雨のにおいがする
ひとりごちる君の言葉を
私はこっそり拾い上げ、大事に懐に仕舞う
ちらりと君を見上げると
君と目が合って
慌てて逸らす
しまった
露骨過ぎた、かも
君は気にする素振りもなく
鞄をごそごそすると
折り畳み傘を取り出した
オレンジのグラデーション
真面目で堅いイメージの君からは
到底想像できなかった鮮やかな色
入る?
君は当然のように私の頭上に傘を移動する
動悸が太鼓のようにうるさい
どうか雨音に包まれて
この音が君に伝わりませんように
#雨音に包まれて
哀しみが渦を巻いて
胸の奥で轟いているんだ
それは形容しがたい音で
胸の内側を切り刻んでいく
血飛沫が舞う
それすらも
スローモーションの花弁のようで
痛みよりも呆気にとられる
自分からこぼれ落ちる
数多の希望を
その黒い血痕が塗りつぶしていく
伸ばしたはずの手は
だらしなく頭を抱え
自己嫌悪の泥濘に
脚を動かすことも出来ず
息苦しさに
歯軋りをする
此処を結末にしたくない
ただそれだけを
唯一の願いにしたためて
浅く眠る
#届かない
明日すらも
生きるのが不安で
将来なんて
考える余裕もない
こんな世界
無くなってしまえと
たまに思うのだ
でもね
君との出逢いが
命綱になって
こんな世界だけど
そんなに悪くもないのかな
とか
君が居る世界なら
好きではないけど
嫌いでもないのかな
なんて
思ったりする
こんな真っ暗な未来の
微かな光に感じるんだ
まぁ
今はまだ、言えないけど
#好きになれない、嫌いになれない
「こんなん、ベタな恋愛ものとかが似合うテーマじゃん?んなもん、いくら恋多き俺でも書けないって」
大手ファストフード店のイートインスペース。
幼馴染みの青木匡輔とテスト勉強中だ。
といっても、主要5教科において常に学年3位以内をキープしている匡輔に教えを乞う立場だが。
匡輔はストローから口を離し、グラスの半分まで減ったアイスコーヒーを溜め息とともに置いた。
「現実逃避はなはだしいな。創作の期限はまだあるんだろ?何もテスト期間中に考えなくてもいいだろ」
ピシャリと匡輔に冷たく突き放され、青谷慧斗は唇を尖らせた。
「毎日毎日、勉強漬けの放課後なんて、もぉ~‼息がつまるって‼」
すでに飲み干したグラスから、氷が溶けてできたコーラ風味の液体を無理矢理吸いだそうと、慧斗は躍起になった。
今年の学祭で披露する文集のテーマは「未来図」だと告げたあと、顧問のササキンが一言二言何かぼそっと呟いて早々に部室を立ち去ったのは、テスト期間に入る前日の放課後だった。
その時の自分を含む部員たちの顔は、みな同じだったに違いない。
開いた口が塞がらないとは、きっとこんな場面で使うのだろう。
#未来図
この渇望を
どうしたらいいのだろう
四六時中
君とふれ合いたいのに
叶わない現実
この、喉の渇きよりも強い
情欲こそ
透明になって消えてしまえ
#透明