『無色の世界』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
無色の世界
「おはよう」
そう言って声をかけられた私は驚いた。
清掃業務に勤しんでいた私に声をかける者などこれまで居なかったからだ。
「おはようごザいまス」
声帯機能が故障気味の私の声は途中何度かひっくり返りながらも上手く返事ができたと思う。
その返事を聞いた彼はニコリと笑うとモップを取り出し床を磨き始めた。
「なあなあ、あんたここ長いの?」
中々に不躾なというか無遠慮な彼はどうやらヒューマノイドらしい。口元だけを性能が良いパーツを使って居るらしく、それ以外のパーツは機械だった。
「長い……デスね。もウ十年は居マス」
「めちゃくちゃ先輩じゃん!俺今日からここ配属になってさあ、どうなるかって心配だったんだよな」
いい人が先輩で良かったわあ、と呑気に言いながらも手元はガシガシとモップを動かし続ける。
「そんだけ長いなら声帯変えねえの?」
不躾な質問に思わず面を食らうがこれは彼の良さのひとつなのだろうか。
「誰とモ話さナイので」
「俺と話すじゃん~! これから毎日話そうぜ」
事実ここの清掃部は口数が少ないメンバーが多かった。
オートマタの同僚に丸型ロボット、ゴミを回収しに来る清掃係は日によって違った気がする。話す機会はあるのに話すことをしないのは確かに建設的では無い気がする。
「でハ、声帯直してキまス」
「えっホントに~! 嬉しいぜ! やっぱりどうせなら明るく行こうぜ!クソみたいな労働なんだし!」
そう言った彼は楽しそうに目元を(恐らく目元だと思う光の部分)ピカピカと光らせた。
こうして私の世界がうるさく色付いた瞬間だった。
「無色の世界」
全てのものに色がついていたはずが、
とある小さな出来事で
世界の色が褪せた。
子供の頃見ていた世界は、
たくさんの色で溢れて、未来に希望しかなかった。
そんな未来の大人になった今の自分。
あの頃叶えたかった夢は、
あの頃描いていた大人の姿は、
全部、全部、とうの昔に色と共に置いてきた。
無色の世界で、
透明なりたいと思いながら生きる今日この頃。
色の無いこの世界は、息をすることだけで精一杯で、
ふとあの頃を思い出すと、自然と涙がこぼれ落ちる。
極彩色に囲まれていても、パステルカラーに囲まれていても、心がなければ無色の世界。
甘酸っぱい恋愛はどんな色?
どろどろの熱くて甘い恋愛はきっと油絵の具のような「アカ」色。
冷え切った痛い恋愛は水彩絵具の「アオ」色かもしれない。
恋愛も多種多様、十人十「色」。
そんな色を使って描く絵は、きっと素敵な「絵画」になる。
美しい恋が好きなのさ。
彼の者はその色の無い唇を吊り上げ呟いた。
これは、「色」を集める画家の、旅のような物語。
1.アカ
何色にも染まらない黒を着て、今日も「色」を集める。
極東に居る画家は、絵の具を「貰って」絵を描く。
ある夏のこと、画家は街でとある女性に呼び止められた。
「私を絵に描いてくださいな」
そう言って笑う女性。
白く透き通る肢体、ぽつりと咲く蕾のような唇に儚さ漂う「艶」を感じた。
「ヱゝ、ヱゝ。貴女みたいな美しいヒトにゃ僕みたいな輩が描いていいのかどうか分かりやせんがね。」
女性はころころと咲い、
「まぁお上手。」
と目を細めた。
女性が対価と時間を尋ねれば、画家は飄々と答える。
「いずれ分かりまさぁ。」
はて、いずれとは。
女性が家に帰ると愛する夫が居た。
しかし、愛しているのは女性だけであった。
幸せな新婚生活はすぐに過ぎ、温かい心は冷え切ってひび割れた。
結婚相手は所謂屑と呼ばれる男だった。
あちらこちらで不義の女性を作り、酒を呑み、家に帰れば自らの妻に当たる。
女性は、それでも相手を愛していた。
あの時の新婚生活が忘れられないのだ。
しかし一方で、この関係はもう元には戻せないことを理解していた。
だから画家に頼んだのだ。
「このボロボロの身をそのまま絵に残してくれ」と。
あの男が、そうしたのだと。
画家は是と答えた。
女性は待った。
その「絵」を待った。
愛する相手に傷つけられ醜くなった心と身体の生き写しを携え、愛しい人に下す断罪の時を。
