『脳裏』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
それぞれ違う目的地に向かってたくさんの人が行き交い交差する。夜だというのにこの辺り一体を明るくしてしまう電光掲示板。
人々の騒々しい声、重く鈍い音、うるさいブレーキの音が遠く聞こえる。
待ち合わせていた友人の最後の笑顔が脳裏に焼き付いていた。
『ほんとに女の子だ』
そう言って君が笑った。
何ヶ月も続いた文字だけのやりとりを
『遊びに行っていい?』そう言って終わらせた君は
想像していたよりもずっと華奢で
だけど想像していた通り 無邪気な女の子だった。
同じ年齢で 同じような傷を抱えて
バーチャル世界に逃げ込んだ私たちは
離れた場所にいたはずなのに、確かに出会って
異性だったら恋に堕ちるようなスピードで仲良くなった。
出会った頃は未成年だった私たちが
お酒を飲める歳になって
それぞれにパートナーを得て
家族を増やして
『おばあちゃんになったら さ…』なんて
未来の話をしたよね。
それなのに
君はおばあちゃんにならないことを選んだ。
ねぇ?
目を閉じて浮かぶのは
初めて会ったあの日に一緒に見たイルミネーションで。
何をどうしたら、一緒におばあちゃんになれたのか?
今も そればかり考えてる。
【脳裏】
蘇る。
ただ、
飛行機が見えた。
それだけ
なのに。
大丈夫だよ。
わたし。
もう
あの時の
わたしとは
違うの。
絶望
悲しみ
後悔
全部
あの時のもの。
わたしは
もう
今を生きる
ことに決めたから。
思い出してもいいから
落ち込まないで、
わたし。
#脳裏
脳裏には、いつも趣味で書いている小説のことがある
今はちょうど、登場人物の一人が新天地に旅立つところで、テレビを見ながら、頭の中には駅のホームの別れの場面があったりするんだ
もちろん、ちゃんとテレビも見てるよ
いつもそんな感じ
いつも僕の脳裏によぎるのはあの顔だ。
だけど今日は今日だけはいつもより美しく瞳に映った。
ただそれだけで僕の心は、はち切れそうだ。
脳裏
その金色の髪は晩夏の空の下で光を弾き、チカチカと跳ねるような輝きを脳裏に焼きつけた。
「もう金髪にはせんのですか、上官」
会議室からの帰り、西陽が差し込む休憩所で缶コーヒーを受け取りながら尋ねれば、相手は一瞬不思議そうな表情を浮かべたあと、いつものように苦笑した。
「さすがにねぇ。怒られちゃうから」
誰に、とは言わないが一人しか思い当たらない。いや、嫌味を言うであろう人物を含めれば二、三人は増えそうだ。
けれどもそれが金髪にしない理由ではないだろう。怒られようが嫌味を言われようが、彼は一度こうと決めたらそのままとりあえず突っ走る男だ。あとのことは走ってから考える。今も昔も、その点は変わらない。
だから亜麻色に染められている彼の髪が金髪にも元の黒髪にも戻らないのは、その必要がないからだ。
「金髪の方が良かった?」
「いや、驚くほど似合ってなかったなと思い出しまして」
「ええー……」
情けない声を上げながら反論はしない。それなりに自覚はあったのだろう。
「じゃあさ、黒髪のオレと、金髪のオレと、今のオレと。どれが一番好き?」
「黒髪時代は生意気だと思いましたし金髪時代は馬鹿やってんなと思いましたし今は面倒クセェなこいつって思ってますよ。なんですかその面倒くさい彼女みたいな質問」
「ひどい!」
「まあ、一番長く見てて見慣れてるのは今の状態ですかね」
その髪も、制服も。もはや好きとか嫌いとかの話ではない。
その言葉を聞いて指を折り、年数をちまちまと計算していた相手が「本当だ!」と今更驚いたように顔を上げた。
