《寒さが身に染みて》
君は、とても冷たい人だった。
私はすぐに凍えてしまって、あなたをも凍えさせてしまうに違いない。
だから、決して素肌では触れないでほしい、と言われた。
僕は、わかった、と言って決して君に素肌では触れなかった。
それでも、彼女の傍を離れることは一度もなかった。
薄い手袋越しでも、きっと、僕の熱は彼女に伝わっているのだろう。
ずっと、二人きりの世界だ。
雪は全てを覆い隠してくれる、包み込んでくれる。
その世界の終わりを知ったのは、幾年もの時が経ち、木々がすっかり枯れた頃だ。
冷たい。
厚い手袋越しに僕の手を取って、つと、君はそう呟いた。
ああ、もう熱がなくなってしまったのか。君に長く触れすぎたね、ごめん、少し待ってくれるかな。温かくするから。待ってね。
不安がる君を宥めようと、僕は頭を撫でて少しの距離を取った。
それでも、なんとなく体感でわかる。
僕の手は、熱を失っていくようだった。
考えるまでもなく、高い熱を長すぎる時間発し続けたからだ。
仕方のないことだった。
僕は、不安がる彼女の傍らに座った。
手袋を外して、その手を握る。
振り払おうとしたのだろう彼女は、涙を浮かべて、嫌だ、と叫ぶ。
僕はそれを聞かなかったことにして、更に強く握ろうとした。
が、だめだった。肌が触れたそばから凍り付いている。
やめて、と懇願する君には申し訳ないけれど、もう時間がないんだ。
君の手から、寒さが身体中に伝わってくる。
痛い、と声が漏れてしまう程、凍てつく体の崩壊は早い。すぐに感覚なんてなくなった。
もう引き返せないと悟ったのだろう、君は僕をそっと抱き締めてくれた。
体の芯から冷え、寒さが身に染みる。
泣かないでいいんだ。
泣かないでくれ、頼むから。
僕はどうやら君の涙に弱いみたいだ、どうやら。
お願い、独りにしないで。嫌だ。
君の声が、ぼんやりとした脳に響く。
一緒にいこうか、と誘う僕に君は頷いた。
だから僕は、君に僕の力をあげる。
今まで口にすることのなかった想いを最期に告げて、僕はそっと彼女に口付けた。
そうして僕の中の熱は消え失せ、彼女の中で、熱と冷気が中和された。
そうして、この寒さに耐えきれなくなった君はきっと……凍えきってしまうだろう。
これで僕らは、ずっと、ずっと二人きりだ。
——好きだよ。君を愛してる。
1/12/2024, 8:21:31 AM