『寂しさ』をテーマに書かれた作文集
小説・日記・エッセーなど
佐々木先生が病院を辞める日がすぐそこに来ている。
そうなって初めて、私は寂しくて仕方ないことに気がついた。
寂しさ
小児科医の佐々木先生が開業するクリニックの誘いを「外科看護の勉強を継続したい」と断った私。
だけど実際には、4月から小児科病棟に配属された。
まぁ、総合病院の看護師本人の希望なんて、通ったり通らなかったりっていうのは、経験上よく知っている。万年人手不足の業界だから、経験年数4年目で配置換えは普通のことだし。そう思っていたけど、そればっかりではないことを、小児科病棟の看護師長から聞いた。
「宮島さん、外科よりも小児看護が向いているよ。子どもたちも宮島さんに懐いていたし。佐々木先生も小児看護を勉強してくれたらなぁって仰っていたのよ」
……佐々木先生。
嫌いじゃない。
寧ろ、外科の浅尾先生を忘れられたのは、佐々木先生のおかげ。
いつだって穏やかで、大人の包容力を持っていて、私だけじゃなくて、皆んなに優しくて、仕事への情熱があり、私へも……
職員食堂でAランチを食べていると、佐々木先生がトレーを持って空いてる席を探しているのがわかった。それに気づいた同僚は佐々木先生を呼び寄せ、自分は食べ終わったからと席を立ってしまった。
「なんか悪いことしちゃったな」
同僚を目で追いかけつつ、「でも嬉しいな」と笑ってる。
私よりも10歳も年上で、大人の包容力たっぷりな人なのに、ふと見せる子どもっぽい素直さが可愛いなんて。ずるい。
「宮島さん、杏仁豆腐食べる?」
「…いただきます」
「はい」
検食のデザートをお礼を言って受け取る。
こんな日々はもう残り少ないんだと思ったら、急に、本当に急に寂しくなった。
佐々木先生は今月末にこの病院を辞めて、地元の長野県へ帰って、そこで小児科クリニックを開業する。
先生がこの病院に出勤する日はもう、残りわずか。
杏仁豆腐のスプーンを握ったまま、ゆらりと視界が滲んだ。
「宮島さん?」
佐々木先生の気遣わしげな声がする。
「あ、なんでもないです。いただきます」
鼻声になった。やだな。先生は絶対に気づいてる。職業柄と細やかな性格が相まって、小さな変化を見逃す人じゃない。
それに…私のことは特に。好きだからわかるよ、と言ってくれた先生の声を思い出す。
「…今日、仕事終わった後、何か用事ある?」
「え?」
「ラーメン、食べにいかない?」
先生の顔を見ると、ラーメンという言葉に似つかわしく、真剣な顔をしている。
「僕が食べに行きたいんだけど、ダメかな?」
真っ直ぐに見つめる瞳がとても綺麗で。吸い込まれそうなほど、綺麗で。
ダメじゃないと首を振ったら、良かったと先生が笑った。
ラーメン屋を出て、夜道を2人で歩く。
口数の少なくなった私に佐々木先生は気づいているだろうけれど、何も言わない。
こんなふうに2人で歩く夜は2度目。最初は浅尾先生に終止符を打たれた時だった。2度目が、今夜。3度目はもう……
指先が触れた。と思った瞬間、先生に手を握られ、そのまま先生のコートのポケットの中へ。
「嫌なら…」
嫌な訳なかった。
佐々木先生と手を繋ぐのは、嫌じゃない。
浅尾先生に終止符を打たれて哀しくて泣いた夜、私は佐々木先生の温もりを頼りに歩いた。
私からも握り返すと、先生が少し驚いたのがわかった。それが新鮮で、笑いを溢す。佐々木先生も少ししてからちょっと笑って、イルミネーションが輝く街を散策する。
---デートみたい。…って思ったら、失礼かなぁ。
2人っきりで、手を繋いで、笑い合って。デートみたいって思っても良いですか?直接尋ねる勇気はなくて、心にそっとしまい込む。
