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▶139.「雲り」「もう二度と」
138.「bye bye…」
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1.「永遠に」近い時を生きる人形‪✕‬‪✕‬‪✕‬
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花街から出ることを決意した子猫。
人形は、彼女をシブたちの元まで送り届ける役目を引き受けた。

「抱いてくれる?私のお人形さん」
「了承した。足はどうだ」
「大丈夫よ、少し赤くなってるだけ」

片膝をついた人形の膝に腰をかけた子猫は、
片方ずつ靴を脱いで、足の状態を確認している。

「自由に生きるって、やっぱり難しいのね」
「人間も私のような人形も、学ぶことで徐々にできることが増えていく」
「そうね。めげずに少しずつ歩くわ」

問題ないと判断した人形は、靴を元の通りに履かせ、
子猫を横抱きにして歩き出したのだった。


このように、幼少期のお使い以外で館の外へ出ることが無かった子猫にとって、街の外へ出ることも、もちろん野宿も初めての経験だったが、人形には苦痛や疲労もない事が幸いし、大きなトラブルに発展することなく済んだ。

無事に子猫をシブたちに託した人形たちは、もとの旅へと戻っていった。



そして次の春が来た。

その間に、
子猫は新しい環境に馴染み、
シブとクロアの子が無事に生まれた。


「羽ノ動キ、悪イ」

ナトミ村までの進路最適化については人形とナナホシは折り合いがつかなかったため、前年と同じルートを使った。ナナホシは、フランタ国に戻る頃には羽のひとつが動作不良を起こして安定的な飛行が出来なくなっていた。

「安全のためには、飛ばない方がいいだろう」
「モウ二度ト、飛ベナイ?」

ナナホシは揺れる人形の肩の上で、
動きが悪い右の後ろ羽を、脚も使って広げながら質問した。

「その体を修理しない限りは、そうだ」
「ソレハ、✕‬‪✕‬‪✕‬ニトッテ悲シイコト?」
「…いいや。私には、悲しみを始めとする感情は備わっていない」
「ソッカ」

人形は一旦歩みを止めてナナホシを手のひらへ移動させ、
そっと脚をおろし、後ろ羽は丁寧にたたんで収めた。

「次の冬は、ナトミ村で情報を得られるだろう」
「ソウダネ」

ナナホシもそれに逆らわなかった。


今回の旅でイレフスト国の南東にあるナトミ村に行ったら、
村長が技術保全課のヤンという男からの手紙を預かっていた。

そこには、こう書かれていた。

私はヤン。管理人のホルツと名乗った老人の後継ぎだ。
あの時弱っていた君の友は回復しただろうか。
君の友に関して、提供出来る情報がある。

この冬に会うことが出来なかったなら、
次の冬の同じ日にナトミ村に来て欲しい。

追伸、軍の厳戒態勢は解かれたが、
君のことをまだ諦めていない。気をつけるように。


「後継ぎとは、どう解釈するべきだろうな」
「人間ノ言葉、難シイ」
「そうだな」

見上げた空は雲り、ちょうど太陽も隠されている。
しかし、もう二度と出てこないということはない。

上空では風が強いのだろう、すぐに陽光が差し始めた。

人形は強すぎる光から目を逸らし、次の場所に向かって歩き始めた。

3/25/2025, 9:56:16 AM