『特別な夜』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
特別な夜
くたびれた人間が1人。
よろよろと荷物をベッドに放り投げる。
結局今日の飲みの席では早々に酔い潰れてしまい、まともに食事を取れなかった。
日付が変わる前に帰れたのは幸運か…。
うわ言のように呟いて酔い醒ましになるものを探す。
「…あ、」
いつぞやに貰った餅。まだ食べてなかったっけか。
賞味期限も大丈夫な様で、早速準備に取り掛かる。
とは言っても醤油をかけてレンジで温めるだけ。
疲れてるんだ。質素な食事でもいいだろう。
正月でもないのに、餅を食べるとなんだか不思議な気分になるのは自分だけなのだろうか。
なんでもない日なのに。
見つけた吾のこころに染むきみのやさしい匂い夜に満ちて
〈特別な夜〉
夜を特別にする方法はいくらか思いつくものの、皆に等しく訪れる物に元より特別な物など無く、だがしかし強いて挙げるとすれば、流れ星の見えた夜。
【特別な夜】
「愛斗が恋人でよかった
君はオレの良いお嫁さんになるはずだ。」
そんなことをよく言わていた。
あの男も、
あの男も、
あの男も…
気持ち悪かった。
そんな言葉にオレは静かに微笑むだけだった。
どんな男もオレの若さと体と顔しか見てないから。
誰もがオレの本当の醜い所を認めてくれなかった。
オレもそれを見せるのが怖かった。
そして必ずオレを裏切った。
そんなこと最初からわかっていたはずだったのに
裏切られるのがとても悲しかった。
オレも気持ちを裏切っていたのに、
その男にどこかしら密かに恋をしていたことが
自分でも悔しくて認められなかった。
『誰もが羨む』『恋をする』
そんな自分の姿を恨みながら愛していた。
『誰もが騙され』『脳を化かす』
オレの姿は仮面のように自分の心さえも化かすので
都合がよく便利だった。
顔を刻めばブスになる。
残念ながら弱いオレには顔を傷つける勇気がなかった。
この美しい顔があるから成り立っているのがわかっているから。
揃った顔、可愛い声、細い体、際立つ性格…
化かして 騙して 上手くやる。
そんなこと8歳の頃から達成済みだ。
あのイカれた母親から嫌になるほど教えてもらった。
こっちは伊達に生きてるワケじゃない。
嫌になったら霧のように消えるだけ。
相手には甘い白昼夢を見せて消えるのが良い。
そうすれば相手はなおさらオレを忘れることが出来ず
心の奥底からオレを求め探すのだから。
今日もどこかで『特別な夜』を過ごす。
『デート』という名の『ショー』を
見せましょう。
さあ、オレを追いかけてみて。
オレは絶対に 誰のモノにもならない。
夜の澄み切った空気が好きだ
街の喧騒から離れた静かな道
お気に入りの曲を聴きながら
帰路につく
突然何者かに後ろから抱きしめられた
そのまま暗闇へと引きずりこまれる
震える身体に覆いかぶさり
何者かが耳元で囁いた
一目見た時からずっと想っていた
好きになってくれなくてもいい
君にとって忘れられない
特別な夜になれば
それから長い年月が経った
大好きだった曲はあの日以降聴けなくなった
私は今でもあの夜が忘れられない
お題「特別な夜」
特別な夜
今日は、一年で一番特別な夜
君が、1日だけ俺に会いに来てくれる日
でも、毎年来てくれていた君は、時間になっても来んかった
「…なんでっ、なんで来てくれへんの、」
毎年来てくれると思ってた。
それが、当たり前やと思っとった
ずっと海外で頑張ってる君が、俺のために
この日だけは会おうって、約束してくれたのに
「…っ、もう片想いも終わらせんとあかんの、?