佐々木先生が前を見据えながらポツリと呟いた。
「自分で決めたことだけど、地元に帰るのを躊躇いたくなるね」
「先生?」
「宮島さんと過ごす時間が楽しすぎてさ。僕はキミのことを心から応援してるのに。その想いに嘘はないのに」
小児科病棟で働きだしてから。
外科小児科混合病棟のときとは異なり、難しい病態の患児の担当も付くようになって、混合病棟で働いていたときよりも責任が重くなった。
なかでもリーダー業務はまだ慣れなくて大変で。だけど、先輩や同僚の小児科看護師に助言をもらいながら頑張れている。
凹んだりもするけれど、さりげなく見守ってくれたり、教えてくれたり、時には助けてくれたり……佐々木先生には気をかけてもらっている。
迷惑をかけていると思うのに、佐々木先生はいつだってよく頑張ってるね、できることが増えたね、一緒に仕事ができて楽しいよ、と笑ってくれる。私はそれに、救われている。
過去、佐々木先生は地元で開業するクリニックに、私と働きたいと言ってくれた。小児看護に携わって間もない私の将来を期待して、熱心に誘ってくれた。すごく嬉しかった。すごくすごく嬉しくて…でも、断った。
私はそのとき、浅尾先生のことが好きだった。そんな私が佐々木先生の元へ行って、先生に期待させて傷つける結果になってしまうのが嫌だったから。
今は、もう、浅尾先生のことはなんとも思っていない。
浅尾先生の想いが過去のものになったとき、佐々木先生はもう一度私と働きたいと改めて誘ってくれた。
だけど私はまた断った。
リーダー業務もできない状態で佐々木先生の元へ行っても、迷惑をかけてしまう。
もっと小児看護の経験を積んで、せめて、病棟のリーダー業務を独り立ちできるくらいには仕事ができるようになりたい。
「そっか。僕が失念してた。キミがすごく努力家で頑張り屋だってこと」
「先生…すみません。誘ってくださって、すごくすごく嬉しかったです。本当に嬉しかったんです。だけど私、もっと病棟の経験を積みたくて…」
頭を下げる。誠心誠意誘ってくださった佐々木先生に、感謝と謝意が伝わるように。
「顔を上げて。宮島さん、キミはとても良い決断をしたよ。クリニックはいつでも働けるから。病棟で、入院している子どもたちのためにチカラを貸してあげて。キミはとても良い看護師さんだから」
「先生…ありがとうございます」
「うん。頑張って。僕はキミのことをずっと応援しているよ」
「ありがとうございます」
肩にポンと置かれた大きな手から伝わる温もりに感謝した日を私は忘れられないだろう。
---別れの日が近づいた今。
佐々木先生と共有する出来事がこれで最後だと思うたびに、ひたひたと寂しさが押し寄せてくる。
病院に残ると決断したのは自分なのに。
「私も…先生と過ごした日々……とても…楽しかったです。すごく…」
正面を見て歩いていた先生が立ち止まり、私に向き直った。
私が…泣きそうになっているから。
「あ…泣いてないですよ、私…」
「…今にも泣きそうだよ」
先生が私の両頬を優しく両手で包み込んだ。
「僕と離れるの、寂しい?」
囁くような声が優しい。抗えなくて、頷く。
「僕も寂しい」
頬を包んだ両手が背中に回って、優しく抱きしめられる。
あまりの安心感にほぅっと息を吐く。
「ごめんね。寂しがってくれて、喜んじゃって」
「先生、素直すぎます…」
「うん、ごめんね。来月以降、僕が地元に帰った後、もしもキミが寂しかったら寂しいって連絡してね。僕もきっと同じ気持ちだから」
「先生…でも…」
先生は優しいから私を心配されるんじゃないですか?
