楽園』の作文集

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楽園』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど

5/1/2023, 5:30:19 AM

【楽園】

 かつて、〈楽園〉と呼ばれたSNSがあった。
 アバターを主体としたバーチャル空間式のSNS、いわゆるメタバースだ。地球をまるごと取り込んだかのような広大な世界、現実以上にリアルなグラフィック、冒険心をくすぐるゲームモード。世界中の人々が〈楽園〉に熱狂した。
 三年前には、SNSの登録者数世界一というニュースで三日三晩のお祭り騒ぎになって、人類史上最強と言われたサーバーが落ちかけたこともあった。そんな〈楽園〉も、当時の賑わいはいまや見る影もない。
「ほんとに人影ないなー」
 人間の大きさほどある兎型のアバターが、日本エリアのビル街をぴょんぴょんと跳ねていた。
 周囲はしんと静まり返っている。エリアごとに設定されたかすかなBGMやビル風の環境音以外は、兎が跳ねる効果音しか聞こえない。
 車すらない広々とした道路に向かって、信号機だけが律儀に働いている。ときおり、映像のカラスが空を横切る。
 まるで、人類だけが突然滅亡してしまったかのような有様だ。
「誰かいませんかー」
 兎が広大な疑似空間に向かって呼びかけても、
「はーい、なにかご用ですか?」
 どこからともなくさっと近寄ってくるのは、にこにこ顔の上にAIマークを載せたガイドアバターだけで、肉入りのアバターがいる気配はない。
 兎はしばらく周囲を跳ね回っていたが、やがて探索を諦めたのか、ため息をひとつ残して、その場から消えた。


 ひしゃげたベンチに座っていたセーラー服の少女が、短い髪を振ってVRグラスを外す。
「電池ぎりぎりまで捜したけど、痕跡ゼロ。世界チャットにすら反応なかったよ」
「そう。ログインしてる人は誰もいないってことね」
 ベンチの横でバイクにまたがっていたライダースーツ姿の若い女性が、けだるそうに黒髪をかきあげた。長い後ろ髪を、団子状にまとめはじめる。
「あーあ、サーバーが残ってるんならもしかして、と思ったんだけどな」
 少女がVRグラスを放り投げた。グラスは瓦礫の上で、がこん、と跳ねて、アスファルトの地面に落ちた。
「楽園のサーバーって、火星ドームにあるやつでしょ? メンテシステムが生きてる限り半永久的に稼働する、って触れ込みの」
「なんだ、楽園は火星にあったのか」
「すくなくとも、地球よりは火星のほうが楽園向きだったってことね」
 女性がまとめ髪の上にヘルメットを被る。
「火星なら環境過酷だからガチガチに対策するけど、地球だともともと暮らしやすかったから、油断してたよねー」
 少女が傍らのヘルメットを抱えてベンチから立ち上がった。ついでのように、あたりを見渡す。
 ここには兎が跳ね回っていたエリアと似た光景が広がっている――はずだった。道路はひび割れ、乗り捨てられたホバーカーはあちこちで通行を妨害し、信号機は息絶え、ビルは瓦礫となって、ホバーカーや他の建物を押しつぶしている。
 核戦争で大陸の主要国が軒並み潰れたうえ、立て続けに起きた大規模な地殻変動で、わずか一年のうちに世界中がめちゃくちゃになった。地球上で機能している国家は、もうどこにもないだろう。
 投げ捨てたVRグラスを視界に入れて、少女は、ふふ、と笑いを漏らした。
「なによ、急に。気持ち悪い」
「だってさ、人類はとっくの昔に楽園を追われてるのに、幻想の楽園を作っちゃうぐらい、まだ未練があったんだなーって」
「でも結局、楽園にはほど遠かったわよね。なんせ使うのが人間なんだもの、地獄みたいないざこざだらけだったわ」
 女性があごを振って、バイクの後ろを示した。少女はヘルメットを被り、後部座席にまたがった。
「使う人間がいない今は、ただの綺麗な廃墟だったよ。オイル集め、もう終わったの?」
 女性が親指を立てる。
「もちのろんよ」
「ミズキさん、もしかして、見た目よりおばさん?」
「だれがおばさんよ。まだ二十五よ」
 少女が女性の体に腕を回してしがみつく。女性はバイクのアクセルをふかした。
「それじゃ引き続き、あたしたちのアダムと楽園を探しに行きましょ」
「なんかもうそれ、どうでもいいや。人類なんて、滅びるなら滅びたほうが、地球のためじゃない?」
「これだからSDGs育ちは」
 女性がバイクを発進させる。二人の影はすぐに、アスファルトの埃の向こうに見えなくなった。



