▶20.「宝物」
昨日も保全報告に読みたいと伝えてくださってありがとうございます。
申し訳ありませんが本日も間に合いそうになく、保全させていただきます。
遅れましたが、書けました。
▶19.「キャンドル」の値段
18.「たくさんの想い出」
17.「冬になったら」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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宿屋の娘視点
食堂に夕食を食べに来た宿泊客への対応が落ち着いた頃。
外に出ていた客がひとり戻ってきた為、私は受付に戻ってきた。
「おかえりなさいませ」
「ああ。忙しい所すまないが蝋燭が1本ほしい」
この町に住んでる人は日没後ほどなくして眠りにつく方が多いのに、目の前の客は頻繁に蝋燭を買い求めるから、少し珍しく感じる。
「大丈夫ですよ。銅の6いただきます」
「確かめてくれ」
「はい。ちょうどですね」
3日に1回は買っている。
眠れなくて、しかも暗闇が怖いのだろうか?
この人、旅人って言ってたけど、それでやっていけるんだろうか。
客に興味を持つのは良くないことだけど、なんだか心配になる。
お母さんは金払いが良い客だって喜んでたけど。
(あ、そうだ)
「すみません、ちょっと待ってもらえますか」
「わかった」
(いつも出している蝋燭、ちょっと臭いんだよね)
私は奥に入り、少し高い値段の蝋燭を取り出してきた。
「あの、もし良かったらでいいんですけど、こっちの蝋燭を試してみませんか」
「ふむ」
差し出すと受け取って蝋燭を眺めているが、その表情は怪訝そうにしている。
「あなた、よく蝋燭を買うから。もしかして眠れないのかなって。値段はそのままでいいから!使ってみて!」
客の反応に慌てた私は、素の言葉づかいに戻ってしまった。
「そういうことか。気遣い感謝する」
「え、じゃあ…!」
「しかし差額は払わせてもらおう」
(なんで!?)
「その様子だと、この申し出はあなたの独断だろう。だとすれば、あなたがここの主人である親御さんに叱られてしまうかもしれない。それは避けたい」
この旅人さん優しい。もしかして優しすぎて不眠になっちゃったの?
「でも…」
「いいんだ。この蝋燭は香りが良さそうだから使いたい。いくらなんだ?」
「あと銅が2と鉄40…」
「わかった。手を出せ」
じゃらじゃらと私の手の中にお金が落ちてくる。
銅2と大鉄4だ。
「私は不要なら断る。だから、そんなに気にしなくていい。薦めてくれてありがとう」
そう言った旅人さんは、部屋に入っていった。
私はお金を握り締めたままボーッとしていたみたい。
結局お母さんには叱られた。
でも、旅人さんがその後も高い蝋燭を買ってくれたから、
気づいたお母さんが、よくやったって、ご褒美に1本あたりの差額分と同じ、銅2と大鉄4をくれた。
嬉しいけど、ちょっと思ったのと違ったなぁ。
▶18.「たくさんの想い出」
17.「冬になったら」
16.「はなればなれ」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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今夜は花街にて。
✕✕✕は子猫という女と過ごしていた。
「はぁ、山で一人暮らし。いいんじゃないの?あなた涼しい顔して毎年冬は大変そうにしてるものね。あ、もうちょっと上」
「そうか、ではこの案で進める。もうちょっととは…ここだろうか。」
子猫は人形であることを知っており、体のメンテナンスに付き合ってくれたり人間社会に馴染むための助言をしてくれたりしている。
「んふ、そう…あぁ少し強くして」
「む…良いところで教えてくれ」
負荷が掛からないようじっくり強めていく。
「あはぁ…いいわぁ…そのまま続けて」
「わかった」
人間の体に触れる機会の少ない人形は、子猫の体が傷つかぬよう細心の注意を払ってマッサージを施していく。
男であった博士とは違う体に触れること、また子猫の幼少期から縁があり、その成長過程を期間は空きつつも直接見られることは、✕✕✕にとって貴重な機会であった。
「ねえ、博士ってどんな人だった?」
「人形づくりに長け、この国の戦乱前の技術収集に熱心であり」
「違うわよ、そんな上っ面じゃなくて…何か思い入れのある話とかないの?」
「私の記録は平等に積み重ねられている」
「はぁ…あなた。それでよくバレないわね」
「あなたの前で人間を装う必要性がない。他ではもっと人間らしい言動に思考領域を割いている。そして今、私の思考領域の大半は子猫、あなたの体に縛られている」
「あら、私のカラダってそんなに魅力的?いえ、愚問だったわ…✕✕✕に性欲なんて無いものね。丁寧に扱ってくれてありがとう」
「こちらからも肉体データ収集の協力に感謝する」
子猫は少し考える様子を見せ、改めて話し始めた。
「んっ…それじゃ、私から質問するから答えてちょうだい」
「わかった」
そうねぇ…好きな食べ物は?