一月経ち、二月経っても未だ手すらつけられていない画家の空白のキャンバスに焦る女性。
このままでは自分が殺されてしまう。あぁしかし愛した相手に殺されるのも悪くはない。
あかい恍惚と仄暗い微笑みを浮かべ女性はただ待った。
いつの間にかできていた「子」を胎に宿して。
その七日後、夫婦は死んだ。
続きは結婚相手、つまり旦那の方だ、の視点から始まった。
彼らの死因は心中だ。
幸せな新婚生活はすぐに過ぎ、彼の心は妻によって疑われ、
彼の両親をダシに脅され、ありもしないことをした。
わざと夜遅くに帰るように仕向けられ、
酒を潰れるまで呑ませられ、
そして襲われる。
妻は女性、彼は男性である。
抵抗して顔に拳が当たれば痣ができるのは当然のことで。
彼は初めて妻を殴った時、美しいその瞳に恍惚とした熱が宿ったのを見た。
それから彼は地獄のような日々に身を投じる。
顔に痣ができた妻が外に出れば当然周りはその夫に疑いをかける。
夜遅く帰ってくる旦那を見れば更に疑い、
酒で赤らんだ顔を見れば一目瞭然とばかりに確信する。
彼は孤独になっていった。
そして家に帰れば己の妻が進んで打たれようと笑って待っている。
いつしか彼は、その悪魔のような笑みに理性をなくしていた。
当然の結果、彼は妻に依存してしまったのである。
ある日、妻が布に包まれた絵を持ってきた。
大事そうに抱えたその絵は何かと問えば、嬉しそうな笑みで「自分だ」と答える。
「貴方の作った傷も全て余すところなく描いてもらった」と。
その妻の嬉しそうな顔を見て、男の精神は限界を迎えた。
その絵が大事か。
自分を愛しておいて次はその絵を愛しているのか。
自分をここまでしておいて。
彼は妻を殺した。
包丁で首の皮を裂き、濁濁と溢れる液体と反比例して冷たくなっていく妻の顔は、とても美しかった。
お互いに歪んでいた魂の色。
「美しい愛(いろ)が好きなのさ」
二人は混じり合い、絡み合い、どろどろと溶け出した。
流れ出すのは油絵の具のような緋色。
そこに現れる画家。
「おんや、こりゃあ美しい「あか」だ。」
画家は楽しそうに笑って二人の「愛憎・執着」を小瓶に詰める。
画家が旅の荷物を持って立ち去った後に残ったのは、無人の家と、大量の血液と、何も描かれていない真っ黒のキャンバスだけだった。
僕は「画家」。
誰も愛さない、
誰にも愛されない僕には一つだけ、欠けがある。
僕には普通の「色」が見えないのさ。
さぁ、貴方の「想い」はどんな色?
もうすぐそちらに着くのだから、しっかり教えておくれ。
チタニアダイヤモンド。
妖精の女王の名を冠したこの宝石の正体はしかし、ダイヤモンド C ではなく酸化チタン TiO2 、ルチルである。
自然界において生成されるルチルは金紅石の和名のとおり、金や赤褐色、時には黒色を呈する。色の差は鉄分の含有量による。無色透明のルチルが自然下で産出されることはまずないと言っていい。なお筆者は褐色のルチルを透過光に当てることで現れる妖艶な紅色を好み、これを収集しているというのは蛇足。
チタニアの正式名称は合成ルチル、人の手に為る人造石であり天然のルチルよりも高い透明度を誇る。ダイヤモンドの模造品として産み出されたが、識別が比較的容易であること、またその強すぎる輝きが忌避され、模造石としての地位は早々に退くこととなった。現在では宝飾品としてよりも、愛好家のコレクターズアイテムとして出回っている。
ルチルの屈折率は 2.62-2.90、これはダイヤモンドの 2.42 を上回る数値だが、前述したように天然のルチルは濃色を呈し透明度が低いため光の分散を見ることはできない。合成の無色透明のルチルだけが本来の輝きを有するわけだが、その故に「ギラギラして下品」との評価を下されてしまったというのは皮肉な話だ。
人造の女王は瞋恚の炎を七色に身に纏い、如何に覗き込もうとも内側に秘めた純粋無色の世界を人の目に晒そうとはしない。
(素人が齧った程度の知識で書いた文章です。鵜呑みにされませんよう)
(本文とは関係ありませんが、丁度昼間にラヴクラフトの『宇宙からの色』を読んだばかりだったのでお題を見た瞬間にちょっとドキリとしました)
【無色の世界】
