『寂しさ』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
「胸に手を当てて考えてみて」
そうして、乱暴に扉を閉めて彼女は出て行ってしまった。今日は記念日で、最近は仕事が忙しかったから一ヶ月ぶりに会う予定だった。私は浮かれて彼女が好きなチョコケーキと苺のタルトを一つずつ買った。甘い物はあまり好きでは無いから、彼女が食べて嬉しい物を選びたかった。普段持たない花束なんかも買って、少しぎこちなく向かった玄関口での出来事だった。
現実味を帯びない様な感覚で、どうしたら良いか分からなかったけれど胸に手を当ててもただ置いて行かれた寂しさだけがそこにあった。
寂しさ
(お題更新のため本稿を下書きとして保管)
2023.12.20 藍
『残響』
朝の公園でストレッチ 通勤快速が通り過ぎ 歪な風だけが残ってる 枯葉舞う小さな竜巻 その光景がリフレイン 冬の万華鏡が頭を巡る 真冬はもう目の前だ
#84 寂しさ
あのスーパーがなくなったね、
あそこ家建ったらしいよ、
大好きな街が知らない土地に
変わっていく。
寂しさを紛らわせたくて、あなたの遺した日記帳を開いた。私のことは何一つ書かれていなかったけれど、それでもあなたの生きていた証だと思うと愛おしく思えた。
(寂しさ)
「ねぇ、ここの縦の10って何?」
僕らの静寂をやぶったのは彼女の問いだった。どうやら新聞についてくるクロスワードを解いていたらしい。週末恒例行事だ。
「どういう問題なの?」
「"寂しい"の対義語だって。はい、雑誌を閉じる」
雑誌を読むことを強制的にやめさせられた。いかなる手段のカンニングも許さない。
そんな真面目さを彼女は持っている。
「"たのしい"じゃないの?」
「違う」
彼女がいるソファの横に座るやいなや即答された。
「"に"から始まるの」
彼女の左手にある日曜版の新聞を覗き込む。新聞は片手で持ちやすいよう、縦に二回たたまれた形になっていた。
「その"に"が間違ってるんじゃない?」
「海にいます。イガイガしてます。だって」
「"うに"だね」
「"うに"でしょ」
縦の10の始めの言葉は"に"で決まっていた。彼女の右耳にはクロスワード専用のボールペン。悩む姿は競馬場で予想をしているおじさんのようだ。
そんなオチャメさも彼女は持っている。
「だったら"にこやか"かなぁ」
「それは違うでしょ」
今回は根拠もなく否定された。
「わからないから調べてみよう」
僕には雑誌を閉じさせたのに、自らスマホを取り出した。ルールを簡単に変えていく。
そんなおおらかさを彼女は持ち合わせている。
「"にぎやか"だって……納得いかない」
「へぇ、''寂しい"の反対は"賑やか"なんだね」
「いま私たち賑やか?」
「賑やかというには落ち着いてるよね」
「寂しい?」
「寂しくない」
「納得いかない」
自分の考えにそぐわないことを否定する。
そんな頑固さを彼女は持っている。
そんな彼女といる生活は賑やかではないけれど"寂しく"はない。
君と喧嘩してから今日で1ヶ月。原因なんてもう忘れたけど、多分僕に理由があるんだろう。
ああ、そうだった、僕がなんでもないふうに言った言葉を君が本気にとらえたんだ。そんなにムキになるなよ、って言ったら君は目をひん剥いて怒り出した。まさしく火に油を注いだわけだ。
別に、そんなに気にする話でもないだろう?冗談がわからないのかよ。先週だって、『週末晴れらしいからどっか行かない?』って送ったのに君はまるで無視だ。だからこうして1ヶ月経ってしまった。何なんだよ。僕もそろそろ黙ってないぞ。もしかして、僕が謝るまでその態度を続けるつもりなのか?なんでだよ、僕は悪いことなんかしてないのに。マジになった君も君だろ。だからお互い様ってわけだ。
なのに、それでも無視を決め込むってのなら僕だって苛々するさ。もういい加減にしてくれよ。せめて電話には出て。兎にも角にも、話をしないことには解決しないだろう?
