『寒さが身に染みて』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
今日、アンネとナハトはサンダーバード討伐のため、この山を訪れていた。無邪気にはしゃぐアンネを尻目に、ナハトは山道をひたすら登りながら、徐々に様相の変わっていく風景に悪い予感がしていた。
登り切ったとき、彼女は愕然として立ち尽くした。ギルドからそれほど遠くない場所にある山だが、季節のせいだろうか、標高のせいだろうか、眼前には見渡す限り、真っ白の雪景色が広がっていたのだ。
「通りで景色が白くなっていくなと思ったぜ」
ピュウと口笛を吹いて、ナハトは肩を竦めた。辺りを見回すが、右を向いても白、左を向いても白。地面はもちろん白。
二人はとにかく歩き始めた。さくさくと雪を踏んで進んでいく。
へっくちと隣でアンネがくしゃみをしたので、彼は我に返った。彼は雪国で生まれ育ったせいか、寒さには滅法強かったのだが、隣のアンネはそうでなかったことをすっかり忘れていた。
一度だけではすまなかったのか、二度三度と立て続けにくしゃみをする彼女に、ナハトは自分の上着を羽織らせた。身震いしながらも、彼の方を振り返ったアンネは目をぱちぱちさせた。
「あの……ナハトさん、これ……」
「ああ、オレ、寒いの平気なんだ。いいから、着てな。ないよりはマシだろ」
礼を言いながら、彼女はそれに袖を通した。まだ微かに彼の温もりを感じる。
さやさやと吹いていた風は、やがてピュウピュウと吹き荒れ始めた。
ナハトは風除けになるべく彼女を自分の方に引き寄せながら、どこか風を凌げる場所はないかと辺りを見回した。少し離れた場所にぽっかりと口を開けている洞窟が見えた。彼は彼女を抱き上げると、走ってそこに向かう。
洞窟の中は魔物も見当たらず、そんなに深くなかった。奥まったところで火を熾すと、それに当たって暖を取る。
ぱちぱちと爆ぜる火の粉を見つめるうちに、アンネはぼうっとしてきた。うつらうつらと舟を漕ぎ始めた彼女に気づいたナハトは、彼女に向かって口を開いた。
「アンネ」名前を呼ぶと、彼女は彼の方に振り向いた。瞼がとろんとしている。「寝るなら、オレの隣で寝な」
どうしてだろうと思ったが、口に出して意味を問えるほど、意識がはっきりとしていなかった。言われた通り、アンネはいそいそと彼の隣に移動すると、彼にもたれかかって、少しもしないうちに寝息を立て始めた。
そんなアンネをナハトはこれ以上ないくらい優しい瞳で見つめている。
家まで残り数十分。
あと一本さえ乗ればもう寒い思いはせずに済む。
なのに、お目当ての電車は現れない。
プラットホームは人もまばらで物寂しい。
おまけに容赦なく風が体温を奪っていく。
寒さが身に染みるこんなとき、恋しいのはあなたの…
と、思いを馳せようとしたそんなとき。
ポケットが震えた。
“晩ご飯できてるよ 今日は豆乳鍋”
あなたの特製豆乳鍋。私の大好きな冬の楽しみ。
エスパーみたい。
“ありがとう もうちょっと頑張る”
「寒さが身に染みて」
ーがんばれー
君は今、頑張ろうとしているんだね
やりたい!って熱くなっているんだよね
やる気に満ちていて目が輝いている
眩しいよ
誰が何と言おうと君ならできる
絶対にできる
大丈夫だ
今の君は誰にも止めることができない
それくらいかっこいいんだ
僕は信じてる
君のことを信じてる
だから、存分に頑張っておいで
見守ってるよ
ちゃんと見守っているから
生き生きとしている君を見て喉の奥が痛くなった
君のその心がずっと大切に守られますように
暦の上で冬と言われる日になってからも、ずっと暖かい日が続いていたのに。
今年の冬はありがたい、ダウンもいらないくらいだと喜んでいたのに。
ここ最近は寒さが身に沁みる。風も強いし、天気もどんよりしていて、まるで冬としてのアイデンティティを取り戻すべく冬が猛威を奮っている。