「キミのことがわからないまま過ごす方が、僕は辛いよ。キミが辛いときは、寄り添いたいから。何度でも、何時間でも寄り添いたいから」
耐えていた涙が溢れ出す。
佐々木先生の前で、泣くのを我慢できるわけなかった。
「寂しさを受け止めに、会いに行くよ。新幹線で1時間半。近いよね」
「…近いです…私も会いに行っても良いですか?」
「もちろん。待ってる。会いに来て」
チカラ強く抱きしめられた。
涙が止まってから、先生の車に乗って、自宅マンションまで送ってもらう。
シートベルトは外したけれど、なんとなく立ち去り難くて…私はバッグの持ち手をギュッと握った。
「宮島さん、思い出をひとつ作ろうか」
「え、今からどこかに…」
顔を上げた私の唇に柔らかな感触。
キス…
ビックリしていると、目元にもキスがふわりと落とされた。
「今夜はありがとうね」
「っ、はい…」
ビックリし過ぎて動けないでいると、佐々木先生が自分のシートベルトを装着した。静かな車内にベルトのロック音が大きく響く。
「帰らないの?僕の部屋に連れて行っちゃうよ」
…っ。
冗談混じりなのか本音なのか判別できない声音と瞳。
「あ、ありがとうございました」
慌ててドアを開けて降りる。
「僕も。最高の想い出をありがとう」
先生は微笑みを私に焼き付け、自動車は遠ざかっていった。
部屋へ入ってから、コートを脱いでバンガーにかける。姿見が目に入って、唇に目がいく。
「思い出をひとつ作ろうか」
今からどこかに出かけるんですか、と尋ねる途中で、優しく唇が重ねられた。今夜は抱きしめられたりもして…
先生も寂しいと伝えてくれた。寂しくなったら同じ気持ちだから言ってね、とどこまでも寄り添ってくれる。
佐々木先生の愛情のおかげで今夜はもう泣かずにいられそうだけど…
先生の寂しさは埋められていますか?
先生は愛を与えるばかりで…
好きです
キスされた唇で形作ったら、なぜか涙がこぼれ落ちた。
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雲に遮られ、星月の淡い光すら届かぬ昏い夜。
地面に座り込み、少女は一人空を見上げていた。
言葉もなく、表情もなく。微動だにしないその姿は、僅かに白く色づく吐息がなければ、生きているのか死んでいるのかの区別がつかない。
夜も更け、凍てつく寒さは体温を容赦なく奪っていく。しかし少女はその場から動く様子はなく、ただ見るともなしに見えぬ空を見ていた。
不意に、近づく足音が聞こえた。
ゆっくりとした足音は少女から数歩離れた場所で立ち止まる。周囲の暗がりより尚昏い大柄な影が、低い獣のような声音で少女に問いかけた。
「何をしている」
「別に、何も」
影に視線を向ける事もなく、少女は淡々と答える。
無感情なその声音に、影は低くうなりを上げた・
「なればその身。喰ろうてしまっても構わぬな」
「いいよ」
迷いのない返答。
空から影へと視線を移し、少女は無感情な目をしていいよ、と繰り返す。
「もう、何もかもがどうでもいい」
唇の端を上げて、笑みを形作る。
くしゃりと歪んだ不格好なそれは、泣いているようにも見えた。
「どうでもよいのか」
「うん。どうでもいい。疲れちゃったの。私を私として見てもらう事を期待しても無駄なんだって、分かっちゃった」
「無駄か」
「そう、無駄。結局皆にとって、私は妹の姉でしかないんだよ」
声に感情が乗る事はない。作った笑みも消え、少女は虚ろな目をして影に語り続ける。
「私はお姉ちゃんでいる限り、これからもずっと妹と比べられる。妹の添え物でしかないんだ」
どれだけ努力をし結果を出したとしても、それが認められる事はないと少女は言う。そして少女が不得意とする分野で、努力で補う事の難しい気質に対して、妹を引き合いに出されるのだ、と。
