『秋恋』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「留学するの」
いつものように訪れた彼に、彼女はスケッチブックから目を離す事なく淡々と告げる。
「ふうん。いつから?」
「来年の春から一年間」
「そう」
適当な相づちを打ちながら、彼は描き終わったばかりのスケッチブックを一枚一枚めくっていく。
一つとして同じもののない夕日をめくり、一枚だけ異なる陽の絵に目を留めた。
「朝日?」
白黒の世界に広がる、柔らかな朝の日差し。目覚め始めた街の光景。
目を細めて見入る彼に気恥ずかしさを覚え。彼女は彼の手の中のスケッチブックに手を伸ばす。
「返してよ」
「いいじゃん。一年も会えなくなるんだし、俺にちょうだい?」
「やだ」
欲しいと強請られ、さらに恥ずかしくなる。無理矢理取ろうとするその手は、しかし彼との身長差もあり届く事はなく。背伸びをしたり、飛び跳ねたりと必死になる彼女に小さく笑い、また一枚ページをめくった。
夕日。様々な場所で描かれた、白黒の太陽。
それでも見入れば色鮮やかな光景が、ともすれば音が聞こえてくるようで。恐れにも似た感情に彼は微かに息を吐いた。
また一枚、ページをめくる。
だがそこに描かれたものを見て、彼から笑みが消え動きが止まった。
「なに、これ」
「え?…っ、それ、は」
呟く声にスケッチブックを見て、彼女の表情が変わる。
止まる彼の手から無理矢理スケッチブックを取り上げ胸に抱きながら、気まずげに俯いた。
「人物画、苦手だって言ってなかった?」
「これ、は。違うの。悪いと、思ってたし。謝ったから」
欠けた月の照らす夜道。鳥籠を抱いて歩く一人の人物。
今まで彼女が描いてきたものとは、少なくとも彼が見てきたものとは全く違う絵。
彼は以前彼女が言った人物画を描かない理由の嘘に、静かな怒りを覚え。
彼女はその絵が許可を取ったものではない事に対して、言い訳を繰り返す。
微妙にすれ違う言葉に、お互い気づく事はない。
「ねぇ。俺の事も描いてよ」
不意に彼が彼女の腕を掴み、視線を合わせて囁いた。
彼の手の熱にぎくり、と固まり。逃れようと視線が彷徨う。
「春までの半年間。俺の事を描いて」
重ねて願う言葉に、スケッチブックを抱く腕に力が籠もる。
頷く事は出来なかった。春が来るまでの半年間、肯定する事で訪れる彼との時間が怖かった。
しかし否定する事も出来ず、唇を噛みしめて黙り込む彼女に、彼は静かに描いて、と繰り返す。
「俺に嘘ついて、置いていくんだから、これくらいいいだろ?」
「それは。そう、だけど」
「じゃあ、描いて。いい加減にちゃんと俺を見てよ」
戸惑いに彷徨い続ける視線を、掴んだ腕を引かれて合わせられる。
間近で見る彼に顔が赤くなりながら、久しぶりに顔を見たと、どこか冷静な部分で思う。
最後にちゃんと見たのは、姉が彼以外の人と付き合う前だったか。もしかしたら高校生だった時かもしれない。
「ちょっと、近いって」
「駄目。一度も俺の事見なかったんだから、逃げないで。自分の気持ちに区切りをつけるためだけの最低な告白した事、まだ許してないからね」
真っ直ぐな彼の視線と言葉に、体が強張る。
自覚はない。いつだって彼を目で追っていたはずだ。ただ確かに独りよがりな告白をしたのは事実で、意味が分からず混乱する。
それを見て、彼は小さく息を吐いたようだった。
「あの時、断られる事を期待した告白をされて、俺がどんな気持ちだったか分かる?」
「あ、ぅ」
「ずっと側にいても、見てもらえないし。挙げ句の果てに嘘をつかれて、知らないやつの絵を見てる、今の俺がどんなに惨めなのか気にもしないよね」
首を振る。違うのだと、いつでも気になるのだと声にならないながらも否定をする。
何か言わなければと思いながら、何を言えば分からずに、意味の伴わない呻きが漏れ。
結局は謝る言葉しか出てはこなかった。
「ごめん、なさい」
俯きそうになる顔を、視線を逸らす事を、けれども許してはもらえずに。
涙の膜の向こうで滲む彼を、彼女は必死で見つめ返していた。
「なら、春までの半年。俺にその時間をちょうだい。あんなすぐに沈んでいくだけの夕日じゃなくて、俺や俺と一緒に見た景色だけを描いていて」
「え、と。それっ、て」
「それで春が来たら、もう一度俺に告白してよ。半年間、一緒にいた俺に気持ちを聞かせて」
言葉の意味を理解して、先ほど以上に顔が赤くなる。
何も言えない彼女にいいね、と答えを促して。小さく頷く彼女に、彼もまた満足げに頷いて笑った。
「今度の休み、出かけようよ。紅葉の綺麗な所があるんだ」
「それって。一緒、に?」
「当たり前だろ。今更何言ってんの」
彼女の小さな呟きは、呆れた彼の言葉にかき消される。
逃げられないこれからの半年間を思って、暴れ出しそうな心臓をスケッチブック越しに押さえつけた。
20240922 『秋恋』
「秋恋」
あつい。おなかすいた。ふらふらする。
おかあさん、みんな、どこ?
