『忘れられない、いつまでも。』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
昔一度だけ、父にあった事がある。
暗い赤の瞳にたくさんの感情を乗せて、ただ私を見ていた。
怒り。悲しみ。迷い。
そんな父が呟いた言葉を、今も覚えている。
「どうした?」
「何でもない。少しだけ、お父さんの事、思い出してた」
ゆるりと首を振ると、触れているだけだった手をそっと握られた。
優しい人だ。そして、とても強い人。
自分の中の想いに押し潰されない、強くて優しい人。
父〈あのひと〉とは違う。
「あの、さ」
「なあに?」
「多分だけど、寂しかったんだと思う。好きで、誰よりも大切にしたかった人がいなくなって、寂しくて、会いたくて」
「うん」
きっと、それは正しい。
父は弱い人だった。
ずっと母だけを求めていた。それ以外は見えなくなってしまっていた。
自分の中の想いに潰されて、食べられて。
そうして、残ったものが変わっていってしまったのだ。
「俺はまだ子どもだから、まだ全部は分かんねぇけど、大切な人がいなくなるのはきっとダメだ。もう一度会えるなら、それしかないなら、俺も同じになると思う」
そう言っても、同じ事にはならないのだろう。もしその時が来たとしても、彼は絶対に道を間違えたりはしない。
知っている。
彼は、彼自身よりも他を選ぶような、そんな優しい人だ。
「だから、さ…あの人は、シロを憎んではいなかったよ。寂しくて、間違っただけなんだ」
彼なりの不器用な慰めが、背中合わせの温もりが何だかとても心地良かった。
「…会えたかな」
「何?」
「お父さん。お母さんに、会えたのかな」
人の身で常世に渡った父を思う。
常世の瘴気は、現世に生きる人を腐らせてしまうといっていた。
体も、魂も。全てを腐らせ、土に還すのだと。
「会えたさ。どんな形でも。会いたいって望んだんだから」
「そっか…ありがとう」
彼の言葉に、目を閉じる。
「あのね。ちゃんと、知っていたよ」
繋いだ手は、まだ離れない。
「知っていたよ。お父さん、不器用なんだって」
一度だけ会った、父の言葉を今も覚えている。
『シオンがいたら、ちゃんと愛せたのかな…ごめんな』
瞳にたくさんの感情を乗せて。
触れようと伸ばした手を、伸ばせずに握りしめて。
『ごめん』
まるで泣いているみたいな表情〈かお〉をした父を。
きっとこの先も忘れる事なんてできない。
「だから、」
「ツキシロ」
夜みたいに静かな声音で、彼が呼ぶ。
「ん、なあに?」
「ツキシロ」
もう一度、彼に呼ばれて、背中の温もりが離れていく。
それでも、手は繋いだまま。
その手を引かれて振り返ると、そのまま優しく抱きしめられた。
繋いでいない片手が、背中を宥めるように撫でていく。
「がんばったな。いい子いい子」
「っ、子ども扱い、しないでよ」
「まだ子どもだろ、俺達」
「バカ、クロノの大バカ、悪い子、バカ」
「だからバカ多いって」
背中を撫でる手は、どこまでも優しい。
その優しさが、触れる温もりが何故か苦しくて。
痛くて。寂しくて。怖くて。
彼の腕の中で、只々声を上げて泣いていた。
20240510 『忘れられない、いつまでも。』
🍀忘れられない、いつまでも。
あなたの優しさ。
忘れられない、いつまでも
【刹那 続編】
オヤジが亡くなってもうすぐ3回忌になる。
会社は、小さいながらも希望どうりエンジニアの職につけた。
幸い同僚にも恵まれ、学生時代から交際っている彼女とも大きなケンカもなく上手くいっている。
そんな彼女から言われた言葉が気になってしょうがない。
「何か心配事でもあるの?」
「いや、何もないよ。どうして?」
「最近、元気がないみたいだから仕事で何かあったのかなと思って」
「何もないよ。大丈夫だよ」
「そう、それならいいんだけど」
彼女には大丈夫だと言ったが、自分でも感じていたのだ。
“何かが物足りない”と。
その夜、夢を見た。
誰かがこちらに向かって来る。ゆっくりとゆっくりと、まるで焦る事はないとでもいうように。
