『泣かないよ』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
『パンジー』
目の前には倒れている彼。と、その傍で心配そうに彼の手を握る男の人。
「大丈夫か…!?おい…!」
その男の人が彼に呼びかける。…もう、意味ないのに。
私は彼の元に歩み寄る。カツンカツンと自分のヒールの音がやけに響いた。
男の人はこんなにも近くにいる私のことに気づいていないみたいだ。…まぁ、そっか。私は"あっち"の人間だから、"こっち"側の人間は認識出来ない。
彼の頬を触る。いつの日にか触った温度が恋しいと思う程に、彼は冷たかった。
「馬鹿…」
そんなことを言っても虚しいだけだ。彼が目を開けることはもうない。
「泣かないよ。泣いてなんか…あげない。」
そう呟き、彼の傍に花を添える。可愛らしい紫の花が小さく揺れた。
立ち上がり、彼に背を向ける。もう、2度と振り返ることはないだろう。
「さようなら、嘘つき」
【泣かないよ】
泣かないよ
友達と旅行
歩き回る
私だけ体力がないのですごくしんどい
しんどいので楽しくない
楽しくないので帰りたい
なんなら実家に帰りたい
でも泣かないよ、泣きそうだけど
それだけでえらいじゃないか
泣いて、泣いて、泣いて
涙が枯れるまで、泣いて。
涙が出なくなったら、その時、君に言ってみよう。
「泣かないよ」
泣かないよ。
青い瞳の来客編1
なかなか、立派なホテルじゃないか!
駐車場は広いし、過ごしやすそうだな。
噂では男の人がエサをくれるらしい。
俺達にとって貴重な存在だな…。
ここはサバトラ猫の縄張りだったが、奴はもう放棄したようだ。
なら今日から俺の縄張りとするか。
先ずはこのホテルを偵察だ。
野良猫は駐車場をゆっくり歩いている。
野良猫の目は澄んだ青い瞳、頭に黒いライン、
体には白と茶色の模様がある。
猫種:タ−キッシュバン。
トルコ猫の別名を持つ。
トルコ猫は塀に登って、駐車場の屋根に跳び乗り、
倉庫に跳び移った。
華麗な身のこなしだ。
トルコ猫は倉庫の屋根からホテルを観察している。
人の往来が多い。
車も沢山停車している。
走行時は気をつけないと、車に轢かれたら一発アウトだ。
それで俺の仲間達が大勢死んでいたからな……。
うん!?塀の内側に猫しか通れない狭い通路があるな…。
いざとなったらここから逃げるとしよう。
トルコ猫は逃走経路などホテルの情報を頭に叩き込んだ。
よし、こんなもんでいいだろう。
倉庫から降りて、寝床を探すか。
トルコ猫は倉庫の屋根の端から駐車場の屋根に跳び移ろうとした。
しかし、体が動かない。
駄目だ!怖くて跳べない!
倉庫の屋根と駐車場の屋根は2mほどの段差がある。
猫は高い所に登るのは得意だが、高い所から低い所へ降りるのは苦手なのだ。
トルコ猫は他に降りる場所がないか探した。
しかし、見つからなかった。
しまった!倉庫から降りれない!!
俺は一体、どうすればいいんだ?
泣きたいよ!!!
次回に続く?
泣かないと泣けないはちがう
いつの間にか泣くのは悪い、弱いことって思って我慢する人が増えてるように思う。でもほんとは、周りを納得させられるような理由がなくても泣いていいし理由がなかったとしても涙が出てくるならそれでいいと私は思う。心の奥では泣きたいけどこんなことで…とか大人なのにって気持ちがよぎって我慢するしかない。それは、泣かないって決めた強さじゃなくて本音を抑え込むしかなかった環境と強がりが邪魔してるんだと思う。本当の強さがなんなのか それは誰にも分かんないし、人それぞれだけど自分の気持ちに蓋をせず吐き出せる場所を見つける
つくること。これが積み重ねてきた我慢から心を解放する第一歩なんじゃないかな
「泣かないよ」
『泣かないよ』
泣かないって決めたの
泣かないって約束したもん
強い子になるって約束したらか
だから
ちょっとトイレが多いだけ
綺麗好きだから顔をよく洗うだけ
鍛えるために枕を頭突きしてるだけ
最近かくれんぼが得意なだけ
泣かないって、約束したもんね!
僕、ちゃんと守ってるよ!
