蒼ノ歌

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『脳裏』

頭の奥の方に何かがあった。
表面からの認識では、目立ったものはない。
表ではなく頭の中の方、そう脳の裏ともいえるであろうところに若干の白い違和があった。
新しいものではない。少なくとも2・3年は経っているだろう。
脳の裏面に平たくこびりついているようだった。頭を回すと中から金属音が響いているのがわかった。
湿気はなく、乾燥している。決して柔くはないが、石のように硬いわけでもない。澱粉のりが裏面に乗せられ乾いたような、そんな感覚だった。
しかしこれだけの時間が経っているというのに何故今更になって意識の縁に触れたのだろう。
思考すればする程、比例するように白濁した違和は私の脳に根を張った。そのうち痒くなってきた。掻きむしる程のものではなく、喉の奥に皺のよる痒みに近かった。
頭の中に違和感を覚えて一月が経つ頃には、遂にその存在に安心感を感じるようになっていた。肥大化する違和感に蝕まれていくことに心地よさを覚えた。



















違和感が取れた。
次に「私は泣いている」と認識した。
瞳から白く滲んだ線が堰を切って溢れ、粉を吹いた私の掌を潤す。
涙の海に腰まで浸かった私は、寂しさを感じた。わんわんと声をあげて泣く度に大切な何かが昇華される感じを覚える。寂寞の裏に懐旧が覗いていた。
頬を最後の感情が伝った時、ちりちりと目の奥が痛んだと思うと、手の内に母から継いだ銀白色の首飾りが握りしめられていた。

11/9/2023, 12:50:23 PM