そんな時に出会ったのが、あのお姉さんでした。
とっても綺麗なお姉さんでした。
お姉さんを前に私はどうしたらいいか分からなかったので、とりあえず様子を見ることにしました。お姉さんは私をしばらくじっと見つめた後、どこかへ行ってしまいました。
ああ、どうしよう。
もしかしたら助けてもらえたかもしれないのに。
素敵なお姉さんはどこかに行ってしまった。
食べ物も寝る場所もない。
せめて水があれば……あれを飲もうかしら。
泥々だけれど、何も飲まないよりは───。
あれ、さっきのお姉さん。どうしたのかしら。
何かいい匂いのするものを持って私の方に歩いてくる。
これをあげるから食べて、と私にそれをくれた。
私はあまりにもお腹が空いていたから貰ったものを食べた。
その間にお姉さんはいなくなってしまった。
お姉さん、どこ?ひとりぼっちは怖いの。
貰ったものの香りを追っているうちに、私はつい気を抜いてしまった。
私よりもずっとずっと大きな生き物が近づいてくる。
怖くて怖くて、急いで逃げた。
けれどあっという間に追いつかれて、ついに捕まってしまった。
そのき生き物の住処に連れて行かれる。
食べられちゃう!誰か助けて!
たすけて。
+.:゚☆゚:.+.:゚☆゚:.+.:゚☆゚:.+ +.:゚☆゚:.+.:゚☆゚:.+.:゚☆゚:.+
はぁ、よかった。まさかアキがちっちゃな子猫にご飯をあげるなんて。
前から時々あの子を見かけて心配だったけれど、アキのおかげでついに保護できた。
「秋、ありがとうね。」「にゃー」
さっきまで怖がっていたのに、ミルクを飲んだらすぐに寝ちゃった。ほんの少し前まで野生だったとは思えないね、この子猫ちゃん。意外と大胆な子なのかも。
「そうねー、秋。この子の名前、どうしようかな?」「にゃー」
アキに聞いても分かんないかー。
んー、私はあの子猫ちゃんの真っ白な体と青い目に片想いしていたから、「恋」ちゃん、なんてどうかなー?
アキも秋に出会ったから名前も「秋」だから。
……安直過ぎかな?
あ、名前の読み方「こい」か「れん」どっちにしよう?
「アキ」にあわせて訓読みで「コイ」にしようかな?
とにかく、これからよろしくね、恋ちゃん!「ぷみぃ……」
ぼくはね やきいもを食べてるきみがだいすきなんだ
アツアツのやきいもをはんぶんこして ふーふーして
やきいもの甘い湯気をかき分けながら おいしそうにかぶり付くきみの幸せそうな顔をみるのが大好きなんだ
そしてきみは プッと放屁する そしてぼくの方をみて
ニヤッとする ぼくはそんなきみを見てると 可愛くて仕方がなくなっちゃうんだ
そのうち おなかいっぱいになったきみは やきいものようにごろごろと 床にころがって眠ってしまう
猫のように 無防備にまあるいお腹をだして
ぼくは この上ないしあわせを感じる
ねぇきみ きみは何もしてくれなくても やきいもを食べてるだけで ぼくに こんなに幸せをくれるんだよ
秋になったらあの人が恋しくなる。
秋はあの人の誕生日がある。
ケーキを買って祝ってあげよう。
1人には大きいダイニングであの人の誕生日を祝ってケーキを食べる。
1人には大きいケーキだ。
─あぁ、なんでだろう。
もう何年も経ったのに。
忘れたいのに忘れられない。
私は今年も、来年もケーキを食べる。
1人暮らしには大きい部屋にある、仏壇の前で…
#4 秋恋
辛い
嫌な事や苦しいこと、悲しい事しかない
〇にたいと…何度思ったか
でも…もやもやする
心のどこかで…
〇にたくないと…思ってる気がする
友達や家族…大事な人とまだ話したい
そう思っちゃう…
もう、自分の心が…気持ちが…わからない…
匿名М
秋の恋は長続きする。
と言った人は長続きしたんだろうか。
俺の恋を大事にしたい。
そう、大事に。
二人の高校生の男女が、互いに好きを言えずにどんちゃん騒ぎするアニメ、漫画、ドラマ、小説。
そういう、3次元のような"どんちゃん騒ぎ"を、一度でいいから、俺の恋した人としてみたい。
いや、まずあっちが好きかどうか分かんないけど。
もし、世界が二人だけで回っていたら、なんでもできるのに。
#2024.9.22.「秋恋」「大事にしたい」
少し寒くなった頃、秋(あき)は休日に好きな作家さんの新作を買いに来ていた。
(よかったー...買えた)
そのまま他の作家さんの本を見て歩いていると、ガラス越しに拓也(たくや)の歩く姿を見つけた。
(あ、拓也...)
