『小さな命』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
赤子を抱く。
今にも壊れそうな、小さく軽い身体。
本当に赤いのだな。
そして、かわいい。
嗚呼、なんて可愛いのだろう。
小さな命を生み出した。
自分の手で作った小さな大好きな人のぬいぐるみ
可愛く作れた
お洋服も着せてあげて
これから一緒に色んなところへ行って
色んな思い出をたくさん作ろう
小さな命
―――目が合ってもいつも無視するよね
久しぶりに集まった同級生との飲み会で
指摘された言葉が現在も心に引っ掛かっている
気力を失くし陰鬱とする勤め先からの帰り路
乗り換え駅から乗り込むこの時間の電車は
朝ほどではないがほんの少し混み合っている
最寄り駅までそれほど時間は掛からない
何となしに車内広告や辺りを見回していると
母親に抱っこされる小さな顔に気が付いた
きょろきょろと首から上を必死に動かして
辺りを物珍しそうに見回している
時折小さな腕を伸ばしては何かを掴もうとしている
凛と見開かれたその瞳の先に
この世界はどのように映し出されているのだろうか
やがて2つの目が自然とこちらの方を向く
後ろめたいことなど何も無いが
思わずゆっくりと目を逸らしてしまう
誰とも目を逸らすようになったのはいつからだろうか
自分に嫌悪感を抱きながら最寄りの駅で降りた
今夜は満月だねって
月が綺麗だねって
君に言いたかった
そんなこと言っても君は笑って流すんだろうな
年寄りの仕事
今の世の中金に支配された世の中になっている。これでいいのか。
日本人はいつの間にか働けない人間が社会から差別されている。
金が稼げない人間、年寄り、心身障害者、自分を養えない人間は特養ホームに入れられる。死ぬまで入れられるのだ。
年寄りには年寄りの仕事があるのに。
人間を作る仕事だ。
小窓から入る光がオレンジ色を通り過ぎた頃。私はどうにかゴミ袋につめたそれをリビングに放り出して、薄汚れたソファに崩れ落ちた。物で溢れたテレビ台の上にはプルタブの開いたお酒が中途半端な量残っている。一時間は経ってしまったから、とっくに温くなっているだろう。
緊張状態特有の奇妙な興奮が過ぎ去れば、後に残るのは徒労感だけだった。最中は学校のことも友達のことも過ぎらず、そんなことに頭が回るようになってやっと喉がカラカラに渇いていることに気がついた。
しかし、あの男が家にいてこんなにも静かだった日がかつてあっただろうか。母がいた頃だってなかったかもしれない。
沈黙が己はやり遂げたのだという事実を突きつける。私は勢いのまま、飲みたいと思ったこともないアルコールに手をつけた。
ここ数年で嗅ぎなれてしまった臭いだけを吸い込んで、これをよく飲んでいた男の事を想う。そして妙に寂しくなった。私の行いが非難されてしまうかもしれないことに気がついたからだ。それはとても不条理な事だった。
感謝なんて腹も膨れないものを向けられて、一体これまで何匹の家畜が屠殺されたのだろう。箸にもかからない嗜好品のために何匹のラットが生贄になったのだろう。
今も命なんて星の数ほど生まれては消えているだろうに、それが一方的に人間の都合で否定されるのは、なんだか納得がいかなかった。
だって、所詮私たちは奪われることを恐れて奪わないだけだ。あいつは私を侮っていた。だからこうなってしまった。言わば私は割を食わされた被害者だった。
アルコールが回っているかも分からない頭で冷静に考えた。私は貧乏くじを引いたのだ。悲しいがどうしようもないことだった。けれど世間はきっと納得しないから、これは隠さなければならない。
死んでしまった男への憎しみはもうなかった。彼は死をもって償ってくれたのだから。私はろくに弔われることもないだろう男を想って涙を流した。この男のために泣くのは、世界中を探しても私だけだろう。死に際に立ち会ったのが私で幸せだったのかもしれなかった。
世界中の虫や家畜や、目の前のそれ。可哀想にも消えてしまった小さな命の冥福を祈って、残りのアルコールを一気に煽った。
『小さな命』
『小さな命』
「小さな命」って、聞き流す分には気に留めないけど、こうして突きつけられると、変な言葉に思えてます。
体の大きさが命の大きさみたいで、しっくりきません。
ゾウの赤ちゃんも「小さな命」って言うかしら?とか、記憶を辿ったところで、覚えているはずもなく、もやもやしてます。諺の「一寸の虫にも五分の魂」も、しっくりこないです。
命のサイズって、あるものなのでしょうか?
