『パンジー』
目の前には倒れている彼。と、その傍で心配そうに彼の手を握る男の人。
「大丈夫か…!?おい…!」
その男の人が彼に呼びかける。…もう、意味ないのに。
私は彼の元に歩み寄る。カツンカツンと自分のヒールの音がやけに響いた。
男の人はこんなにも近くにいる私のことに気づいていないみたいだ。…まぁ、そっか。私は"あっち"の人間だから、"こっち"側の人間は認識出来ない。
彼の頬を触る。いつの日にか触った温度が恋しいと思う程に、彼は冷たかった。
「馬鹿…」
そんなことを言っても虚しいだけだ。彼が目を開けることはもうない。
「泣かないよ。泣いてなんか…あげない。」
そう呟き、彼の傍に花を添える。可愛らしい紫の花が小さく揺れた。
立ち上がり、彼に背を向ける。もう、2度と振り返ることはないだろう。
「さようなら、嘘つき」
【泣かないよ】
3/18/2026, 7:25:42 AM