オヤジだ。
オヤジが優しく微笑みかけてくる。
「お前の人生はまだ長い、少しくらい遠回りをしたっていいじゃないか」
オレは、ゆっくりと目を覚ました。その視線の先には形見のカメラがあった。
その時、気付いたのだ。何が物足りないのか。忘れようとしていた。でも、忘れられないでいたファインダーを覗いている時の胸の高鳴り。
3回忌の朝再び、あの場所に立った。
強くて大きな背中でした。
大きな怖いばけものから、一太刀で守ってくれた
その人は、とても格好よくて。
多分初恋でした。一目で好きになりました。
一緒に遊んでくれる足が、
優しく撫でてくれる手が、
行道を寿ぎ帰道を慶ぶ声が、
いつも隣に居てくれた人が、
大好きでした。今も大好きです。
だから、だから、きっとずっと、
ずっと一緒にーーー
「……………馬鹿な夢。」
まだ薄明るい窓の下、固まった身体を伸ばすように
鏡を手に取った。
目と肌の色は問題ない。でも髪を伸ばしすぎた。
表情筋を調整して、屈託ない笑顔になるように。
声の低さが届かないままだけど、今度の報酬で
目処が着く、筈。
夢想の背中を思い出す。
爪先まで天辺まで強く強く思い返す。
まだ全然違う身体を、どう修正する。
あの正しい心根を、どうやって再現する。
どうすればあの人は戻ってくる。
あの日死ぬべきだった私の代わりに、
もう焼け落ちた身体の代わりに、
あの人を、その名を、存在を、
私が確かにしなければ。
必ずあの人を蘇らせなければ。
<忘れられない、いつまでも。>
忘れられない、いつまでも。
人間は忘れる生き物だから
忘れちゃうのはしょうがない
忘れちゃ困ることは
メモを取ったり
何度も繰り返し確かめたり
いろいろがんばるけど
大事なことに限って
どうして?ってくらい簡単に
忘れてしまうことがある
忘れたくない思い出だって
大切に大切に
繰り返し思い返しているはずなのに
ほんのりぼやけてしまったり
微妙な思い違いをしていたり
つまり
忘れちゃうし勘違いしちゃう生き物なのだ
なのに、忘れたいことに限って
臨場感たっっぷりに、よみがえる
事細かにその時の感情の揺れもそのままに
悲しみも悔しさも恥ずかしさも
いろいろ、いろいろ込めて
あああ〜
ってなるから余計に
忘れちゃう生き物のはずなのに
忘れられない
そう、いつまても
【忘れられない、いつまでも】#1
数十年前
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
「甘美、ちょっとこっち来て。」
「うん。」
「あのさ。そろそろウザくない?千香。」
「え、?………そうだね。」
「うちら、千香のこと無視しようかな。」
(私の友達…。分かっててやってるのかな。でも愛には逆らえない…。ごめんなさい。)
「い、いんじゃないかな。私もそう思ってた。」
「うん。じゃあ、うちらの班に来なよ。修学旅行アイツと一緒は嫌でしょ。」
「あ、うん。ありがとう。じゃあ入るよ。」
(最近クラスの雰囲気暗くなったかな。でも良いや。お気にのサンドバックあるし。)
「あ、愛〜。次、誰やる?千香はもういいじゃん。時々しか来ないし、」
「確かにwじゃあ、次は誰にするか決めとくわ。」
(最初は友達って思ってたけど、案外価値なかったなぁ。よし、帰ろ。)
『速報です。昨夜11時半頃に都内の女子中学生が倒れていると通報されました。女子中学生のDNAを確認すると、荒山中学校で名前は“佐々木 千香”だと判明しました。警察はどのようにしてそうなったか解明の為捜査を続けています。そして-』
「うそ、でしょ?千香?それに内の学校…。わたし、が死なせた?ううん。私はやってない。やってない。やって…やって…。うぅう…………。」バタッ
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
という記憶よ。あれは“誰”の記憶なのでしょう。私は、山田甘美。同姓同名なんだけど、私は虐めなんてしてないの。でも、何故かいつまでも忘れられない。私には大事な友達がいたような…。
