『沈む夕日』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
断崖絶壁でおこった断罪劇は誰一人失うことなくその幕を閉じた。
幼い頃から苦しめられてきたが、健気に生きてきた少年。
その少年を守ろうとして密かに手を貸していたが、ついに悪事に手を染めてしまった老人。
その老人の悪事を紆余曲折ありながらも解決に導いた余所者の青年。
自らの罪を認め少年の足枷になるまいと断崖から身を投げようとした老人を間一髪で助けた刑事。
全てが怒涛の連続であったが、なんと助けられた老人が急に狂ったように笑い出したのだ。
何事かとどよめく周囲をものともせずに、刑事を振り払った老人はどういう技術なのか全く分からない早業で身につけていたものを脱ぎ払うと全くの別人となって自らを怪盗と名乗った。
怪盗は先程までの老人のものとは違う若々しい声で余所者の青年を褒めたかと思えば不適な忠告をしたあと、少年へ意味ありげな優しげな視線をやる。
そしてそのまま怪盗は素早い動きで沈む夕日の向こうへ飛び立っていったのだ。文字通り、飛び立っていったのだ。
いや、怪盗がちょっと長めに話しているその間に刑事も止めに入ればいいのだが、何故か目を見開いて怪盗の名前らしきものを叫ぶだけだ。どうやら有名な怪盗らしい。
遠くサイレンの音が聞こえ、刑事の部下らしい人が老人を連れてきた。
この老人はどうやら本物らしい。少年が潤んだ瞳で老人の胸に飛びつき、老人は訳がわからないようではあるがとりあえず少年を抱き締めて宥めてやっている。そりゃそうだ。急に連れてこられて理解できるわけないものな。
見ていたはずのこちらも訳が分からない。
余所者の青年は夕日に消えた怪盗の方向を向いていたかと思えば、踵を返してどこかへと向かっていく。
刑事は怪盗の登場を何処かへと伝えたあと、捜索に力を入れるようで部下たちに指示を出している。
結局、暴かれた悪事は老人が行ったのか怪盗が行ったのか有耶無耶なような気がするが、自分もまた捜索を指示された警察官の姿なので言われた事に従う事にした。
さっさと消えてしまう算段もとらなければ。いつまでもここに居たらこちらの気が狂いそうな気がしてくるのだから困ったものだ。
確かに頂くものは頂いたが、今回の仕事は割に合わない気がしてならない。
“沈む夕日”
[沈む夕日]
もう昼が終わり夜になる。
もうすぐ1日が終わる。
「沈む夕日」
生まれ育った街のはずれにあるこの丘で、何度見たことだろう。
家族と、友達と、そして君と。
美しく沈む夕日を。
「明日は晴れそうだなぁ」って父さんは言ってたっけ。
あいつは「またここで遊ぼう」って。
君は「目玉焼きの黄身みたいでおいしそう」なんて言って。
ここでたくさん笑って、たくさんいい思い出ができた。
なのに、なのに。
壊された。故郷が、思い出が、家族が、友達が、君が。
壊されたんだ。
なんでもこの辺り一帯には、兵器を開発するのに役立つ鉱物が大量に眠っているらしい。
だからここが戦場になるかもなんていう噂があった。
でも僕は、みんなはそんなはずないだろう。そう思っていつもと変わらない日常を過ごしていたんだ。
だからみんな逃げ遅れた。
突如としてどこかの国の軍隊がこの街に侵略して、街を焼き滅ぼした。
この街は、住民たちのために綺麗に整備されていた。
それが仇となりあっという間にこの街は火の海と化したんだ。
僕の家も、大好きな街並みも、時計台も。
全部ぜんぶ。
灰になった。
生きている住民は、たまたまこの丘に来ていた僕だけになってしまった。
僕はただ、焼けた街と沈む夕日を見つめることしかできなかった。己の無力さを呪うことしかできなかった。
僕は絶対、絶対に許さない。
沈む夕日の色は絶望の色。
そして決意の色。
僕は一番星に誓った。
この街を滅ぼした奴らに、必ず復讐すると。
沈む夕日
また今日が終わってしまう。
そう思いながら夕日を眺める日々。
沈む夕日を見ながら、いつもため息を漏らす。
明日こそ上手く生きられますように。
