終点』の作文集

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終点』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど

8/10/2023, 5:45:29 PM

縁側に、かき氷に風鈴に西瓜。ああ今日も遠くで電車が走っている。


電車がやってくる。この夜中に。私は裸足でホームに立ちそれを待つ。夜明け前の一番暗い時間。静かな月の匂いがする。向かいに生えた草が海の如く波打った。


パーカーのフードを被り、横たわる。曇りで星は見えぬがそれもまたいい気がしている。誰もいないホーム。ペタペタと足音を立てて走ったりしてみる。


少し車輪が浸るほどの水を掻き分け、静かなホームにやってくる電車の音。遅れて風もやってくる。私の風呂上がりで濡れた髪を揺らす。


同時に空く電車のドア。無機質に中へもてなすので、私は乗る。いつもみたいに窓際に立って外を眺めるが、人が一人もいないことに段々と寂しさと恐怖を感じその場にしゃがむ。


深夜であるから私はいつの間にかパーカーで温まる自分の体温が心地よくなり寝てしまって、その間に一駅二駅と過ぎていく。誰かが乗って誰かが起きたのか、だとすれば私は気づかれなかったのか、気になるところではある。


黄泉
終点、
現世


あなたはどちらがご希望か。




〈終点〉2023/8.11
No.18

8/10/2023, 5:29:21 PM

人生の終点は死か、否。夢の実現か、否。では、愛する人に出会うことか、否。

 私たち人間の終点は"生まれた意味"を知ることである。

8/10/2023, 5:27:03 PM

ある女性は少しだけ不思議な体験をした。いつもは人がたくさん乗っているはずのバスが、今日に限っては誰も乗っていない。時間を確認するためにスマホの画面を見るが、時間はいつもと同じ。充電がまだ70%なことに驚いたが、その女性は仕事で疲れていたようで、すぐにバスに乗り込んだ。一番後ろの席の窓側に座ると、次第に眠くなってきたようで、顔が徐々に下を向いている。そしてバスの揺れが心地良くなったのか、女性は意識を手放した。

 女性は静かに目を開けた。すると、バスは止まっており、運転席を見ても運転手はいなかった。不思議に思った女性はバスから降り、すっかり暗くなってしまった道をスマホのライトを頼りに歩き出す。しかし、歩いても歩いても目の前には道しか広がっておらず、引き返すことにした。女性は戻ってきて、バス停を見た。聞いたことがない場所だ。女性はスマホで今の位置を調べようとして気付いた。スマホのライトがつけっぱなしなことに。女性が充電を確認すると、残りがわずかだったようで、ため息を吐いた。すると、バスの中から「おーい」「起きてください」と声が聞こえる。運転手が戻ってきたと思った女性はバスに乗り込んだ。すると突然意識を失った。

 気付くと、バスの中だった。バスは止まっていた。辺りを見回すと、運転席に座る運転手と目が合った。
「やっと起きたんですね、もう終点ですよ。バスに乗ってからずっと寝てたから疲れてるんでしょ?帰れる?」
女性は驚いた。なぜなら、さっきまでバスの外を歩いていたのだから。夢でも見たのだろう、と女性はスマホの画面を見る。すると、充電は残り僅かだった。バスを乗る前は70%だったはずだ。

 女性は運転手にタクシーを呼んでもらい、無事家に辿り着いた。あの夢のような、現実のような出来事は何だったのか。タクシーに乗る際に、バス停を確認すると、聞いたことがある場所だった。あれは何だったのか。もしかしたら女性は黄泉に連れて行かれるところだったのかもしれない。

                      『終点』

8/10/2023, 5:22:53 PM

電車にもバスにも終点がある。
私の人生の終点はどこなんだろう。

人生を終えるとき?
自分に満足したとき?