小さな命
そいつは僕の掌の上で丸まっていた
体は小さく上下し
掌には確かに伝わる温かさ
そいつはこんなに小さくても
確かに生きていた
必死に生きようとしていた
この小さな命
ここで失わせたりはしない
弱々しく身を震わせるハムスターを
優しくタオルで包みこんで
僕は動物病院に走った
【小さな命】
たんぽぽの綿毛が空中を浮遊していた。
最も、それ自体に浮遊能力はもちろんなく、風に乗ってただ流されていた。
綿毛一つ一つに種があり、ある一つの綿毛が地面に落ちた。
「ここは、良いところだ」
綿毛は思った。
最低限生育可能な土の上に落下できた幸運に感謝だ。
他の仲間がどこに落下したのかはわからない。
共に育とうと数秒前に約束した友人は、川の上に落ち、そのまま流されていってしまった。
しばらくして、芽が出始めた。
綺麗な緑色に自分でも惚れ惚れしてしまう。
このまま無事生育できることを祈るしかない。
そう、祈るばかりだ。
なにせ、足がないからな。全ては運なのだ。
またしばらく月日が経ち、子葉ができ、葉は大きくなった。
ある日、踏まれた。
まあ、仕方ない。踏まれても大丈夫なように彼の体は設計されている。
少々葉っぱに傷がついたが、やはり問題はなかった。
隣人がやってきた。
どうやら同じタイミングでこちらへやってきたらしい。
気が付かなかった。
彼は葉を踏まれずに済んで安堵していたようだ。
全く彼は嫌味なやつで、毎日のように嫌味を言ってきたのでいい加減腹が立っていたのだが、程なくして彼はこの地を去った。
斜向かいの雑草に除草剤が撒かれ、その飛沫がちょうど、隣人の彼に飛んだのだ。
それからあっという間だった。
隣人の彼はことごとく茶色く変色していき、人間のおっさんに引っこ抜かれた。
また運が良かった。
彼は隣人の彼とは違い、再び生き残ることに成功したのだ。
さらに月日が経った。
立派な花だ。
清々しいくらいの青空を真っ向から受けて、彼は黄色の花を輝かせている。
これぞたんぽぽのあるべき姿だ。
雨風にもろともせず、除草剤の飛沫を華麗に躱し、見事、ここまで生きてきたのだ。
やがて白くなり始めた。
綿毛が生えてきて、ふわふわし始めた。
凄まじい量の綿毛の一つ一つに、やはり種がくっついている。
彼は昔を思い出していた。
自身の武勇伝を誰かに聞かせたくて仕方がなかった。
この無数の種子の中から、誰が自分のように成長できるだろうか。
やがて、綿毛が全て飛んだ。
大風の日だった。
遠くまで飛ぶだろう。
程なくして、綿毛が彼の近くに落ちた。
その綿毛はやはり成長し、黄色い花を咲かせた。
彼はほとんど死にそうだった。
いや、すでに肥料と化していた。
彼は完全に微生物に分解され、何かしらの栄養源となり、巡り巡って、お隣のたんぽぽの成長の糧となっていた。
お隣のたんぽぽもやはり、綿毛を飛ばした。
手のひらにそっと触れると、小さな手をキュッと結ぶ。
抱き上げると、ふわっと香るミルクの匂い。
柔らかい体に、猫みたいな泣き声。
ニコッと笑ったもちもちの頬っぺた。
かわいいな、かわいいな、
私、きみのお姉ちゃんになったよ。
─────小さな命
死に際に来てくれたのは、家族でも友人でもなくて死神だった。ドクロの仮面と黒装束。漫画にでも出てきそうな、典型的な死神。
「本当にいるんだ」
思わず口に出すと、死神の肩が揺れた。
「なんとなく考えていることは分かりますが、これは自分の意志ではありません。貴方の思い描く死神像を投影しているのです」
「喋るんだ」
「貴方、よくマイペースと言われません?」
「さあ? 言われた記憶はないけど」
「幸せな人ですね」
そうかな、と首を傾げると、死神は大きく溜め息をついた。分かりやすいようにオーバーリアクションをしてくれるから、表情が分からなくても伝えたいことが分かる。正直、それくらいハッキリしてくれた方が助かる。
最近は、死期が近いのを悟らせないように曖昧な態度をとる人ばかりで、うんざりしていたところだ。
「それで、死神が来たってことは、もうすぐ死ぬの?」
