『理想のあなた』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
その「あなた」って誰のこと?私?
周りが何を考えているか分かんないけど、他人が求めてくる理想通りに生きる義務も義理もないよね。
勝手に期待して、好きに批判して、一方的にがっかりして、知らないうちに消えてくれれば良いんだけど。
せめて石とか毒矢を投げないでくれれば。
それで?
私にとっての理想のあなた?
ん…うん。
いいよ。そのままで、いい。
************
理想のあなた
************
所感:
余分な期待をしないのと未来を諦めるのは
同じじゃない、どころか全く違う。
優しくて
気遣いができて
頭が良くて
面白くて
顔が整ってて
スタイルがよくて…
そんな彼氏を想像しながら
高校を迎えた。
高校の入学式。中学で同じ組だった男の子に告白された。
その子は私の理想とはかけ離れていた。
頭は悪かったし
顔は整っていなかった。
でも、気遣いは出来て、やさしくて、面白い
そんな人だった。
私は経験も大切だと思い付き合った。
最初は理想と違ったけど話していく中で
いい所が分かってきて、なんだか嬉しくなった。
今の私の理想は
あなたです。
生まれてきてくれてありがとう
理想のあなた
あなたは私の理想。
私が欲しいものをもってるから。
みんなの憧れだから。
頭が良くて、優しくて、運動もできる。
全てが完璧なあなた。
私だけじゃない。
みんなの理想。
でも、君は辛そうだ。
なんで?
私が欲しいものをもってるのに。
なんでそんなに苦しそうなの?
●願うは普通●
産まれて、喜ばれて
愛されて、抱きしめられて、
手をつないで、頭を撫でられて
共感し合って、笑い合って
時には叱られて。
ご飯は楽しくお喋りしながら。
辛い時を乗り越えた時
「頑張ったね」と、
また頭を撫でてもらって。
そして
ひとり立ちする時には、
背中を押してもらって、
いつでも存在を感じられる安心感は
いつも心の中に。
そんな、
心の土台がしっかりした、
人間になりたかった。
とある文字書きの
“遺書のような手記” から抜粋。
fin.
#今回のテーマは
【理想のあなた】でした。
あなたが私に理想を押し付けるように
私もあなたに理想を押し付ける。
ほら笑って?こっちを見て。なんで泣いてるの?
どうせ、’’怒られたから’’泣いてるんでしょ。だめだ
こんなの私の理想じゃない。こういうときは、ごめ
んなさい。って謝って、何が悪かったか反省して。
ちゃんと私の理想通りにして。私の言う通りにして
おかないと、大変だよ?社会は甘くないんだからね
ほら、なにが悪かったの?…なんで黙ってるの??
テストの点が良くなかったからだよね。何点だった
の?…70点だよね?、なんでそんな点取ってくる
の!!!!ちゃんと勉強したの??!私、100点
以外は理想じゃないって言ったよね?!理想じゃな
い子は要らないから。次やったらあんたのこと山奥
に捨てるからね。…返事をする!!今日はご飯無し
だからね!!…どうして私の言う通りに、理想通り
に出来ないの。…’’’私はお母さんじゃないから、お
母さんの理想通りには出来ない’’’?何でそんな事言
うの?!わかるでしょ?!!そんなに難しい事か
な!!?、テストで100点を取れて、絵が上手くて
フルートが弾ける、コンクールで金賞を取れて、本
が大好きで、優しい女の子。これが理想なの。私だ
ってこれでやってきたの。常識なの。………………
…え。’’’’でも、お母さんは優しくない。、理想じ
ゃない’’’’?、違う違う違う違う!!私は理想通り、
私は理想通り!叔母さんの言うことは全部守った
し聞いた!何が足りないの!?足りないことない。
私は理想通り。そんなこと言う貴方の方が私の理想
じゃない。消えてよ偽物!!!!