――お姉ちゃんなのだから、出来て当たり前。
――お姉ちゃんなのだから、もっと上を目指さないと。
――お姉ちゃんなのに、何故妹よりも不出来なのか。
――妹の方は、愛嬌があるのに。
――妹の方が、可愛いのに。
少女は周囲からかけられる無慈悲な言葉に一人耐え、只管に努力をし続けてきた。いつか認められると信じて、妹よりも上位の成績を維持し、苦手な愛想も振りまいた。
けれどもどれだけ少女が努力しても、それが認められる事はなく。
「もうお姉ちゃんでいる事に疲れたの。お父さんもお母さんも、友達や好きな人だって、妹しか見ていない。きっとこのまま私がいなくなっても、誰も気にする事なんてないから」
だから、と。
少女は冷え切り動かす事のままならない足に力を入れ、立ち上がる。
一歩、また一歩。影の元へ歩み寄る。
「終わらせてくれるなら、何だっていい。殺されても、食べられても、お姉ちゃんでなくなるならそれでいい」
「それほどまでに姉でいる事を拒むのか」
「そうだよ。お姉ちゃんはもういやなの」
無感情にそう告げて、少女は影へと手を伸ばす。
その手を取り、影は静かに問いかけた。
「誰に終わらせてほしい」
その言葉に少女はきょとり、と目を瞬かせ。
そこでようやく少女の表情に感情が乗った。
作られた笑みではない、今まで押し殺してきた少女の本心からの笑顔。
控えめな、ふわりと花咲くような。そんな暖かな微笑み。
「誰でもいいの?」
「ああ」
「それなら。妹に終わらせてほしいかな」
笑いながら、一筋涙を溢す。
その涙を影は拭い。
不意に雲が途切れ、月の光が二人を仄かに照らし出した。
「その望みに応えよう」
静かに応える声。
影の姿が揺らぎ、少女の妹の姿に変わる。
満開の花が咲き誇るような笑顔を浮かべ、少女の手をそっと離した。
数歩、少女から離れて。
「おやすみなさい、お姉ちゃん」
少女から伸びた影の手を取り、引き寄せる。
おやすみ。ありがとうの言葉を聞きながら。妹はその影の喉元に喰らいついた。
時を止めた少女の軀を前に、妹の姿をした妖は悩んでいた。
その手には、半透明の小さな石を乗せ。
「さて、どうするか」
石を見、軀を見た。
戻す事は出来ない。何より少女がそれを望まない。
とは言え、軀を喰らうつもりは端からなく。このまま捨て置くのも忍びない。
家族の元へと返してもよいものか。
「何、しているの?」
「丁度良い所へ来た」
不意にかけられた声に、振り返る。
首を傾げる磯の香りのする女の元へ歩み寄ると、女の手に持っていた石を握らせた。
「姉である事に疲れたそうだ。甘やかしてやれ」
「魂を勝手に持ち出すのは御法度でしょう。怒られるのは嫌よ」
「何。刹那の夢を見せるだけだ。常世に渡った所で、その寂しさは満たされる事はない。永く眠り続けるよりは良いだろう」
勝手ね、と女は愚痴を溢しながら。
石をそっと包み込み、目を閉じる。
「人の子は随分と寂しくなってしまったのね」
「賢くなりすぎたのだろう。仕方のない事だ」
女の呟きに、妖は少女がしていたように空を見上げた。
月は見えない。再び雲に覆われて、光は遮られてしまっている。
この昏い空を見上げ、少女は何を思っていたのか。
詮無き事を考えながら、そうだなと一つの結論を出した。
「これでいいかしら?」
女の声に視線を向ける。
手にしていた石は形を変えて、安らかに眠る赤子の姿がそこにはあった。
「あぁ。それくらいが甘やかすには良いだろうな」
「迎えが来たら渡すわよ?それでいいでしょう」
女の言葉に否はなく、頷く。
「軀は家族に返すの?」
「連れて行く。姉であった娘は寂しいのだからな」
「甘いのね」
苦笑する女は、それでも否を唱える事はない。