いつもそう願いながら、夕日を眺める日々。
薄明に渡り鳥を旅立たせ
寝床から無情に引き離し
新たな出発も渋る一歩も促す朝の光
それぞれの一日を
くり返し くり返す わたしたちを
天高くから見守る太陽が
今日も水平線の彼方に沈む
さようなら また明日
#沈む夕日
どこか懐かしいような
赤い世界の向こう側
さようなら さようならと
明日を約束する声が聞こえてくる
帰ろう 帰ろう
隘路の影が手招く前に
笑い声は遠ざかる
ああ 沈む夕日が綺麗ね
赤い世界が溶けていく
帰ろう 帰ろう 烏も鳴くのに
なんだか名残惜しくって
沈む夕日(お題)
「夜のお題は7例程度あるけど、『朝』と『夕』が付くお題って1〜3例くらいしか無かった記憶」
なんならたしか、「昼」に関してはゼロだったと思う。某所在住物書きはスマホのミュージックライブラリから「沈む夕陽」の曲名を選び出し、リピート再生に耐えている。
某探偵アニメのBGMである。推理曲だったか。
「日」と「陽」の違いこそあれど、去年発見して再生した夜は、開幕1秒で崩れ落ちた。
事件モノでも書くかと。参考文献なら有るぞと。
「『夕日』っていえば、某『環状線と夕日と爆弾』の第一作目とか思い出すな」
物書きは呟いた。
「アレの爆弾処理と列車減速させてくシーン、実際はツッコミどころ満載で全然リアルじゃねぇらしいが、いかんせん鉄道知らねぇ俺としては、あそこカッコイイから、カッコイイからさぁ……」
――――――
呟きックスに「春休み終わった」がトレンド入りして、くもり空の東京の月曜日が始まった。
こちとら春休みなんて数年前に終わっちゃって、
今は「合計で◯週間と△日、休めます!」の有給休暇を半分も使い切れないまま、眼前でピラピラ、権利だけを見せびらかされて仕事をしてる。
仕事仕事仕事。私の休みは一体いつ始まるんだろう。
そういえばTLで社会人に「春休み羨ましいだろ」って噛みついてる高校生がいた。
「休みなのに補習補講と部活で休みの7割登校してたから社会人も学生も変わらん」って反論されてた。
言われてみれば確かにと思う(+αとしてバイト)
「ちなみに付烏月さんって、春休みの思い出とか、バイトでも補講でも何かあったりする?」
「附子山だよ後輩ちゃん。俺、ブシヤマ」
「個人的に警察関係とか探偵とかのバイトしてそうなイメージだけど、どうなのツウキさん」
「なんで俺ケーサツ?」
「事情聴取とかバチクソ正確そうだから。『君の目を見つめると、全部心が分かる』みたいな」
「昨日のハナシ?」
「うん。沈む夕日をバックに、悪い人に『俺の目を見ろ』、『どうやって◯◯さんを?』みたいな」
月曜の職場、昼休憩数分前。
春休み終了にせよ、新年度2週間目突入にせよ、
今年の3月から異動してきた支店はただただチルい。
1時間に1人来るか来ないかも分からないお客さん、支店長とお話するために茶菓子持参で来る常連さん。
ここは優しいお客さんが多い。
本店だと週1でエンカウントしてたモンスターカスタマー様に関しては、まだ1度も会ったことがない。
ただチルい。
あと3月から一緒に仕事してる同僚さん、付烏月さんが持ってくる自家製お菓子が美味しい。
ストレス過多、心労過剰の東京、特に平日において、3月からお世話になってるこの支店は、私にとって心の保健室だった。
「まぁ、表情とか仕草とかを見て犯人の聴取をしたとか、スパイをいっぱい見つけ出したとかってひとは、実際に居るからねー。そのひと本も書いてるし」
「へぇ」
「ちなみにそのひとの本によると、快適なときとか、出会った人や物なんかが好きなとき、人の瞳孔は大きく広がるらしいんだけどね、
これを応用して好きな人とのデートは、明るい朝昼より沈む夕日の時間帯とか、少し薄暗いレストランとかが適してるらしいよん」
「はぁ」
「稲荷神社の近所の茶っ葉屋さんの常連用飲食スペース、個室で明る過ぎない、落ち着いた照明でしょ」
「うん」
「藤森が後輩ちゃんをあそこに誘うの、それが理由」
「マジ?!」