〜シロツメ ナナシ〜
「卒業式?泣かないよ笑
なんで俺がお前のために泣かないといけねんだよ笑」
「君はいつまでもひどいなぁ笑」
他愛のない会話をしながら帰った2月28日。
中学からずっと一緒だったたった一人の親友(?)と笑いながら、いがみ合いながら(笑)帰った卒業式の前日。
俺たちは晴れの門出を待ちに待ちながら、帰路に着いた。
「っ…うぅっ…」
「何泣いてんだよ笑泣かないって言っただろぉ?」
俺の足元で親友は嗚咽をあげるほどに泣きじゃくっている。
俺はしゃがみ込んで彼の顔を覗き込むが、俺を見る事も跳ね除ける事もせず泣き続けている。
「なんで…なんでぇ…!」
「なんでもクソもねぇだろ笑」
辺りを見回すと、父さんも母さんも、担任のいけすかない先生も皆んな泣いていたり悲しい顔をしていたり。
水臭いったらないなぁ。
少なくとも、お前以外の人間は嬉しいだろぉ?
皆んなが望んでた事じゃねぇか!
俺の素晴らしい旅立ちを目に刻んでくれよぉ〜。
文字通り綺麗だったと思うぜ〜。
『昨日23時50分頃、〇〇市〇〇区〇丁目の雑居ビルの前で死体が発見されました。遺体は、身元が判別出来ない状態で、警察は身元判別を急ぐとともに、自殺として捜査を進めている方針です。』
泣かないで
積み立てNISAは数年くらい前から始めてたんだけど最近個別株にも手を出してみた。
初めての個別株ということでいろいろわからないことだらけのまま手を出したからこれが大失敗。イラン戦争のこともあって結構な損切りをしてしまった。
割りと泣きたいほどの損切りをしたけどこれも必要なことと考えてのこと。しかたながない。
手を出した個別株はどれも強いテーマと企業だからしばらくすれば株価は戻ったはずなんだけどね。事情があって長期保有ができないから損切りとなった。
今回の敗因はイラン戦争でタイミングが悪かったこと。ただそれは大した問題じゃなくて一番の原因は自分を理解していなかったことだ。
目的とかやりたいこと。そういう自分の方針を決めないまま適当に株を選んで大敗してしまった。
株に限らずなにかを始める時はまず自分を理解する必要がある。今回はそのことを痛感させられた。
"泣かないよ"
一向に悲鳴をあげないし涙も流さないもんだから、
"痛覚ねぇのかよ、気味悪ぃ"なんて言われたっけ。
痛いに決まってるだろ。
単に、あんたを喜ばせる反応なんかしてたまるか、という意地なんだよ。
前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が家族で仲良く暮らしておって、
そのうち末っ子の子狐は––もちろん子狐だけでなく、それはお父さん狐にもお母さん狐にも、すべからく為されることなのですが、
ともかく、致死率100%の恐ろしい病気・狂犬病を人間にうつさないように、
そしてなにより自分が狂犬病にかからないように、
狂犬病ワクチンをペット注射に先駆けて、プスリする必要がありまして。
「うぅー!うぅー!」
やだ!注射、やだ!
コンコン子狐は痛いのが大嫌い!
稲荷狐のチカラで消毒用アルコールを大吟醸の御神酒に変えたり、
子狐の体温を計測しようとしてくる手にガブチョ、噛みつこうとしたり、
ジタジタばたばたお手々もあんよも体もくねらせて、保定なる拘束を解こうとしたり。
要するに、全力で抵抗しておるのです。
おやおや子狐、注射が怖くて、泣きそうです。
「なかない!キツネなかない!泣かないもん!」
いつぞやは涙がパタパタあっちこっち散らばり落ちて、診療台に涙の星座を描いたものです。
「ちがう!ちがう!キツネないてない!
泣かないもん!キツネつよいもん!」
ギャギャッギャ!ぎゃんぎゃん!ギャーギャッ!!
