▶49.「寂しさ」
48.「冬は一緒に」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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寂しさどころか、楽しみも苦しみもない。
あるのは、感情とも呼べない程わずかな揺らぎ。
それが✕✕✕という名の人形。
日の出予想時刻に合わせて覚醒した✕✕✕は、
研究所から外へ出た。周りに人間の姿はない。
空はからりと晴れ、朝日がのぼり始めている。
昨晩は光源も乏しい中で動き回り、かなりエネルギーを消耗している。
人形は出てきた穴のすぐ横に座り、岩に寄りかかって日光浴を始めた。
その間、人間の足音にいち早く気づけるよう耳をすませる。
この土地特有の風により、木々が揺れて葉が擦れ、
ざぁ、ざぁ、と音を立てる。
遠くに鳥の鳴く声がする。
返すように、もう一羽。
(眼瞼の瞬間的開閉、胸郭の膨張と収縮、体表面の放熱、思考と表情の連動…)
✕✕✕は日光からエネルギーを取り込みながら、
人間的動作をひとつひとつ確認、ルーティンから停止もしくは手動に切り替えていく。
村人に知られている山であるから、遭遇する可能性がないわけではないが、
それでも、人形はいつも人間の住む場所を渡り歩いてきた。
誰かと一緒にいることの方が少なかったものの、
その道は人間がつくり、人形の通った後にも、誰か人間が同じように辿り歩いてくると理解している。
ここには、それが無い。
だからここは、人間のいる所ではない。
12/20/2024, 9:46:47 AM