『神様だけが知っている』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
きみを見つけたとき、きみがわたしのちいさな命を縁取ってくれるんだろうとあのとき思った、いま思えばきっとわたしのあいしたものは間違いだらけで、でも間違いだらけの世界でいちばんにきみと壊れていられたから、いまでも分かちあったものはぴかぴかかがやいている
ー 神様だけが知っている ー
僕の目の前には 女がいる。
彼氏持ちの 女。
でも 世間はきっと この状況を浮気とは思わない。
なぜなら 僕らは女同士だから。
彼女の綺麗な手 艶やかな髪 甘い香水の匂い 誕生日も 幼稚園時代も 笑う時に出来るえくぼも どんな人が好きか どんな人が嫌いか どんな食べ物が好きか 照れる時に髪を耳にかける癖も 実は恋愛映画よりもアクション映画の方が好きなことも。
全て知っているのに。
彼女の隣は僕ではなく 他の男で。
ただの性別で 生まれた時の2択を間違えただけで 彼女の隣に立つことは きっと 永遠にありえない。
でも それでも僕はいいと思う。
彼女は僕のこの淡い恋心を知らない。
きっと。
ずっと知らない。
これからも これまでも。
知られたら 彼女の隣には居られなくなるから。
恋人にはなれないから。
せめて 友人として
親友としては隣にいたい。
居させて欲しい。
その権限を 軽々しく ただの感情ひとつで手放すほど 僕はバカじゃないから。
だから この恋心は
僕と。
「神様だけが知っている」
私の嘘
あなたの本音
違う選択肢だった未来
私はいつも旅行に行くと、
その土地の神社にまず行き、
「ご縁があってこの土地にお邪魔しています。
ありがとうございます。
最終日まで、宜しくお願い致します」
と必ずご挨拶をする。
お陰様で、毎回トラブルも一切無く、
その土地土地で、素晴らしい思い出が出来ている。
私の、旅の素晴らしさは
毎回、その土地の神様だけが先に知っているような。
神様に感謝、感謝。
#神様だけが知っている -11-
バベル
答えることのできない言葉
何者でもあって何者でもない矛盾
呼ばれることのない名前
始まりと終わりの循環の始点
禁じられたわけ
崩壊を眺める視点
永遠に
※神様だけが知っている
#神様だけが知っている
自分が何をしたいのかよくわからない。
何においても好きなのか嫌いなのかわからない。
好きな食べ物も、嫌いな食べ物も、好きな教科も、嫌いな教科も、好きな音楽も、嫌いな音楽も、好きな芸能人も、嫌いな芸能人も……とにかく何一つわからない。
友達から、親から、学校から、社会から、好きなのか嫌いなのかわからない存在から、好きなのか嫌いなのかわからないものを与えられて、来る日も来る日もただそれを消費している。毎日がルーティンワークで、人とのコミュニケーションすらもルーティンワークで、周りが違う事を話しているだけで自分はほぼ同じことしか言っていない。ただ相槌を打つだけ。意見なんて何もないから、赤べこのように首を縦に振り続けるイエスマンでしかない。
いつからこんな人間になったのだろう。心当たりはぼんやりとあるようでなんとなくモヤモヤするのに、どんなに記憶を辿ってもはっきりとした形は見えてこない。7歳以降の記憶はかなり鮮明に覚えているつもりなのに。自分のポンコツな脳みそが原因となった出来事だけ覚えていないのか、それともこれまでの人生全てだということなのか。
いつからか続く寝起きのままのような頭の回転の鈍さ、霧の中を歩いているかのような覚束なさ、マスクを何重にもつけたような息苦しさ。鉛のように重い身体だけれどまだ動くから、朝起きて、学校に行って、帰ってきて寝る生活を繰り返している。それでも不思議なことに成績は良いのだから妙なものだ。この鈍い頭で模試の校内順位一桁を取れているのはおかしいし、この重い身体で体力測定でA判定が出ているのもおかしい。まるで都合の良い夢の中を生きているようだ。
自分は机の上の紙を見た。進路希望調査票と慇懃無礼な明朝体で書いてある。その右下には太字のゴシック体で締め切り日が書かれていて、それは明日に迫っている。1週間前から机に出しっぱなしの紙は、未だ学年と出席番号と名前しか埋まっていない。どうせ前回と同様に、明日の朝になって切羽詰まって、とりあえず県内の国公立大学の名前と、適当な私立大学の名前を埋めるのだろう。学部は、昔から親に勧められる通りに法学部と書くのだろう。そして、毎度のように担任から「お前なら大丈夫」と言われるのだろう。そして自分はただ頷く。ほら、ルーティンワークの完成。昨日と変わらぬ優等生の出来上がり。
