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寂しい、行かないで、と涙する女。僕は自身の脚に縋り付く彼女を睥睨する。

「僕も君が居ないと寂しいですよ。……でも、君と違って悲しくは無い」

何時からだろうか、「寂しい」が「悲しい」と同義のように扱われるようになったのは。「寂しい」とは「満ち足りない」事のみを指すはずだ。本来そこには悲哀の感情は含まれていない。しかし、欠落や空虚は忌避されるようになってしまった。誰が定義した訳でも無いのに、君も世人も充足こそ幸福と思い込んでいる。
欠落の無い完全な人生は可能か、出来た穴は埋めなくてはならないのか、更に言えば穴が増え全てが虚空へと溶けるのは悪なのか────否、否、否である。執着こそが悪なのだ。両手に何かを持っていないと不安になってしまう、ものへの飢えが君を苦しめているのだ。「満たされなくてはならない」という強迫観念は捨ててしまえ。その桎梏から逃れ空空漠漠たる日々へ身を委ねれば良いのだ。

相変わらず彼女は哀しみに打ちひしがれた顔をしていた。だが僕はこれを伝える気は無いし、手を差し伸べたりもしない。君が僕の考えを理解しようが拒絶しようが関係ない。僕は静かに脚を払い除けた。

さあ、独りデカダン的人生を賛美しようでは無いか!


【 寂しさ⠀】

12/20/2024, 10:53:06 AM