「いや、数えるまでもないでしょ」
「そうなんだけど、なんか改めて年数として認識したらびっくりしちゃって」
「そういうところですよ」
思いついたらそのまま、勢いで走り始めてしまう。まっすぐに前だけを見て走り続けているから、こうして昔話をしないとうっかり意識の外に放ってしまう。
もちろん、忘れることは決してないのだけれど。
少しも似合っていなかった金髪が脳裏に焼きついているのは、足を止めかけていた彼が再び走り出す決意を込めた、晴れやかな顔を覚えているからだ。
その瞬間を自分だけはきっと、いつまでも鮮明に覚えているのだろう。
脳裏に焼き付いている、あの人の顔を
ふと思い出すときがある
脳裏にちらつくこの記憶
身に覚えが無いこの記憶
周りに聞いても覚えが無いこの記憶
しかし確実に見えるこの記憶
探してみせようこの記憶
脳裏の記憶が分かるまで
この記憶と共にこの旅は続く
お題『脳裏』
したり顔横切る脳裏黒猫が
幸福を呼ぶ鍵となって
(脳裏)
脳裏 理科室 月夜 呼び出し 親友 嘘
相談事 戸惑い 苛立ち 闖入者 社畜 苦労話
芝居っ気 計算ずく 苦し紛れ 冷蔵庫
巧妙 ウサ耳 身じろぎ 凝視 心拍数
裏口 血眼 高架下 煙草 コート
扉 乱射 遮断機 急行列車 シャウト 逃亡
海の家 沿岸警備 病室 ついたて 手錠
薄れゆく意識 君の顔
「脳裏」
#244
「私はあなたを許さない」
そう言ってから離れて行く彼女が脳裏に浮かんだ。
起きていつものように写真を眺める。
愛おしい彼女はもう二度と戻らない。
「…っ…ごめんなさい…お母様……」
ほかの執事たちが貴族のパーティーで出払ってる時に
何かに打ち付ける音がしてそっと音のする方へ向かう。
部屋の扉をそっと開けて中を覗くと、自らの手で鞭を持ち、自身の身体に打ち付けているアモンの姿があった。
脳裏に焼き付いて離れないとはこの事だろうか。
あれからアモンを見るとあの光景がフラッシュバックして、涙が出るようになり、アモンを自然と避けるようになった。
アモンのことは嫌いじゃない。寧ろ大好きだ。けど、なんて声を掛ければいいか分からない。
アモンはそんな私を見て「俺のこと、怖いんすかね~」
なんて、おちゃらけたように言っていたが悲しそうに笑っているのがわかる。
怖い訳では無い、でも、貴方がどうすれば救われるのか私にはまだ答えが出ないのだ。
imagination
頭の中の映写機が頭蓋骨に投影する
そのタイミングはきっと今
外側の有限をシャットアウトして
内側の無限にアクセスした時
夢じゃない
※脳裏
300字小説
見覚えのない懐かしい景色
手術が成功し、退院してから、私の脳裏にある景色が流れるようになった。
穏やかな田園風景。緑の丘が地平線まで広がり、牧畜と思われる動物がのんびりと草を食んでいる。青い空に浮かぶ白い雲。緑の中の小道を子供達が笑いながら駆けて行く。
ドーム都市で生まれ、ドーム都市以外、ほとんど出たことの無い私には全く見覚えの無い景色。だが、懐かしさを感じる景色を描いてSNSに流すのがいつしか日課になっていた。そして……。
フォロワーのフォロワーを辿って教えて貰った場所に行く。農業区域の小さな町。脳裏と全く同じ景色が広がる。この町の誰かが脳死状態になり、その心臓が私に。
「帰って来れたね」
私は胸に手をおいて、そう語り掛けた。
お題「脳裏」
[脳裏]
ちゃんと横断歩道渡ってるだろうか
ちゃんと信号守ってるんだろうか
ちゃんと挨拶してるだろうか
友達と仲良くしてるだろうか
ふと脳裏に浮かぶ我が子の一日
実際、どうなっているんだろうなぁ。
天才も、奇才も、鬼才も、おんなじなんだろうか?