【理想のあなた】
君が望む理想の彼女になれてるだろうか。
と思う時がある。
いや、まぁ好きだからいてくれてるんだろうけど、
できれば理想に近づきたいし、
君はいつも完璧で、、私だってちゃんと、、
『そのままの、今の君でいてほしい。
僕は大好き』
「、、、」
『誰に何言われたかわからないけど僕だってそんなに完璧ではないし、大好きな君に嫌われたくないしね』
「私っ、、大好きだよ」
『じゃあいいじゃん笑、僕も大好きだよ!』
「う、うん、、照」
『かわいいな、本当に笑
いつも行ってるカフェの新作が出て食べに行きたいって言ってたでしょ、行こ?』
「うん!!」
君が良いと言うからもう少し私は私のままで。
理想がそうであるならこのままで。
理想のあなた
自給自足生活をしている
野菜や米、果物を自作できる
家と畑を所有している
最愛のパートナーと新しい家族がいる
猫、うさぎ、ヤギを飼っている
理想のあなたは、と問われると返答に詰まる。
私の理想は常に他者であり、理想と言うならば他者に成り替わることになってしまうからだ。
そんなことを望んではいない。
「ねえ、お皿洗っといて」
「自分でやってよ」
かつて私の理想の人間であった四つ年上の姉は、仕事に忙殺されて自堕落を地で行く性格に変貌を遂げてしまった。
キッチンでフォークにスポンジを滑らしていると、姉はおもむろに話しかけてきた。
「これあげる」
薄々、予感というか期待をしていた。今日は私の誕生日なのだ。
「ありがと。でも今は手が濡れてるから」
後にしてくれ、と言うつもりだったのに。
「代わりに開けてあげるね。まあ私が包んだんだけど」
姉は断りもなく包装紙をバリバリと破き始めた。
「何だと思う〜?」
「本?」
「当たり!」
皿を洗う手は止まってしまっているが、蛇口からは水がざあざあと出続けている。
それを、きゅ、と締めて手を拭き向き直る。
これはただの本ではない、という感じがしていた。
「今日古書店街に行ったんだけど、ショーウィンドウに飾られててさ。めっちゃ高かったけど喜ぶかなぁと思って。いらなかったらまた売っていいよ」
そう言って差し出されたのは未開封のフランス装の古書だった。
「え? 私がそれ探してるって言ったことあったっけ?」
感謝よりも先に驚きが出る。
「卒論に書いてたじゃん、この文献があればもう少し深掘りできたかもって」
「読んだの?」
「読んだよ〜」
姉は何でもないことのように言うが、私は嬉しいような恥ずかしいような気持ちで顔が上げられなかった。
「あ、ありがと」
「うん。お誕生日おめでとね」
姉はひらひらと手を振って自室に引っ込んだ。
残された私は小学生の時に書いた作文を思い出していた。
「いつも明るくて優しい、お姉ちゃんみたいな人になりたいです」
スリムな
理想の自分になりたくて…
鏡を縦に半分こ (*ノω・*)テヘ
細い指がページを捲っている。伏した目は長い睫毛と鮮やかに色づいた瞼が印象的だ。少し持ち上げられた表紙を見るに、読んでいるのは僕が以前勧めた小説らしい。こうして素直に手に取ってもらえるのはなかなか嬉しいもので、司書冥利に尽きるというものだろうか。
図書館の司書と利用者という立場がある手前館内で盛んに話すことは少ないが、僕と彼女は図書館以外でも会うようになり関係を深めていた。知れば知るほど彼女は魅力的で、彼女の方も僕をそう思ってくれていればいいのにと自惚れてしまう。素直で聡明で、本の感想を尋ねるとなかなか面白いことを言った。
本棚に本を並べながらぼんやり見ていると、視線に気がついたのか彼女が顔を上げた。僕に気がつくと花が開くかのように微笑み、軽く手を振ると小さな手を振り返す。なんと無垢なことだろう。君がそんなに純真に笑うものだから、僕の頭は揺れてしまうのだ。
ずっと待ち侘びた君を、二度と僕から離れられないようにできれば良いのに。と願ってしまうのだ。
『理想のあなた』
#理想のあなた…
理想は夢破れるもの…
期待すれば期待するほど
違ってゆく
理想は無いより
あったほうがいいけれど
強く望むものではないわね
理想を押し付けると
その先には破局しかない…
[お題:理想のあなた]
[タイトル:壁になってる暇なんて]
余命三ヶ月を切った邦城舞華が願うのは、もし生まれ変わったら推しの家の壁になりたいということだった。
