『涙の理由』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
僕がとっても小さい頃
僕はとっても泣き虫だった
ランドセルを背負う頃には
猫さんたくさん背負い込んで
僕はだんだん泣けなくなった
*
嬉し泣きとか 悔し泣きとか
単に風邪を引いただけとか
涙の理由も色々あると
そんなことは知っている
それでも泣く子は好きじゃなかった
泣ける子のことが好きじゃなかった
助けてくれる そう信じれる
信じられない僕が嫌いだ
*
今日も空虚に生きていく
全部 全部が そこそこで
からっぽなまま 微笑んで
怒って 笑って 泣いている
そんな自分に憧れる
『涙の理由』を探してる
No.6『涙の理由』
ー涙の理由ー
涙の理由によって
涙の味は
変わるらしい。
きっと、
去年の涙と今日の涙の味も
きっと違うんだろう。
なぜなら
去年と違って
今日は
君がいないのだから。
君と愛を誓い合った時の
涙の味を
もう一度。
お花を植える時は一人でやらないとだめよ──
きれいな花を咲かせる人は、孤独な時を耐えなければならない──
僕の好きな漫画に書いてあった言葉だ。
単純な僕は、その言葉にいたく感銘を受けて──
というか、感化されて──花の種を蒔くことにした。
花を育てるのは、小学生の時にやらされた朝顔の観察以来だ。
花を咲かせるまでの、なんとなくの知識はある。
だから、大丈夫──そう、思っていた。
花を植える場所として選ばれたのは、雑草が伸び放題になっていた庭の一角だ。
雑草があった状態では、花を育てることは出来ない。
僕は、雑草を全て抜き取る「整地」に取り掛かることにした。
芝刈り機という文明の利器を持っていなかったので、軍手をつけて一つ一つ雑草を抜いていく。
実に地味な作業だ。
地味であるならば、楽であっても良いはずなのに…。
草むしりは、見かけ以上に重労働なものだった。
ただ草を抜くという地味作業なくせに、腰への負担が半端ない。
正直、涙が出そうなくらい腰が痛い。
相手は、たかが草だ。
見た目ひょろっちい草だ。
それなのに、強いとはどういう事だ?
「土から絶対離れないぜ」と地面にぐっと根を張り、踏ん張ってくる。ど根性の塊だ。
雑草根性という言葉があるが、雑草はマジヤバイと思う。コイツラ強えぞ、人の腰をいわすくらいにはな!
ちょっと草を毟っては、ストレッチをして、また草を毟る──。
腰への痛みが麻痺してきた頃。
ようやく、荒れ放題だった土地が綺麗になった。
僕は、無心に花の種を蒔き、土を被せ、たっぷりと水をあげた。
これで後は、放置すれば花が咲く──だなんて甘い話はなく──
抜いたはずの雑草は何故か気前よく生え──
腰痛の悪夢再来。
双葉が出て喜んだのもつかの間、虫たちが到来し──害虫対策に奔走。
害虫対策が功を奏し、葉が茂り始めた矢先に、
原因不明の葉の変色──知識を求め東奔西走。
花は一人で植えろって、大変過ぎんか?
