君が紡ぐ歌は
どうにも
居心地が悪くて
胸がざわざわする
僕を
名指しされた訳じゃないのに
意図せず
過去の悪事を暴かれたような
僕が長年
上塗りし続けた仮面を
意図も簡単に
引っぺがされたような
そんな落ち着かなさが
僕たらしめていた日常を
侵食するのだ
#君が紡ぐ歌
朝の微睡み
僕の左腕に
心地よい痺れ
君の
安堵しきった寝顔と
柔らかい猫っ毛に
愛おしさが汲み上げて
空いた右手で
そっと
君の頭を撫でた
僕の時間は
あと
どれだけ
残っているんだろう
おかしいな
時間の流れは
一定のはずなのに
僕の砂時計だけ
砂の落ちるスピードが
どんどん
速くなっている
そんな気がするんだ
余命宣告されてからも
変わらなかった
その速さが
君と過ごす
この一瞬一瞬について
青天井で加速する
君と過ごす
あまりの幸福感と共に
君と過ごせなくなる
「いつか」が近づく恐怖感とで
僕の内界に嵐が轟くのだ
君は知らない
その時が
もう間近に
迫っていることを
君は知らない
眠る時間さえ
惜しく
君の寝顔を
頭の中に
焼き付けようと
必死な僕を
#砂時計の音
僕は疲れやすい
いつも限界がわからなくて
気づいたときには
限界を突破してて
熱を出したり
身体が動かなくなったり
悪い思考回路に囚われてしまう
誰に言われた訳でもないのに
自分は要らない人間で
役に立たなくて
ただの穀潰しで
ただ此処で
生きているのが
罪を重ねているようなもので
だから
いっそのこと
無かったものに
はじめからいなかったものに
なっちゃえばいいのに
そう思っちゃうんだ
君は
馬鹿げていると
笑いとばしてくれるだろうか
もう
未来の地図は見えないんだ
#消えた星図
季節の変わり目は苦手だ
アレルギーが起こりやすくて
身体がしんどくなりやすいから
人事異動があって
新しい人間関係を構築するのに
心を磨耗するから
またいつか
一緒に仕事をしようね
そう笑ったあの子は
新幹線で片道2時間の街に異動になった
いつかまた
いつかまたね
そんな思いが交叉して
時間の流れに呑み込まれていく
いつかまた
いつかまたね
その口約束は
社交辞令でもなく
建前でもなく
現実にする
求め続ければ
きっと
#またいつか
雨のにおいがする
ひとりごちる君の言葉を
私はこっそり拾い上げ、大事に懐に仕舞う
ちらりと君を見上げると
君と目が合って
慌てて逸らす
しまった
露骨過ぎた、かも
君は気にする素振りもなく
鞄をごそごそすると
折り畳み傘を取り出した
オレンジのグラデーション
真面目で堅いイメージの君からは
到底想像できなかった鮮やかな色
入る?
君は当然のように私の頭上に傘を移動する
動悸が太鼓のようにうるさい
どうか雨音に包まれて
この音が君に伝わりませんように
#雨音に包まれて