机の引き出しから自分はボールペンを取り出す。明日になったところでどうせ書くことは変わらないのだから、今日のうちに埋めてしまおう。毎度同じことを書くものだから、今や何も参照せずとも全ての欄を正確に埋めることができる。自分の本心はよくわからないが、かといってこの紙に書いた大学のどこに行っても相応に学を修めて、そこそこの社会人にはなれるだろう。その点だけ、何の根拠もないが自信がある。結局自分は道を外れられない。優等生以外にはなり得ない。惰性でルーティンワークを繰り返して、死へと向かっていくのだ。無味単調な人生。今の自分は、もうそれでいいと思っている。
ただ、時々こうなる前の自分を知りたいと思う。自分が思い出せない7歳までの、小学校に入る前の自分を知りたいと思う。だからといって親に聞いたところで、ちゃんとした答えが返ってくるかは怪しい。10年以上も前のことだ、美化しているに違いない。優等生の自分が再生産されるだけに違いない。
だとしたら、聞ける相手は神様だけだ。「七つまでは神のうち」というのだから、神様ならちゃんと知っているだろう。夢にでも出てきて教えてくれないだろうか。
神様だけが知っている、あの頃の自分を。
この宇宙を創造した神がいるとしよう。
その神が未だ膨張を続けているとされている、
直径900億光年の領域を全て管理できるとは到底思えない。
地球に住む人類への処遇としては、
途上国の戦争、飢餓、貧困は依然として放置し、
圧倒的に恵まれている先進国の中でも、
貧富の差は著しく格差は広がるばかり。
管理体制が非常に杜撰だと言わざるを得ないが、
おおよそ7億分の1光年にも満たない星と考えれば、
そこの1種族を気にする暇などあるはずがないのも頷ける。
さて、これは有名な話。
脳内のニューロンと宇宙の構造は似ているという。
それによりこの宇宙は1生命体の脳の中という見解もある。
様々な問題を抱えたこの星も、
所詮は神経細胞の極一部だとすれば、
神の存在など甚だ馬鹿らしい問題である。
それはそれとして、
我々の脳にも同じようにニューロンが存在する。
とすれば、同じように宇宙が構成されていて、
我々と同じように日々を過ごす生命体が、
脳内のどこかで同じように社会問題を訴えているのだろう。
当然、その一つ一つを認知することは不可能だ。
我々は自我を認識することしかできない。
ゲームの設定でありがちな、大いなる存在の“意識”。
神の正体とは案外、そんなものなのかもしれない。
そういう意味では、
どこまでも自由に想像をはたらかせ、
気軽に世界を宇宙ごと創り出してしまう、
人間は最も身近な“神”といえるだろう。
~神様だけが知っている~
※今後は不定期にします。
いつできるかは神様にもわからない。
『神様だけが知っている』-第一作-
どうせ死ぬんだからって
向上心もなくなって
それでも
とくん とくん、と
頭痛おこす痛みがあって
痛いからって薬を飲んで、
その間もおれのなかみは
勝手気ままに動いて
動いて。動いて。
頑張りすぎて頭痛起こして治される。
勝手に血液運ぶな莫迦お前らがそんなもの律儀に 運ぶから生きる以外ができる
おまえらは揃いも揃って
勝手に生活をはじめるし
頼んでないもの運んでくるし
うるさいくらいにめちゃくちゃな文字がじゃまだなぁ。
わかるだろ
なんのための文字なんだろう
消える前になにか、伝えるためかも、ね。
何も知らない なにもしらない
この状態で、黒い画面に文字をなぞるように
浮かべるように
叩きつけるように
打ち込むのはたのしい
黒いボードから落ちてくる
様々な理由ありきなんだ生きることは、つまり
今これを打ち込んでいる眠剤を飲んだ人間は自分が認識できない野郎にひっぱられている、のだ。
だいぶ考えられなくなってきたもうすぐ世界が終わるのかな。
黒い画面から自分で打ち込んだはずの文字に殺される気さえしてくる
おれが生きたくないのに
生かせてくる身体の愚痴
を言ったから
文字だけなんだ神様に勝てるのは
その武器打ち込んで聞いて欲しい
打ち込めているかも不安になるが
おれはおれはもう少しで死ねるのか。
絶句
「まだむり」
『神様だけが知っている』
ねぇ、神様
あの人を振り向かせるにはどうしたらいい?
