〇成

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【寒さが身に染みて】
刺すように寒さに思わず首をすくめて両手をポケットに入れて少しでもと暖を取りながら、カツカツと歩く度になるヒールのテンポを早める。
首元が詰まるのがどうも苦手で普段は前を閉じないアウターも、今日ばかりはしっかりと前を閉じた。窮屈さを感じるけどこの寒さではそうも言っていられなかった。
1月半ば、この時期らしい寒さではあるけど年末年始の異常なほどの暖かさのせいで例年並みの気温でも酷く寒く思える。
人一倍身体の強さには自信があるけど、それでもこの寒暖差に何度か風邪をひいてしまいそうになった。同居人も鼻水が止まらねぇだ喉が痛いだと市販薬の世話になることがあった。
それでもお医者さんのお世話にならず、寝込むほど酷くもならず過ごせているのは、同居人の身体も人に比べれば強い方だからだと思う。
「寒っ……」
どうしても防寒の難しい顔の横をピュウと音を立てて風が切るように走って、風の冷たさに頬や耳がピリピリと痛んで思わず声が漏れる。
首をもう一度ぐっと竦めてポケットに入れた手を握りしめると、帰路を急いだ。

「ただいまぁ……」
「おかえり」
足早に家へ飛び込むようにして帰ると部屋の温かさにほぅと息をつく。体が芯から冷えたようで部屋よりも吐き出した息の方が冷えている気すらする。
リビングから出迎えてくれた同居人が頬を両手で包むように触れてくると、その手の温もりを吸い取るようにじわじわと頬が温もっていくのを感じた。
「寒かったろ。今日の寒さは今期一らしいわ」
その声を聞きながらポケットから出した手で頬に触れる手を掴むと「冷てぇ!」と悲鳴があがる。掴んだ手から温もりが染みるように伝わってきてかじかんだ手がピリピリと小さな痛みを伴いながら緩んでいった。
「メシ作ってる。今日は寒ィから鍋」
褒めろ崇めろ奉れ!と言わんばかりににんまり笑って見下ろす同居人の頭を手を伸ばしてワシワシと撫でてやると自慢げな笑みが一層深まる。
「準備してくるわ」
そう言い残してリビングへ向かいかけた同居人がなにかを思い出したかのように踵を返してこちらへ向かってきた。
「忘れてたわ」
そう言うと軽く口付けを一つ。
「……唇まで冷てぇ。早く食って温まろうぜ」
機嫌よく今度こそリビングへ向かう後ろ姿を追いかける。そして自室をすぎてキッチンに立つ同居人を引っ張って振り返らせるとお返しにキスをする。
「ごはん作ってくれてありがと」
「どーいたしまして」
お返しと言わんばかりに今度は私が頭をガシガシと撫でられる。

身に染みるような寒さの日だからこその優しさに、心の中まで温められた気がした。

1/12/2024, 8:57:52 AM