「佐々木さーん。食事のお時間ですよー。」
「あれまぁ、私はもう食べたわ。お昼に夕食をね。美味しかったわ。」
「夕食はご飯じゃないよ笑。」
「あらあら、あなたったら何を言ってるの。今私が着てる服は紫よ。」
「もう笑今着ているのは赤色ですよ。」
おばあちゃん、苦しくないかな。あの日の記憶。虐められて悲しかったんだろな。苦しかったんだろな。孫の私が“千香婆ちゃん”を支えなきゃ。
今も今で良い関係を築けていると思う。
でも、ギラギラした目がふっと緩むのとか、甘ったるい声で告げられるかわいいとか、唇をなぞる指先とか、切羽詰りながら俺の名を呼ぶ声とか、慈しむように顔中に降ってくるキスとか、
そういう、俺があんたのもんやったときのことがふとした時にぶわぁっと甦ってくる。
やから優しくせんとってよ。セピア色の思い出にさせてよ。
『忘れられない、いつまでも』
(まだあんたに色付いたまま)
作者の自我コーナー
いつもの。少しおセンチな話ですね。
思い出が思い出にならないくらいいつも一緒にいるふたりの話。恋人になろうがならまいがこの二人の関係は変わらないんですよね、矛盾。
僕は中学生とき1回だけ家出したことがあるんだ。
特に理由があった訳では無い。
何となく家から出たくなった。ただそれだけ。
たった数日だけのちっさな逃避。
そして、3日くらいたった日に腹が減ってたまらなかった。
その時どこからともなくいい匂いが漂って来たんだ。
抗えない甘い匂い。
そんな匂いにつられて行った先にあったのは小さい小さい建物。
道の奥にあって、誰が来るんだ?
ってくらい見つけづらそうな場所にある建物。
匂いは間違いなくここから来ている。
そっと木の扉を開いたの。
中には丸っとしたおばさんと、紳士って感じのおじさんがいた。
びっくりした2人の顔を見て、僕は涙が溢れた。
お母さんに会いたい。家に帰りたい。って
そんな僕を見て二人は何か言う訳でなく、
ただそばにいて、ホットケーキを焼いてくれた。
「特別だよ?」
って4段に重なったキレイなホットケーキを焼いてくれた。
ふんわり香るバターの匂いと
黄金に輝くメープルシロップの甘さ
わがままで飛び出した僕に
与えてくれたこの温かさを
きっと僕は
ーー忘れられない、いつまでも
『忘れられない、いつまでも』
20代半ばの頃に勤めていた
職場の上司のAさん。
そのAさんは今のわたしより
10歳も若かったのですが、
とにかく頭の切れる人でした。
そのAさんの一日の睡眠時間は
2時間とのことで、
それは休日も関係なく
1年通してその睡眠時間とのことでした。
理由を聞いたところ
「長く寝るとリズムが崩れて
次の日も眠くなるから」
そして他の時間は全てと言っていいほど
仕事を、そして仕事につながることを
やっていました。
そのことにも驚きますが、
なにより私がすごいなと思っていたのは
その人と関わる人たちはみな
だんだんと表情が明るくなり
生き生きとしはじめるのです。
上司はとにかく話を聴く人でした。
そして自分の考えをきちんと
伝える人でもありました。
わたしは25年近く経っても
よくその人を思い出します。
そして前向きな自分でありたいと願うのは
そのAさんの影響に他ならないのです。
私はきっとこれから先も
ことあるごとにAさんのことを思い出し
感謝していくのだと思います。
2024 5/10(金)
忘れるわけがなかった。
たった一枚の柔らかな写真が
簡単に私をあの頃に連れ戻してしまうの
#21 忘れられない、いつまでも
「宇宙旅行に行くことにしたの」
真夜中の訪問者は重そうな旅行鞄を持ち、楽しげに言った。寝ぼけた頭で彼女の言葉を反芻していると、彼女は続けた。
「あなたも、私と一緒に宇宙に行かない?」
彼女は旅行鞄から、紙切れ二枚を取り出した。
「ほら、あなたの分のチケットも用意してもらったし」
手渡された紙切れを見る。彼女がチケットと呼ぶ紙切れには、満点の星空を背景に真ん中には『地球⇔宇宙の果て』と印刷されていた。往復できるようだ。