じっと見ていると、彼と目があった。手を上げる彼に軽く手を振り返す。
拓也は駆け足で本屋へと向かって来た。
「やほ、秋」
「偶然だね」
「なんか買ったの?」
「新作だよ」
へー、とあまりピンと来ていないような顔をする。
「...俺もなんか読もうかな」
「それなら、これとかいいんじゃない?」
「お、それ面白そう」
拓也は秋に薦められた本を手に取る。
「今度読んだら感想言っていい?」
「うん。あ、でも私も読みたいから読んでからでもいいかな...?」
「全然待つ」
「良かった」
秋は拓也と会話しながら、この間の葉瀬(ようせ)との会話を思い出す。
『秋にその気が無いなら、ベタベタしてもいいよね』
(............)
秋は葉瀬の言葉を思い出して、拓也の裾を摘まんだ。
「秋?」
「......これから何か予定ある?無かったら一緒にカフェとか行かない?」
拓也は目を見開いてキラキラさせる。
「え、うん。行く」
「...じゃあ先に本買ってきていいかな?」
「俺も行く」
秋は拓也がよい返事をしてくれたことに嬉しくなって、少しだけ安心した。
お題 「秋恋」
出演 秋 拓也 葉瀬
#秋恋
秋の恋は長続きするらしい。
ならずっと秋でいい。
秋恋
少しずつ気温も下がってきて
秋の訪れを感じるようになってきた。
今年も満開に咲き誇るイチョウをみに、
昭和記念公園へ行きたい。
彼が告白をしてくれた思い出の公園だから
毎年この場所には訪れている。
秋は恋を感じる季節だ。
「ボス、最近葉っぱも散り始めて、寒くなってきましたね。だから、くっついてもいいですか?」
「おう、構わないぞ。俺もお前さんとくっつきたい」
「ボスもそう思っていたんですね。嬉しいです」
〜秋恋〜
中秋の名月を君と見た
お散歩の途中に発見して
たくさん眺めた
私には希望に感じられたな
本当はあの時すっごい感動した
どん底に落ち光さえ見たくなかった私に
希望を見せてくれた
秋だけで終わらせたくない
冬も春もまた何度でも
あなたと月を見て感動したい
あなたと光に導かれ歩いていきたい
秋という季節に、こんなにも恋焦がれてしまう日が
来るなんて想像した日があっただろうか。
紅葉が落ちて、枯葉が空をきる。
この木々の紅が無に戻る頃、
貴方は此処から旅立つのでしょう
だから、この思いまでも飲み込んでしまえと
私は秋に恋をする
2024/09/22
秋恋
「今日からハロウィンに変更よ、よろしくね」
同僚からドサッと渡されたのは、黄色とオレンジのディスプレイの山。
作業しながら自分の半袖が目に入る。
去年も、こんな季節から秋の準備をしていた。
彼の真っ黒に焼けた腕と日焼けしてない白い肩に笑っていた私は、まだ、彼を好きになるなんて思ってなかった。
残暑から秋に移り変わっていく短い間、私は彼に恋をして、秋から冬に変わる頃、失恋した。
だから、彼を思うと、彼との恋を振り返ると、黄色とオレンジが心に浮かぶ。
必死に言葉を紡ぐ彼の赤い顔を見つめていた、虫の音色が耳に蘇る。
秋の恋が、いまも私を染めていく。
#秋恋
僕は、秋空を見たいなぁって思う
それほど、秋が恋しい
秋恋
ぽっ
ぽっ
ぽっ
頬を染めて、赤
恋焦がれて、赤
紅葉が落ちて、赤
夕暮れ、赤
※長いのでのんびりお読みください。
秋恋
──赤と橙と黄が降り頻る中、あなたから目が離せなかった。
秋が似合うやつだと思う。
それはふわふわとした焦茶の髪や温かさを感じさせる橙の瞳という容姿だけではなく、内面も。
正直なところ、秋という季節は好きではない。残暑が続いたと思ったら急に朝の風が冷たくなったり、気温が下がったと思ったら翌日には真夏日になったりする。体が弱い母は、夏の疲れと落ち着かない気候で床に伏せがちになって、幼い頃は寂しさを感じてひとりで泣いた。
