『幸せに』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
《幸せに》
幸せになりたい 幸せにしてあげたい どうせ願いが叶うならなら幸せに 幸せにヒビが入る 幸せに戸惑う 幸せに水を差す 幸せに影が差す 幸せに輪をかける 世界中が幸せに 喜びに目出度さに幸せに 鬼に金棒的にいうと、幸せにマシュマロ 幸せに子どもの子で幸子です
幸せに
「もう行くの」
薄茶の頭とすらっとした背中に声を掛けると、「ああ」と振り返らないまま返事が返ってきた。
「何処へ行くの。……何を探しに行くの」
「分かんねえ」
彼はいつもどこか遠くを見ていた。大事な何かを無くして、当て所なく探して彷徨っているような、そんな眼差しで。彼の欲しいものは多分永遠に手の届かないところにあって、それを知ってなお渇望は癒えなかった。わたしは、ゆっくりとかつて彼と不器用に繋いだ左手の温もりを思い出す。
不規則に揺れる灯籠の火影、青い空に突き立つ送電塔、濃密な夏の風、珍しくわたしから顔をそらす、僅かに頬を染めた彼。
それはわたしの記憶の中で呼吸をする、“人間”の彼。
今ここに立っているのは、世界の禁忌に踏み込もうとする、感情も情緒も美しいものも残らず屑籠に捨てたひとりの探求者だ。彼は“人間”の自分と“ひとではない”自分を右手と左手に片方ずつ携えて生きるつもりは、既にないのだ。
「……そっか」
名前を付けるには、あまりに未熟な想いだった。彼はとうとう自分の見たいものや知りたいことを捨てられなかった。わたしはきっと、そんな彼に傷ついていたのだ。そしてその気持ちを消すことも飲み込むこともできなかった。今この瞬間さえも。
「なあ」
初めて振り返った彼は、痛みもやるせなさも全部知った顔をしていた。わたしも同じ顔をしているのだろうか。
「なに?」
「お前は……俺にとって、ひとの世界で生きていくための重りだった。お前がいたから俺はひとでいられたんだ。お前のことだけは、俺は忘れないから」
「ばか」
よりによって、それを既に闇に半分半身を突っ込んでから言うなんて。
でもそれでいい。
明けない夜を歩いていくと言うのなら、わたしがあなたの太陽になる。
幸せに
突然届いた結婚式の招待状…そこには、中学の時の同級生の2人の名前…ずっと片想いしていた、あの人の名前…私には、届かないと諦めた筈なのに…あの人の笑顔が、鮮やかに蘇る…3人で一緒に過ごした3年間が、まるで昨日の様に浮かんでくる…人見知りの私を、何時も気に掛けてくれていた優しいあの人…何度もチャンスはあったのに、結局、卒業式を最後に、離れ離れに…出来れば…なんて…どうにもならない事を思い乍ら…心から素直に、受け入れられない…けど、2人には幸せに…
幸せに
休みの日に特に何もせず
"幸せに"ついて考えている現在の自分は
見ようによっては幸せなのかもしれない
「幸せになりたい」
誰もが口ずさむ言葉に疑問を感じていた。
"幸せに"とは?