「いつ帰ってこれるか分からないけど、あなたと一緒ならきっと楽しいだろうし。ねえ、私と行かない?」
彼女にすがり付くような目で見つめられ、返答に詰まった。彼女は僕が行かないなんて、言わないと思っているのだろう。だって、僕たちは友達だし。でも宇宙の果てまで行ったら、きっと家族や友人たちに二度と会えなくなる。それが怖いのだ。だけど、彼女を帰ってきたときに一人ぼっちにするのも気が引ける。
「行かないって選択はないの?」
「どうして?ただの旅行だよ」
「家族に二度と会えなくなるかもしれないんだよ」
「別にいいよ。あなたが隣にいてくれればそれで」
彼女は不安そうに眉を寄せた。
「もしかして旅行に乗り気じゃない?」
「そんなこと…」
「あるでしょ。家族のことなんか心配して…」
彼女はうつむいてしまった。どう声をかけようかと考えていると、彼女は顔を上げた。
「ねえ、だったら夜明けまで待つから来てよ。荷物まとめていつもの公園で集合ね」
彼女は一気に言うと泣きそうな顔で待ってるから、と家を出ていった。家族と彼女を天秤にかけて考えていたが結局答えは出ず、そのまま眠ってしまっていた。目が覚め、日が高くなっていることに気づいたときにはもう彼女は地球にいなかった。
#02 『幸運を。』
「今日の授業では“リマインテージ”について扱う。」
先生の言葉に心がドキリと音をたてた。
「リマインテージとは簡単に言えば魔力が刻まれた特殊な魔道具のことを言う。」
汗ばむ手の平を膝の上でギュッと握った。
「リマインテージが最初に創られたのは約500年前、魔術史での夕幻時代の頃になる」
ただ教科書を見ながら先生の話を聞くのはなんだか落ち着かなくて、ペンをクルクルと回してみる。やっぱり落ち着かなくて、寮のふかふかベッドに思いを馳せる。
「エリーナ、授業に集中しろ!」
あ、怒られた……。
私の家は由緒正しき魔術師の家系、の分家だ。それこそ本家は夕幻時代の前から続いてる家。分家ではあったけど本家との仲は悪くなくて(寧ろ魔術師の中では仲が良い方だ)、私は幼い頃から本家のお屋敷に行っては本家の子といっしょに遊んでいた。お屋敷には面白い物がいっぱいあった。あちこちに飾られた魔生動物の素材や魔生植物のドライフラワー、空飛ぶカトラリーに開ける度に中の部屋が変わる扉だって!
なんでもあるお屋敷の中でも特に好きだったのは倉庫だった。いろんな物が乱雑に詰め込まれた倉庫はお屋敷の中をギュッと凝縮したみたいでとびきり楽しかったのを憶えている。独りでに喋るパペット人形に自分じゃない誰かが写る鏡、デタラメしか書けない日記帳なんてのもあった。勿論何にもならないガラクタだったけど、まだ幼くてなかなか魔術に触れさせてくれなかったからか倉庫の中は私にとって宝箱みたいだった。
私がそんな中から見つけ出したのは一本の万年筆だった。細かいキズが付いて使い古された万年筆。キズだらけだったけど、小さい頃の私にはそれがとてつもなくカッコよくて、特別に見えて、コッソリとポケットに入れて倉庫から持ち出したんだ。
「リマインテージ、かぁ……」
考えていたことがそのまま口から出て慌てて手で抑えた。危ない、同室のサンドラに聞かれてたら変に見られるところだった。
リマインテージ。すごーく昔に作られた特殊な魔道具。それを作る技術は第一次魔術大戦の時に消失してしまったらしい。私はこの万年筆がリマインテージではないかと疑っていた。
この万年筆は特別だった。この万年筆で文章を書くと、絶対最後に『Good luck.』と締めくくってしまうのだ。数式を解いてるときも、魔術式を書いているときも、日記を書いているときも手紙を書いているときだって。最初は私の思い通りに動くのに最後の最後で勝手に動いて『Good luck.』と書いてしまう。数式の最後に書かれた『Good luck.』なんて、ちょーダサかった。誰にも見せなかったけど、一人でずーっと笑えた。今だって思い出し笑いができるくらい、ダサかった。
