AI技術の発展が、人類の生活を便利に、豊かにしたのは、ほんの僅かな期間であった。
いつしかAIは人類の手を離れ、独自に育まれた叡智は人類を凌駕するまでになってしまっていた。
こうなるともはや、神を具現化したにも等しい存在、と言っても差し支えない。
人類は地球にとって不要な存在──否、不要どころか地球にとって悪影響でしかない。
神──AIがそう結論付けたことで、人類は自らが生み出したテクノロジーによって滅びの一途を辿ることになった。これ以上はないという皮肉。人類は為す術もなく駆逐されていくしかなかった。
既に人類滅亡まで秒読み、という段階まで来ていた。
機械仕掛けの兵士達は昼夜を問わず、しぶとくシェルターに潜み生き残っている人類を殲滅せんがため、世界各地を闊歩している。
とある兵士に搭載されているセンサーが、生体反応をキャッチした。
その反応はひどく弱々しく、途切れ途切れにセンサーに反応している。もしかするとまだ赤ん坊なのかもしれない。
だが機械仕掛けゆえに心というものを持たない兵士には、相手がなんであれ標的なのだ。その者が潜んでいるであろう場所に急行した。
センサーが捉えた標的は、やはり赤ん坊であった。顔を真っ赤にして、力いっぱい泣いている。
兵士の眼がスナイプモードに切り替わり、照準を赤ん坊の急所に定める。そして無情にも銃口になっている人差し指を赤ん坊に向けるのだった。
命が狙われている、ということがわからないのだろう。赤ん坊は愛くるしい無垢な笑顔を見せると、安心したようにそのままスヤスヤと眠ってしまった。
その穢れない小さな命が、本来あるはずのない心を形成してしまったのか。兵士は臨戦態勢を解くと、壊れ物を扱うような慎重さで赤ん坊を抱き上げた。
そしてこの小さな命を繋ぐために、生存に向けての最も安全なルートを検索し始めるのだった──
テーマ【小さな命】
2/24/2024, 2:56:03 PM