でも、そんな寒さなんて関係ないと言うように雪国育ちの男は外での1on1を誘ってくる。
俺は南国育ちだから、寒さには弱い。
だから、今日は室内での筋トレと映像でのイメージトレーニングを行うべきだと主張している。
二人の思いは交わらないから、どちらかが折れるしかない。
「寒さでテンションが下がってる状態でいいプレイができる気がしない。怪我につながる可能性すらある。だから今日は室内で過ごそう」
そんな俺の提案を栄司は遮ることなく最後まで聞いてくれた。
「リョータが言いたいこともわかるよ。
でも、昨日もまったく同じこと言って、室内で過ごしたよね?」
そうなのだ。昨日も寒くてどうしても外に出たくなくて、同じ主張をし受け入れられ、室内での筋トレとイメージトレーニングに努めた。
「イメトレも筋トレも大事なのはわかる。でも、そこで培った筋肉を使ってイメージしたように身体を動かすことも大事だよね?」
栄治は俺をみつめたまま淡々と伝えてくる。
とても理論的で、俺は思わずうなずきかけるのを制して反論する。
「でも、寒くて怪我するかもしれないし。
バスケは基本室内スポーツだから、外の寒さに耐える必要もないし。」
うつむきつつ、言葉を伝える。なんてこった、栄治の主張に対して俺の回答はなんだか子どものわがままみたいだ。
寒くて嫌だとしか中身がない。
俺の言葉が拙くなるのは、プライドをかけた寒さを主張する冬のせいだ。
「大丈夫、リョータ!室内でゆっくりストレッチして、身体を温めてから外に出よう!そうすれば怪我の心配は軽減されるし、コートに着くまでゆっくりランニングもすれば、バスケをするコンディションは整えられるよ」
笑顔が眩しい。
余裕を感じられるその態度が悔しい。
まるで小さな頃のアンナのワガママを聞くソーちゃんみたいだ。
いや、嘘。ソーちゃんの方がもっと鷹揚だった。
「わかった。外で1on1する。」
ソーちゃんを思い出したらもうダメだ。俺が折れるしかない。だってソーちゃんは永遠の憧れだから。
同い年の栄治に〝ソーちゃんみたい〟を譲るわけにはいかない。
「やった!ありがと、リョータ!
そのかわり帰ったら俺がめいっぱいリョータをあっためるからね!」
なんとウインクつきだ
無駄に上手い。
一瞬でもソーちゃんみたいと思ったことを後悔する。
「……アホなこと言ってないで、ストレッチしようぜ。」
「なんだよー。そういうスキンシップ大事だろー」
栄治はブツブツ言いながら、股関節を伸ばしている。
その顔は口調に反して穏やかだ。
こんな俺の態度には慣れていると言わんばかりに。
本当はキュンとしたんだ。
好きな相手に愛情を示されて嬉しくない奴なんていないと思う。
でも俺は素直に愛を伝えられないから、減らず口をきいちまう。
こんな俺に愛想をつかしちゃうかもっていう恐さはある。
もう少し穏やかに、心の内にある溢れんばかりの気持ちを伝えられたらいいのに。
意見が違えても、俺の意見を尊重してくれて、自分の意見を通した時には俺を甘やかしてくれる。そんな栄治にいつでも好きだと思ってることを伝えられたらいいのに。
ままならなさを抱えたまま外に出る。
「いや、さっむ‼︎おかしいだろこれ!冬だからって調子に乗ってる」
「もぉーリョータ、冬に対して口悪すぎ」
冬になんてどれだけ口悪くてもいいだろ。
だって寒さを抱えてるってだけで、言葉じゃ足りないほどの欠点になるんだから。
少しでも暖をとりたくて栄治にくっつく。できれば抱きつくから、そのまま運んで欲しいとすら思う。
「ふふ、俺こうやってリョータがくっついてくれるから、冬のこと好きなんだよね。ランニングしよと思うけど、もう少しだけこうやってしてたいなー」
思いがけない言葉に驚いてしまう。
なんで、こんな風にまっすぐ愛情を示してくれるのか。
いや、待て。もしかして冬が寒くなったのは俺が素直に愛情を示せるようにと冬側の心遣いなんじゃないか?
冬のプライドだと思っていたけど、実は優しさなんじゃないか?