同じ選択を女も考えているのだろうと、妖は気にかける事もなく、赤子の頬を優しく撫でる。
魂が、取り繕うものがなくなった少女の本心が叫び続けていた事。
気づいてほしい。認めてほしい。寂しいのだと。
それらの望みが、この先少しでも応えられれば、と妖は笑った。
「後は任せる」
「えぇ。任されてあげるわ」
女に背を向け、少女の軀に歩み寄る。
その姿が揺らぎ。
頭は牛、体は鬼の姿をした妖は、少女を抱き上げると、己の塒である淵へと去っていった。
20241220 『寂しさ』
寂しいっていつからか思わなくなった
いつからだろう
これもあれも全部ひとりでやらなきゃ
人に頼らずしっかりした人間にならなきゃ
そう思って生きてきた
だってしっかりしてるねってみんなが褒めてくれるから
もう年齢も立派な大人になった
おかげさまでなんでもひとりでできる人間になった
でもなんか心に穴が空いた感じがある
私ほんとは寂しいのかな?
28寂しさ
ただ紛らわせたくて人に触れて
傷ついた振りをして気を引いて
それでも埋まらなかったからさ
君で満たしておくれよと言うの
君は正義のヒーローなんだよね
きっと私も救ってくれるんだよね
「寂しさ」
「前回までのあらすじ」───────────────
ボクこと公認宇宙管理士:コードネーム「マッドサイエンティスト」はある日、自分の管轄下の宇宙が不自然に縮小している事を発見したので、急遽助手であるニンゲンくんの協力を得て原因を探り始めた!お菓子を食べたりお花を見たりしながら、楽しく研究していたワケだ!
調査の結果、本来であればアーカイブとして専用の部署内に格納されているはずの旧型宇宙管理士が、その身に宇宙を吸収していることが判明した!聞けば、宇宙管理に便利だと思って作った特殊空間内に何故かいた、構造色の髪を持つ少年に会いたくて宇宙ごと自分のものにしたくてそんな事をしたというじゃないか!
それを受けて、直感的に少年を保護・隔離した上で旧型管理士を「眠らせる」ことにした!
……と、一旦この事件が落ち着いたから、ボクはアーカイブを管理する部署に行って状況を確認することにした!そうしたらなんと!ボクが旧型管理士を盗み出したことになっていることが発覚したうえ、アーカイブ化されたボクのきょうだいまでいなくなっていることがわかった!そんなある日、ボクのきょうだいが発見されたと事件を捜査している部署から連絡が入った!ボクらはその場所へと向かうが、なんとそこが旧型管理士の作ったあの空間の内部であることがわかって驚きを隠せない!
……ひとまずなんとか兄を落ち着かせたが、色々と大ダメージを喰らったよ!ボクの右腕は吹き飛んだし、ニンゲンくんにも怪我を負わせてしまった!きょうだいについても、「倫理」を忘れてしまうくらいのデータ削除に苦しめられていたことがわかった。
その時、ニンゲンくんにはボクが生命体ではなく機械であることを正直に話したんだ。「機械だから」って気味悪がられたけれど、ボクがキミを……キミ達宇宙を大切に思っているのは本当だよ?
それからボクは弁護人として、裁判で兄と旧型管理士の命を守ることができた。だが、きょうだいが公認宇宙管理士の資格を再取得できるようになるまであと50年。その間の兄の居場所は宇宙管理機構にはない。だから、ニンゲンくんに、もう一度一緒に暮らそうと伝えた。そして、優しいキミに受け入れてもらえた。
小さな兄を迎えて、改めて日常を送ることになったボク達。しばらくのほほんと暮らしていたが、そんなある日、きょうだいが何やら気になることを言い出したよ?なんでも、父の声を聞いて目覚めたらしい。だが父は10,000年前には亡くなっているから名前を呼ぶはずなどない。一体何が起こっているんだ……?
