『神々しい』とは、きっとこういう現象をいうのだろう。
私は、彼から目が離せなかった。
その日、母親に下校時に買い物を頼まれた私は、部活を早上がりし、書店で目的の雑誌を購入した。
「自分で買いに行けばいいのに」
ぶつくさ文句を言いながら、私は紙袋に入った雑誌をカバンにしまった。
母の推しが特集されているらしい雑誌は、女性向けのファッション誌で、私にとっては興味が沸かない部類だった。
でも、推しの特集誌が刊行される日を楽しみに待つ気持ちは分かる。すごく。
だから、本の虫である自分にとって書店は現実世界の疲労を癒すオアシスなのだが、今日は目的を終えると、後ろ髪を引かれる思いで最寄り駅へ向かった。
普段、部活が終わってからでは乗車することのない列車に乗る。
朝と同じ、前から5両目。
ふと、私は前方を見て、目を見開いた。
彼が、反対側のドア付近に居たのだ。
沈みかける夕日を浴びて、彼の金髪は淡く黄金色に輝いていた。
インナーイヤホンで音楽を聴いているのか、それとも居眠りしているのか、横並びの座席に背を預けながら、目を閉じて腕を組み、微動だにしない。
まるで彫刻のような美しさ。
私は思わず息をのんだ。
『神々しい』って、きっとこういうことなんだ。
#沈む夕日
4/8/2024, 2:24:54 AM