帽子かぶって
「帽子かぶって行きなさいよ。」
幼い頃、暑い夏休みの昼下がり、友達と遊びに出かける私に母がよく言っていた言葉だ。その時は、いつもいつももうるさいと思うこともあったが、今は私も2歳になる娘に必ず帽子をかぶせてから外に出かけている。
子供も思う気持ちは昔も今も変わらない。私も少しづつ、母に近づけているのだろうか。子供のことを思い、時には厳しく、時には優しく手を差し伸べてくれた母。
1番尊敬できる存在だ。
そんな母が少しボケていている。同じことを何度も聞き返したり、家の鍵やリモコンが何処かにいったと1日中探し回っている。
そんな母に大きな声をあげて怒ってしまう事がある。怒っても仕方がないことは理解しているのに、母が変わっていくことが受け入れない。とても悲しい。
怒ったところで仕方がないなら、笑って過ごすことはできないか。母だって怒られより楽しいほうがいいはず。
「リモコン知らない。さっき使ったよ。おかしいねぇ。」
「さっきタンスの上で見た。」
「本当だ。あんた凄いねぇ。なんでも知ってるね。なんでもおばさんだ。」
「そうそう。なんでも聞いて。」
なんでもおばさんって何?まあ、母が楽しそうならいい。何度も聞かれたら何度も同じことを答えたらいい。探し物は一緒に探したらいい。
笑って楽しく、疲れない程度に遊び半分くらいでいい。
それが長続きするコツだから。
娘と母に帽子をかぶせ、3人で公園に向かう。今も母を尊敬しているが、娘と遊ぶ姿は子供のようで可愛らしい。
いつまで長生きして欲しい。
お母さん。これからもよろしくね。
小さな勇気
高校生になったらオシャレをして友達とカフェに行く。そんなことを夢みていた私は、中学の時と変わらない生活をしている。朝、学校に行き、部活にも入らなかったので、学校が終わればそのまま帰宅。
帰宅後は、母に送り迎えをしてもらい塾へ。塾から帰ってきたら夕飯を食べ、宿題をやって入浴。その後就寝。毎日同じサイクルだ。
高校生になってもなんの変化もない私だか、密かな楽しみができた。それは、前の席に座る神田さんが、席の椅子を引く時に見えるネイル。
神田さんの白い指に映えるピンクやブルー、そしてキラキラしたラメの入ったネイルの可愛さがたまらない。
もっとゆっくりネイルを見てみたい。でも、そのためには、神田さんに話しかけて許可をとらないとダメだよね。
神田さんに話しかけるのことはできるのか。いや。無理。私にはそんな小さな勇気もない。
だって、神田さんは私とは正反対でお化粧はもちろん、髪もくるくるしてて可愛いし、制服も可愛いく着こなしている。
そんな神田さんはクラスの人気者で、彼女の回りはいつも華やかだ。何もかもが私とは違いすぎる。
はぁ〜。ネイル可愛いいなぁ。
今日も神田さんの椅子を引く手を見ながらうっとりしている。ここ最近の楽しみだから仕方がない。
「え?そうでしょ。可愛いいでしょ。」
え!声が出ていたの!どうしよう!
思わず顔を上げると神田さんが満面の笑みで私を見下ろしていた。
「う、うん。すごく可愛いい。」
「ありがとう。昨日、サロンに行ってきたところなの。」
「サロン…。」
私には全く縁のないところだ。
「小林さんもネイルやってみない。小林さんの指細くて華奢だからネイルが映えると思うよ。」
「私が…ネイル。」
「大丈夫。私も行くし。そうだ。ルルちゃんも一緒に行こうよ。サロン。」
神田さんは教室の後ろで他の友達と喋っていた神田さんの友達に声をかけ、私の指を彼女に見せた。
「どうよ。ルルちゃん。小林さんどんなネイルがいいかな。」
「そうねぇ。始めてだしグラデーションとかにしてみたらどうかな。」
何か、私の指を掴み2人が会話しているが、話しに全くついていけない。
「じゃあ。帰りに寄って行こう。小林さん用事とかない。」
これは、神様がくれたチャンスだ。私を変えたと思っていた私に降って湧いたチャンスだ。そう私は変わりたいのだから。
「うん。行く。」
怖がらずにもっと早く神田さんに声を掛けていれば良かったと思うことがある。でも、今でも神田さんは、ネイルがはげるとちょっと怒りながら、一緒にサロンに行ってくれる。大切な友達だ。
「小林さん。オシャレ怠けない。」
彼女のおかげで夢みていた高校生活が送れている。今度は下の名前で呼んで欲しいって言ってみようかな。
わぁ!
会社が終わり家には帰らず、駅のコインロッカーからスーツケースを出して足早に空港に向かう。明日から三連休だから仕事帰りに旅にでることかにした。
行き先は北海道だ!