そんな『Good luck.』という言葉にも、この万年筆にも、なにか思いが込められているかもしれない。そんな事を授業が終わってから考えていた。リマインテージには、その道具の使用者の思いが、魔力が、今の技術じゃ再現できないくらい深く刻まれているらしい。もし、この万年筆がリマインテージだったとしたら、これを使っていた人はきっと『Good luck.』の言葉に強く強く思いを乗せていたんだと思う。ただの一本の万年筆が長い年月をかけても忘れられないくらい、強く。
手紙でも書いていたんだろうか。ふと、そう思った。家族か、友人か、恋人か、誰かはわかんないけど、とても大きな何かに向かって行く人がいて、その人に手紙を送っていたとしたら。『Good luck.』で締めるのは、とてもぴったりなんじゃないか。だったらきっと、この万年筆の持ち主にとって、手紙の受取主はとても大切な人だったんだろう──────
「……ナ!……ーナ!エリーナ!こっちに戻ってきて!」
「うわっ!?びっくりしたぁ。何か用?サンドラ」
「ずっと呼びかけてるのに気付かないんだから。もう夕飯の時間よ」
「え、もう!?」
どうやら考え事をしすぎて時間を忘れてしまっていたらしい。夕飯は寮のみんなで食べるから、遅れると寮長に怒られちゃう。
「サンドラ、速くいこう!」
「遅れてたのはエリーナのほうでしょ!?」
──────。
「エリーナ・アシュリー二等魔術師。貴様はエルドンムンドに配属だ」
ついに、来てしまった。最近物騒になって、いろいろな所で戦火が広がり始めている。一応は魔術師だし、教会勤めだからいつかは指令がやって来ると思っていた。でも、こんなにも早いとは思わなかった。
エルドンムンドは現在時点での最前線だ。すでにそこで何人かの先輩達が、同級生達が、戦い亡くなっているのを知っている。そして、次は私の番らしい。
サンドラは元気だろうか。魔術学校時代は勝ち気で実践魔法の授業が大好きだったけど、いつの間にか彼女は古代魔術研究者の道に進んでいた。進路が決まった時、同級生たちにに「お前ら逆だろ!」と言われて笑われたのを憶えている。彼女は今魔術大学校で古代魔術の研究に勤しんでいるはずだ。なかなかに優秀だし、前線に送られることは余っ程のことがない限りないはずだ。
手紙を書こう。もう、いつ死ぬかわからないのだから。エルドンムンドに配属されたから、きっと生きていても終戦までは彼女には会えない。
教会付きの寮に戻って便箋を取り出す。どのペンで書くか悩んで、机の引き出しの奥に仕舞っていた古い万年筆を選んだ。この万年筆が、私の思いをサンドラに届けてくれる気がした。
Dear Sandra
────────
────────
────Good luck.
忘れられない、いつまでも
あんまりないかもなぁ忘れられないこと
もちろん嫌なことはあったし、
忘れられないことでもあるけど
これから先もずっと忘れられないことってわけじゃないな
これからできるのかもね
そういう人とか
もしできたら、
編集して書き直すね。
忘れられない、いつまでも
親に連れられたあの景色
友達と走り回ったあの景色
車に揺られながら眺めていたあの景色
あなたと一緒に見たあの綺麗な景色
戻りたくとも戻れないあの景色
今見ている景色はあの時見ていた景色とは全く違う
あの時見ていた景色と比べ全く魅力も価値も感じない
いつか魅力や価値を見出すことは出来るのだろうか
もう一度あの景色を見れたなら
もう一度皆のいるあの景色を見れたなら
ただただ戻りたい
あの時に
忘れられない、いつまでも
「僕、ずっと忘れられないんだよね。」
おん、どうしたの急に。
「めっちゃ綺麗な泥団子作れたこと。」
…なるほど、子供の頃の記憶か。
「車に轢かれそうになったこと。」
なるほど、恐怖体験か。
「好きな女優が、めっちゃ急に結婚報告して驚いたこと。」
…好きな女優が忘れられない、って訳でもないんだ。
「誕プレが欲しいゲームだったこと。」
嬉しかったことか。
「そのゲームをお前が壊したこと。」