正直、途中で何度も投げ出そうと思った。
育てても喜ぶのは、僕一人だけだし──投げ出しても、誰も責めはしない。
けれど──あの花は、他の誰のものでもない。
僕の花だ。
どんな花が咲くか、見てみたいのだ。
もしかしたらこの感情は、自己満足ってやつなのかもしれない。
けれど、自分一人も満足させられないなんて、なんだか寂しいではないか──。
僕は、花と向き合うことをやめなかった。
荒れ地を耕し、種を蒔いてから3ヶ月。
紆余曲折を得て、ようやく花が咲いた。
園芸初心者、初めてにして快挙である。
太陽に向かい、笑うように花が揺れている。
ところどころ葉の傷みはあるけれど、ちゃんと花として僕の目の前にある。
僕が見たかった花だ──
そう思うと、涙腺が緩み、ポロポロと涙が溢れた。
頬に温かい涙が伝っていく。
それを拭いもせず、愛おしい花を見続けていると、
お隣さんがフェンス越しに話しかけてきた。
「綺麗な花ですね」
その言葉に、僕は泣き笑いで答えた。
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涙の理由
「お花を植える時は〜」の言葉は
【黒博物館 スプリンガルド】著者:藤田和日郎
マーガレット・スケールズの台詞より拝借。
藤田和日郎先生の作品だと
【うしおととら】も好きです。
「真由子ととら」の話で出てくる「泥なんて──」の台詞も良いですよね(*´ω`*)
「どうして昨日、泣いてたんですか?」
見ず知らずの男の子にそう言われた。
わたしはつい昨日入院して、今は病院の休憩スペースのようなところで自分の荒んだ心を休めてる最中だった。たしかに昨日、わたしは泣いた。
「医師って無条件に人を救うじゃん。でもわたしにとってそれは罪だなと思って」
こんな話見ず知らずの人に言うなんて馬鹿げてる。でも見ず知らずの人だから本音で話せる。
「罪?」
「いやさ、救けたところで、じゃん。わたしひとり救けたところでそれで世界が変わるとか運命が動き出すとかそんなこと絶対ありえるわけないのに、なんで、そんな無価値の野郎も医者って救けんのかなって」
一拍おいてわたしはまたしゃべる。
「そりゃ天皇とか国会議員とかお国に関わる人なら救けて良かった、俺がしたことは無駄じゃなかったって思えるじゃん。でもわたしは?わたしなんてただの死にたがりやの高校生じゃん。死にたがりやなんて救けても意味ないのに。救けられたら生きたくなるじゃんね」
わたしの言葉、多分伝わらないんだろうな。まあ、共感がほしくて応えたわけじゃないんだけどね。なんというか、話を聞いて欲しかった、それだけ。
「これがわたしの泣いた理由だよ」
――涙の理由
「涙の理由」
ライブが終わり、メンバーやスタッフさんと食事をして、各々ホテルへ帰った。
スタッフさんは6階で別れ、俺たちは12階でエレベーターが止まった。
適当にエレベーターから近いメンバーの部屋でみんなでライブの感想やさっき食べた料理について喋り、明日はオフだがそれぞれの予定があるからと、自分たちの部屋に戻った。
「おやすみー」
「ゆっくりしてねー」
「じゃーねー」
とても20代後半の会話とは思えないが、僕たちはかなり仲が良く、こんなのは当たり前だ。
僕はカードをドアノブにかざし、部屋に入る。
今回はそこそこいい部屋に恵まれた。1人部屋で、ソファーも大きく、3人入っても充分すぎるくらい広い部屋だ。事務所側が僕たちがこのホテルにふさわしいだろうという表現は大げさだが、やはり功績のおかげで、デビュー1年目と今では使っていたホテルもだいぶ変わった。皮肉ってるわけではない。事務所側の気持ちも分かる。俺たちのグループは3年目にして、やっと1位を取れるようになり、そこからうなぎ登りでここまできた。
アイドルは7年間の賞味期限がある。
契約が大抵7年間で、7年目を迎えたら事務所側が契約を更新するのかしないのか決める。
7年目を迎え無事契約更新した僕たちは、ファンやスタッフさんから祝福された。
こんなにも愛されていたのか。
僕はマネージャーから契約更新を聞いた時、抱き合ってるメンバーやその場にいたスタッフさんの拍手を聞きながらぼんやりと考えていた。