あいにく色鮮やかな紅葉を愛でるほどの感性を持っているわけでも無く、風魔法を使ってもなお掃除に苦心する使用人にこっそり菓子を分けてやることはあれど世間の言う紅葉狩りをしたことは無い。この季節に特別美しいという夕日は自分の部屋から見ることはできないし、そもそも強すぎる光は苦手だ。丁寧に整えられた庭園に庭師が認めた以外の虫が生息しているはずも無く、夜は母にその日あったことを話してからすぐ寝てしまう。だから、生まれてこの方虫の声とやらを聞いたことが無い。
そんな、無いことばかりの秋に、ようやく恋と名づけることができた感情を抱く相手と一緒にいる。
「もうすっかり秋だなあ」
ベンチに幾らか散らばっている落ち葉を一枚だけ拾い上げながら話しかけられる。不意を突かれて、返事が遅れた。
「……確かに、急に涼しくなったな」
そう返して、もう少し気の利いた返事ができないものかと俯く。紅葉が綺麗だとか一緒に出かけられて良かったとか、幾らでも返答の仕方は思いつくのに、いざ口を開くと無愛想な言葉ばかりだ。せっかく友人たちが二人で買い物にでも行ってこいと送り出してくれたというのに。
「こういう葉っぱとかどんぐりとか見ると懐かしくなんだよな」
腰掛けたまま近くの枝に手を伸ばして言う。そのまま枝をこちら側へ引っ張り始めた。鮮やかに色づいた葉が、振動でふらふら揺れる。
「国立公園の植物を故意に破損するのは犯罪だぞ」
「だいじょぶ、加減してるから」
確かに本来の力からすればずいぶん優しい触れ方だろうが。変なところで雑なやつだから、うっかり折ってしまいそうだ。魔法で直すこともできない人間が下手に植物に触るなと言うのに、こいつは。
「……懐かしい、とはなんだ。何か思い出でもあるのか」
密かに見張っておくことを決意して、気を逸らそうと話題を振る。
「え、ちっさい頃に画用紙に貼ったり穴あけたりして遊ぶだろ」
言葉の意味がわからずに眉を顰める。葉を、画用紙に貼る。何の意味があって。
「やったことねえの?」
「……無い」
小さい頃は、母と同じで体が強くなかった。気温の変化が激しいこの季節は特に体調を崩しやすく、部屋の中で読書をするか、ぼうっと窓の外を眺めるばかり。それが当然だったし、姉や使用人たちが構ってくれたから寂しさを感じたことはない。だが、こいつと思い出を共有できないのは、どこか。
秋は物寂しい季節だと、母の部屋にある小説で読んだ。きっと、柄にもなく精神が季節に左右されているのだ。
「幼少期にあまり外出した経験が無い」
「やっぱ、貴族って大変だな」
「ああ、そうかもしれない」
「……ふうん」
それきり会話が途切れる。紅葉のついた枝はまだ掴まれたままで、いい加減にしろと手をはたくと少し口を尖らせた。折れてしまわなくとも木にダメージを与えたらどうする気だ、私たちの友人が植物魔法の使い手であることを忘れたか。
広い校内にいくつもある階段の踊り場に飾られている萎れた花を見て、友人が表情を失くしていたのを思い出す。何日も水が替えられていないと言って魔法植物学の教師のところに乗り込み、熱心に語っていたことも。先ほどまでの状況を見たら、こいつは蔓で締め上げられるのではないだろうか。
「あと、秋の空は高いって言うよな」
そうやって過去に思考を飛ばしていると、拗ねた表情をしていたはずの相手が空を見上げて呟く。笑ったり怒ったり拗ねたり、忙しいやつだ。
「そうなのか」
「そ。なんだっけ……実際に雲が高い所に出るとかなんとか。それで空も高く見えるんだと」
「成程。つまりは気のせいだな」
情緒ねえなあ、と笑みを含んだ声で言われてむっとする。うるさい、お前も枝を引っ張っていたくせに。けらけら笑いながら立ち上がって、情緒がない男がもう一度空を見上げた。
「お前の眼も空色なのに」
「は」
なんの意図も潜んでいない、純粋に感想を言っただけのような言葉。思わず声の主の方を見て──その姿に目を瞬かせる。
「何をしている」
「んー?」
