33 理想のあなた
松原エリカは、首の辺りをへし折られて農道に捨てられていた。すっかり土まみれで、悲しげな目を宙に向けている。松原のおじさんは、理想通りの働きをしないエリカに厳しく、しょっちゅう小突いたり蹴ったりしていた。だからってこんなのあんまりだ。どうにかしてやりたくてその体を持ち上げようとした。重い。物言わぬエリカからは確かに、何か情念のようなものを感じる。胸元には名前の書かれた名札がある。エリカという名前をつけたのはおじさんだ。初恋の女性と同じ名前だって、嬉しそうに話していたのに。
とにかく僕はエリカを運び、どこかで二人きりになる。隠すんだ。僕の家族も松原のおじさんも、誰も知らない所に。それで僕らは、二人きりになれる。だれがなんと言おうと、僕はエリカが好きだった。僕にとっては理想の女性だ。
「ああ、あそこにあったやつ? 役に立たないから、引っこ抜いてバラしたよ。半分ネタで作ったけど、気休めにもなりゃしなかった。気がついたらなくなってたけど。あんな廃材、誰かがもってったのかね?何に使うんだか。あんなカカシ」
5/20/2023, 5:56:44 PM