「ウソだよん。多分あいつの場合、あそこの料理とお茶が大好きで気に入ってるってだけだよん」
「……はぁ」
なお夕暮れ時は事故も多いって聞く気がするよ。
安全確認大事だよん。ヒヒヒ。
付烏月さんはイタズラに、無邪気に笑った。
「『好き』に会うと瞳孔が大きくなるってのと、適度に薄暗い方がデートにオススメなのは事実だよ」
付烏月さんは言った。
「それを踏まえて、日も沈んでないし完全真っ昼間だけど、ごはん食べに行かない?バチクソ美味しい米粉ベーグルのお店、昨日見つけちゃってさ」
「俺は身体が丈夫なのが取り柄やからな」
そんなことを言っていた男が今、高熱で寝込んでいる。
元より薬が効きにくい体質とは聞いていたが、解熱剤もあまり効かず体温計は40度を示している。
水分はしっかり摂っているが、ほとんどが汗となっているようで、それなのに解熱しない。
眠りに逃避できれば回復も早いだろうに、節々の痛みで眠るのもしんどいようで。
意識がしっかりしているのが安心と言えば安心だが、そのせいで節々の痛みや苦しみからも逃れられず。
見守ることしかできない自分が歯痒い。
解熱鎮痛剤が効かないとなると、やはり再度病院に連れて行った方がいい気がする。そう伝えると「そうやな、そうする」と。
いつも太陽のように明るく笑うこの男の弱々しい姿に動揺する。
病院に連れて行き、解熱剤は未だ効かないが眠剤によって深く眠る男を見て、早く治ってくれ、と月並みな言葉しか浮かばない自分に辟易する。
窓から見える沈む夕日が、男の体力に比例しているような気がしてしまい、その考えを慌てて払拭する。
新しい太陽が昇る頃には、状況がよくなっていることを強く願った。
【お題:沈む夕日】
作品No.8【2024/04/08 テーマ:沈む夕日】
昼と夜の境目の時間
丸く輝く太陽が
沈んでゆく
その時間の景色が
たまらなくすきだ
沈みゆく夕陽は、どこか切ない。
穏やかな日常の終わりを告げる煌々とした赤は、私たちを毎日のように染めている。
また明日。
もしかしたら明日は来ないかもしれないけど、また明るい朝日に会えたらいいな。
沈む夕日
夕日か。夕方に出かけることってあんまりないから夕日って意識したことないな。そんなことよりジャンプの感想を書こう。
最初は呪術。ネットじゃ色々言われてるけどやっぱり面白い。細かい粗なんて気にならないくらいの熱がこの漫画にはあるよ。多分。
今回のひきで主人公覚醒のあおりあったし次回は盛り上がりそう。来週休載みたいだけど。
色々飛ばしてままゆう。結局打ち切りだったね。清々しいまでの打ち切りエンド。この漫画が好きな俺でもちょっとあれだと思う終わり方。
本当かどうか知らないけどネウロの作者だかがいつ打ち切りになってもいいように打ち切り用の終わり方を考えてあるってのを見た覚えあるけどそういうの用意してなかったんだろうな。
負けること考えて戦う奴がいるか的なことをどっかの格闘家が言ってたけど漫画の場合は打ち切られた場合のことを考えて連載したほうがいいんじゃないかなって思った。
長くなったし最後はカグラバチで終わりにしよう。最初はダーク寄りの復讐ものってことで期待してなかったけど今はトップクラスに面白い。画力もそうだけど話もキャラもいい。流石はジャンプだなって思える作品だ。
今日はちょっと嫌なことがあったからメンタルがぼろぼろだ。やっぱり接客業はくそだな。こういう日はやけ食いするしかないな。メンタルを回復せねば。
沈む夕陽
関空近くのビーチから見る“沈む夕陽”が、日本一美しいとか宣伝してたみたいだけど?
世界中の“沈む夕陽”の名所を巡ってみたいですね。
それも恋人を連れて!
まあ無理でしょうけれど!
本当は何処が日本一か!せめて日本の“沈む夕陽”とやらを、自分ひとりでも、何カ所か観光雑誌とかで事前に調べて見比べてみたいですね。
巡りめぐって、やっぱり地元の“沈む夕陽”が一番だなとか思ったりして!
本州最南端の和歌山の串本から、ちょっと東に上がった磯場の、初日の出(昇る朝日)は拝んだことが有りましたが!
