなぎ倒し
死線を越えて
名を挙げ
名を挙げ
死線を越えて
名を挙げ
名を挙げ
今夜、天下はもうこれ間近
手の内側まで転がってきた
だけど、最後で溢れ落ちた
城が焼ける
悲鳴が聞こえる
バチバチと音を立て赤く染まる部屋で
二人が討たれた、と聞かされた時は動揺した
本当の名前もまだ教えて貰ってないのに
喉が焦げる
刀を手に取る
黒煙が舞う
視界が燃える
蝶よ、花よ
視界が燃える
まだ諦めない
『蝶よ花よ』
私を蝶よ花よと育ててくれてありがとう。
でも、私は蝶にも花にもなりたくなかった。
カブトムシがよかった。名前のない雑草がよかった。
もっと言えば、そんなもので例えられない唯一無二の「私」になりたかった。
蝶にも花にもなれなくて、ごめん。
【お題:蝶よ花よ】
私の目に映るもの
私に手に触れるもの
私の耳に流れてくるもの
全て綺麗なものだけが渡される
私は唯一無二の宝物のとして囲われていた
だから今
私の目の前に立っているものは
私の世界にはあるまじき存在だった
燻んだ金糸に
褪せた服
鈍い色をした装飾品
私に差し出された手は荒れていて
発する言葉は気怠気な空気を纏っていた
「お嬢さん、俺と一緒に来てくんない?」
私の綺麗な世界にそぐわない存在なのに
覗き込んできた瞳はどこまでも蒼く美しく透き通っていて
その瞳に惹き込まれるように
私は気づいたら彼の手を取ってしまっていた
そして私の世界は綺麗なものと
知らないもので溢れた世界になった
【蝶よ花よ】8/8
蝶よ花よ、と愛でられるのは、いつだって、愛想のいい妹の方。
分かってる。自分にはないものだってことくらい。
妹に嫉妬なんて、姉失格、なんて思ってる?
でもね、好きな人が私じゃなくて、彼女に好意を持っていたら、したくもない嫉妬をしてしまうのは仕方ないじゃない?
なんで、いつも妹ばかり、って…。
こんな風に、思いたくもないことをつい頭を過ってしまうの。
その度に、私と妹は、姉妹としてではなく、全くの赤の他人同士としてだったらもう少し、この気持ちも、違うものになっていたのかな、なんてことも考える。
それでも、やっぱり彼女は、私の可愛い妹で。
結局、私は、妹を完全に突き放すことが出来なくて、甘やかしてしまうのだから、このぐちゃぐちゃな感情に振り回されるのは、自業自得なのよね…。
『蝶よ花よと育ててきた大切な君へ』
初めて会った時、君は警戒しながらもこっちに来てくれたね笑 幼い体でよく頑張った
そんな君を見て、
「やべぇ、自分はもう天使と出会っちまったのか!?」
と思うぐらいには、心をうたれたよ笑
毎日目が離せなくて、大変だったな。
もうほんとに、悪い子ねぇうふん♡と思うくらいには笑笑(冗談)
だからこそ生涯かけて
君を大切にするよ
『大切な、大切な家族の柴犬のまるちゃん』
『蝶よ花よ』
「私、蝶よ花よと育てられたの。」
緊張のあまり、手のひらに人を書いては飲むを繰り返していた俺。そんな俺を見て、彼女は唐突にそんなことを言った。…このまま数分も歩けば予定通りの時間に彼女の実家に到着するだろう。
「パパはね、仕事が終わった後、いつも急いで家に帰ってきた。その後、めいいっぱい私と遊んでくれるの。今思えば、パパだって仕事終わりで疲れてたのにね。私にはそういう所、全然見せてくれなかった。」
全然見せてくれなかった。なんて不満げなはずの彼女は、しかしうっすらと口角を上げて楽しげに続ける。