世間的にそれは
「家族と」「恋人と」「皆で」
と連ねて言われる事が多い。
"誰か"
他人と共有する事で成立している様な
そんな印象から
自分には分かりえない事なのだと思っていた。
「幸せになりたい?」
「幸せにしてあげようか?」
その声はどこからともなく突然聞こえてきた。
中性的な声。
声から姿が想像出来ない。
返答は決まっている。
「うん」
未知の事に興味が無いわけではなかった。
皆が言う"幸せに"
自分もなりたかった。
「わかった」
返答が返ってくると同時に
視界は暗闇から照らされた世界へ
見慣れた景色へと変わっていった。
「あら、おはようございます」
「眩しかったですか?」
「朝食の準備をしますね」
聞き慣れた声を聞いたせいか、
夢の中で聞こえた声が
これまでに聞いた事のない声
"だった"という事を
さらに強調された様な感覚。
身支度を済ませ
朝食が並べられたテーブルへ着く。
普段と違う香りの紅茶。
気になったまま紅茶を手に取り口に含む。
すると
その行動が面白かったのか
こちらを見ていた彼女が微笑んでいた。
偶然、ハナミズキを聴いた。
大分昔に抱いていた気持ちがよみがえってきた。
私は今の自分のこと幸せだと思っているけど
本当にそうか、ほんの少し疑ってしまった。
人と比べたら不幸になるだけなのは分かっているが
「一般的な幸せ」に目がいきそうになる。
私は幸せなはず。
貴方もどうか、幸せに。
【幸せに】
「…俺が幸せに出来なくても簡単に…、物分りよく幸せにね、って手を離して上げられる自信が無い、」
はぁ?と声を上げた目の前の人が続けて始まったよ…と呆れたように言ったのは聞かなかったことにして。
そんなことを言いつつもスマホを置いて話を聞いてくれようとしているんだからこの人も案外ツンデレである。
そんなこと口に出してしまったらまた変な距離が出来てしまいそうだから口が裂けても言わないけど。
「ふぅん…それで?」
「何処までも一緒にいたいから…勿論幸せにしてあげるつもりだけれどね。でももしそれが叶わなかったら二人でどん底に沈むのも…って、」
「うげぇ…」
世間ではこういう場合に笑顔で彼女の幸せを願って別れてあげるのが良い彼氏、なんて呼ばれる部類であるのは重々心得ている。
だけれど、それが自分の事となると話は別物。
想像なんてしたくないけど、もし自分の手で幸せにしてあげられないと分かった時、俺はその手を離してあげられるだろうか、とふと考えてしまった。
俺なんか気にしないで、貴方にはもっと素敵な人がいるから、と。
沈黙が続く。何か言ってよ。俺は真剣なのに…。
かれこれ30秒ぐらいかけてやっと口を開いたその人は呆れとほんの少しの怒りを含めたみたいな言い方でまくし立てた。
「…それでいいんじゃない?お前は大概重いんだしあの子だってそれぐらい分かってるでしょ、てか分かってなかったらお前みたいな激重メンヘラ好きになるかよ」
「…今サラッとひどいこと言った!!」
「、俺はこれでもお前に幸せになって欲しいんだよ」
「へ?」
しあわせ、幸せに?俺に幸せになって欲しい…。
なるほどそうきたかぁ…。
「俺も、大河には幸せになって欲しいよ?」
「は、はぁ?お、おまえほんとわかんない…」
腕で顔を隠したその人は初めて見るような表情を浮かべていてちょっぴり面白かった。照れてる?
でもこれはほんとうだよ。
幸せに出来なかった俺が言うのも笑えてくるかもしれないけれど貴方にはちゃんと幸せになって欲しいわけ。
貴方の潤んだ瞳はあの日から何も変わっていなかった。
逃げていたのは俺だけだったのだから当たり前か。
「…ごめんね、大河」
2024.3.31『幸せに』
どうか「幸せに」。
面白いことに、読んだだけではその意味はわからない。
表情、声色、場面・シチュエーション等々により、その意味は大きく変わると考えられるからである。
でも、たったの「その」ひと言で、伝えた相手にどれだけの重みを与えるのだろう。
確信的なところには言及されず、相手に委ねられるこの言葉。
一種の呪いとさえ思える。
言われたことは無いから、わからないけど。
伝えられた暁には、少し大人の階段を登ったと思えるのではないだろうか。
「幸せに」