もしかしたら専用の特殊空間に閉じ込めた構造色の髪の少年なら何かわかるかと思ったが、彼自身もかなり不思議なところがあるものだから真相は不明!
というわけで、ボクはどうにかこうにか兄が目を覚ました原因を知りに彼岸管理部へと「ご案内〜⭐︎」され、彼岸へと進む。
そしてついにボク達の父なる元公認宇宙管理士と再会できたんだ!
……やっぱり家族みんなが揃うと、すごく幸せだね。
そして、構造色の少年の名前と正体が分かったよ。なんと彼は、父が考えた「理想の宇宙管理士」の概念だった。概念を作った本人が亡くなったことと、ボク以外の生きた存在に知られていないことで、彼の性質が不安定だった原因も分かった。
ボクが概念を立派なものに書き換えることで、おそらく彼は長生きするだろうということだ。というわけで、ボクも立派に成長を続けるぞ!
─────────────────────────────
「ニンゲンしゃん!」「ん?どした?」「なにもないよ!」「そっか。」「えへへ〜!」「かわいい」
「ニンゲンくん!キミは兄を可愛がりすぎだ!ちったぁボクも可愛がったらどうだい?!!」はいはい。かわいいかわいい。
「寂しいなあ!!!」
悪かったって。
「まあいい!許そうじゃないか!」
「それはそうと───」突然呼び鈴が鳴る。
「おや、お客さんのようだよ?ニンゲンくん、出てきたまえ。」
全く心当たりがないが……誰だ?
とりあえず出るか。
「……はい。」
「ニンゲンさん、お久しぶりです。覚えておられますか?⬛︎⬛︎達を造った者です。」
あー、えーっと……「おとーしゃん!」
「おとーしゃんだ!!」
「お父さん?!公認彼岸管理士の試験に受かったの?!!」
「そうd「おとーしゃん!おとーしゃん!!」
「⬜︎⬜︎、ちょっと静かに。」「むー!」
「久しぶりだね。ふたりとも元気そうで何よりだ。」
「へへっ!」「げんきだよー!」
「ニンゲンさん。いつもこの子達がお世話になっております。これ、もしよければどうぞ。」
そう言って何かを手渡してきた。
これは……「賽の河原まんじゅう」……?
えーと、あのー……。「どうかしましたか?」
「まあ、気になるよね……。」「気になる……とは?」
「あぁ、賞味期限ですか?」「んなわけないでしょ、お父さん!」「これ、食べても大丈夫なの?!」「当たり前だろう?」
「なんと言うか……黄泉竈食ひにならないか心配だよ!」
よもつへぐい……ってなんだ?
まああの世のものを食べるのは怖いから……。
「食べるか食べないかは好きにすればいいよ。」
「……にしても、⬛︎⬛︎はこの宇宙を大事にしているんだね。」
「え、ま、そりゃあ?」
「だってこの宇宙は───「ちょっとそこまでにして!」
え、この宇宙がなんて……?「なんでもないよ!」
「ふふっ。これでもっと寂しくなくなるね!」
「ボクね、正直いうと、この一万年間ずっと寂しかったんだ。⬜︎⬜︎だけじゃなくお父さんまでいなくなって、ボクはひとりぼっちだった。」
「でも、ふたりとも戻ってきてくれて、ニンゲンくんもいてくれて、ボクはもう寂しくないよ!」
「みんな、ありがとう!」
大好きな家族との時間を取り戻すことができたんだ。
……だから自分は邪魔者かもしれないな。
「ニンゲンくん!」「?」
「一緒にこのおまんじゅうを食べていっぱい話そう!」
……仕方ない。なんてな。
本当は嬉しい。
ありがとう。自分を寂しさから救ってくれて。
……ありがとう。
寂しさ
一人って俯瞰したら寂しそうだけど、自分からしたら楽しいモノよ。