「ママはね、いつでも私の話を聞いてくれて。洗濯物を畳んでるときでも、お掃除をしてるときでも。私が話しかけると絶対に一度は手を止めて、私の目をまっすぐにみつめて話を聞いてくれた。だからかな?ママにみつめられると、すっごく安心する。」
隣で歩いていた彼女が足を止めたから、自然と俺の足も止まった。目の前には、綺麗に整えられた一軒家。
「貴方はこれから、そんな私を貰い受けに行くんだから、気合い入れて頑張ってよね!」
得意げになって笑う彼女は、まさしく彼女のご両親が手塩にかけて育て上げた美しい華だ。
緊張はまだしている。それでも、俺もこの先ずっとこの美しい華の隣にいたいから。
俺はこの震える指を、インターホンへと伸ばすのだ。
【蝶よ花よ】
蝶が花の蜜を吸うように
私も初めての彼氏と甘いキスもした
でも、そんな生活がずっと続くことはなかった
魔法のような日々が続いていたのに
別れる時は一瞬だ
悲しいと言う感情も現れなかった
なぜだろう、
まだ好きなのかもしれない
早く忘れたい
そう思う日が多々ある
でも、春になり、花が咲き、その蜜を吸う蝶を見ると
不意に思い出してしまう
蝶よ、花よ、早く忘れさせてくれませんか
蝶よ花よ
まだ暑いです。
ものすっごい暑いです。
夕べ、いつものジムへ歩いて行く時、涼しかったんです。
「やっと秋がやってきた」なんて、浮かれていたらこれです。
こんな時に、地震。
被災された方々は大丈夫でしょうか。
こんな暑い最中にインフラが止まってしまったら、確実に生きていけない。
地震への備えを、って言われてもどこまで備えればいいのか。
あれやこれやと想像するたびに、リュック10個分くらいは必要になりそう。絶対持ち運べないうえに、逃げ遅れそう。
こんなに文明に頼りきった生活をしてる私は一番に倒れそうです。
ジム通いして鍛えていても、結局暑さ寒さには敵わない。弱いものです。
えっと、お題なんでしたっけ。あ、思い出しました。
んー
あ、常備食のチェックを忘れていました。行ってきます。
ではまた。
お題から逃げるのは慣れたものend
飛び上がれ 高く高く
駆け巡れ 遠く遠く
どこまでも高く遥か遠く
華々しく艶やかに
益々煌めきを強め
変わりゆく自分に
心躍る
#26『蝶よ花よ』
青空の下、黄色いひまわりが広がるこの畑に今年もやってきた。このひまわり畑の真ん中、そこにはかつての戦友が眠る石碑がある。二十年前のあの戦争で、私と彼は同じ飛行隊に所属していた仲だった。彼とは幾多もの戦場を飛び、そして多くの敵を地上へと撃ち落としてきた。彼とは良き戦友でもあり、ライバルでもあった。私と彼はそのうち軍でエースパイロットとして名を馳せるようになった。それと同時に敵から恐れられる存在でもあった。彼と私が乗っていた二機のF15の垂直尾翼にはひまわりの花とその上を飛ぶ紫色の蝶がマーキングされていた。敵はそのマークをみるたび、「ひまわりの蝶が現れたぞ」と戦意を自然と削ぐような存在となっていた。戦況は優勢に進み、いよいよ決戦の地である敵首都での戦闘中、彼は残党の敵機から放たれた機関砲に被弾してしまう。コックピットの彼は血が吹き出す右腕の大きな穴を必死で掴み、押さえながら操縦桿を握りしめていた。彼は最期まで家に帰ることだけを考えていた。しかし、悲しいかな。彼は力尽き、このひまわり畑に堕ちた。私は彼の機体が爆発し、燃え上がるところを見ていた。