私はもっともっと頑張るべきですか?
教えてよ神様。。。
『神様だけが知っている』
何となく気持ちが落ち着くので
寺や神社に行くのが好きです。
年間どの位行くだろう…?
生きていると不安は付き物で
長く生きれば生きる程、困難が
降りかかってくるように
思います。いくら考えても答えの
出ないものや、先が見えずに
不安だったり、自分ばかりが
不運のように思ってしまう時に
先の事は『神のみぞ知る』と
天に任せてしまう時があります。
心が少しだけ解放される気が
します。
#神様だけが知っている
秘密だよ笑
教えるわけないじゃん
「お姉ちゃんにバレませんように〜……!」
私はどこにいるかも分からない、神様に向かって手を合わせた。私は今日、悪いことをしてしまったのだ。
それは――お姉ちゃんのプリンを勝手に食べたこと!
私のお姉ちゃんはプリンがとっても好き。だから、毎日欠かさず食べている。休みの日なんて、朝昼晩三食のデザートにプリンを食べている。
……いやぁ、私も別に食べたくて食べたんじゃないよ?ただ、小腹がすいていて……ちょうどそこにあったから!プリンがあったから!!しかも、最近できたお菓子屋さんのが……
あぁ、どうしよう!買って来るって言ってもなぁ〜……行けない距離ではないけれど。でも今のお小遣いが……あーでも勝手に食べちゃったしなぁ〜……
なんて考えているうちに、玄関こら声が聞こえてきた。
「ただいまー」
お姉ちゃんだ!!あぁどうか何とかなりますように……!!
〜神様だけが知っている〜
"天は人の上に人を造らず、人の下に人を造らず"
福沢諭吉の有名な言葉だ
最近たまたま手に取った本は
スクールカーストのしがらみの中で
必死にもがきながらも
勝者と敗者に勝手に分けられた世界では
その制度のなかであがくことも許されず
ただ呆然と自分の立ち位置を理解して
周りに順応するしか方法がなく途方にくれる主人公を描いたものだった
あの色んな学生が敷き詰められた教室には
誰もが同じ考えなどを持っているわけでもなければ
全くの他人同士が生活を共にしなければならない
正直言って居心地がいいとは言い難い空間だ
そんな中で勉強や運動神経などの得手不得手で
それぞれ勝手に他人を線引きして
上下の階級を作ろうとする
陽キャと陰キャという区別だってそんなものだ
人間は己が第一で他人など二の次だ
自分勝手な人がいるのではなく
誰もが皆自分勝手なのだ
だから真の平等などこの世には存在しないと思う
大昔の戦争が絶えなかった頃はそれこそ特に
王様や市民、奴隷など様々な階級が存在した
制度が変わっても
その人々の意識はすぐに変わることはなく
差別は長いこと続いた
人の上にも下にも人を造らないと言うなら
人間では敵わない神という存在は
いるかいないかに関わらず
私たち人間のことをどう思っているのだろうか
神様だけが知っている
神様ってなんだろう?