デビュー前の僕たちをサポートしてくださったT&Dの方も花束を片手に喜んでくれた。T&Dの部門のスタッフさんは、自分が担当しているグループのデビュー日を見届けたら、そこで仕事は終わり、別のグループや人材の発掘に回る。デビュー日から一度も会えなかったわけではなかったが、やはり久しぶりにお会いできたので、つい抱きしめあった。
今の待遇に不満があるわけではない。
むしろ、感謝してもしきれないほどに恩恵を頂いてる。
ただ、なんだろう。このポッカリと空いた穴は。
異変に気づいたのは、契約更新を聞いた次の日からだ。
最初は寝付きが悪いとか、中途覚醒があるとかその程度だった。が、日に日に悪くなり、今では強い眠剤を飲まないと寝付けず、それでも何度か起きてしまう。
僕はメンバーには内緒で、芸能人専用の病院に駆け込みどうにかしてこの症状を抑えたかった。
眠れなくなると何事もネガティブに考えてしまう癖がある僕は、周りに迷惑をかけたくないため、何でも良いから眠れる薬が欲しいと懇願した。
しかし医師は、それじゃあ根本的な解決には至らないとばっさりと僕の意見をぶった斬った。
つい、かっとなってしまった僕は荒く聞いた。
「じゃあ、これ以上どうしろと言うのですか?」
医師は最初こそは驚いたがすぐにいつも通りになり、冷静に答えた。
「他に原因があるということですよ。心配事や不安事がある可能性があります。それらを解消しないといつまでたっても眠れないということです」
冷静に反論する主治医に腹が立ち、足を組み直しなるべく自分の気持ちを悟られないよう言った。
「僕にはそんなのはありません。メンバーにもスタッフさんにも恵まれてます。心配事も不安もありません」
「無意識の領域にあるかもしれませんし、ソウマさんが蓋をしている感情があるのかもしれません。」
あぁ、むかつくな。
ああ言えばこう言う目の前の男は、それでも僕の気持ちを揺らしてくる。
「そんなの、分かるわけないじゃないですか。もし仮に蓋をしていたとしたら、それを開けろと言うのですか?蓋をするほど辛い記憶と向き合えと言うのですか?」
僕は笑いながら皮肉っぽく言った。同じ土俵に立つのも限界が近づいてきたが、それを認めたらこの男に負けた気がする。だからわざと、試し行動をしてみた。
この男がどういう反応をするのか、どんな言葉をかけるのか。しかし、そんな子どものような思惑には乗らず、いつも通りの男だった。
「えぇ、そういうことになりますね。トラウマと向き合い、次のステップへ向かう準備をしなければなりません」
あっさりと認め、むしろそこまで考えられるのは凄いと言いたげな顔をして、じっと僕を見つめた。
負けた。いや、立場が違いすぎる。
相手は心の専門家だ。しかも芸能人専用の病院に勤務しているから、それなりの実績はあるだろうし、なによりもこの3ヶ月1時間毎週水曜日にカウンセリングをしてきたんだ。
原因なんて始めから分かっていたのだ。もしかしたらこの男も見抜いてるのかもしれない。
最年少だから兄さんたちの足を引っ張りたくなくて、この7年間走り続けていた。
ダンスの講師が練習のしすぎたと言われても、ボーカルトレーナーからこれ以上練習したら喉が潰れてしまうと言われても、無視し続けた。
最年少だからって、甘やかされるのはファンの妄想だ。
実際、デビュー日にメンバーが公開されると、僕の名前だけブーイングが起こった。
「入所してたった7ヶ月でデビューなんて。最年長のユウは8年間練習生として走り続けていたのに」と。
トラックデモまで発展したが、初のパフォーマンスである程度のアンチを黙らせることができた。
口には出さなかったが、アンコールと黄色い歓声が鳴り響く中、俺はひとり、優越感に浸っていた。
そして、舞台裏でみんなが抱きしめてくれた時は最高に嬉しかった。やっとメンバーとして認められたんだと思った。
「ソウマ、よくやった!」
「いつの間にこんなに上手になったんだね」
次々とかけられる褒め言葉とその日の夜にひとりである掲示板を見て、つい「ほら見ろ、デビュー日はあんなに叩いてた癖に手のひら返しじゃん」とつぶやいた。お気に入りのジンジャーエールを飲みながらニヤけていた。
今思えば、これがいけなかった。
その日の夜見た掲示板は、芸能人や著名人の名前を検索すると、その人の好感度がパーセント提示で出てくる。とは言っても、この数字には信憑性はほぼゼロだ。