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土日祝日は基本的に書く習慣お休みです。5/2もお休みです。

5/1/2023, 4:56:22 AM

『楽園』


君のためだけの世界
やさしい温もり
やらわらかな風
ささめく陽だまり

そうして唄う君

祈る僕の声が
君の世界を守るように

そこへ僕は行けないけれど
さびしくなんてないよ
君も僕も

それが楽園

ゆえに楽園なのだから

5/1/2023, 4:50:36 AM

楽園はここかと思った。
自分だけに向けられた笑顔、差し伸べられた手、誰もが歓迎してくれている。
そうして、さあここへおいでと用意された場所へ誘ってくれる。
私はふわふわした足取りで、空けられた道を歩いた。
誰もが歓迎してくれるなんて、思ってもみなかった。

5/1/2023, 4:49:28 AM

太陽の楽園って曲が好きです。

歌詞も好き、メロディーも好き、歌声も好き。
元気になれるから。

歌詞中に、「たったひとつ宝物を抱いて人は生まれてくる」
という言葉があって、

この「宝物」がなんなのか、考えるのがすごく好き。

曲に限らなくても、詩とか、物語とか、
なにかを表すときに、たとえを用いて表現される言葉たちが
すごくいいなって思う。

それらは、受け手によって、いろんなものに変形するから。
だから、正解がなくて、正解がないのがいい。
これもいいよね、それもいいよね、って言い合える。

わたしが受け取る気持ちに、
「わたしってこういう風に思ってるんだな」って
気持ちに気づける。

曲を聞くと、やっぱり、わたしは歌詞の意味を考えてしまう。

どういう意図で作られたのか、何を伝えたいのか。

創作したのものには、何かしらの意図があると思うから。
その人がこんなことを表現したい、そういう気持ちが作品には込められていると思うの。

だから、わたしはそれが知りたい。

意味を知ることで、作品に対する思いが深まる。

でも、意味ばかりを重視して、楽しめないのはもったいない。

理屈では説明できないような「感覚」を、
わたしたちは感じることができる。

この身体のすべての感覚を使って、
音を、言葉を、リズムを、楽しむことができる。

だから、そんなに難しく考えることも、たくさんは必要じゃない。

言葉にはできない感覚が、心地いい。

なんか、好き。

なんか、を言葉で表せられたら、わたしはもっと自身の理解を深めることが出来るのにな。

身の回りにある、
自分の心が感じる、「なんか、好き」「なんか、いい」
感覚が、わたしの心地いいを導いてくれる。

「楽園」って言葉ひとつにも、
ひとりひとり、心に浮かぶ楽園の絵がきっと違うんだろうから

ねぇ、あなたの楽園はどんなイメージなんだろう?