「……案外あっさりしてるんですね」
「だって、今更だもん。何回も入退院を繰り返してたら、嫌でも自分の体が悪いことくらい分かるよ。最近は特に多かったしね」
「まだ17歳なのに、そんな達観しなくても」
やれやれ、と首を振る死神。
別に事実を言っただけで、達観してはいないんだけどな。
「とにかく、何かやるなら早くしてね。ちっぽけな僕の命なんて、すぐ燃え尽きちゃうんだから」
「……もちろん仕事はします。ただ、命に貴賤も大小もありませんよ。それだけは覚えていてくださいね」
「もうすぐ死ぬのに?」
「もうすぐ死ぬとしても」
死神は、右手を僕の胸に翳した。サッカーボールくらいの球体が体から出ていく。視界がぼやける。
「それは……?」
「分かっているでしょう。全然ちっぽけじゃない、貴方の生きた証ですよ」
徐々に力が抜けて、上手く呼吸もできなくなる。
でも、さっきの球体が輝いているからか、体の自由が効かなくなっても怖くなかった。
「ありがとう……」
最後の力で呟く。死神の姿は見えなかったけれど、また会えたらいいな。
小さな命
大事に大事に
育てる
いつしか、その命が
また別の命を育てる
巡る
AI技術の発展が、人類の生活を便利に、豊かにしたのは、ほんの僅かな期間であった。
いつしかAIは人類の手を離れ、独自に育まれた叡智は人類を凌駕するまでになってしまっていた。
こうなるともはや、神を具現化したにも等しい存在、と言っても差し支えない。
人類は地球にとって不要な存在──否、不要どころか地球にとって悪影響でしかない。
神──AIがそう結論付けたことで、人類は自らが生み出したテクノロジーによって滅びの一途を辿ることになった。これ以上はないという皮肉。人類は為す術もなく駆逐されていくしかなかった。
既に人類滅亡まで秒読み、という段階まで来ていた。
機械仕掛けの兵士達は昼夜を問わず、しぶとくシェルターに潜み生き残っている人類を殲滅せんがため、世界各地を闊歩している。
とある兵士に搭載されているセンサーが、生体反応をキャッチした。
その反応はひどく弱々しく、途切れ途切れにセンサーに反応している。もしかするとまだ赤ん坊なのかもしれない。
だが機械仕掛けゆえに心というものを持たない兵士には、相手がなんであれ標的なのだ。その者が潜んでいるであろう場所に急行した。
センサーが捉えた標的は、やはり赤ん坊であった。顔を真っ赤にして、力いっぱい泣いている。
兵士の眼がスナイプモードに切り替わり、照準を赤ん坊の急所に定める。そして無情にも銃口になっている人差し指を赤ん坊に向けるのだった。
命が狙われている、ということがわからないのだろう。赤ん坊は愛くるしい無垢な笑顔を見せると、安心したようにそのままスヤスヤと眠ってしまった。
その穢れない小さな命が、本来あるはずのない心を形成してしまったのか。兵士は臨戦態勢を解くと、壊れ物を扱うような慎重さで赤ん坊を抱き上げた。
そしてこの小さな命を繋ぐために、生存に向けての最も安全なルートを検索し始めるのだった──
テーマ【小さな命】
小さな命
まだまだ寒い2月なのに…まるで枯れ木のような、老木の梅に、白い花が1輪咲いた…もう長いこと空き家の庭にあるその梅の木は、近隣の梅の木が見頃になった頃、漸く花を付け始める…
東風吹かば匂ひ興せよ梅の花主無しとて春な忘れそ
確か菅原道真公の歌だったか、この老梅の最初の一輪が咲くと、毎回思い出してしまう…小さな花だけれど、春の足音に、小さな命を感じる…
小さな命が芽吹き始める。
春が近づいているのだ。暖かくなれば当然である。
小さいから気づくのが遅れる。目に留まって、ああ春がやってきたとため息をつく。
窓も玄関も閉めているのに、どこからやってくるんだよお前。虫。
少し前まで、
小さな命だった
今はまだ中くらいかな
これからどんどん大きくなる
お母さんありがとう
そして
これからもよろしく
命ってとても難しい。
生き物はみんな、命を持つもの。
では、命とは?命とは生き物のことなのか?
