よらもあ

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断崖絶壁でおこった断罪劇は誰一人失うことなくその幕を閉じた。

幼い頃から苦しめられてきたが、健気に生きてきた少年。
その少年を守ろうとして密かに手を貸していたが、ついに悪事に手を染めてしまった老人。
その老人の悪事を紆余曲折ありながらも解決に導いた余所者の青年。
自らの罪を認め少年の足枷になるまいと断崖から身を投げようとした老人を間一髪で助けた刑事。

全てが怒涛の連続であったが、なんと助けられた老人が急に狂ったように笑い出したのだ。
何事かとどよめく周囲をものともせずに、刑事を振り払った老人はどういう技術なのか全く分からない早業で身につけていたものを脱ぎ払うと全くの別人となって自らを怪盗と名乗った。
怪盗は先程までの老人のものとは違う若々しい声で余所者の青年を褒めたかと思えば不適な忠告をしたあと、少年へ意味ありげな優しげな視線をやる。
そしてそのまま怪盗は素早い動きで沈む夕日の向こうへ飛び立っていったのだ。文字通り、飛び立っていったのだ。
いや、怪盗がちょっと長めに話しているその間に刑事も止めに入ればいいのだが、何故か目を見開いて怪盗の名前らしきものを叫ぶだけだ。どうやら有名な怪盗らしい。

遠くサイレンの音が聞こえ、刑事の部下らしい人が老人を連れてきた。
この老人はどうやら本物らしい。少年が潤んだ瞳で老人の胸に飛びつき、老人は訳がわからないようではあるがとりあえず少年を抱き締めて宥めてやっている。そりゃそうだ。急に連れてこられて理解できるわけないものな。
見ていたはずのこちらも訳が分からない。

余所者の青年は夕日に消えた怪盗の方向を向いていたかと思えば、踵を返してどこかへと向かっていく。
刑事は怪盗の登場を何処かへと伝えたあと、捜索に力を入れるようで部下たちに指示を出している。

結局、暴かれた悪事は老人が行ったのか怪盗が行ったのか有耶無耶なような気がするが、自分もまた捜索を指示された警察官の姿なので言われた事に従う事にした。

さっさと消えてしまう算段もとらなければ。いつまでもここに居たらこちらの気が狂いそうな気がしてくるのだから困ったものだ。
確かに頂くものは頂いたが、今回の仕事は割に合わない気がしてならない。





“沈む夕日”

4/8/2024, 4:11:52 AM