近頃、涙の値段が上がってきた。
涙一回、1200円。
クソ高い訳ではないが、出すかどうか少し迷う金額だ。
1200円もあれば、映画一本とか、サイゼリヤで豪遊とかできるだろ。
二時間、他人の人生を眺められる。
腹いっぱいにもなれる。
それと引き換えに、数分の嗚咽だ。
そんなことを帰り道に考えていた。
黒いスーツは体を締め付けていた。
ぼんやりと歩く。
ジャリ、コツ、コツ、ジャリ。
足音とアスファルトの欠片の音を聞いていた。
よく分からないけど楽しかった。
悲しい感情を出すことに金を使うぐらいなら、楽しいことに突っ込みたいと思うのは俺の性格のせいなのだろうか。
と、ふと思った。
数珠がポッケの中でじゃらじゃらと音を立てている。
喉が乾いて、自販機を探した。
水1本100円。
全く、水を入れるだけでも金がかかるのに、出すのまで金がかかるなんてたまったもんじゃない。
ボタンを押して、取り出し口に手を伸ばす。
ベコベコとしたペットボトルは、冷たかった。
財布の中は、1000円札何枚かの中に5000円札がしれっと入っているだけだった。
1000円札を2枚手に取る。
これを払って、残るのは800円。
1000円札を財布に隠した。
香典で結構持ってかれたなぁ。
11200円。
これが香典の定価とAIが教えてくれた。
涙の費用さえなければ10000円で良かったのにな。
じいちゃん、楽しそうだった。
異様に大きな木の箱に入ったじいちゃんは、俺らに見せる笑顔とはまた違う顔をしていた。
単調なお経が耳を反響する。
シクシクとすすり泣く音が聞こえた。
1200、1200、1200、、、
そう、言い聞かせてお経に集中した。
意味は、分からなかった。
暗い道を歩く。
ぼんやりと光る街灯が誰もいない所を照らしている。
慣れないビジネスシューズで歩いてたせいか、足が痛い。
歩く。
疲れる。
じいちゃんの顔を思い出す。
歩く。
疲れる。
お経が頭の中で反響する。
歩く。
歩く。
誰もいないじいちゃんちを思い出す。
言いようも無い気持ち悪さが胸を押し付けている。
上がってこようとするそれを抑える。
目頭がゆっくりと熱くなるのを感じた。
目を閉じて、冷やそうとする。
気持ち悪さが胸の中を床に落としてしまった水のように、広がっていく。
1200、1200、1200、、、
数字を頭の中に埋め尽くす。
泣いてはいけない。
泣いてはいけない。
それをするには課金をしなくちゃ。
俺にそこまでの余裕はないだろ?
ないてはいけない。
ないてはいけない。
ゆっくりと、気持ち悪さが引いていく。
静かになった暗い夜道。
独り言のように呟いた。
「俺は泣かない。」
涙1回1200円。
そんな勿体ないことは出来ないから。
3/18/2026, 3:20:57 AM