舞華は男性アイドルグループ『AMUSE』のライブ映像を前に、推しカラーの水色のサイリウムと顔入りの推しうちわを振り回している。そこが病室でさえなければ、多くの人が彼女に向ける目線は好奇なものになっていただろう。
舞華は思う。むしろそっちの方が良かったなと。今は両親も、友人も、その目線には憐れみが混じっている。本当は元気が無いのに心配させまいとしているんだろうとか、だからこっちも一緒に乗ってあげようとか。そんな雰囲気を出している。それするなら察されないようにしろよ、なんて言ったことはないけれど。
狂ったように推しうちわを振り回して、病室の空気を循環させる様を、どうしてそんな風に見られなくてはならないのか。サイリウムが生み出す光の軌跡は、空元気と気遣いで出来てる訳じゃない。
まあ、でもタイミングが悪かったのだろうと思う。舞華が推しにハマったのは、病気が判明したのとほとんど同じ時期で、確かにそこには因果関係がチラリと見える。つまり、重病で沈んでいた心に、するりとアイドルが入ってきたのだと。
けれどそうではないと舞華だけが知っている。きっと病気でなくても、舞華は彼にハマっていた。AMUSEのメンバーである瀬名亘は、それほど舞華の理想だった。
舞華が推しに出会ったのはおよそ一年前、高校の体育の授業で倒れる二日前のことだ。
AMUSEは朝のニュース番組で、新進気鋭の五人組アイドルグループとして紹介されていた。
『皆さんおはようございます!AMUSEです!』
センターの浅倉泰介が明朗快活に言う。服の上からでもわかるほど筋肉質で、ベリーショートの体育会系だ。その両隣が細身でタレ目の江刈亮と、白い歯の笑顔が眩しい宇都美葵。よく話を振られるのが、天然でボケ担当の六岡蓮。そして微笑むことすらしない仏頂面が瀬名亘だ。
中央の三人が人気なんだな、と舞華は思った。パフォーマンスでの歌割りが明らかに多いのだ。六岡蓮もトークでは目立っている。
だからこそ、逆に瀬名亘が目についた。
無口の仏頂面。どうしてアイドルを志望したのかも分からないくらい、アイドルに向いていない。そんな印象だった。
気になって調べ始めたのがターニングポイントだったと、舞華は今さら思う。
アイドルはスカウトされて始めたらしく、アイドル自体に愛はないということ。熱狂的なファンは気持ち悪いと思っているということ。そんなことをネットの配信で言ってしまい、炎上したことがあるということ。
ファンの掲示板で『瀬名辞めろ』の文字が出てこない日はない。
見ているだけで気持ち悪くなるようなその有様に、吐き気すら覚えた。そしてこうも思う。これを直接受ける瀬名亘は、どんな気持ちでアイドルをしているのだろう。
答えは分からない。どれだけ探しても、彼がアイドルを続ける理由を語るシーンは見当たらなかった。
確かにアイドルらしくない。ファンへの態度は最悪で、パフォーマンスも突き抜けているわけではない。トークもお世辞にも面白いとは言えない。ただ──
「顔かっこいいな、瀬名くん」
突き詰めるとそれだけなのかもしれない。じゃないと調べることすらしなかっただろう。徹底的なファンへの冷たさ。アイドルへの無頓着さ。ファンからのバッシング。それでもなお、アイドルを続ける彼が、どこか愛おしく感じたのだ。
それが舞華に始めて推しができた瞬間だった。
ライブ映像を見終わり、グッズを片付けていると、病室に父親が入ってきた。
「今、大丈夫か?」
父親の目線は推しグッズを経由してから舞華に移った。
「うん。大丈夫だよ」
父親は舞華の推し活には寛容だ。どんなグッズも頼めば買ってくれる。理由は病気にある。残り少ない余命を、自由に生きて欲しいという親心だ。
それを分かっていて利用するのは正直、気が引ける。最初の頃は病気様々だと思っていたが、余命が明確になった今ではそんなことは言えなくなった。
かといって、推し活をやめるつもりはない。一生推すと決めて、本当に一生推せる人間がこの世にどれだけいるのか。少なくとも、舞華は一生推すと決めている。一生が終わっても推す。できるなら推しの家の壁になりたい。推しの一生を見ていたい。
「それで、どうしたの?」
なんとなく、父親の態度が落ち着かない。
「あー、実はな、舞華にお客さんが来てるんだ」
「お客さん?」
すると突然、病室の扉が開いた。
「・・・・・・どうも」
そこにはひょっこりと半身を出した瀬名亘がいた。
「ん? え、は!?」
そんな情けない声を出してしまう。いる! 確かにいる! 瀬名亘が仏頂面でそこにいる!
