小鳥貴族

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 ある女性は少しだけ不思議な体験をした。いつもは人がたくさん乗っているはずのバスが、今日に限っては誰も乗っていない。時間を確認するためにスマホの画面を見るが、時間はいつもと同じ。充電がまだ70%なことに驚いたが、その女性は仕事で疲れていたようで、すぐにバスに乗り込んだ。一番後ろの席の窓側に座ると、次第に眠くなってきたようで、顔が徐々に下を向いている。そしてバスの揺れが心地良くなったのか、女性は意識を手放した。

 女性は静かに目を開けた。すると、バスは止まっており、運転席を見ても運転手はいなかった。不思議に思った女性はバスから降り、すっかり暗くなってしまった道をスマホのライトを頼りに歩き出す。しかし、歩いても歩いても目の前には道しか広がっておらず、引き返すことにした。女性は戻ってきて、バス停を見た。聞いたことがない場所だ。女性はスマホで今の位置を調べようとして気付いた。スマホのライトがつけっぱなしなことに。女性が充電を確認すると、残りがわずかだったようで、ため息を吐いた。すると、バスの中から「おーい」「起きてください」と声が聞こえる。運転手が戻ってきたと思った女性はバスに乗り込んだ。すると突然意識を失った。

 気付くと、バスの中だった。バスは止まっていた。辺りを見回すと、運転席に座る運転手と目が合った。
「やっと起きたんですね、もう終点ですよ。バスに乗ってからずっと寝てたから疲れてるんでしょ?帰れる?」
女性は驚いた。なぜなら、さっきまでバスの外を歩いていたのだから。夢でも見たのだろう、と女性はスマホの画面を見る。すると、充電は残り僅かだった。バスを乗る前は70%だったはずだ。

 女性は運転手にタクシーを呼んでもらい、無事家に辿り着いた。あの夢のような、現実のような出来事は何だったのか。タクシーに乗る際に、バス停を確認すると、聞いたことがある場所だった。あれは何だったのか。もしかしたら女性は黄泉に連れて行かれるところだったのかもしれない。

                      『終点』

8/10/2023, 5:27:03 PM