「君には、幸せになって欲しいんだ。
天国ってきっと地上にも生まれるものと思うよ。
底知れぬ深い慈愛に溢れて、
脳みそ溶けるほど美しい場所が。」
ー今更何を言うんだ。夢なんか見るな。
どちらにせよお前は天国なんか行けないよ、
罪人だもの。
口を開きかけて、やめた。
君が微笑むから。
おれと君は罪を持って生まれた。
果てない闇の中から、濁った瞳を持って。
蔑まれ、罵られ、顔も知らない人間に頭を下げる。
地を這い、泥水を啜り、己を卑下して生きる。
いくらおれたちが慎ましく丁重に生きたとて、
その運命は変わらないのだ。
だが君は違ったか。
生きる希望を失わず、いつでも笑顔を絶やさずいた。
耄碌した肉塊に屈さず、確固たる意志を持つ。
年を取るたび捻じ曲がるおれに比べて、
君はさらに美しくなる。
さながら泥中に咲いた白百合だ。
人は美しく儚いものを己の手の内に収めたくなる。
神も同じだろう。
君は病に臥せた。
快活に笑う口はよく閉じるようになり、
部屋に詰まっていた笑い声はしゅうしゅうと
風船のように跡形もなく消えていった。
おれで良いだろうに。
なぜ未来ばかり摘み取られていく?
「動けないとはもどかしいものだね、
昨日よりは元気だが。」
まだまだ知らない事がある、と言っていた。
「この世のこと全部知るにはあまりに人生短いな。
君は僕より幼い癖に多くのことを知ってる。」
君の脳みそ覗かせてくれよ、と笑っていた。
ふと気がつけば、丘の上に立っていた。
肩に君を抱いて、辺りを見回す。
あてもなく逃げてきた場所。
初めて出会った場所。
ピクニックに来た場所。
暗闇が明けたと思えば、
海に手をついて起き上がる太陽が見えだした。
次第に君の顔も陽に照らされていく。
ーそういや、海を知らないんだって?
ほら見ろ、あれが海だ。
ー⬜︎⬜︎⬜︎ ⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎
ー赤い?違うよ、あれは太陽。
海は青くて果てなく美しいんだ。
ー⬜︎⬜︎ ⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎ ⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎⬜︎
ーおれはあそこを泳いで渡った。
凄いだろ?
なんか、眠くなってきたな。
海を泳いだ日も、疲れてここで寝た。
あぁ、わかった。
ー⬜︎⬜︎
ー天国はここにあったんだな。そうだろ、⬜︎⬜︎⬜︎?
3/31/2024, 2:11:33 PM