かたいなか

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前回投稿分からの続き物。
最近最近の都内某所、某稲荷神社敷地内の一軒家に、人に化ける妙技を持つ化け狐の末裔が家族で仲良く暮らしておって、
そのうち末っ子の子狐は––もちろん子狐だけでなく、それはお父さん狐にもお母さん狐にも、すべからく為されることなのですが、
ともかく、致死率100%の恐ろしい病気・狂犬病を人間にうつさないように、
そしてなにより自分が狂犬病にかからないように、
狂犬病ワクチンをペット注射に先駆けて、プスリする必要がありまして。

「うぅー!うぅー!」
やだ!注射、やだ!
コンコン子狐は痛いのが大嫌い!
稲荷狐のチカラで消毒用アルコールを大吟醸の御神酒に変えたり、
子狐の体温を計測しようとしてくる手にガブチョ、噛みつこうとしたり、
ジタジタばたばたお手々もあんよも体もくねらせて、保定なる拘束を解こうとしたり。
要するに、全力で抵抗しておるのです。

おやおや子狐、注射が怖くて、泣きそうです。
「なかない!キツネなかない!泣かないもん!」
いつぞやは涙がパタパタあっちこっち散らばり落ちて、診療台に涙の星座を描いたものです。
「ちがう!ちがう!キツネないてない!
泣かないもん!キツネつよいもん!」

ギャギャッギャ!ぎゃんぎゃん!ギャーギャッ!!
子狐はもう、それはそれは暴れて暴れて、
いっちょまえに稲荷狐の秘術など使いますので、
「こういう系」を専門とする獣医などは、なかなか苦労が多かったりするのです(泣かないよ)

「こぎつね」
コンコン子狐を予防接種に連れてきたオッサンが、淡々と語りかけます。
「やだ!やだ!あっちいけ!ちゅーしゃヤダ!」
子狐としては、もう処置室に居る人間ぜんぶが敵です。悪い人間です。
尻尾をピッタリ隠して目をカッと開いて、泣きそうな顔で吠えています。
「ないてない!泣いてない!あっちいけ!」

「子狐」
「うぅ!!うぅー!!」
「聞け、子狐。狂犬病はとても危険な病気だ。
海外では犬だけでなく、お前の仲間も、この病気で苦しんで犠牲になっている」
「ヤダったらヤダ!」

「……」

やぁやぁ!えいやあ!たたってやる!
病院の処置室で純米酒だのどぶろくだの、大吟醸だのを量産する子狐です。
稲荷子狐の不思議なチカラで、あっちもこっちも良い香り。呑んべぇには堪りません。
今週末は公園か神社で、花見酒の飲み放題です。

「子狐」
稲荷子狐を病院に連れてきたオッサンが、再度、子狐に語りかけます。
だいたいこの年頃の子供というのは、ちゃんとしたゴールと相応の報酬を用意してやれば、
だいたい60%ほどの確率で、聞き分けるのです。
「予防接種が終わったら、おまえの大好きな肉と油揚げと豆腐と餅がどっさり待ってるぞ」

「おにく おあげさん」
「そうだ」
「おにくどっさり。おあげさん、どっさり」
「そうだ。 我慢できるか」
「する!」

うぅ!うぅー!
食いしん坊の子狐は、お肉と油揚げとお豆腐と、それからお餅のご褒美につられて、こやん!
予防接種のひと刺しに、頑張って耐えました。

「キツネ、えらい!
キツネ、泣いてない!」

予防接種の証明書を貰って、病院からのご褒美のちぅーるも貰って、
自認としては泣いてない子狐も、少しご機嫌。
「おにく!」
あとはオッサンの自腹で美味しい和牛ステーキと、最高の稲荷寿司と厚揚げと、お餅と湯豆腐と冷や奴と、ともかく稲荷狐の贅沢コースをばくばく!
幸福に、堪能しましたとさ。

3/18/2026, 5:32:16 AM