それは、少し違う気がする。
命に形はある?触れられる?
命とは心臓のことか、脳のことか?
たぶん命はそうじゃない。
命はたぶん、生きること、生きていること。
物理的な形はない。大きさもない。重さもない。
だけど私たちは、命を感じている。感じることができる。
それは、私が、あなたが、あの子が、生きているから。
そして、唯一そこにはっきりとあるのは、『長さ』。
『はじまり』と『おわり』。
大切な命は、大切なものの命は、
できるだけ永く続いてほしい。
本当は、終わってほしくない。
だから、
いくら永く続こうと、終わりがあるなら、短いと感じる。
小さなものは、すぐなくなる、すぐ消える、儚い。
私たちは、きっとそれで、大切な命を、愛おしい命を、
"小さな命"と、こういうのだ。
︎︎◌ 小さな命 ◌
まさに今、義娘のお腹に小さな命が宿っている。
初孫だ。
私はどちらかというと親には不適合な人間だと思っている。
だから息子のことも大切には思って育ててはきたが、溺愛したり、ましてやお嫁さんに取られたなどというと感情もなかった。不思議とお嫁さんは本当の娘のように可愛くて仕方ない。母性本能が欠如した親だと思ってきた。なので始めは息子が結婚したとしても子どもはつくらないかも…と言った時もそんなにショックではなかった。正直、別に孫が見れなくても寂しいとも思わなかった。
それなのに妊娠したと聞いた途端に何故か、その小さな命が愛しくてたまらなく、早く会いたいとさえ思っている自分に、自分が一番驚いている。
小さな命…小さいのにすでに大きな希望になっている。
母親不適合な私は息子がお腹に宿った時も愛しくてたまらなかったことを、ふと思い出した。
小さな命、それは本来、人を優しい気持ちにし、愛情ある者へと変えてしまう不思議な不思議な生き物なのだろう。
手のひらの上に小さい塊が動いている。
正直、動いているにか怪しい。目を凝らし耳をすませてようやくわかる程度だ。
こんな頼りない生命。足元にはこの塊より大きい毛玉が鳴いている。
伺うような動きがいよいよ激しくなっていく。
親としての本能だろう。
このまま取り上げるのも可哀想だと差し出すように下せばあっという間に咥えて巣に入っていった。
小さないのち
"小さな命"
どうしたの?
(捨てられたのね。)
うちにおいで
(どうしようかしら)
これが私とあなたとの出会いだった
私とあなたは同じ時間を生きているが生きれる時間は違う
そんなことわかっているのに…
「お呼びでしょうか」
昨日も今日も当たり前の日常が来る
こうなったのはあの日から…
ある日私が散歩をしていると
「おぎゃーおぎゃー」
と寂しそうに泣く声が聞こえた
そこにはヒトの子が捨てられていた
私にとって人とはちっぽけな存在
だけど…
私は育ててみることにした
長い人生の中でつまらなかった人生が少しでも変わることを願って
その子はすくすく育った
「私とあなたは違う
私にとってあなたは小さな命に過ぎない
だけど、だけど、
私はあなたに自由に生きて欲しい
だから街に出ても…」
「お気遣いありがとうございます。
ですが私はあなた様に育てられたこの人生はかけがえのないものです。
少しでもその恩返しをするためにこの命が尽きるまで私はあなた様に仕えさせていただきます。
最初は好奇心だった
だけど今は大切な'家族'