死に際に来てくれたのは、家族でも友人でもなくて死神だった。ドクロの仮面と黒装束。漫画にでも出てきそうな、典型的な死神。
「本当にいるんだ」
思わず口に出すと、死神の肩が揺れた。
「なんとなく考えていることは分かりますが、これは自分の意志ではありません。貴方の思い描く死神像を投影しているのです」
「喋るんだ」
「貴方、よくマイペースと言われません?」
「さあ? 言われた記憶はないけど」
「幸せな人ですね」
そうかな、と首を傾げると、死神は大きく溜め息をついた。分かりやすいようにオーバーリアクションをしてくれるから、表情が分からなくても伝えたいことが分かる。正直、それくらいハッキリしてくれた方が助かる。
最近は、死期が近いのを悟らせないように曖昧な態度をとる人ばかりで、うんざりしていたところだ。
「それで、死神が来たってことは、もうすぐ死ぬの?」
「……案外あっさりしてるんですね」
「だって、今更だもん。何回も入退院を繰り返してたら、嫌でも自分の体が悪いことくらい分かるよ。最近は特に多かったしね」
「まだ17歳なのに、そんな達観しなくても」
やれやれ、と首を振る死神。
別に事実を言っただけで、達観してはいないんだけどな。
「とにかく、何かやるなら早くしてね。ちっぽけな僕の命なんて、すぐ燃え尽きちゃうんだから」
「……もちろん仕事はします。ただ、命に貴賤も大小もありませんよ。それだけは覚えていてくださいね」
「もうすぐ死ぬのに?」
「もうすぐ死ぬとしても」
死神は、右手を僕の胸に翳した。サッカーボールくらいの球体が体から出ていく。視界がぼやける。
「それは……?」
「分かっているでしょう。全然ちっぽけじゃない、貴方の生きた証ですよ」
徐々に力が抜けて、上手く呼吸もできなくなる。
でも、さっきの球体が輝いているからか、体の自由が効かなくなっても怖くなかった。
「ありがとう……」
最後の力で呟く。死神の姿は見えなかったけれど、また会えたらいいな。
2/24/2024, 2:58:42 PM