子狐はもう、それはそれは暴れて暴れて、
いっちょまえに稲荷狐の秘術など使いますので、
「こういう系」を専門とする獣医などは、なかなか苦労が多かったりするのです(泣かないよ)
「こぎつね」
コンコン子狐を予防接種に連れてきたオッサンが、淡々と語りかけます。
「やだ!やだ!あっちいけ!ちゅーしゃヤダ!」
子狐としては、もう処置室に居る人間ぜんぶが敵です。悪い人間です。
尻尾をピッタリ隠して目をカッと開いて、泣きそうな顔で吠えています。
「ないてない!泣いてない!あっちいけ!」
「子狐」
「うぅ!!うぅー!!」
「聞け、子狐。狂犬病はとても危険な病気だ。
海外では犬だけでなく、お前の仲間も、この病気で苦しんで犠牲になっている」
「ヤダったらヤダ!」
「……」
やぁやぁ!えいやあ!たたってやる!
病院の処置室で純米酒だのどぶろくだの、大吟醸だのを量産する子狐です。
稲荷子狐の不思議なチカラで、あっちもこっちも良い香り。呑んべぇには堪りません。
今週末は公園か神社で、花見酒の飲み放題です。
「子狐」
稲荷子狐を病院に連れてきたオッサンが、再度、子狐に語りかけます。
だいたいこの年頃の子供というのは、ちゃんとしたゴールと相応の報酬を用意してやれば、
だいたい60%ほどの確率で、聞き分けるのです。
「予防接種が終わったら、おまえの大好きな肉と油揚げと豆腐と餅がどっさり待ってるぞ」
「おにく おあげさん」
「そうだ」
「おにくどっさり。おあげさん、どっさり」
「そうだ。 我慢できるか」
「する!」
うぅ!うぅー!
食いしん坊の子狐は、お肉と油揚げとお豆腐と、それからお餅のご褒美につられて、こやん!
予防接種のひと刺しに、頑張って耐えました。
「キツネ、えらい!
キツネ、泣いてない!」
予防接種の証明書を貰って、病院からのご褒美のちぅーるも貰って、
自認としては泣いてない子狐も、少しご機嫌。
「おにく!」
あとはオッサンの自腹で美味しい和牛ステーキと、最高の稲荷寿司と厚揚げと、お餅と湯豆腐と冷や奴と、ともかく稲荷狐の贅沢コースをばくばく!
幸福に、堪能しましたとさ。
泣かないよ
「弱くてもいい」と貴方は私に言ってくれた。
何だかとても温かい気持ちになった。
だから必死で涙をこらえた。
泣かないよ。私は。
想い人の前で、そんな恥ずかしいことできないよ。
泣かないよ
泣かないよ
わたしは強いから
泣かないよ
泣いてもしかたないから
泣かないよ
だれも気がついてくれないから
泣かないよ
どうやって涙を流せばいいのかわからないから
泣かなくても
泣いている
泣かないよ
泣くわけないじゃん。
どうしてそうなるか知りたいもの。
人の心と行動は不思議
喜怒哀楽…よくわからないから、知りたいんだ。
どうして、そんな顔しているの?
泣きそうな顔しているから心配?
そうかな?
フゥ。この世界は哀しい事の方が多いのか?
涙コレクションが偏っているみたいだ。分析器壊れた?
涙コレクション溢れたら、今以上に涙が増える。
だから、涙はこぼさない。
引き受けられるうちは。
「ぼく、なかないよ。」
椅子に座った彼は、私の目をまっすぐ見つめてそう言った。両膝の上に置いた手をぎゅっと握りしめながら。
まだ3才にも満たないのに、しっかりした口調だった。私は彼の手を取り、ただ頷いた。必死で何かを守ろうとしている、そんな緊張感が彼の周りに漂っていた。
彼は、両親を事故で亡くしたばかりだった。初めての家族旅行の帰り道、居眠り運転のトラックに真正面から追突されたのだ。車の損傷は酷く、両親は即死だった。後部座席に座っていた彼だけが、かすり傷のみで生き残ったのは、奇跡としかいいようがない。
両親が目の前で死ぬ光景を彼は見ていたのだろうか?
眠っていて、気づいたら事故にあっていたのだろうか?