幸せに生きるってなんだろう。誰にだってひとつやふたつくらい幸せなことはあると思う。でも全部が全部そういう訳でもない。逆に毎日が嫌で憂鬱な人もなかにはいるもしれない。自分の好きなことだけをして毎日を過ごしている人もいるかもしれない。自分が知らない人がこの世界には沢山いるんだって改めて実感する。面白いなぁ。もっと自分の知らない世界を見てみたい、知ってみたい。そして自分が幸せだなぁって思える毎日を送ってみたい。
「君には、幸せになって欲しいんだ。
天国ってきっと地上にも生まれるものと思うよ。
底知れぬ深い慈愛に溢れて、
脳みそ溶けるほど美しい場所が。」
ー今更何を言うんだ。夢なんか見るな。
どちらにせよお前は天国なんか行けないよ、
罪人だもの。
口を開きかけて、やめた。
君が微笑むから。
おれと君は罪を持って生まれた。
果てない闇の中から、濁った瞳を持って。
蔑まれ、罵られ、顔も知らない人間に頭を下げる。
地を這い、泥水を啜り、己を卑下して生きる。
いくらおれたちが慎ましく丁重に生きたとて、
その運命は変わらないのだ。
だが君は違ったか。
生きる希望を失わず、いつでも笑顔を絶やさずいた。
耄碌した肉塊に屈さず、確固たる意志を持つ。
年を取るたび捻じ曲がるおれに比べて、
君はさらに美しくなる。
さながら泥中に咲いた白百合だ。
人は美しく儚いものを己の手の内に収めたくなる。
神も同じだろう。
君は病に臥せた。
快活に笑う口はよく閉じるようになり、
部屋に詰まっていた笑い声はしゅうしゅうと
風船のように跡形もなく消えていった。
おれで良いだろうに。
なぜ未来ばかり摘み取られていく?
「動けないとはもどかしいものだね、
昨日よりは元気だが。」
まだまだ知らない事がある、と言っていた。
「この世のこと全部知るにはあまりに人生短いな。
君は僕より幼い癖に多くのことを知ってる。」
君の脳みそ覗かせてくれよ、と笑っていた。
ふと気がつけば、丘の上に立っていた。
肩に君を抱いて、辺りを見回す。
あてもなく逃げてきた場所。
初めて出会った場所。
ピクニックに来た場所。
暗闇が明けたと思えば、
海に手をついて起き上がる太陽が見えだした。
次第に君の顔も陽に照らされていく。
ーそういや、海を知らないんだって?
ほら見ろ、あれが海だ。
ー⬜︎⬜︎⬜︎ ⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎
ー赤い?違うよ、あれは太陽。
海は青くて果てなく美しいんだ。
ー⬜︎⬜︎ ⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎ ⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎
ーおれはあそこを泳いで渡った。
凄いだろ?
なんか、眠くなってきたな。
海を泳いだ日も、疲れてここで寝た。
あぁ、わかった。
ー⬜︎⬜︎
ー天国はここにあったんだな。そうだろ、⬜︎⬜︎⬜︎?
【幸せに】
幸せに。
それは相手に願う事。
好きだった人が結婚する時、相手の幸せを願う。
友達が、子供が結婚する時に“幸せに”と言葉を掛ける。
けれど、これは自分に向けても言える言葉。
これからの自分を、“幸せに”と新たな一歩を踏み出すとき。
色んなところで“幸せに”
誰もが“幸せに”
この世の中がもっともっと“幸せに”なりますように。
*幸せに*
将来
幸せに暮らしていけるようにと願う思いが募る
と共に小言が増えていく
ふと思うのは
今現在
幸せにできているだろうか
という不安
『幸せに』
細い裏路地を通り抜けた先、
蔦に絡まれたレンガ作りの建物が姿を現した。
ここは知る人ぞ知る『魔術師のお店』
重厚な木製のドアを押し開けると、
店内からお香や薬草、焼きたてのパンプキンパイ
のような甘い匂いが漂ってきた。
動くカブトムシチョコを使って対戦する男の子たち、
指にはめた宝石キャンディを見せあう女の子たち。
受付には緑色の肌をしたホブゴブリンが立っており、
店の奥では妖精のブラウニーが、
ぐつぐつと煮え立つ大鍋を
大きな木のスプーンで掻き回していた。
鍋の中の液体を紙で出来たコップに注いで、
子ども達に手渡している。
「一杯どうぞ!」
差し出された泡立つ緑色の液体からは
何やらうめき声が聞こえてくる。
(これ飲んでも大丈夫なんですの…?)