そして、私は自然と敬礼していた。炎はひまわり畑に広がっていく。その姿は、彼の命の最期が如く、激しく燃え上がっていた。戦勝パレードに彼の姿は無く、仲間が心配して彼の行方はどこかと私に聞いてきた。私はその時初めて、彼が死んだということを実感し涙を流してその場に泣き崩れた。その後、私と仲間たちは、彼の最期の地であるあのひまわり畑に向かった。着くとそこは黒く焦げて、焼け野原になっていた。その畑の真ん中に一つの瓦礫の山を見つける。彼の機体の残骸だった。私はその残骸を一つ一つトラックに運んでいく。その作業の中で、仲間があるものを見つけた。ひまわりの花と紫色の蝶がマーキングされたボロボロの垂直尾翼と彼のヘルメット、そして彼の亡骸まで。私と仲間たちは彼の亡骸をその地に埋めると垂直尾翼を石碑として建て、彼のヘルメットと彼が好きだったひまわりの花と種、そして酒を置いた。彼の命が蝶のようにあの大空へ上がっていくのが感じた。その後、私と仲間たちは戦争経験者として語り部となる。そして、結婚し子供が生まれ、家庭を持つようになってから。毎年のように家族とあのひまわり畑に行っては彼の遺影の前に立った。それから数十年後、白髪生えシワまみれとなった私は、今年もこのひまわり畑の彼の遺影の前に立つ。かつて焼け野原だったこの地は今は黄色一色に染まり、ひまわり達は西の空に沈もうとしていた太陽の方を向いていた。私は遺影の前にひまわりの花と種と酒を置き、そして彼のヘルメットに触れた。その瞬間、ひまわり畑に優しい風が吹き抜け、一匹の蝶が大空に舞い上がった。紫色の蝶、それはまるで彼が大空を飛ぶことを楽しんでいたときのように。彼はこの空の上で生きている。そして、今も私を見ているのだろう。私は彼の遺影に向けて敬礼すると、一匹の蝶は遺影の上で止まり、私の方をじっと見ているのだった。
「蝶よ花よ」と大切にしてきた彼女は、いつのまにかつけ上がってしまった。
自分なりに大切に愛してきたつもりだったが、どうやら正しく伝わらなかったようだ。
良かれと思ってした言動には文句をつけられ、思う通りにならないとすぐ不機嫌になり黙り込む。欲しがるばかりで、自分は何も与えようとしない。
いつのまにか、そんな人になってしまった。愛するというのは、どうやら一方的ではダメらしい。一方的に与えるにしても、相手は選んだ方がよさそうだ。
自分も、相手を付け上がらせてしまった。本当に相手を思うならば、どこかで指摘しなければならなかったのだろう。今になってそう思ってももう遅い。
優しさや愛は有限ではない。相手が時間やリソースを割いてしてくれる訳だから、そこには感謝しなければならない。愛の与え方は人それぞれだろうから、結果よりもその根底の気持ちを受け取るべきだろう。
優しさや愛を向けてくれる相手に対して不義理を働き続けると、その人は目の前から居なくなってしまう。気づいた時にはもう遅い。
そうならないように、自分も相手に与えられているかを気にしてみるのも良いのかもしれない。気持ちを形にするのも大事だが、それについて考えを巡らせるだけでも大違いだ。
「もう…あの人絶対鬼だよ〜!!」
ブリーフィングルームのデスクに突っ伏して、ブーブーと文句を垂れる同僚は13歳も年下の女の子。
「こないだオアシスの指揮やったばっかりで…今度は要塞……」
「…“家出”の代償かもしれませんね」
と揶揄うように言うと、机に押し付けたままの額をこちらに向けて、あからさまに嫌な顔をする。