そのことについては、まだ誰も彼に尋ねていない。
私は彼が好きなココアを入れた。
彼はカップを手に取り、ゆっくりと飲み始める。
「すぷーん、ある?」
彼は私を見た。ああ、そうか、彼はスプーンでココアをすくって飲むのが好きだったな。
私の姉である、彼の母親は、ココアを入れるのが本当に上手だった。丁寧に時間をかけて作られたココアは、いつも大きめのカップに注がれた。量がたっぷりあるため、彼は木製のスプーンでゆっくりすくって飲んでいたのだった。
私も姉のココアが好きだった。飲んでいるうちに、日々のモヤモヤが溶け、心がじんわりとあたたかくなる、魔法のようなココアだったから。
「木のスプーンじゃないけど、これどうぞ。」
私は、彼に銀色のスプーンを差し出した。それは、彼の誕生の時、記念に作ったから、と姉からもらったものだった。彼はそれに気づいたのか、じっとスプーンを見ていた。
「これ、うちにもあるよ。」
スプーンを私の方に見せながら、彼は言った。
「ままがみせてくれた。ぼくのうまれたおいわいだって。」
そういって、彼はスプーンを握りしめた。
そして、ぽつり、ぽつり、と話し始めた。
「ぱはとままと、おとまりうれしかったんだ。」
「うみ、おっきかったよ。」
「あのね、おさかながたくさんいるとこもいったよ。」
「ごはんもすごくおいしかったよ。」
「ぱはとままとぼく、みんなずっとわらってたの。」
「たのしかったの。」
「とっても。」
「ぼく、ないたら、たのしかったの、うそになっちゃうでしょ。」
「だから、なかないよ。」
「ぱはとままとずっとわらってるの。」
「だから、なかないよ。」
握りしめたスプーンをテーブルに置いて、彼は下を向いた。
きっと、事故にあう直前まで、彼らは笑っていたのだろう。その思い出を消さないために、彼は「泣かない」ことにしたようだった。
あまりにもつらく、悲しくて、私はどうすることもできず、ただ彼を抱きしめることしかできなかった。
『泣かないよ』
昔の彼女は負けず嫌いで泣き虫だった、らしい。
幼少期の彼女をよく知る元婚約者という立場の相手から、得意げにそう言われた。
どうしても、彼女が俺と交際している事実を認めたくないらしい。
幼い頃の彼女のことを知りようもない俺に対して、彼がマウントを取りにきた。
俺としてもことと次第では全面戦争を辞さない覚悟でいたが、そんな彼の言葉につい心を弾ませてしまう。
「あ、やっぱりそんな感じだったんですか?」
*
「今日、あなたの元婚約者にお会いしましたよ?」
自宅で出迎えてくれた彼女に、俺は開口一番、今日の出来事を告げた。
すると、形のいい彼女の眉毛が不機嫌に歪む。
「言い方。そんな大げさなもんじゃないってば」
電気ケトルに水を入れた彼女は、そのままスイッチを入れた。
キッチン戸棚に手を伸ばした彼女の代わりに、お揃いで買ったマグカップをふたつ取り出す。
彼女のマグカップにはインスタントの味噌汁を、俺のマグカップにはドリップコーヒーをセットした。
「俺がいないことをいいことに、お互い18歳になっても好きな人ができなかったら結婚しようね♡ なんて約束してたクセしてとの口が言いますか」
「当時はれーじくんと出会ってすらいないし、そもそも、そんな約束をした記憶もねえよ」
隣に立つ彼女をむぎゅむぎゅと抱きしめると、心底うっとうしそうにため息をつかれた。
「それで?」
「え?」
彼女が本題を切り出そうとした瞬間、電気ケトルのお湯が沸く。
モゾモゾと俺の腕から抜け出した彼女が、マグカップにお湯を注いだ。
「どうせ勝手にマウント取られた気になって、いじけて帰ってきたんでしょ?」
「いじけてません。嫉妬でどうかしそうだったので、どうあなたを抱いて甘やかして癒されてやろうか考えながら帰宅しました」
「最低」
「俺が年下というだけで、あなたの初めての彼氏も初めての婚約者も俺でないとか……ありえなくないですか?」
「年下関係ないし、なんだよ、初めての婚約者って。婚約の破談が何度も何度も続いてたら私がヤバいヤツだろうが」
彼女がヤバいのは事実だ。
そのかわいさは、確実に他人の人生に大きく干渉するから、いい加減にしてほしい。
「俺にもなにかください」
「は?」
「あなたの初めてをください!」
