ギフト、とは毒である。
愛の込めた贈り物は、時にその重さで貰い手を苦しめる。かのグリムの故郷にはそんな言い伝えがある。
私は貴方に毒を贈った。“プレゼント”なんて可愛らしいものではない。勿論、毒をそのまま贈るなんてことはしない。黒く淀んだ愛に艶美な紅を纏わせて、美しい姿に仕立てた。艶やかに、鮮やかに、思わず口にしたくなるように。そして、さり気なく微笑みながら差し出してこう口にする。
“美味しそうな林檎でしょう?”
貴方は無邪気にそれを受け取った。私の思いなど知る由もない。そうして一口囓れば、貴方はたちまち夢の中。ふらりとよろめき私の腕に倒れ込む。
貴方を抱きしめたその瞬間、私は世界で一番の幸せを感じた。独占という甘美な優越に酔いしれながら、貴方の寝顔を見つめる。そよ風が揺らす細いまつ毛も、木漏れ日を吸い込む白い肌も、その全てが愛おしい。柔らかな髪をそっと撫でながら、私は静かに呟いた。
“ずっと、こうしていられたらいいのに......”
でも本当は分かっている。この幸せは仮初のものだと。いつか貴方は目覚めて、私じゃない誰かの手を取る。その日が来ることも、その貴方の大切な人のために、幕が下ろされる私の物語の結末も。
それでも、どうかそれまでは私の隣で眠っていて。いつか貴方が王子様の口付けで目覚めるその日まで────
12/23/2024, 1:07:59 PM