重力に従って、むに、と押し付けられたほっぺが拗ねた顔にマッチして可愛らしいだなんて(セクハラだ、と言われそうで)死んでも言えないけど。
「……これが私なりの『蝶よ花よ』、なんですけどね」
「へっ、あっ、ご、GONさん?!」
ほろ苦い珈琲豆の匂いをさせながら背後から現れた長髪の盟主の声に、飛び上がるくらいの勢いで彼女が起き上がった。
かと思えば髪を整えてみたり、顔を真っ赤にして不自然な咳払いをしてみたり。忙しいな。
「期待してますよ」
と、切れ長のダークグレーの目を細めて彼女に笑いかければ、ほら単純。
「…が、がんばり、ます」
って、合わせられない視線のままはにかむから。
(だからほっとけないんだろうなぁ…)
蝶よ花よ。
蝶よ花よ。
全てを
捨て去って。
蝶よ花よ。
君を見つけよう。
君は縁に立ち、ふらふらと揺らめいていたんだ。
そして誘惑されたように踏み出した。
その時、美しい蝶や花が散るのが見えたんだ。
君も見たのかな。
最期の景色が美しかったことを願う。
あぁ蝶よ、花よ。
私は君が憎い。
【蝶よ、花よ】
蝶よ花よ
甘やかされて、愛されて、穢れを知らずに生きている。
蝶よ花よと育ててきた、可憐で繊細なその命。
あぁ、その子とそっくりな、自然に生きる蝶よ花よ。
どうかその子を、愛して、守ってあげてくれ。
いずれは誰もが、私から離れていってしまうから。
うちの会社は、ファミリーみたいな温かさがある会社。社長をお母さん、従業員はその子供という〝てい〟で、家族ごっこが始まる。
社長の〝お母さん〟は板についていて。
本当にいつから、この茶番劇が始まったのだろうと笑ってしまった。
そして思い出す。
末っ子気質の同期の彼女は、その気質の通りに会社の末っ子だ。
その彼女と社長のやり取りが発端だった気がしてきた。
あの時は、わたしも〝お姉ちゃん〟って言われたなあ。
懐かしい思い出に浸っていると、その子がお客さんと話しているのが聞こえた。
天真爛漫に笑って、お客さんの対応をしているから、お客さんから蝶よ花よと愛されている、同期の彼女。
そして、話している相手は彼女が気になると言っていた救急隊の先生。
さてさて。
〝お姉ちゃん〟は可愛い〝妹〟の恋を応援しましょうかね。
おわり
お題:蝶よ花よ
怒鳴り声で起こされ、振るわれる拳
学校に行っても机には花瓶が置かれ
冷たい目と囁かれる陰口
救いを先生に求めても見て見ぬふり
帰れば、また拳と粘着質な中身のない説教
僕は、蝶よ花よと育てられなかった
「遅刻するよ」と優しく起こされ
学校にはいち早く行き花瓶の花を替え
温かい目と周囲の陽口
出会い頭に先生に褒められ
帰れば、温かいご飯とお風呂
私は、蝶よ花よと育てられた
結局育てられ方じゃない
だって僕は躍起になって這い上がった
だって私は気がつけばどん底に居た
目の前の女を今度は蝶よ花よと商品にしなければならない
『蝶よ花よ』
「あー、悔しい!
あの女ムカつく」
私は自分の部屋で一人、心にためた不満をぶちまける。
私は今日、駆け出しの女優としてとあるドラマの主役のオーディションに参加した。
原作のファンと言うのもあるが、一流の女優として羽ばたくため、どうしても役をもぎ取りたかったのだ。
自信はあった。
色々な対策も講じた。
そして結果はぶっちぎりの一位。
だが、私の心には憎悪が渦巻いていた。
「あの女ふざけやがって!