雨雲は益々色を濃くしていて当分……いや、夜半くらいまで降り続きそうだった。
雨は、嫌いではない。
余計な音を遮断し、視界をぼかして形あるものを曖昧にする。
すれ違う人々は皆、雨から身を守る為目深に傘を差し、表情もぼやけて窺えない。男か女か、あるいは大人か子供か……その程度しか判別出来ない。
人の姿も、自分の姿も水滴で輝きながら輪郭を失う。そんな無色の世界とも言えそうなこの曖昧さが、俺は好きだった。
それなのに――
河川敷の隅、小さな古い東屋に佇む見知った女性の姿に、俺は歩みを止める。
(どうして、君だけは……)
何故自分の眼はこんな日にも、いやどんな時も彼女の姿をはっきりと鮮やかに捉えて放さないのか。
その意味に俺が気付いたのは、つい最近の事だ。
生命のない死を待つ世界を
這い蹲っては 祈りの欠片を探す
繰り返す惨劇 踏み躙った可能性
見据えた先 誰もいない いなくなる
悲鳴さえも飲み干して
怨嗟を聞いた 憐憫を招いた
それでも愛はあったのだと
ひび割れた心に蓋をして
並び立つ墓碑に唱える鎮魂歌
許されざるものと知りながら
止めた歩みの向こうの空白
おちてしまわぬようにと──
無色の世界
無色の世界なんてあるの?
わたしの場合、時々存在します。
無色の世界にいる時あるみたい。
今年になっていろいろ悩みがある時、友人に会いました。後日その時の友人の服の色の話になり、白かクリーム色だったと伝えたら、全然違うと言われてびっくりしました。
わたし色がわかないくらいに落ち込んでたみたい。無色の世界ではなくて、色がわかない世界にいたようです。心に色が入ってこないのね。
気をつけないと、と思います。
俺は生まれつき色が見えない。モノクロでしか
「色 」を感じられない。大きく広がる灰色の空、
黒光りするりんご、白黒な虹。色が眩しいなんて感
じたことも無い。ただ、そこに暗い世界が広がって
いるだけ。一度だけで良いから、見てみたいな。
青く照る大空、真っ赤に輝くりんご、カラフルな虹
、どんな世界が広がっているんだろう。見てみたい
だなんて少し、贅沢かな。
【無色の世界】
君がいなくなってからは輝きをなくした。
#無色な世界
わたしね、頭の中で何かを想像するのがとっても苦手なんだ。アファンタジアって言うんだって。
みんなの顔が想像できないんだ。ずっと一緒にいたあなたの事も。
だからね、早く元気になってね。この、なにも見えない頭の中とはサヨナラしたいんだ。
頭の中にいなくても、目の前にいて欲しいんだ。
#無色の世界
#004 『お師匠様の宝物』
異世界/FT
満月の夜、露台(バルコニー)に出されたお師匠様の水晶玉を眺めるのが好きだった。
そばには虫除けの香を焚いて、窓は全開。たくさんの月の光を取り込めるようにと、手すりのそばに高く掲げて。
水晶玉は無色透明だけど、離れて見ると鏡みたいに周りの景色を反射する。
この水晶玉を使うお師匠様の占いはよく当たると評判らしい。遠くの街からお忍びでやってくる人もいるのだけど、お師匠様は素性をあっさり言い当ててしまうのだとか。
普段は立ち入りを許されない部屋にある水晶玉を間近で見られるのは満月の夜だけの楽しみだ。でも、不用心じゃないのかな? ここは外から丸見えだし、お月様を反射してキラキラしてるよ。心配になって言ったことがあるけれど、お師匠様は全然気にしていないようだった。
ある日のことだった。館へ来て、すぐに追い出された若い男がいたと思ったら、仲間を連れて戻ってきた。何人かで玄関を乱暴に叩いたけど、お師匠様は開けなくていいと言う。
折しも、その夜は満月で。
日の沈み切らないうちからうっすらと姿を見せたお月様を見上げて、今夜もいい満月だねぇ、とお師匠様はニコニコしている。館の前庭にたむろするお客もどきのことはまったく気にならないみたい。
お師匠様がいいと言うならいいんだろう。でも、寝ずの番でもしていようかな。そんなことを思って、露台に椅子を引っ張り出し、間近で水晶玉をじっと見ていた。
近づいて見るほど水晶玉の透明さがよく分かる。井戸から汲み上げたばかりのきれいな水を覗き込んでるみたい。向こうの景色が少しだけ歪んで見える、無色透明の世界。お師匠様はその中に、のぞいた人の全部が見えるのだと言う。弟子入りを許してもらえたのは、とっても無垢で気に入ったから、らしい。