これに乗っからない手はあるか?いやない。
「……俺もこの寒さのおかげで栄治にくっつけるから、嬉しい。1on1終わった後も一緒にあったまりたいと思う。」
「リョータ…!」
横にある栄治の顔がうるさい。
ついでに俺の心臓の音もうるさい。
おれの顔は意地でも平常のままだ。
とりあえず、せっかく外に出たんだ。今日は思いっきりバスケで身体を動かして、その後で冬の寒さを言い訳に少し心の中の愛情を表にだしてみようと思う。
そう考えてランニングするべく一歩を踏み出した。
学校からの帰り道。
いつもは付き合っている彼女と帰るのだが、今日は一人で帰っている。
今日、彼女と些細なことで喧嘩した。
一応謝ったけど、なんとなく気まずくて、そのまま出てきた。
強い風が吹いてきて、思わず体が震える。
二人なら気にならない寒さも、さみしい独り身では寒さが身に染みる。
付き合う前は、今年の冬がこんなに寒いとは気づかなかった。
寂しい。
そんな感情が頭を駆け巡る。
失ってから気づくと言うが、今の自分には痛いほど分かった。
明日彼女と仲直りしよう。
ちゃんとはっきり言葉にして。
そんなことを考えていると、突然後ろから抱きしめられる。
「コラ、なんで一人で帰るのさ」
喧嘩したことなど忘れたかのように、明るい声で話しかけてくる。
いや忘れてないからこそ、このノリか。
「ゴメン。忘れてた」
自分も乗っかって、喧嘩したことなど忘れたように軽く返す。
すると彼女は「ひどい」と連呼し始めた。
彼女が「ひどい」と言うたびに耳に彼女の息がかかってこそばゆい。
さてはわざとやっているな。
けどそれとは別に、息が荒い気がする。
もしかして……
「会いたくて走ってきたの?」
「違うよ。寒かったから体を暖めるために走ったの」
言い訳が下手なことだ。
「君も寒いんじゃない。
私はちょうど暖まってるから、熱を分けてあげよう。
私の優しさに感謝しなさい」
さっきより抱きしめる力が強くなる。
気のせいかもしれないけれど、彼女の熱が自分の体に伝わってくる。
「もういいだろ。離れろ」
「もう寒くない?」
「ああ、寒くない」
自分の言葉を聞くと、彼女は体を離して隣に立って、これ見よがしに手を出してくる。
「じゃあ、帰ろうか」
手を繋ぐと、彼女の暖かさが手から自分の身に染み込んできた。
帰り道はもう寒くなかった。
雪も降らなかった今年にいっそ降り積もって欲しいと願った。
積もって積もって僕のこの痛みを凍てつかせてくれよ。そしたらこの痛みも息苦しさも冷たさとしてただ沈んでいけるから
まとわりついて二度と光を浴びれなくても
閉じた目の裏に映る人は溶けて消えたから
#寒さが身にしみて
赤くなった指先を見ていられなくて目を反らした。
「まだやってんの」
「うんまあ、願掛けみたいなものだからね」
数分前までの雪塊は、二回りほど小さい地蔵が見えるまで除けられて。びしょ濡れの手袋を閉まって尚、合わされた手はしっとりと光を弾いていた。
「こんな日までやること無くない?」
「こんな日だからさ。善行は積んでおくに越したことはないものだし」
白くなったスカートを叩いて笑うその人に、いつも真剣に祈る掌で何を思っているのかは、未だ問えないでいた。
『お地蔵様はね、子供の守り神なのさ』
『都合の良い時だけ子供のつもりとか、寧ろ罰当たりじゃないの』
『ふふ、良いじゃない』
しんしんと白い雪の向こう、わあわあ人の声がする。
「あ…マフ……じゃ……………柄……うで………」
「…名発……これ……救助……………」
重たくて痛くて寒かった筈なのに、なんだか暖かいような気がした。
「……し、………君、君!意識はあるか!」
「………?」
「一名救助!朦朧ですが意識あります!」
「よく頑張った!此方で預かる!もう一人は?!」
「未だです!もう少し近辺探します!」
「君まで遭難してくれるなよ」
「気を付けます!」
白い部屋で気づいた時、空っぽの手袋を握っていた。びしょ濡れのそれは一回り大きくて、自分のじゃなかった。
どうしても離さなかったのと取り上げられると、何処からかころりと石が落ちた。
「……何でお姉ちゃんが助からなかったの」
『彼女はそれを願わなかったから』