私は神様はいると思うけど、
みんなに平等に手を差し伸べないものだと思ってる。
だから神様に願っても叶えてくれないし、
自分で掴み取るしかない。
そんな関係。
神様だけが知っている
この世界のすべて
神様だけが知っている
はずだったけれど
見守ることは出来ても
手助け出来るかは別だから
会いに行った時に恥ずかしくないような
生き方をしないといけないな
もしも目が合った時に
助けてもらえるように
/7/4『神様だけが知っている』
この道の先が
光っているのか
闇が待っているのか
わからないけれど
この道の先に
素敵な何かを置いていけるのは
僕次第だ
虹の彼方に
行けるように
/7/3『この道の先に』
夏になると弟を思い出す
よくソフトクリームやなんかの形に例えられるが
私はそんな楽観的なもの 思い浮かべられない
その昔 夢に見た
双子の弟
置いてきてしまった弟
彼は赤い池のそばで石を積んでいた
ひとつ ひとつ 積んでは
またひとつ
ある程度の高さまで積み上げると
彼が積んだ石の塔は崩れる
泣きそうな顔の彼を見つめていると
彼が顔を上げ わたしに気づいた
それから話をして
彼が私の双子の弟だということ
彼は生まれてからすぐに死んでしまったこと
彼の命は 二人共が犠牲になってしまうはずだったものの
代わりになったということ
色々なことを教えてくれた
そして親より先に死んでしまったので
ここで石積みをしていることを教えてくれた
彼はここで わたしを待っているのだと言った
双子の片割れ
わたしは 彼と ふたりでひとり
すぐにわたしもここに来ると言ったが
彼は首を横に振った
私がここに来るまで
ずっとこんなつらい目にあわせるのは嫌だったけど
弟を泣かせるのはもっと嫌だったから
私は生きることを決めた
私が行くまで 待っててね
/6/29『入道雲』
執務室の窓を開け放ち、室へ風を通す、下界には人々が行き交う、朝の7時。少し早いが、仕事をしないと、私は、溜息を付き、頭を掻いた、(私に訊いて欲しいことがあるみたいだが、どうしたものか、私にもできないことがある、勝手には、人間の望みは叶えられないんだ。)もう一度、窓の外を見た、雲がたゆたう青く晴れた空は私を安心させる、人間もそうなのだろう、下を見ると子供達が笑い合いながらかけていく。私ができる事は人間達が平穏に暮らす努力をさすことだけだ。それ以上は勅令がないと出来ない。
[お題:神様だけが知っている]
[タイトル:指切りげんまん]
白い菊の花が風に煽られて左右に揺れる。先ほどまで香っていた花の匂いも霧散して、教室は白鳥利樹の心を表したような虚無に包まれた。
「あっ、あのさ、利樹」
「・・・・・・どうした?」
利樹は項垂れていた頭をゆっくりと上げ、話しかけてきた友人を見据える。彼の顔には心配と哀れみがしっかりと見てとれた。いいヤツだな、と思いつつ、それに愛想よく応えられない自分が情けなくなる。
「いや、さ。俺、先に帰るから、その・・・・・・また、な」
「・・・・・・おう」
それだけを返すと、友人はそそくさと教室を後にした。既に放課を終えて、二十分は経っている。普段は何人かの受験生が教室に残っているのだが、この日は利樹と、先ほど帰った友人で最後だ。彼もタイミングを図っていただけだろう。しかしいつまでも利樹が動かないので、痺れを切らして話しかけたのだ。
静かな教室で、利樹は改めて前を向く。
目に入ったのは、白い菊の花。それはクラスメイトであり、恋人だった犬塚華奈子の机の上に置かれている。
悲しみが底をつき、次に出てきたのは怒りだった。人目を失って、いよいよ感情が溢れてくる。
「なんでだよ・・・・・・なんでなんだよ!!」
叫びは虚しく響いて──それだけだった。ここ数日、放課後は常にこうだ。虚無感で心を満たさないと、すぐに爆発してしまう。そしてすぐに考え込んでしまう。どうして、華奈子は自殺してしまったのだろうか。