無垢ってなんにもないってこと。弟子入りする前、お師匠様に拾われた日より前のことはなんにも覚えていないから、だから気に入ったのかもしれない。
水晶玉の向こうの夜をのぞいていたら眠くなって、いつの間にかうとうとしていた。夢の中で鴉が鳴いてる。頭の上で、二羽、三羽。ぐるぐる回って鳴いている。
ガァー、と一際大きな声が響いたと思ったら、頭を何かで叩(はた)かれた。びっくりして飛び起きて、露台に上がり込んだ鴉の大きさにまたびっくりする。鴉ってこんなに大きい鳥だっけ。広がった羽で露台が埋まってしまいそう。
その話の隙間から人間の腕がのぞいて、水晶玉を台座の布ごと脇に抱えた。と同時に後ろから羽交い締めにされて、叫び声を上げる隙もなかった。
鴉なのか、人間なのか分からない彼らに抱えられ、露台から庭までひとっ飛び。急な落下に目が回る。
飛んでいかないっていうことは、きっと彼らは人間だ。鴉の力を借りたのだろう。
このまま連れ去られるなんていやに決まってる。それで必死に身をよじって抵抗していたら、並走していた人間が大きな声を上げた。抱えていた水晶玉から炎が上がって、ごうごう燃えていた。
おうおう、威勢のいい罪人(とがびと)だこと。館の方から声がする。その威勢は使いどころを間違えちゃいけないよ。
束縛が解けてふわっと体が浮いた。よく嗅ぎ慣れたお師匠様の香の匂い。鴉から人に戻った男たちは森を這うように逃げていく。
さあ、あたしの宝物。お師匠様の声にうなずく。
さあ、あたしの宝物。満月の下へ帰ろうか。
《了》
お題/無色の世界
2023.04.18 こどー
無色の世界
無色って何色だろう?
透明のことかな?
だったら透明の世界だね。
不便だなぁ。
「無色の世界」
きらびやかで鮮やかな貴方の世界の反対側で
影となり色の波長を失った場所で一人もがく
赤も青も黄色も…白も
ここには何もない
色を失ったこの世界こそ私の居場所
どうやら、赤ちゃんに転生したらしい。
色彩的な意味では、いろんな色がぼんやりみえるのだけれど、感情的な意味では、無色の世界。
それが転生して初めて思ったことだ。
快と不快しかない世界。
色でいえば、白と黒しかない世界。
他の感情の色はなかった。
快の白色と不快の黒色。
どちらにも染め上げられそうだけど、色付けるのが難しい無色の自分の世界。
これから生きていけば、色んな色に出会うだろうし、色んな色に変わってしまうだろう。
でも、この純な無色の世界を、もう少し堪能していたいと思った。
転生前の記憶が薄れていく、無色の世界に埋もれていった。
【無色の世界】
待ち合わせの本屋さんで、ぬり絵のページを眺めている彼女を見つけた。
「ぬり絵、好きなの?」
気が付いた彼女が振り向いて、「懐かしいなって思って」と答えた。
「ぬり絵が懐かしいの?」
「そうじゃなくて、わたし、こういうふうに見えていたから。世界が。何色も付いてなかったの」
今は色が付いてるよ、あなたと出会ってからはね。と付け加えたけれど、それはぼくも同じだと、彼女は知っているだろうか。
『無色の世界』4/18
私は、少し不思議な体質をしている。
具体的には、大人にも子供にも慣れます。
スーツ姿に、メガネをかけた美人モード!
体操服姿に、ランドセルを背負った幼女!
どちらが、本当の自分か分からないですが
大人の私が見る世界には、色がありません。
全てが白黒で描写されていて、
とても、退屈で寂しい。
いつか、子供の姿でも
世界は無色に映るのでしょうか?
それが、少し怖いです。
無色の世界
無色の世界だったら、自然が溢れていて
平穏な生活になってると思う。
私たちは、人間。無色なんて言葉はない。
どの世界も真っ黒に染まってる。
日本だって、いろいろな問題がある。
僕の瞳に色は映らない
世界は白と黒にしか見えないんだ
それはずっと
ただただ暗い世界
だけど君に出会って
世界に色がついた
ただそれはたくさんの色ではなくて
赤が見えるようになっただけ
君の心の傷の色も
世界の美しさの色も
君は私に見せてくれたね
《無色の世界》
#22