なんて言ったって、要は芸能人や著名人に嫉妬する人や快く思わない人の溜まり場で、便所の落書きのようなものだ。『好き』か『嫌い』のボタンを1日1回押せる仕組みで、メアドさえ登録すれば誰でもコメントを残すことができる。大抵は、妬みや嫉妬。嫌韓の人や反日の人も互いに罵りあっている毎日。勿論、中には不倫や違法賭博した著名人に対して叩くケースもあるが、基本的には
普通に仕事をこなしている人がターゲットだ。
テレビでのあの発言が気になるとか、あの態度、絶対人を虐めたことがある人間がする態度だよとか、その程度だ。
そしていつの間にか、好感度のパーセント提示をチェックするのが日課になっていた。
他のメンバーのは見たこともないし、見たくもない。
何も知らないお前らに兄さんについて語ってほしくなかったから。ただ、自分の名前はいつも検索していて、ショートカットまでつくった。すぐに自分の好感度を見たかったから、コメントを見たかったから。
「努力すればアンチは黙る」幼稚な俺は短絡的に物事を考え、そう結論に至った。
だから正直ファンのために練習すると言うより、アンチを黙らせるために練習している。ただ、口では言わないだけだ。
7年目を迎えると、大抵のアイドルはソロ活動が許される。楽曲制作やドラマ・映画出演、バライティー番組やラジオ番組のMCなど。マネージャーやディレクターと話し合い、どの方向性で行くのか決める。だが、楽曲制作は全員必須となっている。僕はリードラッパーだからおそらくソロもラップを書くことになるだろう。
あぁ、楽しみだ。
ある程度は好きなように楽曲制作ができるため、思う存分、アンチを煽ることも踏み潰すこともできる。それも合法で。決して違法なやり方ではないし、むしろ芸術だと、これが真のラッパーだと思わせることができる。
エミネムなんかも大統領まで煽るくらいだ。
ひとりのアイドルがアンチを煽るくらいで何が問題だよ?
「‥マさん?ソウマさん?」
主治医の声ではっとする。
さっきまであんなに自分を苛つかせていた男は心配そうに、俺の顔を覗き込む。
「急に黙り込んだから心配しました」
パソコンのキーボードから手を離し、こちらに体を向けてる男は、本気で俺を心配していた。
「あぁ、すみません。その…自分が無意識に溜め込んでいたものってなんだろうと考えてました。あの、ジョハリの窓のようなものです」
「あぁ、ジョハリの窓ですね。よくご存知ですね。」
「はは、なんかの本に書かれてあって、それで多分覚えてたんだと思います」
「そうですか、中々コアな分野ですよね。ジョハリの窓は4つあって。『自分も他人も知ってる部分、開放の窓』『自分は知ってるが他人は知らない窓、秘密の窓』『自分は知らないが他人は知ってる部分、盲点の窓』そして、『自分も他人も知らない部分、未知の窓』の4つで構成されています。」
「お気づきかもしれませんが、私から見たソウマさんはかなりの努力家に見えます」
「そうですか?よく言われますが、自覚はしてないですね」
わざと知らないフリをした。自分が努力家なんて知ってるし、自分でもやり過ぎだなと思う時だってある。でも、やらなければあいつらがまた俺を苦しめる。だから努力してんだよと心の中で反吐を吐いた。
「では、これは盲点の窓になりますね」
主治医は呑気に言った。
「ジョハリの窓ですか?そうですね、盲点の窓に当てはまりますね」
軽く相槌を打った。
「ソウマさん。私の見解では、ソウマさんは人の目を気にしすぎる傾向にあると思います。また、ソウマさん自身が抱えているものがあまりにも大きすぎて、ソウマさんを潰しかねないと私は思っています。そのため、次回から治療方針を変え、投薬治療を続けつつ、対話をメインにした治療に変えてみませんか?勿論無理強いはしませんし、辞めたくなったらその場で中断することを約束します。いかがですか?」
黙ってる俺に主治医はまた言った。
「すぐに答えが欲しいわけではありません。自分と向き合うことは、時に海に溺れるような苦しさや辛さを伴います。ですが、このままではソウマの不眠は治らないと思っています。もし、治療で不安なことがあればいつでも申し付けください。」