わたしも、考えてみる。
とりとめのないことを、考える時間が大好きなんだ。

5/1/2023, 4:15:02 AM

一昨日は今日だった。昨日は今日だった。今日は今日だった。明日も今日だ。明後日も今日だ。

なんて幸せなのだろう。
もう二度と新しい日は訪れない。
もう二度と、あなたが居なくなることは無い。
なんて、幸せな世界なのだろう。

新しいものは恐怖だ。未知は恐怖だ。失われていくのは恐怖だ。さよならは恐怖だ。
大事な過去を手放すのなら、
未来なんて、無くていい。

わたしだけここに、置いていけ。
閉じられたこの、幸せな世界に。


———
楽園

5/1/2023, 4:00:47 AM

何の変哲もない日常。

どんなに上を求めてもキリがない

結局は何の変哲もないこの日常が

一番の楽園なのかも知れないね

5/1/2023, 3:59:04 AM

彼のモチーフを集めるのが密かな趣味になっている。雑貨屋で見かけたマグカップ、発見してすぐにカゴに入れた水族館のキーホルダー。タオルは青ベースが多くなったと思う。
 着々と部屋に増えてひとり過ごす時、部屋に並べてにやけていた。特にお気に入りなのがキーホルダー。少々とぼけた顔をしているがそれがかわいい。彼がきょとんとした顔にそっくりでとても良い買い物をした。
「んふふ、可愛い」
 ぬいぐるみを脇に置いて指先でツンツンつつく。色違いもあってどちらか選べないまま両方買ってしまい青色と紫色の鯨が私を見つめていた。好きなものに囲まれて好きな音楽を聞いて好きなお茶を飲んで寛ぐ。ここは私の『楽園』で私の城。
 これを見た彼は驚いたりしないだろうか。それとも「俺がいたら完璧だろ?」自信たっぷりに仲間に入るか。想像の先が気になるけど、今はまだ私だけの秘密。いつか寝ている隙に買い集めた雑貨で取り囲んで、きょとんとした彼を見るのだと画策していた。

5/1/2023, 3:58:31 AM

崩壊スターレイルの主人公男による夢小説です


記憶のない自分には楽園なんて分からないけど個人的には今目の前で珈琲を飲んでいる彼女との時間が楽園かなと思った。

『どうしたの?そんなに見つめて』

「姫子さんが綺麗だな~って思って」

姫子は微笑して

『ありがとう』

と言った。

本当に綺麗で最初に会った時一目惚れしていた。戦う姿も見惚れそうになって何度か危なかったりして

「姫子さんは」『姫子で良いわよ』

突然姫子が貴方の言葉を遮って言った。

『但し…』

姫子は珈琲の入ったカップをソーサーに起き貴方の隣に座り直し耳元で

『二人っきりの時だけ』

貴方は心臓がドキンっと一際大きく高鳴るの感じ同時に顔が赤くなるの感じた。

「え…あ…その」


『落ち着いて。深呼吸』

貴方は言われて深呼吸をする。姫子は貴方の様子に笑う。

「姫…子」

『はい』

「何で…いきなりそんなこと」

『そうね…貴方の熱い眼差しを感じたから』

貴方は姫子の言葉と姫子が貴方の手を撫でる感覚にゾクッとする。それだけで昇天しそうな感覚。

「好きです…」

『嬉しいわ』

貴方の身体に身を預ける姫子。心地好い重みに貴方は本当に会えて良かったと思った。

終わり。

5/1/2023, 3:19:44 AM



明るい日差しと小鳥の鳴き声。
なにもないわたしの部屋を透明な色が覆っていた。
変わらない朝が平穏だなんて
一体だれが思ったのだろう。

心はとっくに朦朧としているのに
この胸の命だけは走り続ける。
わたしの体は、何処へゆきたいのだろう。

5/1/2023, 3:12:11 AM

「楽園」

  ちょうどいい温度で 山も海も絶景で

  食べ物が何食べても美味(特に果物)

  美しい声で囀る鳥たちや 穏やかな生き物

  優しい人たち…楽園?こんな感じかなー

  知らないからわからないや

5/1/2023, 2:22:18 AM

4月23日

健康診断をした
何も異常はなかったし何も変わらなかった
そう身長も
平均より低いこの身長が悔しい
なんとしてでも平均は行きたいとこ
来年と成長期に期待

5/1/2023, 2:21:26 AM

楽園へ
          もう怖くない
          人生は常にある
         どんなセキュリティ
          ロック抜け出た
       ねじれた正義なんていらない
          もう怖くない
         誰も私にはなれない
          すべて欺いて
            駆け出せ
          生きるんだ君と



                   (楽園)

5/1/2023, 2:12:27 AM

漂流して3日目

 謎の地図を手に入れた俺は、誰も到達していない島を目指して、家族を捨てて船で海に出た。しかし、船は氷山にぶつかり沈没。何とか救命ボートで脱出できたが、多くの仲間を見捨てた罪悪感に蝕まれていた。

 遂に飲み水が底をつきだした。食べ物はもちろん残っていない。ボートには助けとなるものは何もなかった。昨夜、貨物船が遠くを横切った時に発煙筒などすべての物資を使い尽くしていたのだ。