何に向かって走っているんだろう。
私はどこに向かって進んでいるんだろう。

レールのない人生。
もしかしたら無意識の内にレールを轢いているのかもしれない。

どこまで進もうか。
私の終点は私が決められるのだから。

8/10/2023, 5:17:37 PM

生命の終点。
ぶつり。
ぷつり。

できるだけ、頑張ったけど駄目でした。
もう逆らえませんでした。
でも、これで良いんだと思えます。
最後に、この世界に感謝と愛を伝えてから、自分を虚へほおりこみたいと思います。

わたしをわたしたらしめてくれた人、世界、愛、運命、さようなら!
本当に。
本当に。

8/10/2023, 5:16:10 PM

僕は、今日ついに任務を終えます。

これまでたくさんの駅を、休むことなく通過してきました。
それは決して美しいだけでも、快適な訳でもない道でした。
それでも、この任務を責任を持って終えられることが何より誇らしいと。
そう思えるほどに素敵な旅でした。

さあ、最後のアナウンスです。

「───間もなく終点、「 」、「 」です。
折り返しはございませんので、お忘れ物なきようお願い致します。
快適な旅だったでしょうか。素敵な旅だったでしょうか」

僕は、《お客様》をきちんと運びきれたでしょうか。
残念ながらそれを確認する術はありません。
それでも、だからこそ。
もう聞こえないあなたに精一杯のアナウンスを届けるのです。

「どうか降車の際は、笑顔でいられますようお祈り致しております」

景色が白み、そしてゆっくりと閉じていきます。
手にするのは初めて、そして最後に握るブレーキです。
ゆっくり、ゆっくりと。
かくして静かに振動は止まりました。
もう、いつも鳴り響いていた規則的な音はしません。
僕はそれを確認すると、一際大きく息を吸い込みました。



「ご乗車ありがとうございました。終点、「 」、「 」です。お忘れ物はございませんでしょうか ────────」

8/10/2023, 4:54:30 PM

車内の揺れ 極僅かな乗客
窓のあちら 数多の星が散る
月は何を映す 夢見る少女か或いは空腹の兎か

人里を抜け山を越え 走り続ける鉄塊
空を駆けず 海原を駆けず
示された道のみを駆ける
己の人生と同じように

この線路の終点は
まだ遠く 最後は1人
この人生は
終点がまだ見つからない
                 お題【終点】
          タイトル【その道レール上】

8/10/2023, 4:53:12 PM

「もう帰っちゃうの」
彼の柔らかな手が頬を擦る。口を尖らせて駄々をこねる彼の影には、まだ幼げが見える。
「家に来てもいいけど」
ぶっきらぼうに言葉を投げたのはいいものの、心の内は頻りに彼を求めていた。
「でも、それ………」
でも。だって。優柔不断な彼の口癖のレパートリーはいつも変わらない。
二人は未だ、肩を並べてその先の言葉を紡げずにいる。けれども、既にいつもの十字路にさしかかるところである。
「送ってやろうか」
沈黙を破るように、俯いて思考を張り巡らせている彼の頭上から声を掛ける。すぐに返事は返ってこない__今となっては先の軽率な台詞を悔いている己が、気まずそうにただ立っている深夜1時。
「あの、今日はおれの部屋じゃ、ダメかな」
脳天を突き抜けるその一声は、瞬時に自身に理解させるには強すぎた。手を引いて駆け出す彼。
今日こそ大人になれるのだろうか。
彼の黒髪交じりの銀髪がたのしげに揺れているのを、自分はただ後ろから眺め続けていた。

8/10/2023, 4:50:05 PM

地獄の食卓
母の思い
父の思い
消えた気持ちは変わらない
否定
沈黙の痛み
泣きながらの食事
感じたことの無い食感
顔を洗いに行くと目が充血
苦しいからこそ鏡の前で笑った
嫌いだけどいい笑顔
もう終わりは近い
燃え尽きた
愛情
燃えている
感情
消えた
葛藤

家族は風船
のようにいつか割れる
萎みもする
何があっても
それはどの家庭にも訪れる
好きな人もいつかは萎む
もしかしたら心が割れるかもね
母は萎んだ。
父は割れた。
家族の終点は近い
ような気がする
いや
もう
わかってる