彼女と最後に会った時のことを思い出す。
「大学生になったら結婚しようよ。すぐに、一年生のうちにさ。ね?」
可愛く首を傾ぐ華奈子に、利樹はよく考えもせずに「いいよ」と言った。すぐに、でもそれって結構難しいよな、と思いつつ、これはよくあるバカップルの会話だと、仔細を考えるのをやめた。
「よかった。嬉しい。絶対、だからね?」
二つ結びのおさげを揺らしながら、彼女はそう言って小指を立てる。それは二人の恋人としての約束の証だ。
指切りげんまん──よくある約束の証だが、二人の間では、口約束よりも強い拘束力を持っていることを意味する。要するに、指切りげんまんを伴った約束事を破れば、そのまま二人の仲が破れるのだ。二度と修復出来ないほどビリビリに。
だから利樹は躊躇った。仕方がないだろう。結婚なんて、高校生の自分にはまだよく分からない。大学生になったら結婚するという華奈子の願いが、どれほど切実なモノなのか、その多寡を図るには、まだまだ言葉が足りなかった。
なかなか小指を立てない利樹に、華奈子が不安げに口を開く。
「・・・・・・ダメ?」
「ダメじゃないよ。ダメじゃないんだけどさ」
煮え切らない態度のまま、利樹はのろのろと小指を立てた。それを俊敏に華奈子が掴む。
気づけば指切りげんまんの形に絡み合っていた。
「はい、指切りげんまん。嘘ついたら、拳で、殴る」
「拳で?」
「そう、拳で。げんまんって、拳に万って書くらしいよ? 握り拳で、一万回殴るんだって」
「そりゃ、怖いな。絶対、結婚しないとだな」
それを聞いた華奈子はくふくふと笑う。そんな彼女の幸せそうな笑みに、利樹は惚れたのだと、改めて思い直す。もう、将来はどうでもよくなった。小指に力を込める。
「指切りげんまん。絶対だ、絶対」
「うん、絶対」
こんな出来事があった次の日の朝、連絡網によって、犬塚華奈子の訃報が届いた。
利樹が帰路に着いたのは、さらに三十分が経ってからだった。様子を見にきた担任に、家に帰るよう言われたのだ。
ふらふらとよろめきながら、無気力に歩を進める。足取りは日に日に重くなるばかりだ。
どうして犬塚華奈子は自殺をしたのか。その言葉だけが頭の中をぐるぐると回る。
実のところ、恋人であったはずの利樹は、自殺をしたという事以上の情報を知らなかった。それもそのはずで、二人の恋仲は親の公認では無かったのだ。華奈子の両親にすれば、ただのクラスメイトの一人にすぎない。どうやって死んだのかも、遺書に何が書かれていたのかも、そもそも遺書があったのかも分からない。葬儀も親族間で執り行うらしく、利樹は死体にすら会えない事が、今日、確定した。
当てもなく歩く──なんて事ができていれば、もう少し気が楽だったのかもしれない。利樹は学校から一番近い踏切を目指した。
例えば、この世に神様がいるのだとして。
神様は全知全能なのだとして。
神様ならこの問いに答えられるのか。
「どうして死んだんだよ、華奈子」
呟いて、踏み切りに突入する。隣の道路では、シルバーのセダンが止まっていて──すぐに発進した。
そのまま利樹も踏み切りを横断した。
渡り切ってから、立ち止まって嗚咽を漏らす。胃液が喉元まで競り上がり、不快感が口の中を満たす。
「おえっ」
吐瀉物は出なかった。
そのうち、カンカンカンと踏み切りが鳴り、後ろで遮断機が降りた。
例えば、この世に神様がいるのだとして。
死ねば神様に会えるのか。会えるのならば、質問はできるか。その答えに嘘はないか。指切りげんまんをしてくれ。とにかく教えて欲しい。どうして、華奈子は死んだんだ。
学校の裏掲示板に書かれていた、人間の悪辣さを思い出す。自称、犬塚華奈子の親友と、自称、犬塚華奈子の恋人が語る──騙る、自殺の理由を。便所の落書きとも言うべきそれらを、思い出す。
踏み切りが五月蝿い。