俺は、少し考えさせてくれと言い、診察室を後にした。
それから1ヶ月。
俺は診察をすっぽかした。忙しくても欠かさず毎週行っていたとは思えないが、これもこれで良いだろうと決めつけた。
ライブ終わりはいつも虚無感に襲われる。
やりきった証拠なのかもしれないが、シャワーを浴びても、身体中に虚無感がべとりと付いているのは心地よくない。
「死にたい」とは思わないが、「辛い」とは思う。
きっと、メンバーやマネージャーに「死にたい、辛い」と言ったら抱きしめてくれるだろうし、活動休止期間もつくってくれるだろう。
でも、俺が求めてるのはそれじゃない。というか、そこまでしなくてもいい。
骨折みたいに誰がどう見ても病人だと分かれば、みんな手厚くサポートしてくれる。でも俺のようにかすり傷が無数にある身体には興味も示さない。
だって、かすり傷だもの。
絆創膏さえ貼れば済む話だ。
でもなぜだろうか。
このポッカリと空いた穴は、虚無感は。
やはり医者が言うように治療方針を変えるべきなのか。
でもそんな勇気は俺にはない。
デビュー日のファンや周りの人からの俺に対する愚痴や誹謗中傷が流れても、俺は平気な顔をした。メンバーやマネージャーはそれこそ心配してくれたし、同じ事務所の先輩も同じような経験をしたことがあるからと言って、ご飯を奢ってもらったこともある。
でも何を言われようと、俺は平気だと、気にしていないと伝え笑顔を貼り付けていた。
今ではアンチを罵ることだって簡単にできる。手だって出そうと思えば出せる。ただ実際にはしないだけでしようと思えばできる自分は強い人間だと思っていた。
しかし、俺は思ったより弱い人間だったようだ。
たった今、主治医からのメッセージを読んでSOSを出してしまった。
もうこれは、強い人間とは呼べないだろう。
自ら醜態を晒してるのだから。
あと数分で主治医が来るだろう。あの憎たらしい男が。同じ男だからこそ、俺を苛つかせる。
が、その憎たらしい男に頼らざる終えないのが現実だ。
もういい、無駄なプライドは捨ててしまおう。
7年ぶりの涙が零れ落ちた。
涙の理由
優しい人が損をする世界は間違ってると思う
ドロップは神様が流した涙なのだと、幼い頃に聴いた童謡がふと頭に過ぎる。
朝焼けを見ても、夕焼けを見ても、悲しくても、嬉しくても泣いた。
そんな神様の涙の話を思い出せば、今流している涙の惨めさが少し薄らぐ気がするのが不思議だ。
神様の悲しい涙は、酸っぱい味に変わったらしい。
私のこの涙はどんな味になるのだろうか。
そもそも、これは悲しくて流している涙なのだろうか。
長すぎるとも言うべき時を引きずった片想いは、散々な終わり方だった。
最後はもう、本当に好きなのかさえ自分でもよく分からなくなっていた。出会った頃は、確かに、あんなに純粋に彼を恋い慕っていたのに。
段々と離れる距離に焦って、彼の目が、関心が此方へ向くのなら形振り構わずに振舞って、他の女を近付けないよう、茨のような棘を張り巡らせて。
もっと早くに諦められていたら酸っぱい程度で済んだだろう涙。今はもう溢れる様もどろどろとしたタールの様に思えるのは気の所為だろうか。だらだら濡れる頬が、つたう顎が、酷く気持ち悪い。
きっとこの涙がドロップになっても、口にするのはおぞましい。
それならば。
憎らしくも愛おしい貴方の口に、そのドロドロとした塊を押し込んでしまいたいと願った。
どうかその酷い後味を、一生忘れる事がありませんように。
僕のための君の涙エンハンサー
もう一度ぶっ潰しに行ける
全世界を敵に回しても
君の悔し涙を無駄にはしない
♯涙の理由
「すまない、水無月さん、うちの娘はーー」
血相を変えて、俺は会社に駆け込んだ。
だいぶ、急いだ。でも、すっかり遅くなってしまった。
人気のない課に保育園の制服を着た深雪が、水無月といた。娘をデスクに着かせ、隣で相手をしていた水無月が振り向いた。
「柴田さん」
「あ、パパ、おかえり」
ぴょんと椅子から降りて、深雪が駆け寄り、俺の胸に飛び込んだ。
「深雪、ごめん。遅くなって」
俺は深雪をギュッと抱きしめた。どっと安堵が押し寄せる。そして、
「水無月、ありがとう本当に助かった。この通り」
深雪を抱きしめたまま深々と頭を下げる。