#終点

8/10/2023, 4:48:38 PM

#終点

私は、コンプレックスの塊だった。重たいまぶた。小さな目。低い鼻。小さい口に丸い輪郭。顔だけでもまだまだ出てくる。顔も、体型も、性格も何もかもが嫌いだった。ずっと生きる意味を探していた。

限界に達して縄をくくろうとした時、ふと思ってしまった。この顔で棺桶に入るには醜すぎる。と 化粧をするのが惜しくなるくらいに美しくなろう。私は茨姫になるのだ。

そう思えてからは人生がとても楽しかった。ダイエットをして、整形だってした。
埋没、目頭切開、糸リフト、脂肪吸引、目も鼻も口も体も全部納得いくまでお金をかけて、料理も礼儀も一からならって。できることは全てした。 ただ茨姫になるのだけを夢見ていた。








今日すべてのダウンタイムが終わった。

長かった、この日をずっと待っていた。


茨姫の16歳の誕生日。
私は呪いにかかったまま美しい姿で終点を迎えた。

8/10/2023, 4:40:07 PM

あの時
頭の片隅で
鳴り響いたのは


始まりの音

それとも


終わりの音



違う

きっとあれは


未来への警鐘




知らせていたの

こんな風に
また

手放す事を






ねえ

いつか
聞こえるの



幸せの


ファンファーレ





「鐘の音」

8/10/2023, 4:40:04 PM

太陽が沈む瞬間は一日の終わりを連想させる。
必ず訪れる日没は僕の世界を暗闇に包むけれど、
それが終点ではないとみんな知っている。
何故なら、再び太陽が昇ることを知っているから。
どんなに昏くても、それを照らす光が必ず現れることを信じているから。
終点は最終ではない。始点にしよう。