「初めまして」
そんな一言で心臓が跳ね上がる。これはまずい、ただえさえ少ない余命がさらに縮んでしまいそうだ。後ろから入ってきたカメラも気にならない。
「は、はじめまして・・・・・・えっと、あの、あの!」
続きの声が出ない。何もかも上手くいかない。なにせ、聞きたいことが多すぎる。
「実は、お父さんから俺のファンだって聞いて、それでまぁ、サプライズで」
瀬名亘は辿々しく説明する。要するに、父親が彼らの番組に連絡をしたのだ。余命幾許もない娘に、大好きなアイドルを直接合わせてやりたいと。そんなところだろう。
「実際見て、どう?」
「えっ、えっと、すごくかっこいいです」
素直な感想だ。それを聞いた瀬名亘は微かに笑う。
笑っている。瀬名亘が笑っている。その笑顔から目が離せない。でも、どういう理由で?
「あの、瀬名く・・・・・・瀬名さんは、私がファンで嬉しいですか?」
瀬名亘は一瞬きょとんとした顔をして、声を大きくして言った。
「もちろん! 俺を推してくれてありがとう。舞華ちゃん」
その言葉を頭の中で繰り返す。
ありがとう。その文字列を瀬名亘の口から聞いたのは初めてだった。どの映像にもそんな記録はない。
なんか、イメージと違う。
瀬名亘ならきっと「別に普通」としか言わない。そんな優しく微笑まない。それは六岡蓮や、宇都美葵のすることだ。いや、そもそも瀬名亘ならこんなところに来ない。
瀬名亘が言葉を続ける。
「重い心臓の病気なんだってね。大丈夫、きっと諦めなきゃ大丈夫だから」
瀬名亘なら、言わない。そんな無責任に寄り添わない。もっと冷たく突き放してくれる。理想の瀬名亘なら、きっと──
そこから十分ほど話して、テレビクルーは病室を去った。瀬名亘は最後まで笑顔だった。張り付いた嘘の笑顔。帰りに渡されたのはサイン色紙だ。案外、字が綺麗なことを初めて知った。
そして一年後、舞華はまだ生きている。医者は奇跡だと言い、両親は泣いていた。間も無く退院できるらしい。もう既に退院の準備を始めている。
「これどうするの?」
母親が段ボールを指して言う。
「あー、一応、とっとく」
「はいはい。それから、時間あるなら勉強しときなさい。二年も学校行ってないんだから」
「分かってるよ」
そう、分かっている。なにせ未来は続くのだ。いつまでもではないが、それなりに長く続く。
壁になってる暇なんて、無い。
あなたは物静か。誰にも心を許さない。そんな貴方に唯一愛してもらう方法を見つけました。
何も食べず、食べれば吐いて。それを繰り返し、痩せ細った私の前にあなたは静かに佇んでいた。そんなあなたの手を引いて、今度は浴室に入る。カミソリと、溜めた湯と、そこに浸す腕。静かに静かに血の風呂が出来上がっていく。意識が薄れていく中で、あなたはただ私を見下ろしていた。知っている。あなたはこの光景をもう飽きるほど見ている。「死」そのものであるあなたには響かないのかもしれない。それでも、それでも。私が意識を失うその一瞬、あなたが少しでも私を見てくれるのなら。
「ずっと好きでした」
全ての体の力が抜けて、濃い死の匂いが浴室を満たしたその時。あなたはただ、そばにいてくれた。ああ、返事が聞きたいな──最後に思ったのは、そんなことだった。
八方美人でもいいから
誰にでもニコニコと優しい
あなたのように、なりたかったな
嫌いな人間にまで愛想よくできる
そんな余裕がどこにもない
それはまさに思い描いていた姿そのもので、こんなお洋服を探していた! と手を叩きたいほどだった。