空港を出ると外は銀世界。寒い。寒い。
でも、夜でも雪がキラキラして綺麗〜。
北海道旅行の目的は、スキーでもスノボーてもない。氷のホテルに泊まること。
空港からタクシーてホテルに向かうが、その途中、タクシーの車窓から見える景色は、真っ暗だけどしんしんと雪が降っていて知らない世界に紛れ込んたみたいだ。
目的地につきタクシーを降りてホテルに向かう。雪を踏みしめ氷の門をくぐると青く輝く氷のホテルが姿をみせた。
「わぁ!すごい。本当に氷でできてる。」
天井から家具、お風呂まて氷でできたホテル。幻想的な空間で非日常が味わえる。
氷のBARで少しだけお酒を飲んでみよう。
気分はあのディズニー映画のプリンセスだ。
夜が明け、魔法が解けた。
氷のホテルでの一泊体験。楽しかったわ〜
でも、私は温かい温泉に浸かって、布団で寝たい。温泉旅館でゆっくりしよう〜と。
日本人で良かった。
終わらない物語
みんな 大好き
いつまでもみんなと一緒にいたい。
卒業なんてしたくない。
入学した時は友達ができるかなとか、勉強についていけるかなとか、いろいろ不安ばかりだったけれど、このクラスで良かった。親友の紗凪ちゃんと出会えたことは、高校生活で1番嬉しい出来事だ。
春が過ぎ、夏になると楽しい夏休みがやって来る。その前にテストもやって来る。
でも、紗凪ちゃんとクラスの子たちとの勉強合宿でテスト勉強したから赤点を取らずに済んだ。みんなのおかげ。
夏休みはアルバイトに明け暮れ、夏の終わりに行ったフェスは本当に一生忘れない。
あんなに熱い夏があることを始めて知った。フェスで知り合った人とはこれからも夏に会う仲間となった。
みんな 大好き。
秋はクラス一丸となって取り組んた体育祭で、クラスの団結力を手にした。リレーでは転んでしまった人がいたけど、みんなが励まし、応援し、なんとか最下位は免れた。
冬は寒いから、カラオケによく行ったよね。みんなで歌いまくって、次の日に喉が痛いよって言ったら、紗凪ちゃんがのど飴をくれた。ありがとう。
こんなありふれた日常がずっと続くと思っいたけど、もうすぐ卒業式。
終わらない物語なんてあるわけないのに。
それでも、続いて欲しかった私たちの物語。みんな 大好きだよ。
ずっと忘れない。
やさしい嘘
ここは、江戸の北町奉行所のお白州。
私のおっとさんが人殺しの下手人として捕まえられ、このお白州に連れてこられた。
でも違う。おっとさんは人を殺すようなことはしていない。お白州の後ろにいる加納一家の仕業だ。どうして、お奉行さまはあの連中を捕まえないのか。見ていた人もたくさんいたのに、みんな加納一家が怖くて本当のことが言えないでいる。
どうしたらいいの。
「北町奉行、東山左衛門尉さまの御成〜」
お白州にいる全ての人が頭を下げ、お奉行さまの裁きに耳を傾けた。
「平八。お前、江戸町長屋で遊び人の金さんさんって知ってるか。」
「ええ。知っております。金さんなら、全てを見ていた金さんなら、こいつらが本当の下手人だと知っています。」
「ほう。そん金さんとやらが証人と申すのだな。」
「お奉行さま。そのような者がどこにいますかな。この加納八兵衛。そのような者見たことがない。」
加納一家が次に次にがなり立てる。
「そうだ。そうだ。どこにいる。」
「いるなら出してみろ。」
お奉行さまがスッ立ち上がり、裃から肩を抜き叫んだ。
「やいやい、この見事に咲いた遠山桜。見忘れたとは言わせねえぜ。」
あれは金さんと同じ桜の入れ墨。じゃあ、遠山さまが金さん!
遠山桜をみた加納一家は、言い逃れできずに下手人として捕らえられ、おっとさんは解放された。
これが私の前世の記憶。
私は今年大学2年になるが、小学生の頃に時代劇を見ていて前世を思い出した。
こんな話しをしても誰も信じてはくれない。でも本当のこと。
だって、私の膝枕でうたた寝をしている彼は、金さんの生まれ変わりだから。
さすがに桜の入れ墨はないけれど、顔も声もしゃべり方も歩き方も全て金さんと一緒なのだ。
彼も自分は遠山の金さんの生まれ変わりだと言う。
でも、それは嘘。あなたのやさしい嘘。
私に話しを合わせてくれているだけの嘘。
私の話しをバカにせずに真剣に聞いてくれるあなたが大好き。
金さんであってもなくても、私はあなたが大好き。これからもずっと一緒にいて下さい。