#終点

8/10/2023, 4:26:02 PM

〜終点〜

どれだけの時間が経っただろうか

いくつものトンネルを越え

嵐の日も快晴の日も

来る日も来る日もこの電車は走り続ける

途中の駅から人が乗っては降りていく

どれくらいの人を迎え入れ

どれくらいの人を見送っただろう

一緒に乗り合わせている乗客を眺めていると
隣に座っていた祖母の声がして振り返る

「次の駅で降りるわね」

予想していなかった言葉に戸惑う

「どうして!?そんな…急に…」

取り乱している私を諭すように祖母は言う

「次の駅が私の終点なのよ」

堪えていたものが一気に溢れ出る

「…一緒に降りる…置いていかないで…」

泣きじゃくる私に祖母は困ったように微笑んで

「あなたの終点はまだ先でしょ?
たくさんの風景を見て来なさい」

背中を摩ってくれる祖母の温もりを感じ
また涙が溢れ出た

祖母越しに駅のホームが近づいているのが見えた

残された最後の時間

その姿を焼きつける

涙で滲む目を何度も擦り目一杯の笑顔を向ける

「いろんな風景見て来るね。
またおばあちゃんに教えてあげるから」

まだまだ側にいたい気持ちをよそに
また電車は走り出した

8/10/2023, 4:23:33 PM

駅には終点がある

駅と同じように、色んなことに終わりがある

人生の終わりは「死」だと言う人達がいる

私は、そうは思わない、1度この地球に産まれたら死

んでしまったとしても何処かで覚えてくれる人がいる

ならまだ終点じゃないと思う。

終点は人生の終わりは人に忘れられこの地球にいなか

った事になることだと私は思う。

ー終わりー

「終点」

8/10/2023, 4:21:46 PM

今日はもう明日、昨日は8月10日夜中の12時まで、でもずっと起きているのでまだ今日。
徳博

8/10/2023, 4:08:56 PM

終点

描き終わり
続けない判断

完成と言う途中
一区切り

とりあえずの到達点
繰り返しのさらなる始まり

振り返り整理して調える
そんな風景をただ眺めている

これまでの終点

8/10/2023, 4:05:07 PM

人生における終点…それは「死」だ。生死は表裏一体であり、生きとし生けるものは皆等しく死ぬ。それが早いか遅いかの違いだけだ。
きっと私は、長生き出来ないであろう。生きてもあと20年、といったところだろうか。精神障害者は健常者に比べて短命であると医学的に証明されているし、自分自身精神を擦り減らし身体を酷使し過ぎた自覚もある。それよりもまず、長生きしたいという願望が一切ない。私は人生30年で良い、と思春期から強く思い続けていた。30で終わらせてしまおう、と。
何度も自殺を試みたが全て失敗、未遂に終わってしまった。私の覚悟が足りなかっただけなのかも知れないが、何故かいつも助かってしまう。人間はとても頑丈に出来ており、ちょっとやそっとのことでは死なないのだと再認識させられたし、看護師にも「苦しいだけで何にも変わらないよ」と言われてしまう始末。無意識に(恐らく解離していた)眠剤をODし昏倒、救急で運び込まれたときのことは、一生忘れられない。四肢を拘束されて完全に拘束された上尿管を通され、オムツを履かされた。これが所謂身体拘束と言われるものである。
幸い私の場合身体拘束は1日で済んだが、地獄のような時間であった。何より便意を催しそれを看護師に伝えた際、「オムツの中にしていいよ」と言われ、それしか手段が無く止むを得ず実行した自分自身を物凄く嫌悪した。アラサーと言えども女だ、良い年した大人がオムツの中で排便するなど、受け入れ難い行為であったのだ。オムツをするのは赤ちゃんもしくは老人であり、まだ若い(と思われる)私がする羽目になるとは思っていなかった。この身体拘束が良い意味で戒めになり、私はODや多量飲酒等の自傷行為を控えるようになったのだから、ある意味良い経験になったとは言える…。
だが自傷行為を控えるようになっただけで、飽くまで希死念慮は消えていない。
今でもふとした瞬間、猛烈に死にたくなる時がある。酷い時は、具体的にどう死のうかと自殺企図したりもする。私は双極性障害混合型だ。躁と鬱が混在している状態であり、最も自殺リスクが高いらしい。衝動的に自殺してしまう人が多いのだと、YouTubeか何かで見た。だから、気を付けなければならないと自分でも思っている。親より先に死ぬのは最大の親不孝であるし、自ら死を選ばずとも自然災害等で死ぬかも知れない。無理に死ぬ必要はないのだ、ましてや地獄の苦しみを味わってまで。
30を過ぎて、私は変わった。いや、変わらなければならない。今の私は、自殺未遂等しないであろう。文章を書いたり、占いをしたりと趣味が充実しているからだ。病んではいるが、それなりに上手くやれていると思う。そして何より、こうして私の駄文を読んで下さる方が居るのだと思うと、目頭が熱くなるのだ。いつかは文章を書いて生計を立てたい!と思っている私にとっては、身に余る光栄である。良い意味でも悪い意味でも嘘偽りない自分を、これからもさらけ出していく…。付き合っていただけたら、心より有難いと思う。

8/10/2023, 4:00:48 PM

従姉妹から荷物が送られて来た。
箱の中身は昨年亡くなった根津の伯父の万年筆と、伯父が書きためたノートのコピー、名物のお煎餅、そして一筆箋に認められた従姉妹の手紙だった。

手紙を読んでいると、3歳の息子がお煎餅の箱を持ってきた。私は箱紐を外して、個別包装の袋も開けてあげた。
息子は煎餅には目もくれず、輪っかになった紐で遊びはじめた。
最近この遊びにハマってるみたい。

私は手紙を読み終え、次はノートを読み始めた。書き出しはこうだ。
「人生には青春もなければ老後もない。そんなものは昼寝に見る、徒夢に過ぎぬ。」
うわ、いかにも皮肉屋の伯父さんらしい。ノートは子供の頃の記憶から始まる、いわゆる自分史だった。
伯父とはそんなに親しい訳ではなかったが、初めて知るエピソードはなかなか面白く、刺激的だった。