朝霧が磯釣り師を包み、朝日の逆光が作るシルエットは幻想的でした。
地磯伝いの道路脇には、多くのカメラマン(20~30人程)が早朝からいました。日本一美しい“昇る朝日”かも?
通算93作目
もっと読みたい♡1033♡突破記念号
最近忙しくてお久しぶりの 徳仁🤩
部屋から見える
言葉では言い表せられない空の色
沈む夕日に
今日もありがとうを言うよ!
エイプリルフールの続き
沈む夕日
真っ赤な夕日が地平線に沈もうとして
一日の終わりを告げていた。
シズクファーラムと言う少女は
バインダー局の別棟にある寮で
暮らしている。
そこには他のチームのバインダー達も
住んでいてシズクは人見知りなので
あまり話た事は無いのだが
ある日同じ階の別部屋の人に
女子会と言う物に呼ばれたシズク
最初は恐々していて不安で帰りたかったが
ミーナも混ざりたいと言うので少し
安心し一緒に付いて行く感じで参加する
事にした。
しかしそこでもシズクは辟易する事になる
女子会恒例の恋バナ大会をする事になった
からだ
皆寝る前のパジャマ姿なので
女子会もといパジャマパーティーと呼んでも良いかも知れない
そこでシズクもパジャマを着て
普段は髪の量が多くて中々まとまらず
自分では少しコンプレックスに感じてる
髪を普段の二つ結びから完全に降ろした
態勢で参加していた。
皆思い思いに自分の好きな人や恋人の話
はたまた告白された話などで盛り上がっていた。
「ミーナはナイト君と一緒に住んでるん
だっけ?」
「良いなあミーナはあんなに優しくて
格好良い彼氏が居て」
「でもナイトってああ見えて寝起き悪いのよ朝起こすの大変なんだから...」
「そう言う愚痴も一緒に住んでる彼女ならではよね良いなあラブラブじゃん」
と皆で笑い合っている姿を見るとシズクの
心もぽかぽかと暖かくなって来て
とても微笑ましくなってくる
(参加...出来て...良かったなあ...)
とシズクが心の中で呟いていると...
唐突に...「シズクちゃんは誰か好きな人いないの?」と聞かれシズクは戸惑う
今日は完全に聞き役に徹しようと
思っていたからだ....
(どうしよう....)シズクは恋バナや
恋愛映画を聞いたり見たりするのは好きだ
仲睦まじい人達の映像を見たり聞いたり
すると心の底から良かったねと思えて
幸せな気分になるからだ
だけど自分自身は恋と言う物がまだ良く
分からない
自分にもいつか分かる日が来るのだろうか
だってシズクにはチーム皆が大切で
大事だから
誰か一人を特別と感じる恋心とは違う
気がする
シズクが答えに窮し黙り込んで居ると
ミーナが「シズク別に恋の話じゃ無くても
良いのよ最近あった楽しかった事とかでも
全然良いんだからね!」とフォローを入れてくれる
(楽しかった事・・・・)シズクは頭を
巡らせて考え込む 楽しかった事
楽しかった事.....(あ....)とシズクは
思い付く
「この前....ハイネと....映画を見にいったよ....楽しかったよ....」
周りの人達は「ハイネって確かミーナ達の
チームのあの顔が怖い人...」
「二人で行ったの凄いデートじゃん!!」
周りの女子達が囃し立てるが
シズクは首を傾げる。
「デートじゃないよ....お出かけだよ....」
シズクの中でデートは恋人同士がするものだ。
ハイネとシズクは恋人同士じゃないので
シズクの中ではお出かけなのだ
「え~でもそのハイネって人シズクちゃんの事好きなんじゃないの好きでも無い人と
一緒に出掛けないでしょう?」
その質問を聞いてミーナは心の中で
ガッツポーズする
さてシズクは何と答えるかとミーナは
シズクの方を向く
「....好き....?」(ハイネが....私の事...)
シズクは首を傾げて思考を回す
「.....そんな事は...無いと思う....」
この場合の好きは恋愛感情の好きだと
シズクもちゃんと理解していた
しかし思い返してみてもシズクは
ハイネを怒らせてばかりだし
よく意地悪をされるし意地悪を
されるたびにシズクはハイネの事を
嫌いと言ってしまっているし
びくびくおどおどしてしまうし
そう言うシズクの姿がハイネの癪に障って
いるし.....
