晴風

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「どうして昨日、泣いてたんですか?」
 見ず知らずの男の子にそう言われた。
 わたしはつい昨日入院して、今は病院の休憩スペースのようなところで自分の荒んだ心を休めてる最中だった。たしかに昨日、わたしは泣いた。

「医師って無条件に人を救うじゃん。でもわたしにとってそれは罪だなと思って」
 こんな話見ず知らずの人に言うなんて馬鹿げてる。でも見ず知らずの人だから本音で話せる。 

「罪?」
「いやさ、救けたところで、じゃん。わたしひとり救けたところでそれで世界が変わるとか運命が動き出すとかそんなこと絶対ありえるわけないのに、なんで、そんな無価値の野郎も医者って救けんのかなって」
 一拍おいてわたしはまたしゃべる。
「そりゃ天皇とか国会議員とかお国に関わる人なら救けて良かった、俺がしたことは無駄じゃなかったって思えるじゃん。でもわたしは?わたしなんてただの死にたがりやの高校生じゃん。死にたがりやなんて救けても意味ないのに。救けられたら生きたくなるじゃんね」

 わたしの言葉、多分伝わらないんだろうな。まあ、共感がほしくて応えたわけじゃないんだけどね。なんというか、話を聞いて欲しかった、それだけ。

「これがわたしの泣いた理由だよ」


――涙の理由

10/10/2024, 1:21:40 PM