うがー!」
「あんまり大声出すと、近所迷惑になるぞ」
私しかいないはずの部屋から、突然男の声が聞こえる。
声の方を見れば、ソファーの裏から男が出てきた。
男は中肉中背で、顔はイケメンだが頭に禍々しい角が生えていた。
普通に考えれば、不審者だろう。
だが私は慌てない。
コイツの正体を知っているからだ。
「あら、来てたの……
ご忠告どうも、悪魔さん」
「ああ、お前も元気そうでなによりだよ」
こいつの正体は悪魔。
私が女優デビューした時に私の前に現れ、それ以来ずっと私に付き纏っている。
どうやら私の魂を欲しいらしいのだが、私の見立てではただの厄介ファンである。
魂が欲しいと言うのも、悪魔だからと言うよりかは、ファンのこじらせと思った方が納得できる。
だが悪魔にとって残念なことに、私は悪魔に願うような願いはない
という訳で、鬱陶しい以外は害が無いので放置している。
「何かあったのか?」
「『何かあったのか?』じゃないわよ。
さっきのオーディション、どこからか見てたんでしょ」
「ああ、見ていた。
ぶっちぎりの一位だったな」
悪魔は、「合格おめでとう」とパチパチ手を叩く。
褒めているつもりなのだろうが、どうしてもバカにしているようにしか見えない。
「そうね。
結果が最初から決まっていた出来レースだったけどね」
「それは気づかなかった」
「よく言うわ。
あなたがやったんでしょう?」
「なんだ、バレてたのか」
「当たり前よ!
審査員全員が虚ろな目で座っているのよ!
気づくに決まっているじゃない!」
アレはかなり異様だった。
審査員は、本当に見ているのか怪しいほど、目が虚ろで虚空を見ており、こちらからの質問も、空返事ばかり。
他のオーディション参加者も、あまりの事態に怯えていた。
「にもかかわらず、私の演技を絶賛するのものだから、気味が悪いを通り越して笑いがこみ上げてきたわ」
「意図とは違うが、楽しんでもらえたら何よりだ。
ああ、対価はいらない。
俺が勝手にやったことだからな」
「当たり前よ!」
「だが何を怒っている?
オーディションには合格し、俺の細工もまあまあ楽しめたのだろう?」
「ふん、アンタが茶々を入れてきたものムカつくけどね。
それ以上にムカつく奴がいたのよ」
その瞬間、悪魔が目を輝く。
どうやらこの悪魔、人の悪意が大好物らしい。
趣味の悪い――いや悪魔だから趣味が良いのか、ともかく悪魔は子供の様に目を輝かせていた。
「詳しく教えてくれ」
「合格発表の時、アイツが私に近づいてこう言ったの……
『おめでとうございます。 ところでコネで合格して嬉しいですか?』ってね!」
「コネだろう?
俺の力を使って合格したのだから」
「アホか!
頼んでないし、そんなことしなくても私がぶっちぎりで合格よ!」
私が叫ぶと、悪魔は悲しそうな顔をする。
感謝されないことにがっかりしたようだ。
本当に善意からの行動らしいが、迷惑なものは迷惑である。
だが!
それが霞むほど!
あの女が憎い!
「あの見下した目線。
ふざけやがって!
どう見ても私の方が格上でしょうに!」
「では報復するか?」
「報復?」
「俺は悪魔だ。
報復は得意中の得意だよ」
悪魔はニヤリと笑う。
「報復したければ願いを言うといい。
悪魔として願いを叶えてやろう。
無論、対価は頂くがね」
「報復か……
いいわね。
アンタの思い通りってところが癪だけど、乗ってやるわ。
まずあの女が次に出るオーディションを調べなさい」
「いいだろう……
それから?」
「参加予定者に、私の名前をねじ込みなさい」
「分かっ――は?」
悪魔は呆れたような顔で私を見る。
こいつの付き合いはまだ短いが、呆れている顔を見るのが多い気がする。
威厳の無さに、最近悪魔と言うのは嘘じゃないかと疑っている。
「一応聞くが、何のつもりだ?」
「あの女と同じオーディションを受けて、あの女を負かす」
悪魔は、眉間を押さえる
言葉を選んでいるのか、考えている素振りを見せる。
悪魔はしばらく熟考したあと、顔を上げる。
「俺は悪魔だ。
得意なのは、人間を不幸にすること。
例えば、あの女を病気にするとか、事故を起こして歩けなくさせるとか……
あるいは、女の所属する事務所を潰すでもいい。
なぜそう言った事を願わない?」
「そうすると、私はあの女に実力の差を見せつけられないわ。
私と正々堂々勝負して、実力の差を目のあたりにして、あの女が敗北を認めるのが私の望みよ」
「正々堂々は、悪魔の仕事じゃねえ!」
悪魔の男が、不満そうに私を見る。
頼まれもしないのに、私に付き纏ってるくせに……
勝手な奴だ。
「もう一度いう。
俺は悪魔だぞ。
もっとドス暗い感情に満ちた願い事をしろ」
「してるじゃない。
リベンジにメラメラ燃えているわ。
そして、あの女を負かし、屈辱まみれにしてやるわ!」
「そういう事じゃない」
「そんなに悪魔の仕事をしたいなら、他のやつのところに行けば?