気づけば走り出していた。踏み切りへと足が動く。風を切る轟音が、すぐそこに迫っている。
次の瞬間、耐え難い衝撃が利樹の身体を襲った。
そのまま力に逆らわず、ゴロゴロと地面に転がった。アスファルトに肘を擦りむいて痛みを覚える。
痛みがある事に、利樹は驚いた。
呆然としている隙に、電車が目の前を通り過ぎた。
「なにやってんだよ!」
事態を飲み込むよりも先に、声が聞こえた。声の主は、利樹の胴から顔を上げ、仰向けの利樹に馬乗りになった。
友人だ。今日の放課後に、利樹に声をかけたあのクラスメイトが、電車に轢かれるすんでのところでタックルをしたのだ。
「・・・・・・・・・なんで、ここに・・・・・・?」
「俺が、まだ死んでないんだから、まだ死ぬんじゃねぇよ!」
友人は質問には答えずに、そんな事を言ってくる。けれど彼には、それだけの事を言う権利があった。
「・・・・・・尾けてたのかよ。悪趣味だな、お前らは。先に帰ってろよ。嘘吐き姉弟」
二卵性双生児。ゆえに似てはいないが、彼──犬塚圭吾と犬塚華奈子は、確かに弟と姉の関係だ。
「その嘘で、お前は助かったんだから、嘘ついてもいいだろ。感謝しろ」
「いーや、ダメだ。一万回は殴られてくれ」
と言いながら、圭吾とは指切りげんまんをしていなかったことを思い出した。
きっと、華奈子は指切りげんまんの話を弟にもしていたのだろう。一万回殴るという言葉に反応してか、圭吾は何も言わなくなった。
「・・・・・・どいてくれよ。人が見てる」
「っ、あ、あぁ」
反対側の道路で、主婦らしき人影がチラチラとこちらの様子を伺っていた。一度冷静になったのか、妙に全体を俯瞰してしまう。
二人して立ち上がり、適当に砂埃を払う。気まずい空気を裂いたのは圭吾だった。
「とりあえず、歩いて話そう」
「・・・・・・あぁ」
今度こそ当てもなく歩き出す。お互いの歩調を合わせ、住宅街を練り歩いた。
「なんで、死のうとしたんだよ」
「なんとなくだよ。なんとなく、身体が動いたんだ」
嘘はついていない。華奈子の意思を知るために、死んで神様に会おうとした、なんて、なんとなく以外の言葉で表現のしようがない。
「最悪だな」
圭吾はバッサリと切り捨てた。
「最悪だ。あー、ほんと最悪だ。姉さんが、利樹が死ぬのを望むと思うのか」
「華奈子の意思なんて分かんないだろ。俺は華奈子が死ぬのを望んでなかったけど、死んだ。事故でも、病気でもなくて、自殺で。もう分かんねーよ、神様にしか」
神様だけだ。神様だけが、どうしてこうなったのかを知っている。
そう考えていたから、初めのうち、圭吾の言葉が上手く飲み込めなかった。
「それが分かったら、死ぬのをやめるか?」
圭吾は真っ直ぐに利樹の目を見据えて言った。
「・・・・・・・・・・・・そりゃ、まぁ、理由は無くなるな」
「じゃあ、教えてやる。姉さんは遺書を残してたんだ。そして、俺はスマホでそれを撮影した」
「────えっ、いや、は?」
圭吾は戸惑いの声を無視して、彼自身のスマホを取り出した。その中に、華奈子の遺書が入っている。
浮き足立つ利樹に、圭吾はピシャリと制して言った。
「ただ、これを見せる前に約束してくれ、この遺書を見る代わりに、自殺はしない。絶対にしないって」
利樹はそう言って、小指を一本立てた。
「・・・・・・もし、破ったら?」
恐る恐る聞くと、圭吾は当然だと言わんばかりに胸を張って、答えた。
「拳で殴る。一万回」
それを聞いて、利樹は決心がついた。彼の小指を、小指で絡めとる。
「分かった。死なないよ、絶対」
圭吾はそれに安堵して、浅く息を吐いた。
「・・・・・・よし、それじゃあ、見せてやる」
指がスマホに触れる。流麗に操作する、その指先に迷いは見えない。きっと、何度も見返したのだろう。家族が死ぬと云うのは、どんな気持ちなのだろうか。現在の、利樹の痛みとはまた違うのだろうか。