君がこんなだから、寝ても覚めても君のことばかり考えてる。でも、不思議と憎悪とか苛立ちみたいな負の感情ではないんだ。ただ君に許されたいだけ。じゃないと、この得体のしれない感情がもっと成長してしまう。君に触れたい声が聞きたい。そう思ってやまないよ。なんていうんだい、これは。独りでいるのはもう沢山だよ。
自分だけ入ってないグループラインとかは、
ちょっと寂しい
「手らしい」
「何が?」
「寂の又の部分」
「へえ、左側は?」
「忘れた」
うかんむりの下で手が何かを触っているのだろう、という当たりをつけることになる。その者は1人なのだろう。又の字は1人分にしか見えないので。左側を忘れた男が寂の字に「さびしいか?」と問いかけている。奇怪な男だ。ならせめて思い出してやれ。今この場でこの小さな家で1人で何かに触れている者を、孤独から解けるのはお前ただ1人だ。
【寂しさ】
君がいなくなったときから今までの間、
流れてくるSNSのタイムラインで必ず
君の名前を見つけることができる
僕も知ってるエピソードの数々、
僕も知らなかった君の横顔、
その全てが優しくて愛おしい
今でもずっと君と過ごしているような
そんな気がして嬉しい
それでも、ふと寂しさを感じる時がある
粉雪のように音もなく、深々と降ったり
すきま風のようにふと忍び込んできたり
そんなときは少しだけ体温が下がる
旅立った君が置いてったものに触れると、
冷えた身体に温もりが戻ってくるから
この寂しさとともに生きていくのも
案外悪くはないのかもしれない
今ではそう思えるようになった
きっとずっと一緒にいる その方が楽しい
寂しさ
幼稚園のころはプレゼント貰ったけど
今は何か勉強道具もらう
泣きそ
古池や
蛙飛び込む
水の音
日本人ならみんな知っているであろう、松尾芭蕉の詠んだ俳句である。
恐らく今回の「寂しさ」というお題に相応しい文章であろう。
短い文で情景を浮かび上がらせて、寂しさという感情を抱かせる。
ここまで無駄がなく完璧な文もそうそう無い。
そしてこの俳句は、もう一つの寂しさを浮かび上がらせる。
そう自分の知識とボキャブラリーの寂しさである!
上の文章、なんか薄っぺらいって思っただろ。
その通りだよ。
この俳句のことを述べようとしても、あまり言葉が出てこないんだ。
別にこのの俳句の完璧さに打ちのめされたわけじゃない。
単純に知識とボキャブラリーが無いんだ。
背景を語ろうしとしても、意味以外の事なんて知らない。
松尾芭蕉のことなんてもっての外。
ていうか、俳句を詠むだけでどうやって生活していたのか、全く見当もつかない
褒めようにも、褒め方も褒め言葉も知らぬときた。
一応物書きなのに恥ずかしい限りだ。
これは人間としての引き出しの寂しさを明るみに出す、恐ろしい俳句だ。
これを読んでいる人も、多分そういう人が多いと思う。
なので巻き添えにした。
スマンが一緒に、自らの引き出しの寂しさに震えてくれ。
八つ当たりばかりも何なので、ネットで調べた時にプログで見つけた、興味深い解釈を紹介したいと思う。
最後に、忘備録も兼ねてここに引用する。
(下の文の下品というのは、当時は蛙は鳴かせるもので、「蛙を鳴かせずに飛び込ませるなんて、なんと下品な」ということらしいです)
“つまりこの句は「生命の無い白黒の世界」からはじまり、さいごは「みずみずしい生命あふれるフルカラーの世界」へと大展開を遂げているのです。