しゃがみ込んで落ち葉の中に手を突っ込んだままこちらを振り向いた顔には、得意げな笑みが浮かんでいた。
「秋の遊び、したことねえんだろ? じゃあ今日しようぜ」
「何を」
「だから、葉っぱ貼ったりどんぐり集めたり。寮に持って帰ればあいつらもやるだろうし」
あいつら、と言われて友人たちを思い浮かべた。忙しい幼少期を過ごした彼らは、秋を楽しんだ経験があるだろうか。
「どうやって遊ぶんだ」
「今言っただろ、画用紙とか木の板とかにいろいろ貼ったり、あとはどんぐりと松ぼっくりつなげてネックレスにしたり。妹たちに作ってやると喜ぶんだよ」
「楽しいのか、それは」
こいつの面倒見の良さは弟妹がいることに由来するのか、とぼんやりと思う。幼子のくだらない遊びと言ってしまえばそうなのかもしれないが、きっと心の底から楽しんできょうだいの世話をしていたんだろう。
「楽しいかそうじゃないかなんて、やってみなけりゃわかんないだろ。ほら、どんぐりそこに落ちてる」
「拾えと」
「集めるとこからが秋の遊びだっつの」
「わかった」
落ち葉が敷き詰められた地面に手をつけて、どんぐりや松ぼっくりを探す。む、葉が多すぎてなかなか見つからない。お前の手の中にある大量のそれはどうやって見つけたんだ、魔法でも使ったのか。
「あ、そこ松ぼっくり」
「ん」
指された辺りをがさがさとかき分けると、かさの開いた松ぼっくりが出てきた。ついでに、隣にはいくつかのどんぐりも落ちている。
「な、宝さがしみたいで楽しいだろ」
自分の手に置いたそれをじっと見つめていると、子供のような笑顔で笑いかけられる。
「……つまらなくはない」
「なんだそれ」
素直に楽しいというのも癪で、つっけんどんな返事になった。それでも笑い飛ばしてくれるのだから、こいつの度量の広さには敵わない。
「これは洗った方が良いのか」
「あー、まあ気になるなら魔法で洗うか? 虫とかついてるかもだし」
「虫」
「あれ、嫌いだっけか」
嫌いというか、そもそもあまり見たことが無い。どこかについていないかと松ぼっくりをひっくり返すと、図鑑で見たことのある蟻とやらが姿を現した。
「蟻がいた」
「なんで嬉しそうなんだよ」
「初めて本物を見た」
「マジか」
嬉しさはともかく寮に虫を持ち込むのもよくないだろう、と地面の近くで軽く手を振る。初対面の蟻はあっというまに落ち葉のすき間に潜り込んで姿を消した。
「落ち葉は、どんなものを集めればいいんだ」
「お前が好きだと思った奴でいんじゃね? 弟たちはおっきいやつ集めてた」
「破れていてもいいのか」
「多少貼りにくいかもしんないけど、まあ気に入ったの集めろよ」
そう言って手際よく葉を拾っていく。それを真似て目に留まった落ち葉をつまんで、ハンカチに包む。五、六枚集まったところで布地に目を落として、自分の分かりやすさに思わず手を止めた。
「……」
見事に橙色ばかりだ。誤魔化すために他の色を拾おうかと視線をさまよわせて、いっそ開き直ってやろうと七枚目だろう鮮やかな橙に手を落とす。
「集まったか?」
「ああ、まだ少ないが」
ハンカチを広げると目を丸くしてこちらを見てくる。なんだ、その顔は。
「オレンジばっかだな。他の色は?」
「お前が集めているから問題ない」
自分よりいくぶんか大きい手のひらには、色も大きさもバランスよく葉が集まっていた。慣れているのがよくわかる。
「確かにそうだけど。お前、そんなオレンジ好きだっけ?」
「いや、……」
口ごもって、先ほど言われたことを思い返す。少しくらい、意趣返しをしても許されるだろう。あの恥ずかしさを味わえばいい。
「……お前の、瞳の色だ」
「え? あ、そう、だな……?」
きょとんとした顔を見て、多少溜飲が下がる。やけに幼い表情だ。
「もう集めないのか」
「いや、まだ足りない、と思うけど」
「なら手を動かせ。言い出したのはそちらだろう」
「あ、うん」