好きって、言えばよかった、」
ずっと我慢してた気持ちも、
会えなくなる前に言えばよかったのかな、そう思っとった時やった
『…ねぇ、それどういうこと?』
俺の大好きな声がして、振り向いたら
大きな荷物を持ったしょおがおった
「…しょおっ、遅い、来んかと思ったやんっ、」
『…ごめん、遅れた。
てか、さっきの何、片想いって』
「…なんも、ないで。」
その場しのぎの嘘なんて、すぐばれるだけやった
『…嘘。ほんとのこといってよ』
なんて、見つめられたら
嘘なんてもうつけなくて
「……俺が、しょおのこと好きなだけ。
気持ち悪いやろ?こんなん。
でも、ええよ。振って?もうええから。
会いにこんくてもええよ、今年で最後にするから。」
なんて、言ってしまえばもう後戻りは出来ん
やから、さっさと振ってや、しょお…
『…勝手に終わらせようとしないで』
不意に抱き締められる
「……へ?」
『…俺だって、れんのこと好きだよ
会えなくて、寂しかったんだから
会いに来るのも、れんだけだよ。』
頭が追い付かん
「…な、そんな冗談いらんねん……」
『冗談なんかじゃない。
俺は、キスとか、そういうことがしたい好きだよ。
れんは違った?』
どうやら本当やったみたいや
「…うそ、ほんま、?しょお、
俺もしょおのこと大好きやで、」
なんて恥ずかしかったけど、
今伝えんと絶対後悔するんやから
『…ふふ、れんかわいい//…俺も大好きだよ
…ねぇ、来年は会いに来るんじゃないから。
ずっと、ここにいるからね?』
ずっと、ここにおるって…
「…え?!てことは、毎日過ごせるん、?」
『…そうだよ、これで毎日れんと過ごせるから。
…改めて、俺と付き合ってくれますか?』
「もちろん!これからもよろしくな、しょお」
そっと、唇にキスをした
テーマ/特別な夜
タイトル《星降る鼓動》
娘が4歳だった頃だから2001年のことだ。
11月18日、日曜日。夕方の空は曇っていたので、
星は見えないかもしれないと諦めていた。
そしたら娘が
「大丈夫。絶対に晴れるから連れてって」
と自信満々に云う。その自信は何処からくるのか……
意外と無垢な子供の直感というのは当たったりする
ものかもしれない。そう思って、弥彦山のほうまで
クルマを走らせた。
妻は「バカらしい。明日、仕事だしムリ」と言って
一緒には来なかった。娘と私は暖かい格好をして
絶対に見てやる!と気合いを入れて出掛けた。
夜20時あたりから、星空のどの方向をみても
流れ星が1分にいくつも見えはじめて……
まるで線香花火の火玉がポツンと落ちるみたいに
見えたりもしていた。
きっと、もう二度とこんな流星の雨をみることは
ないのではないかと思えるほどの光景だった。
「お父さん、わたし、今日のこの夜のこと……
絶対に忘れないと思う。星たちがすごくドキドキ
ワクワクしてるみたいだね!心臓の音が聞こえそう」
「……心臓の音?……って、誰の?(笑)」
「んーとね、この空ってゆーか、星たちの心臓。
星たちがドキン!ドキン!って鳴ってるみたい」
娘は星々が鼓動しているみたいだって言いたい
のかもしれない。
でも確かに、星々の音が聴こえてきそうなくらい
たくさんの星々が降ってるように見える夜だった。
娘の直感を信じて良かった。
そんな娘は8月のしし座の生まれだ。
しし座流星群だけに、
娘は何かを感じ、信じていたのかもしれないなあ。
娘と私にとって、
この日の夜は特別なもののように思えた。
抱えきれないほどの重圧と明日への不安を感じながら布団の中にいる特別な夜。
重圧から解き放たれているだろう明日の夜もまた、特別な夜。
特別な夜は家族と一緒に
特別な夜は想い人と一緒に
特別な夜はペットと一緒に
特別な夜な大切な人と一緒に
朝日を待つ
いつもは星だけが一緒だけど今日は違う
今日は星と、そばにあなたがいてる。
特別だからこそ、この夜が愛おしい
特別だからこそ、さみしくなる
この愛おしい時間が続けばいいのにと願う
今日は特別な夜だから
お題 特別な夜
いつも通りの日常じゃ飽きちゃう。
だから、
喜んでくれるあなたに、
今夜も手作りスイーツを。
それが日常になることを願う。
#特別な夜
遠くから聞こえる祭囃子。煌々と辺りを照らす提灯。
とっぷりと日は暮れて、夕闇が僕らを包み込む。
ああ、つまんないなって、もう帰ろうかって、引き返そうとした時。
すれ違い様、
君と、
僕の、
視線があった。
夜の帳の中を、慣れない下駄で駆け抜ける。
真夏の魔物に惑わされ、僕はみっともなく汗を滲ませながら、走っていく。
やっと見つけた。
「遅くなってごめん。迎えにきたよ」
夜空をバックに、再会の光が宙を舞う。
こっくりとした濃紺のキャンバスに、色とりどりの華が煌めいた。
僕らの、一夜限りの特別な恋。
今回、&TEAM の「FIREWORK 」という楽曲をもとに制作してみました。ご興味ある方は是非、楽曲も合わせてお楽しみくださいませ。