けれど、続けて目線でなぞった価格は、理想より桁が多かったので、その余計な最後の0を指で隠してみる。ついでにもうひとつ。
最終的に桁が二つ減ったそれは、まごうことなき完璧な一品。
ただひとつ難癖をつけるとしたら、指をどかせないことくらいだろうか。
(理想のあなた)
私はずっと、貴方に憧れていた。
貴方の様になりたくて、時には口調を寄せてみたり、髪を同じ色に染めてみたりして、同期にはよく笑われたものだ。どれだけ追い掛けても決してその背に追い付く事など到底不可能だと解して尚、その行為を辞める事など出来なかった。
純朴に、盲目に、憧れていた背をひたすら追い掛け続けて何年の月日が経っただろうか。ある日の事、貴方は私の前から姿を消した。
きっと私に見限りをつけての行動だろうと思い絶望し、同時に怒りを覚えた。私を見捨てた貴方と、どうしても貴方の隣に立つ事が出来なかった自分の愚かさに。
貴方の行くべき先に、私を連れて行って欲しかった。
33 理想のあなた
松原エリカは、首の辺りをへし折られて農道に捨てられていた。すっかり土まみれで、悲しげな目を宙に向けている。松原のおじさんは、理想通りの働きをしないエリカに厳しく、しょっちゅう小突いたり蹴ったりしていた。だからってこんなのあんまりだ。どうにかしてやりたくてその体を持ち上げようとした。重い。物言わぬエリカからは確かに、何か情念のようなものを感じる。胸元には名前の書かれた名札がある。エリカという名前をつけたのはおじさんだ。初恋の女性と同じ名前だって、嬉しそうに話していたのに。
とにかく僕はエリカを運び、どこかで二人きりになる。隠すんだ。僕の家族も松原のおじさんも、誰も知らない所に。それで僕らは、二人きりになれる。だれがなんと言おうと、僕はエリカが好きだった。僕にとっては理想の女性だ。
「ああ、あそこにあったやつ? 役に立たないから、引っこ抜いてバラしたよ。半分ネタで作ったけど、気休めにもなりゃしなかった。気がついたらなくなってたけど。あんな廃材、誰かがもってったのかね?何に使うんだか。あんなカカシ」
お題「理想のあなた」
怒らないところ
話を聞いてくれるところ
陰な思いを受け入れてくれるところ
褒めてくれるところ
手が温かいところ
僕の変化を楽しんでくれるところ
美味しいの感覚が似てるところ
面白いの感覚が近いところ
瞳に
僕がいるところ
お題 理想のあなた
動物的細胞変形症―――通称、ユピテル症候群。
彼女がそう宣告された時の顔を、俺は多分、一生忘れない。
ユピテル症候群――罹患した者は、一日に一度、本人が望む姿に変身する奇病。
望めば、世界一の美女になることも、人外の生物になることも可能だという。
ただしその代償として、罹患した者は数ヶ月程で息絶える。
「もしかして先生、私が可哀想とか思ってる?」
新雪の如き純白の体を持つ猫は、まるで人間のように笑う。
「医師としてはな。」
「やめてよね同情なんて。そんな安っぽいもの貰ったって、ちっとも嬉しくないから。」
猫の声帯から少女の声がするその光景のミスマッチ具合にはまだ慣れない。
「そんなことばかり言ってるから、友達が誰一人としていないんじゃないか?」
「るっさい。」
金の目で睨まれるが、毛程も怖くない。
「とにかく、さっき説明した通りだ。これから毎日丁度日付が変わる瞬間、君は別の何かに変化する。それが例えば蟻なんかの小さいものだったり、魚なんかの水中で生きるものだと対応が大変だから、前日までにこの変身届出証に望みの姿を書いておくこと。……一応言っておくが、宇宙人とかそういう無茶なものは書かないように。」