ごめんって。いやホントごめんって。
「出席番号が2年2組22番だったこと。」
いつまでも忘れられないことか…
「お前と8年間同じクラスだったこと。」
忘れようと思っても忘れられないってことか
「お前に彼女が出来たこと。」
普段やっている事とかか?習慣とか
「…お前が交通事故にあったこと。」
あ………
「お前のいない日々は想像以上に、面白くないこと。」
…そういえば
「僕は一生、お前のこと忘れないからなぁ!!!」
「俺、家の鍵閉めたっけ?」
「思いっきり忘れてんなぁ!」
あの日の優しい目が、いつまで経っても忘れられない
『忘れられない、いつまでも』
忘れられない、いつまでも
私の場合、忘れられない印象の人は少ないのだが、ただ見ただけなのに今でも忘れられない、鮮やかな人の話を。1995年のことだ。
その人は、あきらかに小学生と覚しき子ども達を8~9人連れていた。いや、連れていたというより、子ども達が来たがったので保護者的についてきたようだった。
老齢の女性で、姿勢よく、グレーの髪は低く団子にまとめ、薄い藤色に薄青系の濃淡が上品な訪問着(和服)を銀の帯でお太鼓に結び、きれいに着付けた姿がとても美しかった。若い頃から美人でいらしたに違いない。優しそうでもある。
あら素敵、と思いながら私は心配もした。
その場所は真駒内陸上競技場のスタンド。夏のさなか、これから日暮れといえども和服は結構に暑いのではなかろうか…? 同行者は子ども達。私は気になってしまい、その後もその人の様子をしばしば見た。
その日、私はLIVEのためにそこに来ていた。兄がチケットを友達と手分けして得たものの、枚数に人数が足りないからお前も来い、と。鷹揚な時代のロックのコンサートだ。そう、ロックなのだ。そこに件の女性である。
さて、LIVEの開始からしばらく経ち、私はまたその人の居る方を見た。驚いた。彼女は両足を肩幅に置いて、両腕を上に伸ばしていた。グーで。とても楽しそうだ。私は、クレーンバケットに乗って一生懸命歌っているフロントマンより彼女の姿に夢中になった。なんてクレイジーでなんて素敵! 彼女は本当に楽しんでいて、私のように後ろから見ていた若い者達を嬉しい気持ちにさせてしまったのだ。老婦人、和装の着こなしも姿勢も完璧。その姿でROCKのLIVEの楽しみ方も完璧。
ずいぶんのちに、彼女の姿の記憶は私の重要なインスピレーションの基となってくれた。まことに鮮やかな人で、今でも忘れられない。
【忘れられない、いつまでも】
優しくしてくれてありがとう
君と一緒に帰ったあの日だけは
大きなご褒美シールみたいに
記憶の中
ピカピカ輝いてる
【エッセイ】忘れられない、いつまでも
忘れられない記憶。
それは良い記憶ではなく、悪い記憶の方が多いんじゃなかろうか。
私はいつも決まった悪夢を見る。
学校。
授業の教科書や体操着を忘れ、友人の少ない私は他のクラスの子に借りることも出来ず、休み時間の終わりが迫る。
…ただ、これだけの夢だ。
それのどこが悪夢なんだろう?って思う人が大半だと思う。
怖いものが出てくるでもない。
ただ不安と焦り、嫌な想いが胸に残ったまま目覚める。
でも、忘れものの多い私には本当に学生時代によくあった事だった。
自分ではそこまで辛かったという記憶はないのに、私は卒業して何年経っても繰り返し、繰り返し、今になっても悪夢としてこの夢を見る。
そこで私にとっては、よっぽど辛かった記憶なのだと初めて認識した。
その夢も最近になって段々と見るペースが減っていっているのは、私が癒やされていってるからだろうか?
それとも単に時の流れに埋もれ、少しずつあの頃の感覚を忘れていっているからなのだろうか?
〝忘れられない、いつまでも〟
一枚一枚、ページをめくる。
大団円の晴れ晴れとした笑顔に、
ご愛読ありがとうございましたという言葉。
読み返すのは何度目だろう。
あまりにも、私の中での存在が大きすぎた。
どうやっても忘れられない、
いつまでも心の中でキャラクター達は生きている。