凡人が違うのは解るけど、きっと同じなんだろうな、見た目は。
”脳裏”に掠めるものなんて、たかが知れてるけれど。
どこまでいっても変わらないことが、すごく悔しかったりするんだよね。
脳裏
立冬の翌日、
ストーブで
暖を取りながら
記憶を思い返す
すると
たわいのないことばかり
脳裏をよぎった
断片的にだ
もう少し、ガツーンと
鮮明な1つの光景が
浮かんでくると
思っていたのに…
当てが外れた…ショック
きっとこの事も
わたしの脳裏には
焼き付かない
まー
『脳裏』
あぁ、なんでだろう。同じ部屋に居るというのに、見せるのは背中だけ。必要最低限の会話さえ、最後にしたのはいつかも思い出せない。
今日と言う日がまた終わる。
夢の中で出会ったのは、何年も前のあの頃。五分で読み飛ばせそうな冊子薄いを、熱心に読んでいた。あそこに行きたい。これが見たい。あれが食べたい。どうせ行かないんだろなんて思う僕をよそに、子どものような眼差しで見つめる君。無邪気な顔で微笑む君。
あぁ、この時間が続いていたら―――
不愉快なアラームの音で目を覚ます。
毎日が鏡に写ったように同じに感じる。あの、何の変哲もない日々が続いていたら...
脳裏に浮かんだのは、かけがえのない小さな小さな幸せだった。
『脳裏』
頭の奥の方に何かがあった。
表面からの認識では、目立ったものはない。
表ではなく頭の中の方、そう脳の裏ともいえるであろうところに若干の白い違和があった。
新しいものではない。少なくとも2・3年は経っているだろう。
脳の裏面に平たくこびりついているようだった。頭を回すと中から金属音が響いているのがわかった。
湿気はなく、乾燥している。決して柔くはないが、石のように硬いわけでもない。澱粉のりが裏面に乗せられ乾いたような、そんな感覚だった。
しかしこれだけの時間が経っているというのに何故今更になって意識の縁に触れたのだろう。
思考すればする程、比例するように白濁した違和は私の脳に根を張った。そのうち痒くなってきた。掻きむしる程のものではなく、喉の奥に皺のよる痒みに近かった。
頭の中に違和感を覚えて一月が経つ頃には、遂にその存在に安心感を感じるようになっていた。肥大化する違和感に蝕まれていくことに心地よさを覚えた。
違和感が取れた。
次に「私は泣いている」と認識した。
瞳から白く滲んだ線が堰を切って溢れ、粉を吹いた私の掌を潤す。
涙の海に腰まで浸かった私は、寂しさを感じた。わんわんと声をあげて泣く度に大切な何かが昇華される感じを覚える。寂寞の裏に懐旧が覗いていた。
頬を最後の感情が伝った時、ちりちりと目の奥が痛んだと思うと、手の内に母から継いだ銀白色の首飾りが握りしめられていた。
脳裏
靴を脱ぎ、コンクリートの冷えた廊下をぺたぺた音を立てながら、階段を勢いよく登る。忘れ物を取りに来た君と鉢合わせて教室で2人きり。緑の木々から夕日が差し込み、胸の鼓動が速くなった。
ドアのチャイムが鳴る。
怖くて、でも会いたくて、恥ずかしくて。
ドクンドクンとどうしようもないほど胸が鳴り、震える手を必死に抑え込んでドアを開けた。頬から耳へ、ジリジリと鉄板のような熱を感じる。君の足元と君の声。それだけ。本音と自信と弱さと怖さと、君への気持ちが強すぎて、頭がおかしくなったんだと思う。
外は、豪雨で、少し湿った封筒と、鉛筆で不器用に描かれて不安な君の文字。呆気なくて、でもこれで最後だと思った。
見慣れないスーツを着ている君が表れて、運命だと本気で思って、目が合って、分かった。
君が好きだ。