恐る恐る口に含んでみる悪役令嬢。
(あら、結構いけますわね。見た目はアレですけど)
「にゃ~ご」
突如、頭上から鳴き声がした。
見上げると紫色の毛並みをした猫がにんまりと
笑いながら空中をぷかぷかと浮いている。
「にゃにか買っていくにゃ~」
悪役令嬢の頬を桃色の肉球でふにふにと押してくる。
「こら、チェシャ猫。
お嬢様を困らせてはいけませんよ」
いつの間にか背後にいた魔術師が長い指で
チェシャ猫の顎を撫でると、チェシャ猫は
気持ちよさそうにゴロゴロと喉を鳴らした。
「お店、繁盛してますわね」
「はい、皆が幸せになれるような商品をご提供する事
こそが私の目標。本当にありがたいです」
「殊勝な発言ですけど、あなたが言うと
なんだか胡散臭く聞こえますわ」
「ところで今日はどういったご用件で?」
「次の任務で使うための変身薬が欲しいんですの。
取り揃えています?」
「はい。そういえば、婚約者から
情報を盗み出す件はどうなりました?」
事の一部始終を魔術師に話す悪役令嬢。
「なるほど……剣を所持しているのは王都にいる
王族の誰かまでは絞れたという事ですね」
「ええ、もっと聞き出しておけばよかったですわ」
「十分ですよ。……お嬢様、もし、婚約破棄
されなかったらそのまま結婚していましたか」
「いいえ、きっとどこかで綻びが出たと思いますわ。
それに、どうせなら愛し合う者同士で
結ばれたいですし……」
「へえ…そういえば明日は『嘘をついても良い日』
みたいですね。ご存知でしたか?」
「ええ、それがどうかしました?」
「お嬢様が幸せな夢を見られるように、
私がおまじないをかけておきますね」
魔術師は口元に人差し指を当て妖しく微笑んだ。
(また何か企んでいますわね……)
悪い輩が入ってこないように
明日はしっかり戸締りしておかなくては。
悪役令嬢はそう決心したのであった。
幸せに
大事な大事な幼なじみと、
大事な大事な親友が結婚した。
出会いから10年。
素直になれなかったり、口喧嘩もしたり、
遠距離になったり、会えない日々が続いたり。
色々とあって、涙を一緒に流して慰めあった夜もあったけど、
こうして白いタキシードとウェディングドレスに身を包んだ2人の姿を見ていたら、本当にこの2人と出会えて良かったと思ったんだよ。
幸せにね。
そしてこれからも2人の家にお邪魔するよ。
大切な幼なじみと親友だからね。
幸せに見える。
僕の目に映る人みんな
僕もそう思われているのだろう
世界で一番不幸だと思ってたほうが
幸せに、思う。
お題「幸せに」
まるで自分のことのようで嬉しかった。
やっと、その道を選べたんだね。
これからも大きな壁が立ち塞がるだろうけれど、あなた達なら二人で手を取り合い、歩んでいけるよ。
この喜ばしい気持ちを伝えるように、照れくさそうな笑みを浮かべる彼らには気づかれぬ位置から、横並びする二つの背へと触れてみた。
──伸ばした指も手も、どちらの体にも当たらず、すり抜ける。
これで「私」の出番は終わり。
誰にも見えない姿のまま、声も知られぬまま、そっと静かに消えられる。
頭上高くの天から、終いの鐘が鳴り響く。
私達が見届けられるのは“いつも”此処までとなる。
最後に添えよう、一番強く願い込めた言葉を。
「……それじゃあ、お元気で」
【幸せに】
幸せに
暮らしていることを願う。
大事な人と出会い
愛を育み
そして寄り添って
子供を得る。
当たり前で、どこか空虚で
しかしどこまでも幸せで溢れている
そんな当たり前の幸せを願っている
たとえ二度と会えないとしても
たとえこの思いが腐って、床に崩れ落ちて
誰にも知られないまま消えていったとしても
あなたの笑顔に比べれば