一人の時間って何しても許される。周りが何かいちゃもんつけてるだけで結局、一人だろうと本人が楽しければ良いのだ。
周りと完全に乖離してることに悲観しない奴は寂しそうなんじゃなくて強いんだよ
いつか、その場所から居なくなってしまうあの人の事を思うと寂しい気持ちが沸いてくる
──あの人が帰ってくるまで、あと。
窓の外から、どさり、となにか重いものが落ちる音がした。読書を中断してそちらへ目を向けると、一面が真っ白だった。
「え……?」
雪だ。
本にしおりを挟んで立ち上がり、締め切ってある窓に近づく。どうりで朝から冷え込むと思った。雪が降るほどの気温なら納得だ。
「寒い……」
羽織っているカーディガンを握りしめて、静かに身を震わせる。家の中をどれだけ暖めても、窓のそばは冷える。
特に、いつもより人がひとり少ないような日は。
「……」
あの人は、旅先で寒さに震えていないだろうか。
いくら旅慣れしているといっても真冬だ。宿が取れないなんてこと、起こらなければ良いのだけれど。
吐息で白く曇ったガラスをそっとなぞって、口からこぼれそうになる寂しさを堪える。声にしたところで、待ち人が早く帰ってくるわけでもない。
ただ、ため息を吐くくらいは許してほしい。
さらに曇って外が見えなくなった窓から離れながら、今日の夕食は友人と摂ろうと決めた。
(寂しさ)
寂しい、行かないで、と涙する女。僕は自身の脚に縋り付く彼女を睥睨する。
「僕も君が居ないと寂しいですよ。……でも、君と違って悲しくは無い」
何時からだろうか、「寂しい」が「悲しい」と同義のように扱われるようになったのは。「寂しい」とは「満ち足りない」事のみを指すはずだ。本来そこには悲哀の感情は含まれていない。しかし、欠落や空虚は忌避されるようになってしまった。誰が定義した訳でも無いのに、君も世人も充足こそ幸福と思い込んでいる。
欠落の無い完全な人生は可能か、出来た穴は埋めなくてはならないのか、更に言えば穴が増え全てが虚空へと溶けるのは悪なのか────否、否、否である。執着こそが悪なのだ。両手に何かを持っていないと不安になってしまう、ものへの飢えが君を苦しめているのだ。「満たされなくてはならない」という強迫観念は捨ててしまえ。その桎梏から逃れ空空漠漠たる日々へ身を委ねれば良いのだ。
相変わらず彼女は哀しみに打ちひしがれた顔をしていた。だが僕はこれを伝える気は無いし、手を差し伸べたりもしない。君が僕の考えを理解しようが拒絶しようが関係ない。僕は静かに脚を払い除けた。
さあ、独りデカダン的人生を賛美しようでは無いか!
【 寂しさ⠀】
一人で過ごす夜は寂しいものだ。
同じ時間を過ごす喜びを知ってしまえば、なおさら。
見慣れた面影を追いかけるように、今日も夜市を歩く。
『魔女は騎士の影を追う』
お題
「寂しさ」
【寂しさ】
昨日の夜、涙が止まらなくなった。
夏が寂しくてたまらなくて。
学校に行くまでの過程がしんどすぎて。
大好きな曲を流しながら、涙が止まらなかった。
寂しさ…
とりま、胃袋パンパンにすりゃなんとかなる
社会人のふりをしているけど、社会人ではない。一人の友達もいないってのは、社会人ではない。毎日誰にも褒められることなく眠るというのは、社会人ではない。社会人でないというのは、病質の種を温めている状態であって、危険なことだ。それと知らずに、地下室にいるのなら、なおさらだ。だれもその手記を読まない。発見もされない。一体どうする。どうする…?