「いいんですよ、電話もらったときは驚きましたけど、柴田さんがあらかじめ保育園に連絡してくれていたお陰で、私が行っても引き渡してくれましたし」
ねー、深雪ちゃん、と水無月が笑う。
ねー、雫ちゃん。と深雪が笑顔で返す。
「雫?」
「おねーちゃんの名前だよ、パパ知らないの?お友達でしょう」
「あ、そうなのか」
初めて知った。目を見開いて水無月を見ると、ふふと、微笑んだ。
しずくーー。雫さんていうのか。
静岡に出張に出かけた。日帰りの予定が大幅に狂い、夜まで足止めを食らった。
保育園の閉園時間まで間に合わない。深雪を迎えに行けない。どうするーー、プチパニックになった俺の頭に咄嗟に浮かんだのが部下の水無月だった。
電話して泣きついた。すみません、どうしても頼る相手がいない。娘を保育園に迎えに行って、俺が戻るまで面倒を見てくれないか、頼みますと。
深雪はご飯も食べさせてもらっていた。うとうとし始めた深雪を抱き上げて、俺は会社を出た。もうとっぷり夜も暮れた。
「本当に助かったよ、今夜は。後できっちり礼はしますから」
「それは別にいいですよ。それより柴田さん、ご飯食べました?あんなに急いで、まだ食べてないんじゃないですか」
水無月はそう言って、コンビニの袋を差し出した。
「パパは、しゃけが好きなのって。お家でおにぎり作るとき、しゃけばっかなのって、深雪ちゃん言ってましたよ」
袋の中身はおにぎりだった。かさりと袋が鳴る。
「水無月」
「だから深雪ちゃんも、しゃけおにぎりが好きなのって教えてくれました。子ども心に、私に迷惑かけてるって気にしたんでしょうね。パパ、ほんとはいつもちゃんと保育園の終わる時間には迎えにくるんだよ。その後、晩ごはん作ってお風呂にいっしょに入るの。で寝る時絵本読んでくれる、いいパパなんだよって言ってました」
彼女の声音は優しく俺を包んだ。腕の中の深雪の重みが、体温が、俺を慰撫する。
水無月は俺の手が塞がっているので、袋を持ったまま歩き出した。
「読み聞かせはね、パパあんまし上手くないの。疲れてるのか、読んでる途中でパパ寝ちゃうのが多いんだって言ってました。だから深雪、終わりまで知らないお話多いんだって。でも、とってもいいパパなんだよって。おねえちゃん、パパ遅くなっても怒らないでくれる?って、何度も何度も」
それを聞くと、もうダメだった。俺の涙腺は決壊した。
夜道、会社の同僚ーー年下の部下の女の人の前で、声を殺して泣いた。生まれて初めて。
妻が浮気して離婚になって、うちを出て行った時も泣かなかったのになーー
深雪はスヤスヤ寝息を立てている。水無月はコンビニの袋を片手に、星を見上げ俺を直視しないようにしてくれた。
涙の理由も、訊ねることなく。
優しさが身に染みた。そう思うと、俺は更に泣けてしまうのだ。
#涙の理由
「通り雨3」
【涙の理由】
ある時から
あまり泣かなくなった
最初は強がってたんだと思う
男の子は簡単に泣かないものだと
その後
とある事で大いに泣いた
それからはたぶん泣いてない
脳内会議をら繰り返すうちに
泣く理由が無くなった
笑う事は出来るし大事な事だと思ってる
泣く必要が無くなった
もともと感情を爆発させるのは苦手なんだろう
ちょっとひねた性格もあり映画を見ていても
グッと来るのは
主人公の名言でもヒロインの不幸でもなく
通行人の独り言だったりする
だからあの時
はじめてのおつかいを見た訳でも無いのに
予想外に込み上げてきた
その本当の理由が俺には分からなかった
涙の理由は
涙の後で探す事になった
二転三転しながら探し当てた理由に
四苦八苦しながら適切な処置を施す
これで当分は大丈夫
いつもの使い慣れた俺だ
戻って来た俺を見回して思う
意外とまだ面白いところ
隠し持ってんじゃん
そして俺
まぁまぁ良い奴じゃん
改めてよろしく頼むゼ
涙の理由
この田舎の中学校に赴任して弱小と呼ばれるテニス部の顧問になって3年が過ぎた。
中体連では1勝もできずに終わることが何回もあったが、今年の試合は違った。
試合には勝てなかったが、キャプテンである彼女は試合後に控え室で涙を流していた。
彼女の涙の理由
「どうして泣いているの?負けるのはいつものことでしょ。あなたたち。負けても笑って終わるでしょ。」