それにしても青春もなければ老後もないだなんて。
そうかな。そんなことないけどな。
私は子供と生きるようになって、人生は始まりもなければ終わりもない、山手線みたいなものだと思うようになったけどな、伯父さん。
そんな風に思いを馳せていた時、不意に横にいた息子が言った。
「ママ、終点だよ。終点のはままつちょうにとうちゃくしました。おりてくださーい」

伯父が息子の口を借りて返事をしたようで、思わずフフと笑ってしまった。
私は持っていたノートを机の上に置くと
「運転手さん、乗せてくださーい」
そう言って、紐で出来た電車に乗り込むと、始発駅の浜松町から出発した。

8/10/2023, 3:58:50 PM

次の駅だ。今日から高校生生活が始まる。もう中学生の頃のズボラな自分とはもうおさらばだ!“ルール”!課題の期限は守る!授業中は寝ない!忘れ物をしない!あとは、、、遅刻をしない!みんなにとっては当たり前で簡単なことかもしれないけれど、私にとっては難しいことなのだ。
電車の窓を流れる景色を眺めながら、“ルール”を頭の中で何度も何度も唱えて自分の脳みそに言い聞かせる。この“ルール”を破ったら一週間テレビ禁止の刑だ。自分になにかしらの刑罰を与えないと中々ズボラ脱却はできないのではと思い自分の中の一番嫌な罰を考えた。
テレビが一週間見れなくなると結構困る。大好きな俳優が出演している月曜日の連ドラを逃すことになるし、朝七時からの情報番組の占いも見れない、景品が当たるじゃんけんも参加出来なくなる。そんな仕打ちは絶対にごめんだ!至福の時間は絶対に死守する!もう一度自分の心の中でけじめをつける。
どうせ“ルール”を破ったとしても、ズボラだからテレビも見ちゃうんじゃないかって思ってる?そんなことが出来ないように、
「私がこの“ルール”を破ったらテレビの線は一週間抜いていいから」
とパパとママに一週間耳にタコができるくらいに宣言している。
元々私の家にはテレビがなかった。私が中学生になる頃にパパとママに私がおねだりして入学祝いで買ってもらったのだ。うちは新聞をとってるからテレビなんて高級品はいらないのに。なんてママ最後までブツブツ言っていたけど。
私の生活からテレビが消えることなんて考えられないのだ。私は今日から新しい自分に生まれ変わる。ずっと頭の中で“ルール”を唱えてるうちに目を閉じた。









「次は、終点██駅██駅です。お忘れ物のないようにお降り下さい。」
車内アナウンスで目を覚ました。すぐに時間を確認する。腕時計の針は九時を指していた。そして始業式は九時からだ。





私は一週間どう生きていこう。

8/10/2023, 3:54:25 PM

【終点】


「じゃあね、また今度!」

「うん、またね!」

簡単な挨拶をして、友達が電車をおりる。彼女を先頭に、老夫婦や小学生らしきグループ、様々な人達もホームへと足を進めた。さすが都市部と言うべきだろうか。

さっきまで混んでいた電車内が少し空く。周りにおじいさんやおばあさんがいないのを確かめて、空いていた端の席に座った。

帯を崩さないように気をつける。できるだけ後ろにもたれないようにしないと。

下を向くと、白の生地の中で優雅に泳ぐ真っ赤な金魚が見えた。それと、真珠みたいな帯留め。下駄はおばあちゃんから借りた、黒に赤い紐のやつ。



今日はかなり大規模の花火大会があって、電車で一時間半くらいかけて行った。



私の家は開催場所から遠いから、今まで一回も行ったことはなかった。けれど、私ももう高校一年生だ、親に頼み込んで友達と二人だけで行かせてもらった。前からテレビで見て、興味はあったのだ。