物音を立てるな。
口をつぐめ。
目立つな。
海に聴こえないように。
戸を閉じろ。
窓を閉じろ。
女子供は家の奥に、
男は扉の前にいろ。
海に気づかれないように。
家畜が嘶いても、
ヒトが悲鳴をあげても、
ヒトの笑い声が聞こえても、
決して興味を持つな。
見に行くな。
海に魅入られないように。
海に魅入られたものがいたら、
黙って送り出してやれ。
海に興味を持たれないように。
−ある海沿いの街で、
その年初めての気嵐の日に唄われる詩−
無惨に食い荒らされた家畜を丁寧に布に包んで、飼い主である街人の父娘は、地下洞窟の祭壇の下にある水路に、それを投げ入れた。
娘は、普段立ち入りを禁じられているそこに入るのは初めてで、一度は入ってみたいと思っていたが、大切にしていた家畜の死の哀しみで、全く嬉しいとは感じなかった。
ばちゃんという音と共に水飛沫をあげ、沈んでいく。
左に進むと海に出るというが、ここからは見ることはできない。
しばらく水面を眺めていると、涙で視界が滲んだ。
「行くぞ」
と言って、父が彼女の手を取る。その声には焦りとも畏れともつかない感情がある。
彼女は取られたのと逆の手で涙を拭い、父と帰路に着くべく踵を返す。
(きゃはは…)
洞窟内に微かな嬌声が響いた気がした。
父の手にぐっと力が込められて、足早になる。
娘は突然歩きの速度が上がったことの転びそうになったが、なんとか持ち直して、若干の駆け足で父の歩幅に合わせた。
(きゃはは…)
娘の耳にその嬌声がへばりつき、消えることはなかった。
高一の夏。父さんが亡くなってから三回目の夏。
母さんは昼も夜も働いていて、俺はいつも一人だった。
家に帰っても誰もいない。誰も俺なんかに構う暇がない。心の真ん中がポッカリ欠けたまま、俺はある日、夜の学校に忍び込んだ。ただの暇つぶしだった。
昼のうちに開けておいた一階の窓から、中に入った。普段通っているはずのそこは、月明かりで照らされると途端に姿が変わる。誰もいない、静かな場所。
「あー……」
まるで、俺の心を表しているようだった。ポッカリ欠けたところに、きっとこの場所があるのだ。誰もいない、何もない、ただ存在するだけの生きていない場所が。
「ははっ……」
適当に近くの席に座って天井を見る。
このままここで過ごしたら、母さんは心配してくれるんだろうか。なんて、くだらないことを考えていた。
「うわっ!」
声がして、ハッと教室の前扉を見る。誰かいる。二十二時、無人のはずのこの場所に。
「え、誰? あ……ん? んん? うちのクラスの奴か?」
徐々に近付いてきて、姿がハッキリする。俺のクラスの担任だった。手に紙を持っているところを見るに、何か忘れ物を取りに来たのだろうか。最悪だ。何も今日じゃなくていいだろうに。
さて、何を言われるか。じっと身構えて、担任の次の言葉を待つ。哀れみか、怒りか、それとも別の何かか。
「お前、うち来る?」
は、と息が漏れた。正解は別の何かだった。
「うち、来るって……?」
「そう」
担任は、それ以上何も言わなかった。
何を言われているか分からなかった。でも、ここにいるよりはマシだ。
「行く」
俺の返事と共に、担任は歩き出した。その背中を追って、俺も教室を出た。
あの夜が、俺にとっては特別だった。
今はもう、俺の担任じゃなくて別のクラスの担任だけれど、俺の心の教室は、確かにあの夜息を始めたのだ。
特別な夜。
特別な夜を
2人で過ごそう。
月明かりに
紛れて。
チューを
しよう。
特別な夜と言うのはどんなものだろう。自分の知らないところで生きていく輝かしい人々にも多分苦しみがたくさんあるのだろうそれでも遠くから見れば幸せそうな人がいる。多分素敵な日々に憧れがあるのだろう。漠然とした曖昧な日々の少し後ろには穴が空いている気がするいつでも落ちれるが戻れない。平穏は失って初めてそれに気がつくがそれが辛くて不安に感じるのだろう。病まなかった日々は懐かしく戻らないその日々を思って夜の時間を浪費する。変わってしまった日々が例えようもなく懐かしく自分で選んだ道なのに納得がいかないことに苦悩する。自分で望んだ通りになっているでもそれは思った以上に苦しみがあるそんなつもりじゃなかった。なんて言い訳を繰り返して生きている。
この夜、君が思うほど明るくなくて、輝いてもないけど、
空に浮かぶ星より見たいものがある。
君の口から愛が飛び出すこともなければ、目が合うこともないけど、
あの日の温もりと、ときめきを思い出すだけで良い。
恋しい恋しい、この心よりもその心に愛を与えたい。
頭の中に響くそんな好きでもない歌手の声が、君のことを思い出させて、
辛くてさ…甘くて。
もう一度、見たくて。
思ってたより、私ってロマンチストなんだね。
明日も生きていられるか分かんないけどさ、今はなんか幸せだって謳ってもいいかな?