「何で俺は生きてるの」
『彼女はずっと、君の幸せを祈ってたからさ』
<寒さが身に染みて>
『紫杏ちゃんただいま』
そう言って私をすっぽりと抱きしめる彼。
「哀くんおかえりなさい」
そう言えば彼は私を抱き上げてソファに行き、膝の上に乗せた。
『紫杏ちゃん好きだよ』
なんて甘い言葉を吐きながら私の頬をするっと撫で、愛しさと慈愛に満ちた瞳で見つめてくる彼。
本当に格好良くて、アイドルなんじゃないかと思うほど。
私達は親に無償の愛を注がれず育ったから、人のぬくもりが恋しくて一緒に暮らしている。
小さな頃からお隣さんとして過ごしてきた、所謂幼なじみだったが、高校を卒業した2年前に一緒に家を出て2人で生きてゆく事にした。
愛に飢えた孤独という寒さで凍ってしまいそうな心は、人肌でしか満たすことができないという事を私達は理解してしまっていた。
ただ、私達は恋人関係ではない。友達以上恋人未満とかいうやつでもないし、肉体関係を持ったこともない。恋人関係とかそんな言葉では片付けられないほど、お互いがお互いにー依存ーし合っている。
互いが互いを愛、という言葉で表せない位大切に思っているのは分かっていた。
『紫杏ちゃんは本当に可愛いね。大好きだよ。』
そう言う彼の首に擦り寄りながら、この2年間幸せだったななんて考えていたらだんだんと眠りに落ちていった。
朝、起きたら彼が私の胸に包丁を当てていた。
ああ、やっぱりな、と思った。
この2年間を過ごして、というか私たちが家を出る前から彼がこの行動をするの分かっていた。
『紫杏ちゃん。
来世では暖かい家に生まれて、愛情いっぱいに育っ
て、ぼくらはまた出会おうね。来世も紫杏ちゃんを
愛しているよ。っでも、まだ紫杏ちゃんには死んで
ほしく無かった。一緒にこれからも生きたかっ
た。』
彼は泣きながら、悲しいことを隠すように微笑んでいた。
私も、貴方と生きていきたかった。
私は癌を患っていた。家を出る4年前、つまり6年前に発見された癌。長くても20歳までしか生きられないと医者には言われていた。
だんだんと思うように動かなくなっていく体。1週間くらい前からはもう、自分が長くないことを感じていた。そして、昨日。
本能が明日までしかもうだめだ、と言っていた。
私は彼と過ごせて、彼と過ごした時間だけが本当に幸せだった。
彼ともっといたかった、とも思うがもう充分なほど愛を感じられたし、悔いなく逝けると思っていた。
ただ、彼を置いていくことだけが自分が死ぬことより怖かった。本当に、本当に怖かった。
彼が私がいなくなったらどれだけ絶望するかも分かっていたし、生きていく希望をなくす事も分かっていた。私がこう考えていることも、彼は分かっていた。
孤独が、1人というぬくもりのなさによって寒さが身に染みて心を壊してしまうことも私達は分かっていた。
だから、彼が私の人生を終わらせてくれ、そのあと私の後を追うんだろうとぼんやり思っていた。
私達は孤独には耐えられなかった。
お互いがお互いを思いすぎたあまり、死を選ぶしか生きてゆくことができなかった。
「哀くん、貴方に会えて幸せでした。私も愛していま
す。」
来世は、愛で体が孤独で、寒さで身を震わすことがないようにしようね。
お互いに口付けをして、目を閉じた。
#寒さが身に染みて
仕事でミスをした。今までもミスは経験したけど、今回のはちょっと重要なもの。別に、ミスはミスなのだから大小関係ないのだけど、今日は結構メンタルにきた。
しょうがないよ、と俺の肩を叩いて一緒に謝ってくれた先輩に申し訳ない。上司に酷い言葉を浴びせられたことより、先輩にまで頭を下げさせてしまったことのほうが俺の中では大きかった。あの人はいつもにこにこしてるから、正直どう思ってるのか分からない。上がる時にもう一度謝ろうとした俺より先に、「今日はよく休んでね」と言ってきた。どんだけ人が良いんだと思った。
先輩の優しさを思い出しながら自宅までの帰り道を歩く。いつもより寒さが身にしみて感じてしまうのは気のせいじゃない。うまく切り替えられない自分に苛立ちを感じていたその時、ポケットのスマホが震えた。メッセージの送り主は、先輩だった。