「くださいって言われても……」
「なにためらってんですか。この流れと勢いは俺と結婚するところでしょうが」
瑠璃色の瞳を泳がせながら思考を巡らせていた彼女の表情が、俺が本音を滑らせたせいでスンッと消える。
「今のその発言のせいで、流れと勢いは消し飛んだからな?」
「なぜですか!?」
コーヒーと味噌汁、それぞれふたつのマグカップを手に、彼女はひょこひょことリビングまで移動した。
「それより、なに言われてきたの?」
「ああ」
ソファに座り、コーヒーを口に含みながら俺は彼から得た収穫を打ち明ける。
「あなたが昔は泣き虫だったってことを知りました」
「え、怖。なに話してくれてんの? は? 待って。れーじくん、逆によくそんな話題を引き出してきたな? ウソ!? 怖っ」
「最初こそ、答え合わせができてスッキリはしたんですけどね……」
なんなら、現在の彼女の行動理念の答え合わせも兼ねて、幼少期のことを根掘り葉掘り聞き出しては、俺が勝手に舞い上がったまである。
とはいえ、だ。
「俺が知りようもない、あなたの幼少期のカードを悪びれることなくいけしゃあしゃあと切ってくる行為は純粋にムカつきます」
「れーじくんが懸念してるような感情は彼にはないと思うけど」
「恋愛感情抜きにしたって、彼はあなたのことが好きでしょう」
敬愛、友愛、親愛いずれにしても彼女を好意的に思っていることには変わりない。
俺の器量の問題でしかないが、そこに恋愛が含まれようがいなかろうが、その事実に嫉妬せずにいられなかった。
それに、人の感情は些細なことで移り変わる。
いくら顔見知りとはいえ、元婚約者である彼のことを信頼するほど関係を築いてきてはいないのだ。
「でも、どこで私が泣き虫だって思ったの? 自分で言うのもアレだけど、人の心ないのかとかよく言われるし」
「……」
それは彼女が元気にコートの内側に立ったときに限った話だろう。
実力が拮抗している対人戦において勝ちを掴むのは、だいたい性格の悪いヤツだ。
「俺に抱かれてるときはグズグズ泣くじゃないですか」
「はああっ!?」
「ほら。今も。ちょっと図星を刺されてこんなに顔を真っ赤にして。恥ずかしくなって少し泣きそうになってますよね?」
「……う……」
しどろもどろになりながらも、彼女は羞恥で震えた唇を動かす。
「きょ、今日は、……泣かない、よ……」
……へえ。
「今日、抱いてもいいんですね?」
「えっ!? だ、だって最初に……」
「でも、最低と言われてしまったので♡」
「……ずっる……」
ずるいのはどっちだ。
こっちはマグカップを持っていなければ、そのままソファに押し倒すところだったんだぞ。
今にも溢れてしまいそうなほど涙を溜めていることを、彼女は自覚しているのだろうか。
薄膜に光る瑠璃色の目元に、俺はそっとキスを落とした。
泣かないよ
「卒業式ってさぁ、泣く?」
先輩たちの卒業式を終えて、部室で散らばったものを片付けようと腰を上げたところで一人が声を上げた。
「なにそれ」
おセンチかぁ?と揶揄い混じりに隣に座っていた人物に小突かれた発言者は、だってさぁ、と立ち上がりながら言った。
「卒業しちゃったらさ!もういつもみたいに会えないんだよ?そんなのさぁ、なんか、寂しいじゃん」
おっ、嬉しいことを言ってくれる。
私はちょっと感心してしまった。
もちろんそういった友との日々を憂いや感謝を込めて泣いてしまうということはあるだろうが、自分の友人もそう思ってくれていたのか、と。
隣の人物に小突かれすぎて少しむすりとしてしまった友人は危惧しているのだ。
自分たちもあと一年もしたら卒業する事になる。
そうなった時に、今の関係が壊れてしまうのが怖いのだ。
揶揄いすぎたか、と困り顔のもう一人の友人と目が合う。
私は友人に目配せして不機嫌顔の友人を二人で取り囲み、両隣からサンドするように軽いタックルを喰らわせた。
「うわぁ!なになになに⁈」
一気にびっくり顔になった友人を見て仕掛け人側の私は諭すように、もう一人の友人は呆れたように言った。
「俺は泣かないかな。だって泣く理由が無い」
「私も泣かないねー。大体想像してご覧よ?ウチらゼーったい卒業しようが、おじおばになろうがサイゼに入り浸るでしょーが」
だから卒業したっていっしょだよ!
