【寒さが身に染みて】
引っ越してきて初めて迎える冬は、やけに冷たく感じられた。地元では滅多に降らない雪が積もった道を、転ばないよう慎重に歩いていく。吐いた息が白く曇天へと上がっていくのを眺めていると、本当に私は異郷の地へ来てしまったのだという実感が湧き上がる。
寒さが身に染みてコートのポケットに手を突っ込んだ時、何かが入っていることに気がついた。引っ張り出せば存在すらも忘れていた真っ赤な手袋が一組出てくる。
『これ、あげるよ。来年からはもう貸してあげられないし』
去年の冬、そんなぶっきらぼうなセリフと共に幼馴染から押し付けられた手袋だ。派手好きなアイツとは趣味が合わないものだから、もらったことすらすっかり忘れて着ていたコートのポケットに押し込めていたらしい。
(ばーか。私だって防寒対策くらいちゃんとできるんだから)
新しく買ったマフラーに顔を埋めつつ、心の中で舌を出した。だけどせっかくの手袋だ、ここはありがたく活用させていただこう。
赤い手袋に包まれた両手から広がる熱が、全身を覆う寒さを少しだけ和らげてくれたような気がした。
1/12/2024, 8:51:47 AM