“お疲れ様。明日は切り替えて一緒にがんばろう。あんなハゲ親父なんて気にするな٩(๑`^´๑)۶”
そんなメッセージを瞳に映した時、俺は思わず笑ってしまった。俺以上に、俺のミスを気にかけてくれてることが嬉しくもあり申し訳なくも感じた。
「……世話焼きな人だな」
1人でニヤつきながら俺は返事を打つ。少しだけ寒さが和らいだ気がした。明日は絶対に、役に立ってみせるから。
(……after 1/10)
お題 寒さが身に染みて
生きかえった。そう思う。寒い夜にはホットワインがいい。
瞬時に身体が温まる。寒さで縮こまっていた身体が緩む。アルコールで頭もふわっと緩む。そして気持ちも緩む。
こんなワインの飲み方を見つけた人は凄いと思う。心から美味しいと感じる。
明日もまた寒いと天気予報士が言う。だからまた作って飲もう。
ホットワインで乗り切ろう。この身に染みる寒さを……。
『寒さが身に染みて』
「お伝えします。今日は底冷えの寒さでー」
いつも見る天気予報のお姉さんが、寒そうな姿でアナウンスするのをコーヒーを片手に見てると、玄関から両腕をさすりながらあいつが入ってきた。
「日課とはいえ寒い。」
毎日の日課の家の周りの掃除をしていたらしい。
慌ててコーヒーを淹れてやりながら朝食の準備もする
「底冷えの寒さだって」
「ありがとう。だからか、寒さが身に染みた」
それはそうだろう。コートも着ずに外に出れば寒い
コートごあると邪魔だからっていつも着てかないで、真っ赤な頬したあいつにトーストを差し出し出すと両手で顔を挟んでみた
「あったけー…。」
トロンとした顔で俺の手で暖を取る姿が可愛くて、ちょっとだけ申し訳ないけど寒くても良かったななんて思ってしまった
寒さが身に染み付いて
学生の頃クラスに一人は
年中半袖短パン少年いたろ?
あれってさ
寒いのに負けない健康な人じゃなくて
寒さが身に染み付いていないだけの
ただのアホじゃないの?
てことは
寒いって感じてる俺天才じゃね?
って友言ったら
この世界でそんなこと考えてるのお前だけだよ
お前のIQ精子でとまってんじゃねーの?
だからいつも課題の提出期限ミスるんだよ
このタコ野郎!!!!!!!
って言われた
寒さよりも悲しみが身に染みてるわ泣
寒さが身に染みて #31
泣き疲れた僕はふと顔を上げあたりを見渡した。
すると、本棚の一角にカメラと父親が好きだった写真家長月良の写真集と母親が好きだった画家長月夜の絵画集が置いてあった。
父親は写真を撮るため、母親は絵を描くため色々な場所に連れて行ってもらったものだ。
この写真集[九月の景色]は他の写真集と違い写真とその景色を色鉛筆で描いた絵が載っていて7年前に出版された時の写真集の帯には"長月親子の初写真集!写真と絵の最高の傑作ここにあり。"と書いてあったのを思い出した。
この写真集の影響で母親は絵を描き始めた。
その写真家の名は長月良、画家の名は長月夜。これは九月の季語良夜から取ったものだとあとがきに書いてあった。
絵を描く界隈にいる者に長月夜を知らない者はいない世界的に人気で名の知れた画家だったが写真家長月良の行方が分からなくなってその数日後長月夜の行方も分からなくなってしまった。
それが起こってから父親は写真撮影をやめて、母親も絵を描くのをやめてしまった。
それでも僕は長月夜に憧れていた僕は初心にかえって絵を描き続けた。年齢が上がるにつれその画集以外に描かれた絵があることを知り、その絵を参考に自分の色を足していき僕の絵を完成させていった。
その時間が何よりも幸せで楽しかった。
その後、両親は離婚し妹は親戚の家に引き取られて僕は広い家に独りぼっち。
ぽっかり空いた心の隙間から寒さが身に染みてきた。
モノクロになった僕の日常を誰か彩ってくれよ。
【寒さが身に染みて】
刺すように寒さに思わず首をすくめて両手をポケットに入れて少しでもと暖を取りながら、カツカツと歩く度になるヒールのテンポを早める。
首元が詰まるのがどうも苦手で普段は前を閉じないアウターも、今日ばかりはしっかりと前を閉じた。窮屈さを感じるけどこの寒さではそうも言っていられなかった。