例えばあの女とか。
根暗そうだから、ガンガン願い事すると思うわよ」
「お前はそれでいいのか?
多分あの女、躊躇なくお前を呪うぞ」
「いいわ。
むしろハンデがあった方が、力の差が分かりやすいもの。
それでもわたしが勝つしね」
私の言葉を聞いた悪魔は、諦めた顔をして近くにあったソファーに座る。
こういう問答の後、悪魔はいつもあのソファーに座る。
定位置というやつだ。
「やめだ、やめ。
まったく商売あがったりだ」
「待って。
あの女のオーディションを調べると言うのは……」
「俺は便利屋じゃない。
自分で調べろ」
「役立たず」
「うるせえ」
そう言って、悪魔はソファーに横になる。
ふて寝だ。
ここまでが、いつものやり取りである。
こうなると、特に用事がない限り、お互い不干渉だ。
だが今日の私は、コイツに用がある。
私は、最短距離で悪魔の寝ているソファーに向かい、空いているスペースに腰を掛ける。
悪魔は寝るのを邪魔されて、不快そうに私を見ていた。
「なんだよ……」
「私に言うことない?」
私の言わんとしていることを察し、悪魔はその端正な顔をしかめる。
こいつ、悪魔のくせに顔に出やすいな。
「さっき言っただろ」
「感情こもってなかった」
「いいだろ別に」
「はあ、せっかく頑張ったのに。
アンタが、原作好きだって言うから……」
「お前、汚いぞ!
はあ、くそ、分かったよ」
悪魔は体を起こし、私を正面から見る
「その、合格おめでとう。
ドラマ、楽しみにしてる」
悪魔は慣れないのか、はにかみながら私に賛辞を贈る。
不器用な誉め言葉だが、ファンの声援は何よりも嬉しい。
そして、それに対する私の答えは、最初から決まっていた。
「ありがとう、ファン一号。
ドラマ、楽しみにしててね」
惣菜作り置き
2024/08/08㈭日記
6箱分作り置きをして
冷蔵庫に入れて並んだパックを見ると
充足感に満たされる。
焼き鮭やトマト、塩蔵の生わかめを
湯通ししたものとか
簡単なものしか作っていないけれど。
冷蔵庫は今年の夏はいっぱい。
5月にチョコレートが高くなると
聞いて幾つか買って保存中。
その他に今年は暑くなりそうだと
思い、普段飲まないジュースも
飲みたくなるんじゃないかと
思って買ってみた。
飲みたい時にすぐ飲めるように。
でも、こんなに暑くても飲む気に
ならないから習慣って凄いね。
もう来年の夏は買わないことにする。
おでんも保存してある。
おでんは体調不良用の保存食。
簡単に食べられて胃に優しく
タンパク質も摂れるから。
レトルトのお粥は棚にある。
飲む、果物ゼリーも体調不良用。
コロナ禍になってから冷蔵庫が
小さく感じる。
次はもっと大きい冷蔵庫を買うつもり。
冷蔵庫を買う時、凄く調べたから
買った時は満足していたのに
備蓄のことまで考える日常になって
小さいと思うなんて。
僕の日常は
誰かの非日常。
そんなふうに考えたら日記は楽かも。
創作の方が大変だと思う。
九州の方、怖かったでしょう。
考え込んだら息が詰まりそうなので
やめる。
おやすみ。