2人の声が思わず重なり、感心してたらもう一人の友人は泣き出してしまった。
あらら、結局泣いちゃった。
***
やっぱりこのシーズンなので…。
本当にあの時に友人になってくれた人たちを大切にしていきたい。
「泣かないよ」
私は人の前では泣かない。
泣きたくない。
泣くという情けない姿を見せたくないからだ。
そんな私でもあなたの前では泣いていいと思えた。
そう思えるほど貴女の事が身近だった。
貴女にだけ心を許す事ができた。
そんな貴女は私の前からいなくなってしまった。
私の悩みは、苦しみは
誰に話せばいいのだろうか。
私の辛さは誰が分かち合ってくれるのだろうか。
そんな人は私にはいなくなってしまった。
貴女がいなくなってから何度人に裏切られただろうか。
何度も何度も裏切らた。
その度に人を信じられなくなっていく。
それでも貴女だけは信じている。
貴女だけは嫌いになれない。
そんな私。
泣かないよ
大笑いしている時
目の端に
滲んでくる涙
感情の袋の中
人より水分が多く
犬がブルッと
水気を飛ばすように
細かい飛沫が
まわりに飛び散るだけなんだ
ハッとした顔で
私を見なくても
大丈夫だから
「ところで」
「ところで?」
「なんとなく女性文脈だね。男性文脈だとそもそも泣くことは許されてない気がするからね」
「なるほど?」
「だから上を向いて歩こうがあるんじゃないかな?」
「なるほど。つまり前提の文脈がある」
「そうだね。そして泣かないよは泣いても良いが含まれている感じがあるね」
「でも男でも泣かないのが当たり前だから泣かないよもあるんじゃないかなー?」
「はっ!」
お題『泣かないよ』
近頃、涙の値段が上がってきた。
涙一回、1200円。
クソ高い訳ではないが、出すかどうか少し迷う金額だ。
1200円もあれば、映画一本とか、サイゼリヤで豪遊とかできるだろ。
二時間、他人の人生を眺められる。
腹いっぱいにもなれる。
それと引き換えに、数分の嗚咽だ。
そんなことを帰り道に考えていた。
黒いスーツは体を締め付けていた。
ぼんやりと歩く。
ジャリ、コツ、コツ、ジャリ。
足音とアスファルトの欠片の音を聞いていた。
よく分からないけど楽しかった。
悲しい感情を出すことに金を使うぐらいなら、楽しいことに突っ込みたいと思うのは俺の性格のせいなのだろうか。
と、ふと思った。
数珠がポッケの中でじゃらじゃらと音を立てている。
喉が乾いて、自販機を探した。
水1本100円。
全く、水を入れるだけでも金がかかるのに、出すのまで金がかかるなんてたまったもんじゃない。
ボタンを押して、取り出し口に手を伸ばす。
ベコベコとしたペットボトルは、冷たかった。
財布の中は、1000円札何枚かの中に5000円札がしれっと入っているだけだった。
1000円札を2枚手に取る。
これを払って、残るのは800円。
1000円札を財布に隠した。
香典で結構持ってかれたなぁ。
11200円。
これが香典の定価とAIが教えてくれた。
涙の費用さえなければ10000円で良かったのにな。
じいちゃん、楽しそうだった。
異様に大きな木の箱に入ったじいちゃんは、俺らに見せる笑顔とはまた違う顔をしていた。
単調なお経が耳を反響する。
シクシクとすすり泣く音が聞こえた。
1200、1200、1200、、、
そう、言い聞かせてお経に集中した。
意味は、分からなかった。
暗い道を歩く。
ぼんやりと光る街灯が誰もいない所を照らしている。
慣れないビジネスシューズで歩いてたせいか、足が痛い。
歩く。
疲れる。
じいちゃんの顔を思い出す。
歩く。
疲れる。
お経が頭の中で反響する。
歩く。
歩く。
誰もいないじいちゃんちを思い出す。
言いようも無い気持ち悪さが胸を押し付けている。
上がってこようとするそれを抑える。
目頭がゆっくりと熱くなるのを感じた。
目を閉じて、冷やそうとする。
気持ち悪さが胸の中を床に落としてしまった水のように、広がっていく。
1200、1200、1200、、、
数字を頭の中に埋め尽くす。
泣いてはいけない。
泣いてはいけない。
それをするには課金をしなくちゃ。
俺にそこまでの余裕はないだろ?
ないてはいけない。
ないてはいけない。
ゆっくりと、気持ち悪さが引いていく。
静かになった暗い夜道。
独り言のように呟いた。
「俺は泣かない。」
涙1回1200円。
そんな勿体ないことは出来ないから。