さぁ、どうかな、君が思うより私が嫌いだったら。
頭が痛くなるくらい、胸がすごく痛くなるくらい、消えてしまいたいくらい、
生きてられないかもね。
意外と、知ってるんだけど、手をつなぐ相手もいないくらいそれくらい、、
孤独に生きていて、それくらい、寂しくて。
恋しい、なんて言えないくらい息が苦しい。
温度のしない床にもたれるのももう疲れたな。
また私は悪いことしちゃったかな?明日もまた悪いことしちゃうのかな?
怒られるのかな?それとも嫌われるのかな?
不安が消えない、消えない、それでも夢の中を走るみたいに突っ走ってもみたい。
もう、生きてるのに疲れちゃった。それなのに、この夜がいつもより心地よくてさ。
もう、もう、もういっかって、思えるような幻想がするんだ。
どこにいるの?愛してくれるあなた。あの人じゃないよね?
あんな悪いことする人が私の人じゃないはず…。
だから、ゆっくりでいいから。お願い。
この夜に免じて願いを叶えてください。
ごめんね、また明日ね。
しんどいな。
特別な夜
貴方がいない夜なんて__________
貴方がいたからこそ"特別"と思える夜だった。
私の身体はあの日から貴方に夢中
あの夜の筋トレ以降私は丸々と肉付きのある身体から
細身の身体に変わった。普段と一味違う何かが目覚めた(?)
サンシェイド手前でその話を聞いたとき、俺は冗談か、そうでなければ悪ふざけなのだと思った。そんな思いが眉間のひくつきとして出たのは、自分でも気づいていた。そのひとはそう身構えるな、ただ飯を食うだけだ――そう言って笑った。
その日はそのひとと、そのほか数人で酒を回し飲んだのだが、気がつけばテントに寝かされていたのは少し格好悪かったと思う。そのひとにはお前はわかりやすく嫉妬深いのだな、と翌日二日酔いに苦しみ、馬車に用意された床で笑われるはめになったので、さらにばつが悪かった。
あなたのせいですよ――そう、色々なシチュエーションでこれまで何度口にしたことだろうか。あのひとに***かけ、あのひとのせいで*を失い、故郷を捨て、身体と、そして心を奪われ――今ここで転がっているのだから、滑稽で、まぬけで。それでも悪い気がしない。そんな胸の内を知ってか知らずか、そのひとは自業自得だ、とさらに笑った。
そうしてたどり着いたサンシェイド。すでに連絡は行っているとのことだったが、疲れを取ってからのほうがいいだろうからと、その日は翌日に指定されていた。そう、向こうからの使いガラスによって返事が来ていたらしい。
正直な話、気が重かった。それが避けられないのなら、さっさとその時が来ればいいのにと、なかばすてばちに構えていただけに憂鬱だった。ほんの少しだが、相手の顔は見ている。少し影のある、平凡な、それでも心根の優しそうな人だったと記憶している。聞けば薬師で、あのひとが裏切られたときに助けられたという話だったから、ひどい人でないはずだ。ただ、だからこそ、それだけにあのひととの関係が気になっていた。あのひとにとって都合の悪いところがあるならむしろそのほうがいい。椅子を蹴って立ちあがり、罵り倒してあのひとの手を引いて強引にでも帰ってくればいいのだから。しかしそうではなく、その相手がいい人だったら、あのひとにとって俺よりも「いい人」だったら、俺はどうしたらいいのだろう。もしふたりの間に割って入れないほど親しかったら。そう考えると、どうしたらいいかさっぱり見当がつかなかった。
間の悪いことに、今日は団員として役割が割り振られてもおらず、悶々とした時間が長くなるばかりで。
「――」
まだ、昼か。それでも食事には少し時間があるみたいだな。
そう、毒づくように息をつき、俺は少し投げやりにベッドに倒れこんだ。
そうしてようやく、ようやく訪れたそのとき。あのひとの迎えが来たので、俺は居心地の悪い椅子から立ちあがったのだった。
すこぶる気の進まない邂逅を迎えるにしては、俺の格好はいつもよりちゃんとしていたと思う。さすがにそのために服を買い直したりはしていない。しっかりと服をつけ、髪を直し、くどくないよう香水のつけかたを慎重にした程度だ。あのひとはたぶんそのことでわずかに表情を変えた、のだと思うが、それでもいつもどおりに少し早足に俺の手を引いて宿を出た。
