僕は、今日ついに任務を終えます。
これまでたくさんの駅を、休むことなく通過してきました。
それは決して美しいだけでも、快適な訳でもない道でした。
それでも、この任務を責任を持って終えられることが何より誇らしいと。
そう思えるほどに素敵な旅でした。
さあ、最後のアナウンスです。
「───間もなく終点、「 」、「 」です。
折り返しはございませんので、お忘れ物なきようお願い致します。
快適な旅だったでしょうか。素敵な旅だったでしょうか」
僕は、《お客様》をきちんと運びきれたでしょうか。
残念ながらそれを確認する術はありません。
それでも、だからこそ。
もう聞こえないあなたに精一杯のアナウンスを届けるのです。
「どうか降車の際は、笑顔でいられますようお祈り致しております」
景色が白み、そしてゆっくりと閉じていきます。
手にするのは初めて、そして最後に握るブレーキです。
ゆっくり、ゆっくりと。
かくして静かに振動は止まりました。
もう、いつも鳴り響いていた規則的な音はしません。
僕はそれを確認すると、一際大きく息を吸い込みました。
「ご乗車ありがとうございました。終点、「 」、「 」です。お忘れ物はございませんでしょうか ────────」
8/10/2023, 5:16:10 PM