いま説明したように「古池や蛙飛び込む水の音」という俳句は「侘び」「雅」「下品」「寂び」が融合している。当時のひとからすると、一句のなかでさまざまなドラマがおきている。これが松尾芭蕉のすごさです。”
「考え続ける力」著者:石川善樹
寂しさを埋めてほしいよ。でも君に甘えたいのに甘え方が分からない。気づいて欲しいけど君は察しが悪いよね。
「気づいてよ。バカ」
お題『寂しさ』
「大悟は、テニス強い大学いくんだよね…」
「おうよ!瑞希ちゃんはどこだっけ?」
「医学部、行くけど、あんま有名じゃ、ないとこ」
「じゃあ医者になりたいのかー瑞希ちゃんは」
「そうだけど」
「なら離れ離れになんなー、そうだ!俺が怪我とか病気したら瑞希ちゃんの病院いくから!」
「私、小児科医希望何だけど、あ!頭の悪さは5歳児レベルだからか、ごめんね大悟君」
「俺なぁ、本当に瑞希ちゃんのこと好きだから、寂しいな」
「お揃いだね、私も大好き」
「瑞希ちゃんは俺の彼女だかんなー、会えなくても他の男と、つきあうなよー」
「当たり前じゃん」
「ねぇ瑞希ちゃん、大学卒業して、生活が安定してきたら、一緒に住もう!」
「なにそれプロポーズ?こんな雰囲気もなんもないことある?」
「ダメだった?」
「フフッ、いーよあんたが本当にプロになったら考えたげる」
「手厳しいって」
(寂しいなんて、言えないし、本当は今すぐにでも結婚したいけど、絶対言わないから、覚悟しときな大悟君)
#寂しさ
「成程。」
正しく歪、といった笑顔を浮かべるアルバムの中のひとり。
こんな顔を周囲の大人は見ていて
なんとも思わなかったのだろうか。
ランドセルが学生鞄になる頃には
これはもう典型的だと分かる人には分かる表情だった
「成程ね。」
やはり誰かに助けを求めるべきだったのだ。
こんな顔をして何も言わずに過ごすべきでは無かったのだ。
アルバムの何処を見ても。
周りを真似して口角を上げただけの顔で居る少女は
目が笑っていない。
「やっぱりそうか。」
確信した。
やはり私は病気だったのだ。
繊細だとか気の持ち様だとか反抗期とか
そういう事ではなく。
異常事態が毎日起きていたのだ。
そして毎日起きる内に慣れ、耐え方を覚え、笑い方を知らないアルバムが出来て行った。
けれどあの時分の私にはああして過ごす事が最善の策だった。
そう自分で決意した日の事を未だ覚えている。
何時か、バカな子供の頭で良く考えたものだと自分を笑ってやれる日が来ると信じていた。
ねぇ。
どうやらその日は今日だったらしい。
歪な私のアルバムを抱きしめて
私は私と沢山、話し合ってみよう。
答え合わせだ。
「私はがんばったんだね。」
「私はとても聡かったんだね。」
「私はとても優しかったんだね。」
写真を見て思う。
「これ好き?」
「ほんとはこっちが良かったんでしょ?」
「分かる。絶対こっちの方が可愛いよね。」
頭の中の少女は全然笑わないのに
目はきらきらしていっぱい頷いてくれる。
そうじゃないな、と思ったら首を振って答えてくれた。
ちゃんと意思がある。
ちゃんと彼女の中に答えがある。
だから自分で決めた事を貫いたんだ。
「偉過ぎるよ。」
私の妄想に付き合う少女を抱きしめる。
この感情をなんと言えば良いのだろうか。
そしてひとつ思い出した。
とりわけ小さかった彼女は同級生が120、140、と言われる中、身体測定で104.5センチと言われた時、数字が3桁になった事。
更には100を越え110にも届きそうな事に大層喜んで、祖母に報告した。
あと足りない0.5が1センチの半分だと言う事も定規で確認して意気込んで告げたのだ。