なんてことはないのだから
だからあなたは笑っていて
何も知らず、あなただけの幸せな鳥籠の中にいて
お題:幸せに
タイトル:幸せと価値観
私事で申し訳無いが、最近、家の片付けを頑張っている。
と言っても、私は物がなかなか捨てられないタイプの人間で、進捗はあまり芳しくない。
懐かしくて捨てられない物を掘り出す度に、ミニマリスト(最少限の物を所持することをよしとする人)が羨ましくてたまらないと感じる。
ではミニマリストは思い出に執着しない薄情者なのかというとそうではない。
物に溢れる現代で、自分が本当に好きな物、お気に入りの物だけに囲まれて生きるのが幸せだと感じる人なのだと思う。
恐らく本当に大事な物を見極める力に長けていて、良い思い出も心に永く刻んで忘れないでいることができるのだろう(思い出の品は写真に収めて手放す人もいるそうだ)。
と、長々と述べてしまったが、総じて何が言いたかったかというと、幸せだと感じる価値観は十人十色で対立することだってあるということだ。
当たり前のことだがついつい忘れてしまうことがある。
価値観を押し付けてしまったり、押し付けられた価値観の中で肩身が狭い思いをしたり、価値観の違いから争いに発展したり…そんなことは日常茶飯事だ。
だから⸺これも当たり前のことだが、世界中の全ての人が幸せだと感じる世界なんてない。
実現は不可能だ。
それでも互いの「幸せ」を認めあい、妥協しながらも助け合って生きていけるような、そんな世の中になれば、少しは人類の理想に近づいたといえるのではないだろうか。
はたまた、そんな理想を掲げることすらも贅沢なのだろうか。
今、私は家のリビングでこの文章を書いている。
隣のテレビでは高校生の弟が銃でインクを掛け合うあのゲームをしている。
弟は試合に負けそうになるとよくイライラして大声で叫ぶ(近所迷惑なので早くやめてほしい)。
その度にうるさい、静かにしなさいと家族で咎める。
私も家族もうんざりしているので、ある時「そんなにイライラするならゲームをやめればいいのに」と彼に言った。
すると彼は「そんなにイライラはしていない、試合に勝つと楽しいから続ける」というようなことを言った。
…これも価値観の違いだろうか。
「幸せに」
「幸せにしてやる」なんて言えよう筈も無い。だが、だからと言って他人にくれてやるつもりは無かった。
『幸せに』
パパパッと打ち込んで、持っていたスマホは、ソファへと投げ込まれた。
座って沈み込んでいた部分に落とされたスマホは、スーッと流れて俺の膝で止まる。
このあと姉貴はトイレに行く。いつものことだけど、食卓のテーブルに置いておけばいいのに、なぜかソファだ。
いつも通りに、手の甲で払って、ソファの隅へと流してやろう。
自然と眼に飛び込んできた、「幸せに」の文字。退屈そうな、自分にも関係のある事柄だけど直視したくない、つまらない眼をしながら打っていたのがこれなんだ。
歳の離れた姉貴。友達だろうと思われる相手のアイコンには、赤ちゃんの写真。
姉貴はよく誰かと付き合っている。その分、別れもあって泣いているのを聞くこともあった。
トイレから戻ってきた姉貴は、料理を始めた。時刻はとっくに昼を過ぎている。
親が仕事で居ないとき、気まぐれに姉貴は料理をした。
食卓に二人分が並べられた。できたよ、とか、ごはんとか、いろんな呼び方あるだろ。無言で自分だけ食べ始めんなよ。
「味付け丁度いい」
「いつもチャーハンなのに、なんで今日は感想言ってんの」
幸せに似た漢字……あぁそうだ、辛いっていう字。ちょっとしか違わないなら、この瞬間の表情みたいに、笑ったときを笑えたときを、幸せと考えればいいんじゃないの。