落ち葉集めを再開すると、ふいに強めの風が吹いて、ざあっと木々が揺れる。手の中の葉が飛ばされそうになって咄嗟に体で庇った。それでも守り切れなかった一枚が、風に乗って手を飛び出してしまう。予測できない動きをする葉になす術もなく、捕まえようとしたをすり抜けて空へ飛んで行った。
思わず葉を目で追いながら見上げた青空に、橙が映える。
「っ……」
ああ、まったく恋とは厄介だ。知識として持っている以上に感情が揺さぶられる。
これは自分とこいつの瞳の色だ、なんてよくわからない考えが頭を支配して。空色と橙色、その二色のコントラストが、やけに美しく見えた。
──秋を好きと言えるかは、まだ分からないけれど。お前と過ごすのならば、この季節も悪くは無いかもしれない。
2024/9/29 #6
今年の夏は、
夏祭りに行った。
友達と旅行に行った。
流星群を見た。
海の風を浴びた。
花火をした。
もう十分楽しんだ。
今年の秋は何をしよう。
食欲の秋だからいっぱい食べようか。
芋、栗、カボチャ、どれも魅力的。
スポーツの秋だからなにかしようか。
散歩するだけで楽しいからいいかな。
読書の秋だから本を読もうか。
読んでいない本がまだ眠ってる。
そろそろ残暑も落ち着くかな。
あぁ、秋が待ち遠しい。
秋が恋しい。
#秋恋
秋恋
秋が恋しいなんて、今年の夏がなければ思わなかったかもしれない。雨上がりの寒くなった温度に心地よさを感じる。この秋がなくなりませんように。
痩せこけた男が公園のベンチに座っている。美しい紅葉に似合わないその男は、そうっと遠くを眺めて黄昏ていた。
ああ、
秋が来ると思い出す。あの美しい人との思い出を。
そうしてなんだか死にたくなってくる。
いや、死にたいわけではない。ただ逃げたいだけだ。あの人に告白したあの日から、一緒にデートをした公園から、大きいパフェを2人で分けて食べたあのカフェから。それに、あの人が亡くなった日の紅葉から。あの赤色がどうしても、どうしても忘れられんのだ。
「それは本当に紅葉の色なのかしら?」
気がつくと男の傍には、隣につばの長い帽子を被った、赤いワンピースの女が立っていた。
男は突然話しかけてきた女に驚きながらも反論する。
「いいや、いいやそうに決まってる。逆に紅葉じゃなかったら何だって言うんだい。」
女は呆れたように口を開いた。
「血よ。あなたが刺した女のね。」
男はその言葉に心底不思議そうに首を傾げた。
「いやいや、俺があの人を刺すわけがない。だって心の底から、愛していたんだから。」
女はその言葉を聴きながら、男の隣に座った。そうして男の首筋をなぞりながら一言呟いた。
「愛しているからって刺しちゃいけない訳じゃないでしょう。」
でも、俺はやっていない。俺にはその記憶が無い。
そう言おうとして、男は声が出ないことに気がついた。女はその後も声を出すのを辞めない。
「だって、そうでしょう。あたしがその記憶だもの。あたしが出てくるのはいつだって秋。ああ、紅葉。紅葉があたしとあなたを繋ぐ鎖であり、何にも変えられない思い出よ。ね、あたしの顔をご覧なさい。」
女がそう言ってつばの長い帽子を取る。
そこには、ああそこには、
男の愛した人が、血塗れで立っていた。
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「ねえ、」
『小説同好会』と記された部屋で、二人の人間が向かい合って座っている。
片方の男はスマートフォンを弄りながら、
もう片方の女は作文用紙で顔を仰ぎながら。
女は先程の声掛けに反応しない男に溜息を付きながら言った。
「やっぱりあんたの小説って後味悪くない?」
男は女の方に視線を向けて言った。
「ハピエン地雷だから。」
「秋恋」
秋は実りの秋、収穫の秋だと思うのに、恋という字がつくと急に哀愁を帯びる。
さようならの雰囲気が漂うと思うのは、私だけだろうか。