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▶141.「春爛漫」
140.「記憶」「 七色」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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「おはよう、ナナホシ」
「‪✕‬‪✕‬‪✕‬、起キタ」

「今度はどれだけ経った?」
「1週間ダネ、オハヨウ」
「ああ、おはよう。そうか…私が眠っていた一連の間、何か変わったことはあったか?」
「変ワッタコト…‪✕‬‪✕‬‪✕‬ノ頭ニ、鳥ガ巣ヲ作ッテ、巣立ッタヨ」
「巣?」

人形が頭に手をやると、髪の毛が絡み合ってごわついていた。
服を見下ろせば、確かに鳥の排泄物で汚れている。

「ああ、これは洗わなくてはならないな」

人形は背負袋から干しオリャンと石けんを取り出し、
ナナホシを肩に乗せて川に向かった。





事の始まりは時を遡ること数ヶ月。
人形たちが3回目の旅を終えた後だった。

この日も‪✕‬‪✕‬‪✕‬は、思考領域の幾割かを使って、自身の最終設計図とイレフスト国の研究資料を突き合わせていた。

人形と共通点があるらしいナナホシの修復方法を探るために行なっていたものだが、アクセス出来ない不可解な領域を発見したのだ。


「巧妙に隠されていて、おそらくだが穴抜けの多かった博士の記憶、その残りだ」
「ドウスルノ?」
「博士の研究室跡地に行かないか。サルベージできないか試したい」

「ワカッタ。アノ柑橘ノ木ニ連レテッテ。僕モ試シタイコト、アル」
「了承した」


こうして人形は、ナナホシと共に再び古巣へとやってきたのであった。



「前回は時期がずれていて花も咲いてなかったが、良く実っている」
「イイ匂イ」

春爛漫の森の中で最初に博士と見つけた時、実は熟していた。

その時期に合わせて訪れれば、
その木は周囲の花の香りに負けず柑橘特有の匂いを漂わせ、
熟した実をたわわに付けていた。
鳥が食べているようで、いくつかは穴が空いている。

その匂いは、オリャンとよく似ていた。

「ヤッパリ、オリャント似テル」
「確かにオリャンは、野生の物としては不自然だ。この木が原種か、それに近いものではないかと考えたんだな」
「ソウ」

人形が実を一つ取り、割って子房を露出させた。
「どうだろうか」

ナナホシが触角で触れて確かめる。

そして慎重に、触角についただけのごく僅かな果汁を口器に持っていく。

「量ガ少ナクテ、判定ニハ届イテナイ。デモ、」

今度は口器を実に近づけていく。
微かにチュッ、チュッと何度か音がした。

『自動破壊までの期限がリセットされました。残り、1年です』
「ワァ、出タ」

「量は必要だが、正解だったようだな」
「ン…」
ナナホシは脚を取っかえ引っ変えしながら、しきりに腹を擦っている。


「では、私はサルベージに入る。何時戻るか分からない。だから」
「ワカッテル。チャント、ユズ?食ベル。鳥ノ食ベカケ」

「では、おやすみ。ナナホシ」
「オヤスミ、‪✕‬‪✕‬‪✕‬」



そして費やした5ヶ月と少し。その間に得た記憶を、‪✕‬‪✕‬‪✕‬は川で服や自身を洗いながらナナホシにかいつまんで話した。

「あれは、サルベージというより追体験に近かった」

ざあっと風が吹いて花々を散らしていく。
ここに来た時には春爛漫であった森は、緑ばかりに変わっていた。

「私を形作っているものは、故郷で人形師であった博士が、最も技術の発展していた時代に国々を渡り歩いて経験してきた全てだった」


人形の洗い上げた髪から伝う水が、頬を滑っていく。
ぽたり、ぽたり。雫の落ちた先。


「私が作られた理由も理解した」


川に浸かっている足に、流れてきた花びらがぶつかった。
花びらはくるりと向きを変えて、また流れていった。

3/28/2025, 9:39:16 AM