1月半ば、この時期らしい寒さではあるけど年末年始の異常なほどの暖かさのせいで例年並みの気温でも酷く寒く思える。
人一倍身体の強さには自信があるけど、それでもこの寒暖差に何度か風邪をひいてしまいそうになった。同居人も鼻水が止まらねぇだ喉が痛いだと市販薬の世話になることがあった。
それでもお医者さんのお世話にならず、寝込むほど酷くもならず過ごせているのは、同居人の身体も人に比べれば強い方だからだと思う。
「寒っ……」
どうしても防寒の難しい顔の横をピュウと音を立てて風が切るように走って、風の冷たさに頬や耳がピリピリと痛んで思わず声が漏れる。
首をもう一度ぐっと竦めてポケットに入れた手を握りしめると、帰路を急いだ。
「ただいまぁ……」
「おかえり」
足早に家へ飛び込むようにして帰ると部屋の温かさにほぅと息をつく。体が芯から冷えたようで部屋よりも吐き出した息の方が冷えている気すらする。
リビングから出迎えてくれた同居人が頬を両手で包むように触れてくると、その手の温もりを吸い取るようにじわじわと頬が温もっていくのを感じた。
「寒かったろ。今日の寒さは今期一らしいわ」
その声を聞きながらポケットから出した手で頬に触れる手を掴むと「冷てぇ!」と悲鳴があがる。掴んだ手から温もりが染みるように伝わってきてかじかんだ手がピリピリと小さな痛みを伴いながら緩んでいった。
「メシ作ってる。今日は寒ィから鍋」
褒めろ崇めろ奉れ!と言わんばかりににんまり笑って見下ろす同居人の頭を手を伸ばしてワシワシと撫でてやると自慢げな笑みが一層深まる。
「準備してくるわ」
そう言い残してリビングへ向かいかけた同居人がなにかを思い出したかのように踵を返してこちらへ向かってきた。
「忘れてたわ」
そう言うと軽く口付けを一つ。
「……唇まで冷てぇ。早く食って温まろうぜ」
機嫌よく今度こそリビングへ向かう後ろ姿を追いかける。そして自室をすぎてキッチンに立つ同居人を引っ張って振り返らせるとお返しにキスをする。
「ごはん作ってくれてありがと」
「どーいたしまして」
お返しと言わんばかりに今度は私が頭をガシガシと撫でられる。
身に染みるような寒さの日だからこその優しさに、心の中まで温められた気がした。
年末に悲しいニュースを知り、年明け初日から北陸の地震、羽田の飛行機事故、北九州の火事と三ヶ日も悲しいニュースが続き…寒さと同じように悲しみが身に染みる。
それでも前を向いて生きていく。
この悲しみと戦って勝つために。
テーマ:寒さが身に染みて
遅ればせながらあけましておめでとうございます(と言っていいのかわからぬほど暗い出来事が多い年明けですが)。
今日から執筆を復活致します。
今年もよろしくお願い申し上げます。
北陸の地震に遭われた皆様にお見舞い申し上げます。
何かできることはないかと探しながら、現時点でできる募金を僅かですがさせていただきました。
【寒さが身に染みて】
引っ越してきて初めて迎える冬は、やけに冷たく感じられた。地元では滅多に降らない雪が積もった道を、転ばないよう慎重に歩いていく。吐いた息が白く曇天へと上がっていくのを眺めていると、本当に私は異郷の地へ来てしまったのだという実感が湧き上がる。
寒さが身に染みてコートのポケットに手を突っ込んだ時、何かが入っていることに気がついた。引っ張り出せば存在すらも忘れていた真っ赤な手袋が一組出てくる。
『これ、あげるよ。来年からはもう貸してあげられないし』
去年の冬、そんなぶっきらぼうなセリフと共に幼馴染から押し付けられた手袋だ。派手好きなアイツとは趣味が合わないものだから、もらったことすらすっかり忘れて着ていたコートのポケットに押し込めていたらしい。
(ばーか。私だって防寒対策くらいちゃんとできるんだから)
新しく買ったマフラーに顔を埋めつつ、心の中で舌を出した。だけどせっかくの手袋だ、ここはありがたく活用させていただこう。
赤い手袋に包まれた両手から広がる熱が、全身を覆う寒さを少しだけ和らげてくれたような気がした。
彼女がブレザーをまくると、おどろおどろしい傷がみるみる現れた。
ブレザーの袖が上がりきってようやく、私の知っている彼女の白い肌が、傷ついていない白い肌が見える。