「分かってる分かってる。」
毛繕いをしながら生返事で答える。
「あと、これが一番重要な。」
ユピテル症候群が終わる日、つまりお前が死ぬ日の姿だけは自分で決めることができない。これはどの患者も一緒で、シーラカンスになったり桜になったりと様々な例が観測されている。その日の前日にはみんな揃って雷みたいな痣が出るらしいから、見つけたらすぐ教えるように。
「それじゃ、あと数ヶ月。短い命だが頑張れよ。」
「はーい。」
病室の扉に手をかけると、「ねぇ先生?」背後から声をかけられる。
「医師としてじゃなくて、浮気されてフラれた元恋人としてはどう思ってる?」
ほんの数秒、時が止まる。
ようやく動いた俺の口は
「ざまぁみろって思うよ。」
ありきたりな言葉しか紡がなかった。
あれから彼女は色んなものに変身した。
目がやたらでかいポメラニアン、鉢に植えられた蒲公英、妖しげな雰囲気の美女、雀、菊の花、緑の濃い雨蛙、往年の俳優のような老紳士、毛量の多い羊、一輪挿しのガーベラ、エトセトラ、エトセトラ………………
マッコウクジラと書いてきた時は流石に止めた。
毎日対応に追われることにも慣れてきた。
しかし、それも明日で終わる。
「あともうちょいで明日ね。」
穏やかな目をした老女は、首筋に痛々しげに刻まれた赤黒い稲妻型の痣に触れる。
「…最後にやり残したことは無いか。」
「あるわけないでしょ?もう全部やりきったわ。」
キッパリと言い切るその姿が古い記憶に重なる。
「…ほんと、相変わらずだったよな。その人を舐め腐ったみたいな口調。」
その姿に惹かれて、嫌悪した。
「私だって、言わなかっただけであなたの嫌いなとこいっぱいあったのよ?医師としても、一人の人間としても。」
目玉焼きにドレッシングかけるとこでしょ、飲み物買ってきたら全部炭酸なとこでしょ、おにぎり全部塩味で作るとこでしょ、それから……
指折り数え始めた彼女の姿に何故か笑いが込み上げる。
「随分つまんない事で悩んでんだな。」
「当たり前でしょ?つまんない事こそ譲れないものが多いのよ。」
今度こそ堪えきれず笑ってしまう。
何だか、酷く懐かしかった。
彼女とただの人間として話すのも、心から笑うのも。
「とか言ってたらほら、もう日付が変わるわよ!」
時計を見れば、確かに秒針が長短の針と並ぼうとしていた。
「じゃあな。最後の日はもうどんな姿でも話せなくなるから、これが正真正銘最後の会話だ。」
「分かってるわよ。」
ベッドに横たわるしわくちゃな顔が、まるで未来の彼女のように見えた。
「バイバイ、またね。」
カチ、と音がなり、デジタル時計の表記はゼロに戻る。
ベッドでは、一匹の赤い熱帯魚が苦しげにバタバタと動いていた。
正直なところ、彼女が熱帯魚になることは何となく分かっていた。
昔、まだ付き合ったばかりの頃。
初デートの水族館で見た、熱帯魚コーナーの水槽。
緑草に映える赤い体に、何となく隣に立つ彼女の姿が重なった。
あれはきっと、本能的な感だったのだろう。
水槽の中、まるでたった一人のステージみたいに、鮮烈な赤だけ残していくその姿を、僕は一生忘れないだろうという予感。
それはきっと、病名を告げた時の彼女の顔――満面の笑顔――と一緒に、これからも残り続けるだろう。
そんなことを思いながら、水槽の中で腹を浮かばせて死んだ彼女をビニール袋に入れ、生ゴミのペールに捨てる。
蓋が閉まる直前、どうせなら握り潰せば良かったな、と今更ながら後悔した。