涙の理由は分かっていた。今年は毎日、毎日、暗くなるまでボールを追いかけていた彼女。1勝するために人一倍練習をしてきた。勝てなかったことが悔しくて悔しくて仕方がないはずた。
でも、今までは負けても「私たち弱いから」と諦めていたのになぜテニスに対する姿勢が変わったのか知りたかった。
だから、あえて訪ねる。
「どうして泣いているの?」
「勝ちたかった。隣町の幼馴染に弱いチームいて可愛そうって言われました。3年間無駄に過ごして楽しいかって。私は可愛そうなんて思われたくありません。」
「そう。でも、あなたたちテニスに対して真剣ではなかったわよね。勝てなくても諦めてたでしょ。」
「でも、でも、先生は私が試合に勝てるように考えてくれて、母も試合の時はお弁当を一生懸命作ってくれたり送り迎えもしてくれた。それなのに私は中途半端な部活動をしていました。それがすごく申しわけなくて。だから、試合に勝ってみんなの期待に応えたかった。誰にもバカにされたくなかった。ごめんなさい。先生。試合に勝てなくて、いい加減な練習ばかりして。悔しい。悔しいです。」
中学生の彼女は変わった。
試合に負けたが、周りの期待に応えるためには時には忍耐力や努力が必要なこと、そして何より試合に関わった人たちに感謝する気持ちが大切であることを彼女は学んでいた。人は1人では生きていけない。個人競技の試合であっても1人では何もできず、みんなの支えがあってこその自分に気づくことができていた。
「悔しいね。先生も悔しい。3年生のあなたは中学での試合はないけど、あなたはこの試合ですごく成長することができました。人との関わり方を学べました。もし、高校でもテニスを続けるなら、今まで以上に練習しないとね。周りへの感謝を忘れずにテニスと真剣に付き合っていけば強くなれる。あなたなら大丈夫。頑張って。」
彼女は涙を拭い、本当の笑顔で試合会場をあとにした。
今、彼女はウィンブルドンに挑戦しょうとしている。私はそのコーチとして観客席から彼女の勇姿を見守っている。
一番は辛かった。何一つ上手くできずに、傷ついて、もうどうしようもなかった。
それが、出来始めて力を付ければ付ける程、今度は戦わなくてはいけない。そう私たちは、少数精鋭部隊なのだ。優しい者は、魔なのだ。その魔が優しすぎるのだ。
それに、癒されて来たのだ。幸福になってほしいのだ。只々、甘えているのだ。
妹に電話していたので、どうやって行こうか決まらず、遅くなりました。お墓参りに行きます。
涙の理由105
臨時
また来週月曜日
その娘は不思議な力を持っていた。涙が宝石に変わるというのだ。
そしてその娘は、国によって保護され人との接触を避けるように地下の施設に幽閉されていた。
一応の自由と健康は保たれ、できた宝石は職員が回収していく生活をずっと続けていた。
そして、ある日新しい職員がやって来て娘の世話をするようになった。
その職員は「あんたの流す宝石で地上の奴らは裕福に暮らし、そのせいで逆に堕落しきっている。仕事をしないでも不自由なく生きられるんだからそうなるに決まってる。ほとんどあんたの流す涙のせいだ。」
とぐちぐち言ってきた。今までずっと丁重に扱われていた娘は驚き、そして今まで感じたことの無い気持ちになり、大粒の涙を流した。
「だから泣くな。涙を流すな!」
そう怒鳴られ、更に泣いた。
遂に部屋は宝石で埋め尽くされ、娘はその圧によって死んでしまった。
宝石はもう増えない。
この部屋の宝石が終わったら地上で恩恵を受けていた堕落しきった国民達は、繁栄していた国は、滅びへ向かうだろう。
ただ一人の娘に頼りきっていたと気付いた者達は後悔に涙を流した。
(涙の理由)
グリム童話・真珠姫のオマージュ
(ただしストーリーの流れのみ)
涙の理由はいろいろあるが
たとえていえば
怒りでギリギリ引き絞った糸が
誰かの応援やいたわりで
急に緩んだ時に出る
ような気がする
涙が傷ついた自分を慰めている
泣き疲れると私は
洗面所で鏡を見る
自分の顔を見ると
なんだか笑えてくる
解決策ではないけれど
ただ星が綺麗だった
あ、なんだ星なんかじゃなかった
自分の溜め込んだ涙だ
上ばっか見ないで、たまには前を見て
ほらね、こぼれない
先をゆくきみの背中に手を伸ばす その一センチがひどく遠くて
「涙の理由」
あれ?