「奴らめ、なぜ気付かなかった…」

 単に気付かなかったのか、それともわざと俺を見て見ぬふりをしたのか、救うべき命と判断しなかったのか。

 俺の頭のなかでは、他者への怒りと憎しみが支配し始めていた。ずっと1人でいると、この有り様である。俺はボートの端で体育座りをして、うなだれた。

「助けてくれ…助けてくれ…」

 声にもならない声を1人発していた。

5/1/2023, 2:08:48 AM

「楽園の定義や所在、生活の中で感じる楽園、現代に楽園なんて無ぇよの嘆き、楽園Aと楽園Bの比較。どの視点から書くか、まぁまぁ、迷うねぇ」
俺としては金と美味い食い物と最高のベッドとストレスフリーな安全地帯があればそれで良いや。某所在住物書きはポテチをつまみ、茶をカップに注いで笑う。

「そういや楽園って、『飽き』の概念有んのかな」
スマホを手繰った物書きは、途端はたと閃いて……

――――――

最大9連休の中の、月曜日だ。呟きアプリでは「電車空いてる」とか、「席座れた」とかが、ちらほら。
私の職場の同期同年代で作ってるグルチャでも、○○課長っぽいひとがエグい服着てバス乗ってたとか目撃例が。画像見たけどたしかにエグい。

「おはよう」
最大9連休だろうと、ウチはウチ。血は多分有るけど涙が無い、ブラックに限りなく近いグレー企業。
「今日と明日、後増利係長が急きょ有休だそうだ。『お孫さんが熱を出したらしい』」
大型連休is何だっけの精神で職場に行くと、20℃超えの気温にようやく少し慣れてきたらしい、雪国の田舎出身っていう先輩が、向かい側の席で氷入りのコーヒーと一緒にもう仕事を始めてた。
「不思議だなぁ?『お孫さん』は先々週、『新型コロナの中〜重症で、病院に入院中』だった筈だが?」

「おはよー」
先輩の机の上には、上司にゴマスリばっかりしてる後増利係長が押し付けてった、大量の仕事の山がある。
「『退院してから普通の風邪引いた』んでしょ」
今日は仕事だけど、これで登山でも楽しんで、ってハナシなんだろう。なにそのオヤジギャク笑えない。
「先輩3日から7日のどこか空いてない?」
山の中から、私が確実に、絶対にできる仕事をザッカザッカ抜いて、問答無用で自分の机に置き直した。
ゴマスリ係長は一度この量を本当に一人で片付けられるか自分自身で検証すべきだと思う。
「手伝うから、どっかで先輩の故郷観光連れてって」

「私の故郷観光?何故?」
「先輩言ってたじゃん。先輩の故郷、花と山野草と山菜いっぱいの楽園だって」
「楽園と言った覚えはない」
「絶対楽園だもん。森林浴し放題。今何咲いてる?」
「おそらくニリンソウとフデリンドウと、山桜と、そろそろ道端でオダマキ。菜の花は丁度見頃だろうな」
「それを人混みも騒音もナシで見れるんでしょ?」
「見れる。公園は祭期間以外はガラガラだから、川だの風だの、あと鳥の声も聞きながら」

「ほら楽園だった。ストレスフリー。デトックス」
「んん……?」

「無理ならランチおごり1回。この前行ったとこ」
田舎出身の先輩は、自然あふれる静かな街がどれだけ貴重で尊いか、あんまり分かってない。
「4月6日頃のテラス席か?低糖質バイキング?」
「そうそこ。星空リベンジ」
それが無くて苦しいから、一定数の都民がこの連休で、花とか水とか音とかに癒やしを求めるのに。
当たり前と感じてるものを、「実は当たり前じゃない」って気付くのは、意外と難しいのかもしれない。
私が小さなため息をひとつ吐くと、先輩は心底不思議そうな顔で、私を見て、首を傾けた。