そんな事を考えながら利樹は待った。もう喚かない。静かに待つ。そう約束したのだから。
やがて、圭吾の指が止まった。そっと画面をこちらに向ける。
「ほら」
パソコンの画面を写した写真だった。画面の中のワープロソフトには、びっしりと文章が書かれている。
『まずは、ごめんなさい。そして、さようなら。
なんでこういう決断をしたのか、それはこれを読んでいるあなたたちのせいではありません。なんて、まぁ、私は死んじゃうから、誰が読むかなんてわかんないんだけど。でも、違うでしょう、きっと。約束を守ってくれるあなたたちなら、これを彼らには見せないと信じています。
最近、クラスメイトに約束を破られる事が多かったです。そんな事で、と思うかもしれないけれど、チリも積もればと云うやつです。まぁ、要するに人を信じるのが辛くなってきました。指切りだけで信じていたはずなのに、気づけば目とか仕草を見て判断していました。そして、そんな自分が嫌になりました。だから、誰のせいというなら、きっと私はのせいです。まぁ、自分で殺すと書いて自殺なので当然ですね。
最後に、利樹くん。約束を破ってしまってごめんなさい。言い訳がましく聞こえるかもしれないけれど、私にはあなたが結婚してくれるようには見えませんでした。
あっ、これは愚痴みたいなものだから、利樹くんには見せないでね。後追いとか、最悪だから。もし伝えるなら、絶対に止めてね、約束だよ圭吾』
そこまで読んで、利樹は目を逸らした。空を扇いで、涙を堪える。全身の体温が上がっている気がする。
「分かったか? だから、お前は死んじゃダメなんだよ。俺は、そう姉さん約束したんだから」
よく見ると圭吾の目も腫れている。彼の訴えに、曖昧に返事しかできない。
「っ、あぁ、ああっ!」
この遺書はこう云っている。
利樹が本心から結婚を願えなかったから、華奈子が死んだ。最後の一歩を歩ませたのは利樹だ。あの日の嘘を、華奈子は敏感に感じ取っていた。
罪悪感を噛み締める。砕いて、飲み込む。すると、血の味がした。
利樹は爪が食い込むほど、強く拳を握り締めた。そして思いっきり、自分の顔面を殴りつける。
「お、おい──」
圭吾はそう言いつつも、止めはしない。その行動の意図を理解している。
どう考えても、華奈子の背を押したのは利樹だ。その罪を償う方法を、死ぬこと以外で思いつかない。命は命でしか贖えない。けれど、死ぬことは許されない。そういう約束だ。華奈子とも、圭吾とも約束をした。だから死なない。その代わり──
利樹はもう一度、自分を殴る。もう一度、何度も、何度も。一万回に達するまで、何度でも。
通りがかりの人々が息を呑んで、すぐに立ち去る。平穏な住宅街の中で、自分を殴って血を流す男がいる、なんて、恐怖以外のなにものでもない。
もしかしたら通報されるかもしれない。内申に響けば、推薦も使えなくなるかもしれない。大学に行けないかもしれない。自分を殴りつけながら、冷静に頭を回す。そして、殴り続ける。
一万回はまだ先だ。
【神様だけが知っている】
いまの選択が正しいのか
明日、なにをしてるのか
1年後、なにを手にしてるのか
5年後、あなたと一緒にいられるのか
10年後、生きているのか
神様だけが知っている。
神様だけ?
知ってるって?
私の正体かな?
あの人の本音かな?
たぶんですが
未来の出来事は
神様にも分からないだろう
でも地球の未来は
知っているのかも知れせん
わたしの中に
延々と刻まれて
消えない悲しみ、苦しみ
あなたに分かるわけがない
誰にも分かるわけがない
ほんとうは何も知らないのに
全てを知り尽くしたような顔をしているあの人
救いを求めるより
生きる力を身につけなければいけないと
そう思わせてくれるたいせつな存在
わたしは群れから離れて
流れに逆らって
ひとり水の中を漂う
くらげになりたい
【神様だけが知っている】