キミ!!そう、画面の前のそこの君だよ!
一体全体いつまで起きてるつもりなの?サンタさん、君が眠りに着くのを「まだかの、まだかの」って、お外でトナカイさんと一緒に座り込んで待ってるよ。ほら、寒空の下、白くてふわふわした髭には霜が降りてるみたい。
君が小さかったときは、「はやく明日になれー!」って急いで羽根布団の海に飛び込んでいたのに……
さあさあ!早く寝て!!
サンタさんが凍えて「こりゃダメじゃ!」って帰っちゃうその前に!
ギフト、とは毒である。
愛の込めた贈り物は、時にその重さで貰い手を苦しめる。かのグリムの故郷にはそんな言い伝えがある。
私は貴方に毒を贈った。“プレゼント”なんて可愛らしいものではない。勿論、毒をそのまま贈るなんてことはしない。黒く淀んだ愛に艶美な紅を纏わせて、美しい姿に仕立てた。艶やかに、鮮やかに、思わず口にしたくなるように。そして、さり気なく微笑みながら差し出してこう口にする。
“美味しそうな林檎でしょう?”
貴方は無邪気にそれを受け取った。私の思いなど知る由もない。そうして一口囓れば、貴方はたちまち夢の中。ふらりとよろめき私の腕に倒れ込む。
貴方を抱きしめたその瞬間、私は世界で一番の幸せを感じた。独占という甘美な優越に酔いしれながら、貴方の寝顔を見つめる。そよ風が揺らす細いまつ毛も、木漏れ日を吸い込む白い肌も、その全てが愛おしい。柔らかな髪をそっと撫でながら、私は静かに呟いた。
“ずっと、こうしていられたらいいのに......”
でも本当は分かっている。この幸せは仮初のものだと。いつか貴方は目覚めて、私じゃない誰かの手を取る。その日が来ることも、その貴方の大切な人のために、幕が下ろされる私の物語の結末も。
それでも、どうかそれまでは私の隣で眠っていて。いつか貴方が王子様の口付けで目覚めるその日まで────
冬の柑橘の爽やかな香り
冬の恩恵のハツラツな黄
私は参考書の山の上にひとつ柚子を置いてみる
エクスプロージョン!
私の心を終始押さえ付ける受験への不吉な魂を吹き飛ばしてくれ!
【 柚子の香り⠀】
「見上げてみれば、遥かなる空。私はその大空に羽ばたいて行きたくなった」
─────とでも思うのだろうか。天を仰ぎ、続けて考える。
無知で傲慢、世間知らず。
彼等にピッタリの言葉である。彼等がこの言葉を生み出した時、まさか自分がそれに当てはまっているなんて考えもしないだろう。やはり、如何にも傲慢である。
他の空を見た事がないのに、何故彼等は自身の星の空が大きいと言えるのか?何と比べて大きいと?まさか井戸の中の小さな生物と比べている訳ではあるまい。
"地平線"やら"天球"という語があると知ったとき、思わず嗤ってしまった。
嗚呼、本当に彼等は"大空"を知らないのだな
と。見渡せど見渡せど端の見えない空を。惑星が球である事を忘れさせる本物の大空を。
視界を埋め尽くす大嵐。何処までも続く惑星の環の影。それ等を見た事ないのによく言うものだ。
自身の母星の空に思いを馳せれば、ちっぽけな空に希望を託すこれまたちっぽけな彼等にまた笑いが込み上げてきた。
【⠀大空 】
「ベルの音はねぇ、わたしゃ嫌いなのよ!」
この時期になると、私みたいな女は皆んなソワソワしてこんな話ばっかりするのよ。確かに、家で独り楽しげなベルの音を聴くのは虚しいでしょうねぇ。同じ身として分からなくは無いわ。でもね、私の夫は特別なの。老女はそんな取り留めのないことを考えながら暖炉の前で編み物をしていた。
遠くから鈴の音がした気がして窓外に目をやれば、雪の中此方に舞い降りて来るひとつのソリが見えた。少しすると、わが家の玄関の扉が開き、冷気と共に貴方が帰って来た。
「いま帰ったよ」
「あら、お疲れ様。今年も早かったわね」
おーさむかった!とか呟きながら黒いブーツと真っ赤な服を脱いでいる彼に向かって声をかける。
「夕飯はもう出来てるわ、冷めないうちに一緒に食べましょ」
「おぉ!今年も豪華だね!」
嬉しそうな貴方をみて、私の頬も緩む。
ベルの音は好きよ、貴方が帰って来る音だもの。毎年他の同業者たちよりも早く帰って来てくれるの。
何故かって?あの人はね、クリスマスは私と一緒に過ごしたいからって、クリスマス前からプレゼントを配ってしまう"あわてんぼさん"なの。
【 ベルの音⠀】