5/1/2023, 1:17:30 AM

んなもんどこにもあるわけねぇ、と思っているのできっとどこにもない。

5/1/2023, 12:58:11 AM

「楽園」

もふもふ。もふもふもふ。もふもふもふもふ。
もふもふ。もふもふもふ。もふもふもふもふ。

もふもふ。もふもふもふ。もふもふもふもふ。


俺の周りは今、360度、全部もふもふな猫ちゃんでいっぱいだ。

もふもふ。もふもふもふニャー。もふもふもふもふニャーニャーニャー。
もふもふ。もふもふもふニャー。もふもふもふもふニャーニャーニャー。

どこを見てももふもふ、可愛い、可愛い、もふもふ!
あー、ここが楽園なのか……。
一生ここに居たい。
この幸せすぎる空間に、一生いたい。

猫パラダイス。あぁなんて、なんて最高なんだ。
気持ちが昂り思いっきり声が出た。

「さいっこう!!!!!」

と、同時に猫たちが雲散霧消し目が覚める。
夢だったのか……。
残念に思いながらもあの幸せを噛み締め、メガネを探す。

もふ。

ん?

もふもふもふ。

もふもふに顔を近づけると、

5/1/2023, 12:46:59 AM

~楽園~
あの方にとってここは鳥かごです。
ですが、楽園なのかもしれませんね。

56文字の黒の史書

5/1/2023, 12:38:33 AM

[楽園]

 この絵には楽園が描かれているという。
 実際タイトルにもそうある。
 しかし、この絵は真っ黒だった。
 ただ、黒一色で塗られた絵。
 この作者の絵は大体そうだ。

 「食卓」という真っ黒な絵。
 「落日」という真っ赤な絵。
 「水面」という_真っ青な絵。

 そういうコンセプトなのだろう。
 これもきっと、そうなのだろう。
「彼は自分の目に映るものをそのまま描く」
 解説にもそう書いてある。

 僕にはよく分からないけど。
 彼の目に映った楽園は、きっとこの色だったのだ。

5/1/2023, 12:09:49 AM

2023/05/01
今日から始めてみる。
自分を俯瞰するために。


チャレンジしてみようかなって思っていたことを、やらざるおえなくなる状況は、きっと神様が急かしてくれている、背中を押してくれたんだと思う。
「物は考えよう」

5/1/2023, 12:08:32 AM

※BLです。苦手な方は飛ばしてください。













ふんわりと浮かぶ雲。柔らかな日差しが足元を照らしている。綺麗に色付いた花々が風に揺られて踊っているようにも見えた。
ひらひらと舞う蝶が、蜜を求めて彷徨っている。もしこの世界に楽園があるのなら、きっとこんな風に綺麗な景色が広がっているのだろう。
ゆっくり体を起こし、辺りを見回す。少し離れた先に見知った後ろ姿がいることに気がついた。
口を開きかけたと同時に振り向いたその人は、いつもと同じように口元に笑みを浮かべ、眩しそうに目を細めながらこちらを見る。
さくさくと草を踏み締め、ゆっくりと近づいてきたその人は、俺の傍にしゃがみ込んで視線を合わせてきた。
「なぁに、まだ寝ぼけてんの?」
くしゃりと優しく頭を撫でられ、その拍子に葉っぱがひらりと膝の上に落ちる。その葉っぱを少しの間見つめてから、まだ頭に乗っている腕を伝ってその人に視線を移した。
「ん?」
どうした?といつもより柔らかな笑みを浮かべる姿にトクリと心臓が跳ねる。優しげな声も手つきも、いつもとなにも変わらないのに、なぜだか泣きそうになった。
ああ、夢じゃないんだ。俺はここにいて、この人もここにいる。ずっと、手を伸ばしても届かないと思ってた。それでもこの人に追いつきたくて、隣に並びたくて。
やっと、やっと追いついたんだ。
「おはようございます」
俺もいつもと同じように笑い返す。この人の隣でこれから先もずっと笑っていたいと思うから。
傍にいられるのなら、それだけでいいんだ。他になにも望まない。周りにどんな言葉を投げかけられようが、どんな辛い場所に立とうが、この人が隣に居てくれるのなら、そこはもう俺たちだけの楽園だ。
下ろされた手を今度は俺から掴む。ぎゅっと強く握りしめて、温もりを確かめる。
俺よりも少しだけ冷たい手は、俺よりもずっと強く握り返してくれた。

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