考えてみればシズクはハイネに好かれる
様な事は一個もして居ないのだ
一緒に出掛けてくれるし
凄く嫌われて居る訳では無いとは
思うがそう言う感情では無いと思う....
(それにハイネは....大人っぽい人が....
好きと....言って...いたし....)
前ハイネがミーナやナイトに好きな
異性のタイプを言っていたのを
少し聞いていたのだ
「だから色気のある奴しか女って認めねぇから!」
その後ハイネはミーナとナイトに
怒られていたが確かにそう言っていた
だからシズクは正直に否定したのだが.....
シズクの答えを聞いたミーナは肩を
がっくり落とし頭を抱えていた。
(ハイネ....あんたもっと頑張んなさいよ)
こうして気付けば夕日が完全に沈み
夜が更けた頃パジャマパーティーを
ようした女子会はお開きになった。
沈む夕日の前でキャンパスを広げ、絵を描く道具の準備をする
夕日の時間は短いから、丁寧に色を混ぜながら書いていく
海面に浮かぶ夕日、反射する光
オレンジ色に染まっている空
そのひとつ、ひとつの風景が合わさって、綺麗な夕日になる
その風景を絵の具で表現したい
丁寧に描きあげて、ついに完成した
そんな絵が家にたくさんある
自然の風景を書いていると
心も身体も暖かくなった落ち着く
お題[沈む夕日]
No.91
『沈む夕日』
草むらに入ってしまった野球のボールを探すうちに刺すような西日はいつの間にか薄れてあたりは夕闇に染まり始めていた。外野のほうを気にせず試合を続けていた仲間たちは帰ってしまっただろうか。じわじわと悲しく寂しい気持ちになって目が熱くなってくるけれど、同じ草むらで同じようになにかを探す人影が見えたので慌てて涙をこらえる。誰かがいるとことにほんのりと励まされて何度も探した草むらをもう一度掻き分ける。
「……あった」
何度も探したはずの草むらから泥で汚れたボールが現れた。
「あったよ!」
人影に呼びかけてからまだ仲間たちがいるかもしれないホームベースへと走り出した。仲間たちは帰ってなんかいなかったけれど、みな驚いたような顔をしている。監督にいたっては心配と焦りの入り混じったような顔で僕の肩を掴んだ。
「おまえ、今までどこにいたんだ!」
「えっ、ボールを探しにあっちの草むらに」
「あの草むらもみんなで何度も探したんだぞ」
試合が終わってちょうど夕日の沈んだ頃に僕がいないことに気付いたチームのみんなはそれから1時間をかけて周辺を隅々まで探したが見つからず、親と警察に連絡をするかどうかというところまできていたそうだ。そんなところに僕が突然現れたので監督は今日一日でどっと疲れた様子だった。
みんなに心配されたり小突かれたりしながら家へと帰る途中にちらとあの草むらを見やった。けれど、もうずいぶんと暗くなっていて誰がいたのかもわからなかった。
日中降り続いた雨は、仕事を終えて帰る頃にはすっかり止んでいた。雲もあらかた捌けて風が冷たい。ここから夜はさらに冷えることだろう。今更になって顔を出し、そしてまた消えようとする太陽が少しだけ憎い。ため息をついたら不意に隣から「今日は鍋にしますか」と提案が。鍋。それなら寒い夜も悪くはない。スーパーに寄って、それからこの人と一緒の家に帰ろう。用済みの傘を二本提げ、暗くならないうちにと歩き始めた。
(題:沈む夕日)
覚えていますか。
あなたはきっとこういうのでしょう。
お前なんか知らない、、、と。
嘘なんかつかないでください。
そんな苦しそうな顔で言わないでください。
沈む夕日、赤く染まる空、隣で歩くあなた。
わたしとあなたを繋ぐ手のひら。
しずく、、そう呼ぶあなたの顔、
一生頭から離れることはないでしょう。
忘れるわけないでしょう。
あなたがどれだけ私を突き放そうと、
私はあなたに会いに行きます。
『神々しい』とは、きっとこういう現象をいうのだろう。
私は、彼から目が離せなかった。
その日、母親に下校時に買い物を頼まれた私は、部活を早上がりし、書店で目的の雑誌を購入した。
「自分で買いに行けばいいのに」
ぶつくさ文句を言いながら、私は紙袋に入った雑誌をカバンにしまった。