#寂しさ
海の地平線月が照らし
人の温もりが恋しくなる
寂しさの分、優しくもなれ
一人の脆ささえ受け止めて
昭和/レミオロメン
貴女は願いを叶えると言った
でもそれはできない
あの人はもういない
貴女がどんな力を持っていても
この寂しさを消すことはできない
消してほしいとも思わないんだ
この記憶はあの人がいた唯一の証だ
どうしようもない
仕方ないことだよ
あの人はもういない
もういないんだ
ぽつんと、自分一人だけ
取り残される感覚がたまに起こる。
周りにはいっぱい人がいるのに。
たった一人で、孤独のような。
誰もいない世界で生きているような。
そんな感覚がたまに起こる。
“寂しさ”
君が隣の帰り道
終わらなければいいのにと思っていたよ
夕焼けに焦がされた情景は
今はもう
何の意味もないね
“寂しさ”
▶49.「寂しさ」
48.「冬は一緒に」
:
1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
---
寂しさどころか、楽しみも苦しみもない。
あるのは、感情とも呼べない程わずかな揺らぎ。
それが✕✕✕という名の人形。
日の出予想時刻に合わせて覚醒した✕✕✕は、
研究所から外へ出た。周りに人間の姿はない。
空はからりと晴れ、朝日がのぼり始めている。
昨晩は光源も乏しい中で動き回り、かなりエネルギーを消耗している。
人形は出てきた穴のすぐ横に座り、岩に寄りかかって日光浴を始めた。
その間、人間の足音にいち早く気づけるよう耳をすませる。
この土地特有の風により、木々が揺れて葉が擦れ、
ざぁ、ざぁ、と音を立てる。
遠くに鳥の鳴く声がする。
返すように、もう一羽。
(眼瞼の瞬間的開閉、胸郭の膨張と収縮、体表面の放熱、思考と表情の連動…)
✕✕✕は日光からエネルギーを取り込みながら、
人間的動作をひとつひとつ確認、ルーティンから停止もしくは手動に切り替えていく。
村人に知られている山であるから、遭遇する可能性がないわけではないが、
それでも、人形はいつも人間の住む場所を渡り歩いてきた。
誰かと一緒にいることの方が少なかったものの、
その道は人間がつくり、人形の通った後にも、誰か人間が同じように辿り歩いてくると理解している。
ここには、それが無い。
だからここは、人間のいる所ではない。
寂しさを紛らわすために、僕はぬいぐるみを抱くことにしている。体長は130センチ。身体はふかふかで構成されている。
夜眠れない時、どうしてか眠剤が効かなかった時は、「眠れないよ〜」と抱きしめると、うとうとするように目がまどろんで、いつの間にか朝になる。
生息地がオフトゥンにいるから、休日の朝は、やけに弱い。あっ、今日は早起きしなくていい日だ。二度寝しよう。むぎゅう。
とした時にはすでに遅し。
完全に昼を回っている時間にタイムスリップ。
これを睡眠負債といって……などと、簡単に時間を奪ってくれる怠惰の神ならぬタイダリストなのだが、平日の睡眠不足を補ってくれるありがたい存在なのだと愛でている。
もう一眠りしよ、と軽く腕を預けると三度寝。
もう夕方に近い午後3時である。
流石にヤバいと思って、お引越しを頑張ることにした。
この太ったアザラシを隣の部屋に引っ越すことが、怠惰から逃れる術なのだ。
そうしたら全然眠くない。
「寂しい」を口実に、分かれ道を越えてうざ絡みするようになった。
アイツは迷惑そうだった。
そりゃそうだ。「寂しい」を無駄遣いして興味もない話を延々と続けられるんだから。
自分でもどうしてそんなことをしたのか分からない。もしかしたらその時から「寂しい」はあったのかもしれない。
でも、自分が本当に「寂しい」と思っていたことに気づいたのは、もっと後のことだった。
今まで使ってきた、嘘っぱちの「寂しい」。
それが今日を境に全部本音に変わったなんて、アイツは信じてくれるだろうか。
【寂しさ】