明日すらも
生きるのが不安で
将来なんて
考える余裕もない
こんな世界
無くなってしまえと
たまに思うのだ
でもね
君との出逢いが
命綱になって
こんな世界だけど
そんなに悪くもないのかな
とか
君が居る世界なら
好きではないけど
嫌いでもないのかな
なんて
思ったりする
こんな真っ暗な未来の
微かな光に感じるんだ
まぁ
今はまだ、言えないけど
#好きになれない、嫌いになれない
「こんなん、ベタな恋愛ものとかが似合うテーマじゃん?んなもん、いくら恋多き俺でも書けないって」
大手ファストフード店のイートインスペース。
幼馴染みの青木匡輔とテスト勉強中だ。
といっても、主要5教科において常に学年3位以内をキープしている匡輔に教えを乞う立場だが。
匡輔はストローから口を離し、グラスの半分まで減ったアイスコーヒーを溜め息とともに置いた。
「現実逃避はなはだしいな。創作の期限はまだあるんだろ?何もテスト期間中に考えなくてもいいだろ」
ピシャリと匡輔に冷たく突き放され、青谷慧斗は唇を尖らせた。
「毎日毎日、勉強漬けの放課後なんて、もぉ~‼息がつまるって‼」
すでに飲み干したグラスから、氷が溶けてできたコーラ風味の液体を無理矢理吸いだそうと、慧斗は躍起になった。
今年の学祭で披露する文集のテーマは「未来図」だと告げたあと、顧問のササキンが一言二言何かぼそっと呟いて早々に部室を立ち去ったのは、テスト期間に入る前日の放課後だった。
その時の自分を含む部員たちの顔は、みな同じだったに違いない。
開いた口が塞がらないとは、きっとこんな場面で使うのだろう。
#未来図
この渇望を
どうしたらいいのだろう
四六時中
君とふれ合いたいのに
叶わない現実
この、喉の渇きよりも強い
情欲こそ
透明になって消えてしまえ
#透明
「うぅ…、頭が痛い…」
私は自習室の窓際の席で、文字通り頭を抱えながら机に突っ伏していた。
「なぁに?エラはさっきの授業で、もう魔力使い果たしたの?」
エメラルド色の瞳をキラキラさせながら、ハリスが嬉々として、私の顔を覗き込んだ。
「ハリスと私とじゃ、元々のキャパが違いすぎるのよ」
私は顔をしかめながら、両こめかみを両人差し指で揉んだ。
ふふっと笑うと、ハリスは私にこっそり耳打ちした。
「そんなエラのか弱い姿を侯爵子息様は、頻りに気にしてたわよ」
「うそ」
私は口をへの字に曲げた。
「こんな嘘、言って誰か得するかしら?」
ハリスの瞳は面白おかしそうに笑っている。
「そりゃ...」
誰も得しないと思うけど。
「エラ」
不意に馴染みのある声音が、私の名前を呼んだ。
振り向くと、そこにはヴァレンチノ侯爵子息である、ティント・ヴァレンチノが固い表情で立っていた。
「じゃあ、私はこれで」
ハリスは訳知り顔で私に手を振り、踵を返した。
「エラ」
もう一度、私の名前を呼ぶと、ティントは私が突っ伏していた机の真横で足を止めた。
「調子はどうだ?」
まるで部下に戦況を尋ねる騎士団長のような物言いだ。
でも…
私の目線の高さに、ちょうどティントの左手があり、所在無さげにそわそわしているのが分かる。
「具合が悪いなら、医務室のカルロ女史を訪ねた方がいい」
「はい…」
ティントの言葉は正しい。
正直、此処では充分には休めない。
ティントの左手が意を決したように、私の左肩に置かれた。
「動けないようなら、私が医務室まで支えよう?」
瞬間、私の頬が熱くなり、心臓が跳ね上がった。
胸元をぎゅっと握り、私は顔をしかめた。
「いたたた…」
すると、ティントは怪訝な顔をして、私を覗き込んだ。
「エラ?」
はっとして、私はティントに向き合った。
無理やり笑顔を作る。
「大丈夫だよ。ちょっと、疲れたみたい」
ティントの顔が険しくなる。
「顔も赤い。胸苦しさもあるのか?大丈夫ではないだろう」
その瞬間、大きな腕が伸びて、私の目線が一気に高くなる。
え?
何が起こったの?
目と鼻の先には、彫刻のように整ったティントの顔。
「あっ、え?」
私、ティントにお姫様抱っこされてる?!
「君はもう少し、自分を労った方がいい」
そう言って、進行方向を向いたティントの喉仏がゴクリと鳴った。
私はティントに抱えられるまま、ただ固まるしかなかった。
まるで、魔法をかけられたように。
#魔法
自分は
何処へ向かえば
いいのだろう
この世界に
かすり傷すら
遺せてない
透明な私
親元を離れるときに
確かに握ったはずの
羅針盤
もう
私には
道標がない
#羅針盤