-いつもパンと育てた葉野菜、家畜化した鳥の卵を食べていた。食事の時間になるたびに飽きた、魚が食べたいと言っていた。
魚ってこの辺にはあまり無いわね…博士ってどこの国から来たの?
-遠くにあるとだけ聞いている。
博士とはどんな風に一日を過ごしていたの?
-朝は歩行訓練、博士の朝食後から昼まで私の体の調整、昼食後は日によって買い出しや言葉の練習、表情の作り方…主に人間に馴染むために必要なことを教わっていた。
博士って、この国の人達と違うところはあった?
-博士は体が小さかった。知識量にはかなりの開きがある。言動に関しては、抑圧されていた過去がある者特有の開放感が出ていたが、おおむね理性的であり、他者に配慮をする心があり、そこはこの国の人間と変わらない。
一緒に暮らしたのは1年半くらいだったんだっけ
-そうだ。そして博士は突然吐血し倒れ、3日後に死亡した。
子猫はハッとしたように顔を上げて振り向いた。人形は捻れた体勢に合わせるように力を弱めた。
「そのとき、言葉を交わせたの?」
「ああ。博士には、お前の生に対して本当に短い間しか一緒にいられなくてすまない、旅では色々なものを見聞きして、人間とは何か自由とは何か探してほしいと言われた。なので私は、私にとって時間の経過は苦痛にならない。博士が言うものをできる限り探すと答えた。博士は、そのとき安心した顔をしたように見えた」
「もう私との付き合いの方が長いのね…マッサージも質問もありがとう、もういいわ」
「了解した。最後に全体をさすり血流を整えてから終了する」
子猫は脱力し、再びうつ伏せになった。✕✕✕は、肌を擦らないように手を動かし、整えていく。
「ねぇ…答えられればでいいけど私との思い出で、そうね…1番あなたが重要視しているものはある?」
「重要視という意味であれば、私が人形であることを知った子猫の反応だ。人間を装うモノに遭遇した時に人間は嫌悪を抱くはずだが、あなたにはそれが全くなかった。興味深いデータである」
この後も女の話は転々と移り尽きず。いつも通りに夜は更けていく。
積み重ねられていく、たくさんの想い出という名の記録。
▶17.「冬になったら」
16.「はなればなれ」
15.「子猫」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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光や熱を吸収して動力にしている人形にとって、
寒い冬は厳しい季節である。
日照時間は減り、気温も低くなる。
人形の体も冷えやすく、人間の目をごまかすためには放熱しなければならず、エネルギー問題に拍車がかかる。
✕✕✕は、旅で最初の冬にそれを身をもって経験し、
冬の間はできるだけ南の方に行くようにした。
それでも人に混じって生活するのは困難を伴う。
太陽がなければ火を起こせばいいのだが、
冬は燃料代も上がるし、暖炉のある宿などそうそうない。
蝋燭ではエネルギーの減少は防げても増やせるほどの火力はない。
そして蝋燭ばかり燃やすのは奇異に思われる。
(冬になったら…)
冬支度を始めた人々を見ながら人形は最適解を探す。
(いっそ人間のいない所に行こうか)
例えば山に入って1人で過ごす。
山小屋を借りてもいいし、
住居環境が整っていた方が体の修復も少なくてすむが、借りる手間を考えたら洞窟でもいい。
いつもより騒がしい通りを歩きながら、✕✕✕はどうするか算段を始めた。
▶16.「はなればなれ」
15.「子猫」
14.「秋風」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形✕✕✕
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博士によって作られた人形は、
歴史はあるものの長期に渡った戦乱により文明が後退した国にて、
人間社会に紛れて根無し草の旅を続けている。
その収入源は主に薬草採取であるが、たまに手紙配達も受けている。
今回引き受けたのは、大きな町を挟んで向こう側に嫁入りした娘に宛てた小包。
通信技術は戦乱により途絶し、郵便業はあるにはあるが、窓口があるのは中心部の街ばかり。村や町では通りかかった旅人や商隊に手紙や小包を頼むことが多い。出稼ぎや嫁入りなど、はなればなれになった家族を繋ぐ重要な連絡手段である。
「では、よろしくお願いします」
「ああ、頼まれた」
直接顔を合わせやり取りをするのは露見のリスクがあるものの、
✕✕✕は、頼まれたものは出来るだけ引き受けるようにしている。
唯一の親とも言うべき博士は既に亡く、血の縛りもなければ土地にも縛られていない。何なら今すぐにでも人間社会から離れることだって可能な人形にとって、家族とは理解の及ばぬものであり、だからこそ知る価値があると✕✕✕は見込んでいる。
人形は小包を丁寧に背負い袋へ入れ、次の町に向かって歩き出した。