赤い陽光が、廊下とそれをぼやかせ、私の目は混乱を極める。
「いくつあると思う?」
どこまでが一つで、どこまでが二つなのかわからない。
彼女の傷跡は丁寧に切ったそれとは違っていた。
言葉につまり、私はただ可愛らしい丸い顔を見上げただけ。
「だよね、えへへ、私もわかんない」
彼女の、冷たい風が吹くような笑い声は、廊下をはねまわり、耳を占領する。
彼女はながいまつ毛を私にしっかり向けて、喋った。
「篠田さんも嫌なことあるんでしょ?だから私のこと、いじめるんでしょ?」
彼女はかわいい顔を私に向けたまま、ずっとこっちを見つめてくる。
隙間風が初めて、私の背中を冷やした。
寒さが身に染みて、それが余計に、目の前の彼女の、おどろおどろしい傷の現実味に、明かりを放たせる。
【寒さが身に染みて】
前から少し引っ掛かり気味だった店の戸が昨日さらに明け閉めしにくくなった。
夫(今年、齢68歳)が生まれる前から建っていた普通の家を店舗に改装し、そのまま店舗兼住宅になり、その後はリフォームもせず嫁いだ私も住んでいる。
東日本大震災にも耐え、かろうじて建っている建物。いつどうなってもおかしくない古い家屋。
いずれはどうにかしなければならないことは夫婦でも暗黙の了解。
しかし先立つ物(お金)と義母が別棟に住んでいるので、もし新築すれば同居しなければならなくなることへの恐怖(私の)と義祖父母の代からの物の多さと(義母に捨ててはダメと言われている)…
何をどこから手をつければ良いかわからない状態に新築の「し」の字も言えずにいる。
そんな時に店の戸の明け閉めが困難になって…不安と面倒とこれからを思うと
寒さが身に染みて…
いや身だけではない、心の奥まで寒さが染み込んできたのである。
《寒さが身に染みて》
君は、とても冷たい人だった。
私はすぐに凍えてしまって、あなたをも凍えさせてしまうに違いない。
だから、決して素肌では触れないでほしい、と言われた。
僕は、わかった、と言って決して君に素肌では触れなかった。
それでも、彼女の傍を離れることは一度もなかった。
薄い手袋越しでも、きっと、僕の熱は彼女に伝わっているのだろう。
ずっと、二人きりの世界だ。
雪は全てを覆い隠してくれる、包み込んでくれる。
その世界の終わりを知ったのは、幾年もの時が経ち、木々がすっかり枯れた頃だ。
冷たい。
厚い手袋越しに僕の手を取って、つと、君はそう呟いた。
ああ、もう熱がなくなってしまったのか。君に長く触れすぎたね、ごめん、少し待ってくれるかな。温かくするから。待ってね。
不安がる君を宥めようと、僕は頭を撫でて少しの距離を取った。
それでも、なんとなく体感でわかる。
僕の手は、熱を失っていくようだった。
考えるまでもなく、高い熱を長すぎる時間発し続けたからだ。
仕方のないことだった。
僕は、不安がる彼女の傍らに座った。
手袋を外して、その手を握る。
振り払おうとしたのだろう彼女は、涙を浮かべて、嫌だ、と叫ぶ。
僕はそれを聞かなかったことにして、更に強く握ろうとした。
が、だめだった。肌が触れたそばから凍り付いている。
やめて、と懇願する君には申し訳ないけれど、もう時間がないんだ。
君の手から、寒さが身体中に伝わってくる。
痛い、と声が漏れてしまう程、凍てつく体の崩壊は早い。すぐに感覚なんてなくなった。
もう引き返せないと悟ったのだろう、君は僕をそっと抱き締めてくれた。
体の芯から冷え、寒さが身に染みる。
泣かないでいいんだ。
泣かないでくれ、頼むから。
僕はどうやら君の涙に弱いみたいだ、どうやら。
お願い、独りにしないで。嫌だ。
君の声が、ぼんやりとした脳に響く。
一緒にいこうか、と誘う僕に君は頷いた。
だから僕は、君に僕の力をあげる。
今まで口にすることのなかった想いを最期に告げて、僕はそっと彼女に口付けた。
そうして僕の中の熱は消え失せ、彼女の中で、熱と冷気が中和された。
そうして、この寒さに耐えきれなくなった君はきっと……凍えきってしまうだろう。
これで僕らは、ずっと、ずっと二人きりだ。
——好きだよ。君を愛してる。
広いテーブル。一人だけの食卓。
君が居ないから、いやな寒さが染みて痛い。