ふと、さっき撮ったばかりの写真を見ようと、スマホを取り出してアプリを開いた。友達と撮った自撮り、映えるかき氷、それに大きく咲く花火。


友達に誘われたときの記憶が、写真のようによみがえる。夏休みが始まる前に一緒に行く約束をして、お揃いの浴衣を着て行った花火大会。


「楽しかったけど、疲れたな…」


車窓の外を見ると、ビルとビルの間にある道路で車が走っていた。どこかのオフィスなのだろう、ビルの窓からは綺麗に整頓されたデスクが、歩道橋にはスーツを着て歩いている人が見える。下には居酒屋なんかが立ち並び、少し温かみのある光で客を待っていた。


そんな一瞬の景色が、心から離れなくなった。


すぐに、写真を撮ればよかったと後悔する。とても綺麗な景色だった、胸がキュッとなるくらいには。今撮っておけば、きっと後から同じ気持ちを味わえたのに。

やっぱり疲れてる。いつもならすぐにスマホを向けるのに、そんな考えさえ浮かばなかった。

軽いため息をひとつついて、横の仕切りにもたれる。
どうせ降りるのは終点だ、それまで少し寝てしまおう。


そう思って目を閉じた。






夢に誘われるのは早かった。


_ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _ _


『-ご乗車、ありがとうございました。次は冨永駅、終点です-』


アナウンスの声で目を開ける。周りを見ると、私の他にはもう二、三人ほどしか乗っていなかった。
どうやら、一つ前の駅を出発したところらしい。

目をこすって、スマホの画面を見る。


「あ、やば...」


そこには、お母さんからのLINEが多数入っていた。


『何時くらいに着きそう?』

『おーい、返信ください』

『今どこ?』

『(はてなマークを浮かべるくまのスタンプ)』

『(はてなマークを浮かべるくまのスタンプ)』

『(はてなマークを浮かべるくまのスタンプ)』

『いつまで経っても車出せないよ〜!』

『(怒ってるくまのスタンプ)』

『(怒ってるくまのスタンプ)』

『(怒ってるくまのスタンプ)』

『(怒ってるくまのスタンプ)』


これは、やばい。
多分、いや絶対、十中八九怒ってる。

急いで返信を打つ。

『ごめん、寝てた。今1個前の駅でたとこ』

飛行機を押した瞬間に、既読がついた。

『そんなことだろうと思った。着くの遅くなるから、待っといて』

すぐにおっけーのスタンプと、土下座してるスタンプを送る。既読だけついて、そこから連絡は途絶えた。



とりあえず、せめてもの誠意で、早く駅の外に出ておこう。


そう思い、立ち上がって出口の前まで移動する。
帯も髪型も、そんなに崩れていなかった。とりあえず胸を撫で下ろす。これで帯まで崩れてたら、めちゃくちゃ怒られていただろう。


外は暗闇でほとんど何も見えない。山が近くなってきて、電灯くらいしか明かりとよべるものはなかった。


スマホのホーム画面を見る。お母さんからLINEがあればすぐに対処できるように。

そういえば、今どこら辺なんだろう。逐一報告とかした方がいいかも。

そう思い、車窓からの景色を見ようとした。


「わっ...」


街中の光が、目に映った。
山に近づいているから、標高が少し高くて、さっきまでいた都市部が丸々見えた。淡く、くっきりした輪郭の光。地球は丸いのだと、実感してしまうほどだった。


ほとんど無意識で、シャッター音を鳴らしていた。
手元のそれには、さっき見た景色が閉じ込められる。


また、胸がキュッとなった。これは所謂、エモというやつだろうか。それか、ノスタルジー?

言葉を探してみたけれど、結局ぴったりくるものは見つからなかった。ただ、この感情が大切だった。


『-ご乗車、ありがとうございました。まもなく冨永駅、冨永駅です-』


アナウンスの声があって数秒で、ドアは開いた。








私はほとんど駆け足で、駅の外へと向かっていった。

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