秋埜

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 チタニアダイヤモンド。
 妖精の女王の名を冠したこの宝石の正体はしかし、ダイヤモンド C ではなく酸化チタン TiO2 、ルチルである。
 自然界において生成されるルチルは金紅石の和名のとおり、金や赤褐色、時には黒色を呈する。色の差は鉄分の含有量による。無色透明のルチルが自然下で産出されることはまずないと言っていい。なお筆者は褐色のルチルを透過光に当てることで現れる妖艶な紅色を好み、これを収集しているというのは蛇足。
 チタニアの正式名称は合成ルチル、人の手に為る人造石であり天然のルチルよりも高い透明度を誇る。ダイヤモンドの模造品として産み出されたが、識別が比較的容易であること、またその強すぎる輝きが忌避され、模造石としての地位は早々に退くこととなった。現在では宝飾品としてよりも、愛好家のコレクターズアイテムとして出回っている。
 ルチルの屈折率は 2.62-2.90、これはダイヤモンドの 2.42 を上回る数値だが、前述したように天然のルチルは濃色を呈し透明度が低いため光の分散を見ることはできない。合成の無色透明のルチルだけが本来の輝きを有するわけだが、その故に「ギラギラして下品」との評価を下されてしまったというのは皮肉な話だ。
 人造の女王は瞋恚の炎を七色に身に纏い、如何に覗き込もうとも内側に秘めた純粋無色の世界を人の目に晒そうとはしない。


(素人が齧った程度の知識で書いた文章です。鵜呑みにされませんよう)
(本文とは関係ありませんが、丁度昼間にラヴクラフトの『宇宙からの色』を読んだばかりだったのでお題を見た瞬間にちょっとドキリとしました)

4/18/2023, 12:48:17 PM