「そうかしこまるな。知っているはずだが、高貴な身分じゃないし、そこまで口うるさい女じゃない。普通にしていればいい」
手を掴んだままサンシェイドの街を、人の波を縫うように歩くそのひとは、言葉に違わずいつもどおりだ。思えば、初めてのときも、こんな態度だったように思う。場違いにそんなことを思い出した俺は、むずがゆさを抑えてその背中を追った。余計なこと、昨日からずっと考えていた、相手とかわす最初の挨拶や、とるべき態度、何を口にし、口にしないかといったシミュレーションが、すべて砂の城のように流れてゆく。
「お前はあいつの顔を一度見ていたな。見たとおりというか、悪いやつじゃないさ」
「俺、僕は――」
「ふふ、言葉を間違うほどか。大丈夫だ、私がついている」
ぶつかりそうになった少年を睨めつけたのだろう。そうして作った隙間を、俺の手をとったまま無駄なくすり抜ける。
そうしているうちに、あのひとはひとつの扉の前で止まる。この地方によくある、いくつもの家のくっついた、他の地方には見られない様式の家、いや、一室の前。
このひとに懇意にしている人がいること自体、まだ信じられない。馴染みの商人、馴染みのバーテンダー、そういう人なら幾人も見ているが、それとこの扉のむこうにいる人とは、違う関わりかたなのだと、俺は勝手に思っている。確信している。
「ヴィオラさん」
乾いた喉を絞るように声を、出す。
「その人とは――」
――どんな関係なんですか。
――どのくらい親しいんですか。
――どんなふうに。
問いたいこととどれも微妙に違う言葉が反響しては消えてゆく。捨てられてゆく。
仕方がないので目の前のひと背に腕を回し、肩口に顔を埋める。
「どうした、怖いか?」
「はい」
そう応えると、そのひとも俺の肩に腕を置いてくれる。
「そうか」
それが「外」のものか、埋めた赤に染みついたものか分からない砂の匂いなのかは分からない。それでもそうしていると、少しずつ気持ちが和らいでゆく。
「――」
通行人が波が迷惑そうに俺たちを避けているのがわかる。それでも、俺はそのひとから離れることができずにいた。
「――いいか?」
どのくらい経ったか。涙に濡れた赤の主がそっと口を開いた。
「はい。すみません」
最後にすんと鼻を鳴らして彼女から離れると、珍しくくしゃ、とした顔を作り、そのひとは笑った。そして取っ手を掴むと、黙って扉を開いた。
「待たせたな、ユディト」
自分の家のような顔で、そのひとは中にむけて声を発した。
「ええ、待っていたわ」
想像していたよりも、ずっと***な声が、そのひとと俺を迎えた。
「カル君ね。ユディトです。よろしく」
そうして差し出された手を、俺は自分で考えていたよりもずっとしっかりした手つきで握ることができた。
『特別な夜』
何も浮かばないので創作します。
特別な夜
それは突然だった。
何が起きたのか理解できず、皆、パニックになった。
わたしも例外ではなかった。
わたしは、真っ赤な画面のスマホを見つめたまま、どうにか起動しようと血眼になった。何が起きたのかわからず、ただただパニックだった。周りにいた人々も皆同じ様に慌てふためいていた。
この日、この時、世界中のスマホが同時に壊れたのだった。
タブレットやパソコンも全滅した。
テレビ番組はどの局も端末故障の特集になり、真っ赤な画面のスマホが映し出されていた。何かの陰謀か、はたまたサイバーテロか、と評論家たちが喚いている。
画面が真っ赤なのも謎らしいが、そんな事はどうでも良かったので、テレビを消した。
スマホのない世界は、不便と混乱の始まりだった。
「昔はなかったのだから、昔に戻ったつもりになればいい。」と、言う者もいたが、もう時代が違うのだ。スマホが前提の世の中だったのだから、昔に戻れるわけがない。
スマホが使えず、「夜って、こんなに長かったっけ?」と思うほど時間を持て余したわたしは、本棚から本を取り出した。かなり前に流行った小説だ。内容を覚えていないくらい昔に読んだ本だから都合が良かった。
真っ赤な表紙に『特別な夜』とタイトルが書かれている。
「あー、ある意味、今夜も特別かもね。」と、皮肉交じりに呟きながら本を開いた。
─おしまい─