「私、巨人さんになれるかもしれん!」
これは思い出すべきでは無かった。
すまぬ過去の私よ。
多分、巨人さんには...マダ ナレテ ナイ ダケヤ
ソノウチ ナレル テ、タブン。
「寂しさ」
寂しさなど全て捨てていたら、あなたともっと長くの時を過ごせたでしょうか。
あなたの居ないこの世はいらない。
クリスマス私は一人で過ごす。世の中の人はパートナーと過ごしたり、親と過ごしたり、とても濃厚な一日を過ごすだろう。
私も昨日まではそう思っていた。私が、あなたともっと居たいと、寂しいと言ってしまったのがいけなかったのか。今頃あなたと楽しい時を過ごしているはずたったのに…。あなたはもうこの世には居ない。私のせいで追い詰められたあなた。私が寂しいと言わなければ何か変わっていたのだろうか。
あなたの居ないこの世に用なんかない。待ってて。
インターネットはいつでもどこでも誰とでも繋がれることを可能にしたからこそ、誰からも連絡が来ないことに対する、過剰反応とも取れる現代人の寂しさを生み出してしまった。
【寂しさ】
「それでさ、彼氏が酷くって!」
適当に相槌をうって聞き流していると、「本当に聞いてる⁉」とキンキンうるさい声で言われた。
面倒になってきたので聞いていないと言ってしまいたいが、ここでそう言ってしまうと悪役の天秤が私の方に傾いてしまう。
「聞いてるよ、それで続きは?」
へらっと作った笑いを見せると、ちゃんと聞いててよね!と一言言ってから彼氏がなんやらかんやらの話に戻った。
…無駄に長々と喋らないで欲しい。正直何を話したいのかが全く分からない。
今度はちゃんと聞いてるよう見えるように気を付けて聞き流していると、言いたいことを取り敢えず言い終えたらしい彼女は「ふぅ」と一息付いた。
時計をちらっと確認すると、30分も経っているようだった。
「それでさ、あなたはどう思う?」
「うーん、そうだな…」
ただ聞いてほしいだけかと思っていたので、急に意見を聞かれて少し焦る。
取り敢えず当たり障りのない彼女を庇うように何かを言えば良いだろうと考えて、そこに私の本当の考えなんかないことを口から出す。
「あなたは悪くないよ、もしまた何かあったら気軽に言ってね。相談乗るよ」
重みなんか無い私の言葉に、彼女はぐすっと鼻を鳴らして頷いた。
こんな嘘にも気付けないなんて、詐欺に引っかからないか心配になるな、と少し思いながら私はその場を去った。
うだうだそこに居続けて、一緒に帰ろうなんて言われたら最悪なので。
「…寂しい、か」
聞き流していた話の中で、いちばん沢山出ていた単語。
彼氏が居るのだから、ただ嬉しいだとか愛しいだとか、それだけを感じていれば良いものを。
…寂しいなんて、満たされたことのある人間しか感じない。
寂しい、さみしい、一緒に居て。
それで側に居てくれた奴がいた人間は、更に温かさを求め始める。
哀れだな、と少し思って、そんなことを考えた自分に笑った。
「…哀れはどっちだか」
寂しさ
1人でいるとふとした時に寂しさを感じる時がある
寂しくて…誰かに側にいてほしい…
でも、きっとそう感じるのはほんの一瞬だから
あなたのすぐ側にきっといる
寂しさを埋めてくれる…大切な人が…
走り出したとき、もっともさびしかったのは、だれか追いかけてくれるひとがいるかもしれないと一瞬、ねがうように思ったことだった。吐く息がしろく存在し続けるようにその望みは胸に染み付いた。とろとろと街の灯がわたしの目に溶けだした。わたし以外のなにもかもがきらきらとひかっていた。