従姉妹から荷物が送られて来た。
箱の中身は昨年亡くなった根津の伯父の万年筆と、伯父が書きためたノートのコピー、名物のお煎餅、そして一筆箋に認められた従姉妹の手紙だった。
手紙を読んでいると、3歳の息子がお煎餅の箱を持ってきた。私は箱紐を外して、個別包装の袋も開けてあげた。
息子は煎餅には目もくれず、輪っかになった紐で遊びはじめた。
最近この遊びにハマってるみたい。
私は手紙を読み終え、次はノートを読み始めた。書き出しはこうだ。
「人生には青春もなければ老後もない。そんなものは昼寝に見る、徒夢に過ぎぬ。」
うわ、いかにも皮肉屋の伯父さんらしい。ノートは子供の頃の記憶から始まる、いわゆる自分史だった。
伯父とはそんなに親しい訳ではなかったが、初めて知るエピソードはなかなか面白く、刺激的だった。
それにしても青春もなければ老後もないだなんて。
そうかな。そんなことないけどな。
私は子供と生きるようになって、人生は始まりもなければ終わりもない、山手線みたいなものだと思うようになったけどな、伯父さん。
そんな風に思いを馳せていた時、不意に横にいた息子が言った。
「ママ、終点だよ。終点のはままつちょうにとうちゃくしました。おりてくださーい」
伯父が息子の口を借りて返事をしたようで、思わずフフと笑ってしまった。
私は持っていたノートを机の上に置くと
「運転手さん、乗せてくださーい」
そう言って、紐で出来た電車に乗り込むと、始発駅の浜松町から出発した。
8/10/2023, 4:00:48 PM