涙の理由
この田舎の中学校に赴任して弱小と呼ばれるテニス部の顧問になって3年が過ぎた。
中体連では1勝もできずに終わることが何回もあったが、今年の試合は違った。
試合には勝てなかったが、キャプテンである彼女は試合後に控え室で涙を流していた。
彼女の涙の理由
「どうして泣いているの?負けるのはいつものことでしょ。あなたたち。負けても笑って終わるでしょ。」
涙の理由は分かっていた。今年は毎日、毎日、暗くなるまでボールを追いかけていた彼女。1勝するために人一倍練習をしてきた。勝てなかったことが悔しくて悔しくて仕方がないはずた。
でも、今までは負けても「私たち弱いから」と諦めていたのになぜテニスに対する姿勢が変わったのか知りたかった。
だから、あえて訪ねる。
「どうして泣いているの?」
「勝ちたかった。隣町の幼馴染に弱いチームいて可愛そうって言われました。3年間無駄に過ごして楽しいかって。私は可愛そうなんて思われたくありません。」
「そう。でも、あなたたちテニスに対して真剣ではなかったわよね。勝てなくても諦めてたでしょ。」
「でも、でも、先生は私が試合に勝てるように考えてくれて、母も試合の時はお弁当を一生懸命作ってくれたり送り迎えもしてくれた。それなのに私は中途半端な部活動をしていました。それがすごく申しわけなくて。だから、試合に勝ってみんなの期待に応えたかった。誰にもバカにされたくなかった。ごめんなさい。先生。試合に勝てなくて、いい加減な練習ばかりして。悔しい。悔しいです。」
中学生の彼女は変わった。
試合に負けたが、周りの期待に応えるためには時には忍耐力や努力が必要なこと、そして何より試合に関わった人たちに感謝する気持ちが大切であることを彼女は学んでいた。人は1人では生きていけない。個人競技の試合であっても1人では何もできず、みんなの支えがあってこその自分に気づくことができていた。
「悔しいね。先生も悔しい。3年生のあなたは中学での試合はないけど、あなたはこの試合ですごく成長することができました。人との関わり方を学べました。もし、高校でもテニスを続けるなら、今まで以上に練習しないとね。周りへの感謝を忘れずにテニスと真剣に付き合っていけば強くなれる。あなたなら大丈夫。頑張って。」
彼女は涙を拭い、本当の笑顔で試合会場をあとにした。
今、彼女はウィンブルドンに挑戦しょうとしている。私はそのコーチとして観客席から彼女の勇姿を見守っている。
10/10/2024, 1:09:50 PM