働いて
働いて
働いて
この先の未来がつまらなく思えて
私はドロップアウトした
特にやりたいこともなく
将来の目標なんかもなく
私は無所属になり
誰かの推薦もなく
蟻地獄のような社会で1人
沈まないよう気を張るしかなかった
#とりとめもない話
風邪をひいた
身に覚えはあまりないけど
強いていうなら
仕事のストレスだろう
弱いところに出るという
迷信のような言葉は
私の場合は的を射ていた
声がれがひどい
元々低めの声だが
それにしても
酒焼けを疑われそうなハスキー
電話応対なんか最悪だ
こうなってしまったら
耳鼻咽喉科で薬を処方してもらわなくては
どうにもならない
とりあえず
通勤時間を確認し、私は上司に連絡した
案の定
「潰れたカエルみたいな声だな」
とひとしきり感想を聞かされ、有休扱いになった。
潰れたカエルはそもそも鳴けないだろう。
そんなことを思いながら、終話ボタンを押した。
あぁ、今週は面倒な1週間になりそうだ。
#風邪
自分という存在に嫌気が差す
メイクを落とさずソファで目覚めた朝は、何もやる気がしない
肌が呼吸困難で絶不調なのが分かる
ただ惰眠を貪りたい
ただ雪に埋もれて正体を無くしたい
そんな空想で目を反らす
現実や未来から
雪に埋もれたら、キレイになれる
そんな気がしていた
#雪を待つ
幼なじみの■■は変わったヤツだ。
ふらっと立ち寄った生活雑貨店で、ふと宙を見つめていたかと思えば、ぱっと振り返って周囲に視線を走らせる。
「どした?」
こっちからの問いかけに、どこか上の空な様子で、ぽつりと言うのだ。
「なんか、呼ばれてる気がして…」
断じて霊的なものではない。
何しろ、ホンモノを感知するのは自分の方が慣れているからだ。
「あ、このシリーズ…やば、全タイプ揃ってる!」
ヤツの表情がぱぁっと明るくなる。
嬉々として、屋根のように突起が並んでいる物を手に取り、しげしげと眺めている。
「ブックスタンド?」
俺は全く興味が無かったが、とりあえず尋ねてみた。
「そうそう、これ便利なんだよ~。1冊でも倒れないし、型崩れしないし」
「ふーん」
「呼んでたのは、オマエなんだね~」
ペットの猫を撫でるように、その物体を撫でる■■。
なんだ、この絵面。
「買うの?」
「ほしいタイプが有ったからね~」
と、先ほど愛おしげに撫でていた物を棚に戻し、突起が2段になっている方を新たに手に取る。
それ違うんかいっ
密かに心の中で突っ込み、俺はぼぅっと■■を見ていた。
女性の中では、高めの部類に入る身長、スラリとした体躯、ショートボブの黒髪、クールで中性的な顔立ち。
性格はさっぱりして、ノリも悪くない。
ただの幼なじみ。
ただの遊び仲間。
の、つもり。
ただの、と言い聞かせている。
こんな呪文を唱えるようになったのは、いつからだろう。
俺に彼女ができた時?
■■が見知らぬ男と話しているところを目撃した時?
共通の友人の結婚式に参列した時?
馬鹿らしい
自分の腹を探ったところで、俺は決めているんだ。
俺は動かない。
腹の中身も見ない。そんなの直視しようものなら、変わってしまうから。
俺が望んで守ってきた、この温い距離が。
#距離
冬になったら
君との
約束の日が訪れる
あの水族館まで
君と電車に揺られて
水槽の魚たちよりも
君の横顔に見惚れた
そんなつもりがなくても
きっと
あの日を再現する
再現してしまう
君は変わっているかな
僕は
ちょっとチャラくなったらしい
そんなつもりはないけど
きっと
君が好きだと言った
素朴さは残っているかな
残っていたらいいな
冬になったら
約束がなくても
一緒に出かけよう
でもやっぱり
冬にならなくても
一緒にいてくれないかな
君との思い出は
限定じゃなくてさ
無制限にね
増やしていけたら
最高なんだ
#冬になったら