母の推しが特集されているらしい雑誌は、女性向けのファッション誌で、私にとっては興味が沸かない部類だった。
でも、推しの特集誌が刊行される日を楽しみに待つ気持ちは分かる。すごく。
だから、本の虫である自分にとって書店は現実世界の疲労を癒すオアシスなのだが、今日は目的を終えると、後ろ髪を引かれる思いで最寄り駅へ向かった。
普段、部活が終わってからでは乗車することのない列車に乗る。
朝と同じ、前から5両目。
ふと、私は前方を見て、目を見開いた。
彼が、反対側のドア付近に居たのだ。
沈みかける夕日を浴びて、彼の金髪は淡く黄金色に輝いていた。
インナーイヤホンで音楽を聴いているのか、それとも居眠りしているのか、横並びの座席に背を預けながら、目を閉じて腕を組み、微動だにしない。
まるで彫刻のような美しさ。
私は思わず息をのんだ。
『神々しい』って、きっとこういうことなんだ。
#沈む夕日
「もう、辞めようかなあって」
「あぁそうなの」
たったそれだけだった。僕がどれだけ辞めることを打ち明けるのに今日まで悩んでいたことか、きっと彼女は知らないんだ。だからそんなにあっさりした返事ができるんだろう。正直拍子抜けした。こんなことなら眠れなくなるまで悩むんじゃなかった。
「で?」
「で、って……辞めようかと思ってる」
「それは分かったから。その後どうすんのって聞いてんの」
「えっと、」
「もしかして何も決めてないの?」
図星だった。兎に角、今置かれている現状から逃げ出したくて辞めるという選択を取っただけだった。でもそれは選択でもなんでもないと知る。僕の場合、これは単なる“逃げ”だ。
「……そうだよね。これはいくらなんでも無責任だよね」
「別にそうは言ってないけど」
遠くで毎日流れる夕方の放送が聞こえた。いつも17時30分に鳴るもの。もうこんな時間なのか。そろそろ帰らないとと思い僕は腰を上げた。それを見た彼女が口を開く。
「辞めるも辞めないも自分の意志よ。だって貴方の人生に誰かが口を挟むなんてできない。だから全部どうするかは貴方が決めるの」
「うん、そうだよね」
「だから貴方の決めたことにあたしはどうこう言わない。反対も肯定もしない」
良かった、僕は責められてるわけじゃないんだ。彼女の声は抑揚がないから時々どういう感情で話しているのか読みづらい時がある。
彼女が開けた窓から風が入り込んできてレースのカーテンをふわりと揺らした。なんだか心地よかった。優しい風のお陰で、今なら自分の気持ちを隠さず吐露できる気がする。僕はもう一度椅子に腰を下ろした。
「僕は、今の環境が辛いから辞めたいと思ったんだ。もう耐えられないから、だから逃げることに決めた」
弱虫なんだよ。不甲斐なく笑って、彼女に打ち明けた。なんてかっこ悪い男なんだと思う。彼女は僕のほうをじっと見ていた。背中に背負っている夕陽が鮮やかなオレンジをしている。
「そういうのは逃げとは言わない」
「そう……なのかな」
「自分の限界を察知して、壊れる前に離れようと決めたんだよ。自己防衛本能が働いたの」
「……そんな格好良いものじゃないと思うけどな」
「いいよ、これ以上謙遜しなくて。貴方が決めたことなのに、いつまでも後ろめたい気持ちでいたら折角決めたのに情けないでしょ」
「そ、そっか」
「だからいいんだよ、それで」
それでいいの。最後のその言葉がめちゃくちゃ心に響いた。別に彼女に意見を求めていたわけじゃないけど、受け入れてもらえたんだと分かった。初めて心の底から安堵した。あんなに燃えるようなオレンジの夕陽が今はもう沈もうとしている。彼女の表情も薄暗くて見えづらいものになっていた。けれど僕は、今彼女は笑っているのだと分かる。
「お疲れ様」
「……ありがとう」
相変わらず無愛想だと勘違いされそうな話し方で、まさかの労いの言葉を言われた。そんな優しい君が大好きだ。ありがとう、僕を受け入れてくれて。弱虫だと揶揄しないでいてくれて。これは逃げじゃないんだと改めて自分に言い聞かせた。明日からの自分がどうなるか分からないけど、今日よりきっと楽しくやるようにしよう。窓の向こうの沈む夕日を見ながら僕は違ったのだった。