なんでお前、泣いてんだよ
そんなに嬉しかったのかよ
いや、別に
玉ねぎが、なんか目に直で入って
直で入んないだろ、玉ねぎは
リンガーハットかよ
と、わかるようでわからない例えツッコミを披露すると、一瞬の間を挟んで二人で笑った
なんか泣いてる様に見えたけど
気のせいだったのかもしれない
ちょうど一週間前
記念すべき日が訪れる
ついに俺に彼女ができた
バレー部の宮田さん
いや、かおりちゃん
ぶっちゃけ、心の中ではかおりと呼んでいる
下校の時、待ち合わせて
すでに二回も一緒に帰った
周りにバレない様に
カモフラージュしたりして
緊張して
あまり会話のラリーは続かなかったけど
きちんと家まで送り届けた
誰にも言ってなかったけど
幼なじみで何でも話せるお前にだけは教えてあげよう
浮かれてしまってたんだと思う
あ、そういえば
俺さ、ついに
何?なんでニヤニヤしてんのよ、気色悪い
実は、
じゃじゃーん
ついに、俺に彼女ができました
あ?、、彼女?
誰よ、か、え?なんで
なんで、って事ないやろ
バレー部のかおりちゃん
告白したらなんとOKですわ
ハッハッハ
あ、、そうなんだ
好きだったんだ、宮田さんのこと
まあ、あんな可愛い子と付き合えるぐらい
良い男に成長したってことよ、俺も
すでに二回も一緒に帰っちゃったわ
へえ、そうなんだね
良かったね、おめでとう
あれ?
なんでお前、泣いてんだよ
そんなに嬉しかったのかよ
いや、別に
玉ねぎが、なんか目に直で入って
『涙の理由』
ーーーあなたって、何でいつも笑ってるの?
分からない。
でも、いつも怒っているよりいいでしょう?
笑っていて、嫌な気持ちにはならないでしょう?
それとも、無表情でいて欲しかったの?
真顔で生活したら、あなたはきっと私を「無愛想」っていうでしょう?
どうしたらよかったの?
私に何を望んでいたの?
…………………
黙らないでよ。
私が悪者みたいじゃない。
そっちから嫌なこといってきたくせに。
被害者みたいに泣かないでよ。
なんだ、ただ私に文句を言いたかっただけじゃない。
私がどんな気持ちでいつも笑っているか、あなたは何も知らないくせに。
泣かないでよ。
みんな見てるから。
私は悪くない、私は悪くない。
だから、泣いている「私」を見たって私は泣かない。
なんで泣いてるかも、知らないふりをする。
だって知ってしまったら、もう笑えなくなっちゃうから。
題『涙の理由』
《涙の理由》
ルーからカレーを作ってみたくて、玉ねぎをみじん切りしてた 回らない寿司屋のわさびの本物の刺激 たまたま寄ったたこ焼き屋、部活後の寄り道と同じ味 まさか君が、祝福しに訪れてくれるとは ごめん、うれしすぎて、つい、笑いすぎた
あなたはいつも
手を替え品を替え
可愛いって
何度も言ってくれてたのに
わたしはいつも
素直に受け取れなくて
怖くって
変なリアクションばかり
いい歳して
こんな仕上がりで
ごめんね
テーマ:涙の理由